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第2章
浅い覚悟
しおりを挟む壁や地面と言った概念が無く、上も下も右も左も、星の様な小さな光が輝く不思議な空間。
星の様な光が、線を引くように移動を始める。すると高い所から飛び降りた時の様な、体が浮く感覚がし始める。
何が起こるか分からない恐怖で、マナは泣きそうになる。
前触れも無く、空間の底が開いた。栓を抜いた風呂の水の様に、マナ達は螺旋を描きながら底へと吸い込まれる。何の抵抗もする事も出来ず、ただただ飲み込まれて行く状況に生きた心地がしなかった。
「痛い!」
落下した先の地面は角張った物が散乱した場所で、マナはお尻を打った。それに少し焦げた匂いがしている。
辺りは夜になっていた。
雲の切れ間から月が覗き込む。月の光に照らされたこの場所は、ホーストンの魔法学校だった。
なぜこの場所に?
直ぐに答えが見つからなかったが、ここなら砦が近い。アレン達を医者に見てもらう為に、マナは砦を目指して夜の山を掛け降りる。
翌朝、三人の男達は目覚めた。特にアレンとアンジは、猿に受けたキズで死んでもおかしくはなかったが、あのカエルの魔法で治療されたお陰で助かったと言ってもいいらしい。
「それで、なんでここに居るんだ?」
まず最初に聞きたかった事だ。キャスタルの病院で目が覚めたのならすんなりと受け入れるが、ここはキャスタルから馬車を走らせて半日も掛かるホーストンの砦だ。
「アレン達が意識を無くしてる時に、スノウに会ったの。スノウが助けてくれて、恐らくだけど転移魔法でここに飛ばしたんだと思う」
時空魔法だと? マナの言っている事が本当なら、スノウは僅か18歳にして全ての属性の魔法を極めた事になる。いや、それよりも重要な事を忘れていた。
「スノウを折角見つけたのに、連れて帰る任務を果たせなかったな」
「転移魔法で飛ばされる直前に、一応ケイムが呼んでいる事は伝えられたんだけど……」
そう、伝えてもスノウは来ないかもしれないのだ。自由人で興味の無いことには見向きもしない。だからケイムは任務に向かう前に、スノウを連れて来いと言っていた。
「もしキャスタルにスノウが来てなかったら、またあの森に探しに行かされるのかな」
ダートンは不安と言うより、怯えた表情をしていた。
無理も無い。俺達は奇跡的にスノウが来たから助かっただけで、本来なら全滅だったはずだ。
「でも、軍の命令なら行かない理由には行かないのよね」
マナの言う通りだ、軍の命令には逆らえない。自分の命を賭して国の為に働く。6年前に学校へ入学した時、覚悟を決めたはずだった。しかし、まだ何処か学生気分が抜けて居なかった自分達には、余りにも重くのしかかる。
「取り敢えずキャスタルへ戻ろう。それが先決のはずだ」
二人は静かに頷いた。
いや待て、1人足りないじゃないか。
「アンジは何処に行ったんだ?」
ダートンが答え悪そうに言った。
「今はアンジ荒れてるから、ちょっと待った方が」
荒れてる? 普段から荒れてる様な奴に、敢えて荒れてると言うとなると、かなり酷い状態だな。でもそんな事も言ってられない。
アレンはキャスタルへ向かう為に、アンジの姿を探しに歩く。
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