デモンズ・ゲート

yuki.3D

文字の大きさ
14 / 46
第2章

浅い覚悟

しおりを挟む


  壁や地面と言った概念が無く、上も下も右も左も、星の様な小さな光が輝く不思議な空間。
  星の様な光が、線を引くように移動を始める。すると高い所から飛び降りた時の様な、体が浮く感覚がし始める。

  何が起こるか分からない恐怖で、マナは泣きそうになる。

  前触れも無く、空間の底が開いた。栓を抜いた風呂の水の様に、マナ達は螺旋を描きながら底へと吸い込まれる。何の抵抗もする事も出来ず、ただただ飲み込まれて行く状況に生きた心地がしなかった。


  「痛い!」

  落下した先の地面は角張った物が散乱した場所で、マナはお尻を打った。それに少し焦げた匂いがしている。

  辺りは夜になっていた。
  雲の切れ間から月が覗き込む。月の光に照らされたこの場所は、ホーストンの魔法学校だった。

  なぜこの場所に? 
  直ぐに答えが見つからなかったが、ここなら砦が近い。アレン達を医者に見てもらう為に、マナは砦を目指して夜の山を掛け降りる。


  翌朝、三人の男達は目覚めた。特にアレンとアンジは、猿に受けたキズで死んでもおかしくはなかったが、あのカエルの魔法で治療されたお陰で助かったと言ってもいいらしい。

 「それで、なんでここに居るんだ?」

  まず最初に聞きたかった事だ。キャスタルの病院で目が覚めたのならすんなりと受け入れるが、ここはキャスタルから馬車を走らせて半日も掛かるホーストンの砦だ。

 「アレン達が意識を無くしてる時に、スノウに会ったの。スノウが助けてくれて、恐らくだけど転移魔法でここに飛ばしたんだと思う」

  時空魔法だと? マナの言っている事が本当なら、スノウは僅か18歳にして全ての属性の魔法を極めた事になる。いや、それよりも重要な事を忘れていた。

 「スノウを折角見つけたのに、連れて帰る任務を果たせなかったな」

 「転移魔法で飛ばされる直前に、一応ケイムが呼んでいる事は伝えられたんだけど……」

  そう、伝えてもスノウは来ないかもしれないのだ。自由人で興味の無いことには見向きもしない。だからケイムは任務に向かう前に、スノウを連れて来いと言っていた。

 「もしキャスタルにスノウが来てなかったら、またあの森に探しに行かされるのかな」

  ダートンは不安と言うより、怯えた表情をしていた。
  無理も無い。俺達は奇跡的にスノウが来たから助かっただけで、本来なら全滅だったはずだ。

 「でも、軍の命令なら行かない理由には行かないのよね」

  マナの言う通りだ、軍の命令には逆らえない。自分の命を賭して国の為に働く。6年前に学校へ入学した時、覚悟を決めたはずだった。しかし、まだ何処か学生気分が抜けて居なかった自分達には、余りにも重くのしかかる。

 「取り敢えずキャスタルへ戻ろう。それが先決のはずだ」

  二人は静かに頷いた。
  いや待て、1人足りないじゃないか。

 「アンジは何処に行ったんだ?」

 ダートンが答え悪そうに言った。

「今はアンジ荒れてるから、ちょっと待った方が」

  荒れてる? 普段から荒れてる様な奴に、敢えて荒れてると言うとなると、かなり酷い状態だな。でもそんな事も言ってられない。

  アレンはキャスタルへ向かう為に、アンジの姿を探しに歩く。
    
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

合成師

あに
ファンタジー
里見瑠夏32歳は仕事をクビになって、やけ酒を飲んでいた。ビールが切れるとコンビニに買いに行く、帰り道でゴブリンを倒して覚醒に気付くとギルドで登録し、夢の探索者になる。自分の合成師というレアジョブは生産職だろうと初心者ダンジョンに向かう。 そのうち合成師の本領発揮し、うまいこと立ち回ったり、パーティーメンバーなどとともに成長していく物語だ。

処理中です...