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第2章
キャスタル
しおりを挟む顔面が砕けた。そう思うほどの衝撃を感じ、目に映る床には鮮血が滴り落ちる。ジャオシンジャの強烈な一撃で、たやすく戦意を喪失させられた。
「他愛もない」
ジャオシンジャの言葉に、言い返す事も出来ない。
「時間は掛かったが、いざ事を起こして見れば拍子抜けするほど簡単な仕事だったな」
グリーヴァは見下すような目でこちらを見る。
その言葉に疑問がよぎる。
「……ならば、なぜ初めから……キャスタルを狙わなかったんだ」
「頭を打って考察も出来んか?」
そう言うとグリーヴァは鼻で笑った。
「まぁ、どうやって国が死んだの位は教えてやろうか。……まずホーストンは悪魔の門の試し打ちだ。召喚するのにど れほどの力が必要で、どれほどの被害を出せるのかのな」
それを聞くだけではらわたが煮えくりかえる思いだった。
「そしてマレーシュは悪魔の門の脅威を分からせる為だ。続いてキャスタルにはデタラメな噂を流し、民衆を不安に陥れ、不安に駆られた民衆は国を去り国力を更にそぎ落とす。そうすれば初めから勝ち目の薄いお前らに残された選択肢は、潔く散るか頭を垂れて降伏するかのどちらかしか残されていない。もちろんお国柄、降伏するとは思っていなかったがね」
「こちらの予想通り、お前らは国中の戦力を集め、捨て身の攻めに出る事を決めた。後は一点に集めた所に、悪魔の門を召喚し全滅させるだけだったわけだ」
今までの出来事がこいつの思惑通りに進められていた とは。
「……潜入部隊、全員がバルバロの刺客だったのか?」
「いや俺とジャオシンジャ、それとユウだけがバルバロの刺客だ」
「ならキャンディは、なぜそっちにいる?」
「キャンディとナオは、俺の魔法で操らせて貰っている。……いや、操ると言うよりは洗脳。と言った方が正しいかな?」
「しかし戦闘に優れるナオはともかく、キャンディはもう用なしだな」
そう言うと、グリーヴァはキャンディをひざまずかせ手を地面につけさせた。それはまるでギロチンにはめられた者の恰好に似ている。
手に持った金属の棒の先端から、大鎌の刃が出現する。あれがグリーヴァの魔装具なのか。
「待て! 何をするつもりだ」
グリーヴァのしようとしている事を察し 、身を起こそうとするが、ジャオシンジャの棍が上から頭に振られ顔が床に打ち付けられた。
「お前たちは絶望を見、憎しみを放ちながら死んでゆけ。それが悪魔の門の力の源となる」
キャンディの首に下から鎌が構えられたかと思うと、グリーヴァは躊躇なく鎌を引き上げた。
鈍い音と共に、首が床に転がっていく。
グリーヴァが何か言っているようだが、耳に入らない。
体が熱くなっていくのを感じる。
立ち上がろうとすると、また棍が襲い掛かる。それを片方の剣で弾いた。
「あら、片手で防ぐとは。……怒りで魔力が上がったからかしら?」
初めて刻印に願った。発動してくれと。そして……。
「お前らを……殺す!」
怒気と 殺気のこもった声に反応するかの様に、右手に刻印が浮かび上がり輝きを放ち始める。
「……刻印だと?」
ジャオシンジャの棍を斬り払い、信じられないと言った顔をしているグリーヴァに向かって、一気に間合いをつめ
力の限り剣を振りぬいた。
しかし、剣はグリーヴァの腕で防がれる。
「魔装? そんなはずがない!」
「何故そう思う? ……刻印者は自分だけだとでも思っていたか?」
それを聞き終えた後に、グリーヴァが自分とは桁違いに魔力を放っているのに気付いた。そしてグリーヴァの額に輝く刻印に気が付いた。
「まさか、おまえも刻印を持っているのか」
「悪魔の門を召喚していると言った時点で、ある程度は予想するべき事だと思うがな ?」
驚き固まるアレンに、グリーヴァの魔装具である大鎌が振り払われ腹を貫く。
致命傷を負ったアレンは、刻印の輝きが失われると同時にその場に倒れた。
「お前たちを、この場で殺すには惜しいな。俺に対するその深い怒りと憎しみは悪魔の門の力となりうる」
グリーヴァが何か唱えると、床が黒く染まっていく。すると体がその黒い部分に飲み込まれ始めた。
「これは闇に転送魔法の様なものだ。何処に行くのかは知らんがな。生きてどこかにたどり着いたのなら、俺を恨め、怒り憎しめ! それだけがお前らの生きる価値だ」
闇に飲まれる前に見たグリーヴァは笑っていた。
体は闇へ、深く黒い世界へと引きずり込まれる。
すべてが黒の世界 だったが、血が流れ過ぎたのか知らぬうちに気を失っていた。
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