デモンズ・ゲート

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第1章

夕日と校舎

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  町の中心部より北へ2~3kmほど、小高い丘の様な山にある学校へとたどり着いた。

  軍による規制が張られ、今までは山の入口すら入る事が出来ず学校がどうなっているかも分からなかったが、6年間通った木造の校舎は、半分ほど焼け焦げ見る影もなかった。

  校庭から自分の教室の方へと回って行くと、マナ、アンジ、ダートンが崩れた教室で探し物をしている様子が目に入った。

 「おう! お前も来たか」

  こちらに気付いたアンジが、手を大きく振っている。

 「僕とマナのは見つかったんだけどね。まだアンジとアレンのは見つけれて無いんだ」

  槍を持つダートンの手は、黒くすす汚れていた。

 「母校がこんなになっちゃうなんてね……悲しいよね」

  マナのその言葉と、みんなの思いは多分同じだろう。

  この学校もいずれは建て直され、ホーストン魔法学校として再スタートを切るだろう。しかしそれは名前こそ同じでも、俺達の知っている校舎では無いのだから。


 「あったぞー!」

  静かな山の中に、大きな声が響き渡る。
  瓦礫の中から刀を引っこ抜く。グレバー家で代々受け継がれて来た刀らしく、勝手に触ると激怒するほどアンジが大事にしている物だ。  

 「ほらっ、お前のも」

  そう言ってアンジが投げたのは、アレンの双剣だった。

  アンジの刀ほど歴史のあるものでは無いが、学校に入学してから6年間使った愛刀である。

  
 「キャスタルなんて、この中じゃ誰も行った事無いよな?」

  刀の鞘を布で拭きながら、呟く様に言った。


 「そうだな。俺なんてホーストンから出た事もないよ」

  アレンがそう答えたが、アンジは表情を曇らせていた。
  そんな表情を見るのは久しぶりの事だ。

 「俺、王国配属って言われて思わず喜んじまったけど……ここを離れて新しい場所での生活を考えると、不安になるよな?」

  曇った表情の理由が分かると、アレンは6年前の出来事が頭に蘇った。

 「あら珍しい。アンジが弱気になる事もあるのね」

 「センチメンタルなマッチョとかミスマッチにも程があるよ」

  マナとダートンが二人してからかうが、アンジは言い返して来なかった。

  ホーストンの直ぐ近くに、ササと呼ばれる山間の村がある。アンジはそこの出身だ。

  距離で言えばわずか6~7kmくらいだが、アンジは魔法学校に入学し学校の寮に入る時は泣きわめいていた。
  地元愛が強すぎるのだろう。


 「キャスタルを第三の故郷にすれば良いだろ。お前、ここにきて2ヶ月目には第二の故郷だなんて言ってたんだから」

  アンジの背中を手で優しく2回叩いた。

 「良いこと言うじゃない」

  そう言うと、マナは手に持った杖でアンジの後頭部を殴る。
  中身が無いような、甲高い良い音がした。

 「痛っった! 何すんだお前!」

 「アンタが1人でここに来た時と違って、今度は私達も一緒に行くんだから大丈夫でしょ!」

  黙って3人の顔を見回すアンジ。

 「はんっ!べ、別にお前らが思ってるほど落ち込んじゃいねぇよ」

  照れ隠しするのが精一杯だった。

 「あっ! ちょうど綺麗な空じゃないか」

  ダートンの指指す方向を見ると、紅く染まった夕日が見える。

  次にホーストンへ帰ってくる頃には、この校舎の瓦礫すら無くなっているだろう。

  夕日に照らされる校舎を、日が沈むまで目に焼き付けるとその場を後にした。
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