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いざ、初デート6
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「えッ!? えーと……団長の好きな料理って何だろうなー、と」
咄嗟に誤魔化すと、ルネは「うーん」と呟きながらフォークを置いた。
「何でも食べるけど、肉と果物が好きかな。あと辛い料理も好きかも」
「辛い料理は意外ですね。じゃあ苦手なものってありますか?」
「そうだな……甘すぎる菓子はできれば遠慮したい」
「なるほど、参考になります!」
アダンが真剣に頷くと、ルネがふっと目元を緩めた。
「何の参考にするの」
「いや、その……色々とですね、ハハッ」
またしても間抜けな返答をした自身を叩きたくなったが、いちいち気にしていては身が持たない。
この際、ルネが笑ってくれるなら良しと割り切るべきだろう。
それよりも、空気が和んだ今こそ質問するチャンスだ。
鼓動がバクバクと早くなっていくのを感じながら、アダンは自らを奮い立たせた。
「――あの! もう一つ聞いていいですか?」
「うん、どうぞ」
「団長は……その、今、好きな人はいますか」
必死に絞り出した声は、酷く掠れていた。
ルネの視線から逃れるように、グラスを煽ってビールを喉に流し込む。
「それは恋愛的な意味で、ってことで合ってる?」
「は……はい」
恋愛という単語すら知らないようなルネが、質問の意味をすぐに理解したのは少し意外だった。
初めは「家族や騎士団の皆が好き」というようなルネらしい回答が返ってくると思っていただけに、一気に緊張が高まっていく。
アダンは空になったグラスを見つめながら、ルネの返答を待った。
「そういう意味なら、いない」
迷いのない声だった。
想定通りの返答に安堵する一方で、なぜか少しばかりの落胆を感じていた。
あり得ないと分かっていながら、心のどこかで自分の名が紡がれるのを期待していたのかもしれない。
「……アダンはいるの?」
「え!?」
自分に話が振られるとは思ってもいなかったアダンは、裏返った声とともに顔を上げた。
「ど、どうしてです?」
「好きな人がいるからそういう話をしたいのかな、と思って」
「そ……うです。います、好きな人」
今まさに目の前に――とまでは口にできないが、少しでも関係性を前に進めるためアダンは正直に告げることを選んだ。
アダンの覚悟など知らぬルネは、申し訳なさそうに目を伏せた。
「ごめん、アダン」
「……え?」
「俺には話せることがない。今まで一度も、そういう気持ちになったことがないから」
十秒と経たないうちに振られてしまったのかと心臓が止まりかけたが、続いて紡がれた言葉にアダンはほっと胸を撫でおろした。
「俺も二十三年間生きてきて、これが初めてです」
「……そうなんだ」
ルネはあからさまに安堵の表情を見せた。
こと恋愛に限らず、大多数の者が経験したことのある感覚が分からないのは、どこか疎外感や不安を覚えるものだ。
ルネの意識とは別に、何となく心に引っ掛かるものがあったのかもしれない。
「でも、団長はモテるでしょう。言い寄られたことはたくさんあるんじゃないですか?」
「……モテるどころか、女性には嫌われていると思う」
「え!? そんなはずないですよ!」
「いや、大抵の女性は目を逸らして、そそくさと立ち去っていくから」
それは恐らく嫌われているのではなく、自分より遥かに美しい存在と同じ空間にいるのが居たたまれないからだ。
料理を運んできた女性店員が足早に店の奥に引っ込んだのも、それが理由だろう。
特に貴族の女性ならなおさらだ。
時間を掛けて丁寧に手入れをし、化粧もドレスも流行に気を配りながら着飾ったのに、素顔のままのルネの方が美しいとなれば、その女性の気恥しさややるせなさは女心に疎いアダンでも容易に想像できる。
目を逸らされたから嫌われていると結論付けるのは短絡的な思考だ。
女性の表情を観察していれば嫌悪ではないと分かるはずだが、特に慕われたいわけでもないルネにとって、理由など何でもいいのだろう。
「うーん……女性の心理はよく分からないですね」
「まあ、俺個人に対する嫌悪からヴィレール家や騎士団の悪評を流されたら困るけど、実害がないなら別に構わない」
「なるほど。女性で親しい方はいないんですか? その……例えば婚約者とか」
これ以上この話を広げるのは無益だと悟ったアダンは、切り口を変えた。
ルネに婚約者がいるという話は聞いたことがないが、ヴィレール家といえば王国屈指の有力貴族だ。
レニエ王国では、貴族の男性は二十五歳、女性は十八歳までが結婚適齢期と言われている。
年頃になる十五、六歳頃に婚約者と引き合わせるのが一般的だが、良縁を逃さないよう幼いうちから婚約者を決めてしまう家も珍しくない。
引く手あまたの公爵家ともなれば、婚約者がいない可能性の方が少ないだろう。
「婚約者はいないよ」
「本当ですか!? よかった!」
「え?」
「い、いや、こっちの話です! そういう話はこれまでなかったんですか?」
「うん、父の方針で。だから兄上にもまだ婚約者はいない」
ルネの兄ルノーのことは、王宮の舞踏会で幾度か見かけたことがある。
父親であるヴィレール公に似た顔立ちで、確か年齢はアダンよりいくつか上だったはずだ。
年若いルネはともかく、ルノーにも婚約者がいないことにアダンは正直に驚いた。
「ルノー卿は確か二十代半ばくらいですよね。この年齢で婚約者がいないのは、貴族としては少し珍しいですね」
「父と母は恋愛結婚だったんだ。だから俺たちにもできれば好きな人と結婚してほしいと思ってるみたいで。三十までは自由にしていいって言われてる」
およそ大貴族の主らしからぬ方針ではあるが、王家に次ぐ地位にある公爵家であれば確かに問題はなさそうだ。
目に見える勢力争いのない平穏な世にあっては、何が何でも縁を繋いでおきたい家などないのだろう。
嫁がせる側の家からすれば、ヴィレール公爵家と縁が結べるなら三十歳という年齢は障害にはならない。
公爵家という家柄だからこそ取れる方法だ。
「じゃあ団長も、しばらく婚約される予定はないんですね」
「うん。アダンは?」
咄嗟に誤魔化すと、ルネは「うーん」と呟きながらフォークを置いた。
「何でも食べるけど、肉と果物が好きかな。あと辛い料理も好きかも」
「辛い料理は意外ですね。じゃあ苦手なものってありますか?」
「そうだな……甘すぎる菓子はできれば遠慮したい」
「なるほど、参考になります!」
アダンが真剣に頷くと、ルネがふっと目元を緩めた。
「何の参考にするの」
「いや、その……色々とですね、ハハッ」
またしても間抜けな返答をした自身を叩きたくなったが、いちいち気にしていては身が持たない。
この際、ルネが笑ってくれるなら良しと割り切るべきだろう。
それよりも、空気が和んだ今こそ質問するチャンスだ。
鼓動がバクバクと早くなっていくのを感じながら、アダンは自らを奮い立たせた。
「――あの! もう一つ聞いていいですか?」
「うん、どうぞ」
「団長は……その、今、好きな人はいますか」
必死に絞り出した声は、酷く掠れていた。
ルネの視線から逃れるように、グラスを煽ってビールを喉に流し込む。
「それは恋愛的な意味で、ってことで合ってる?」
「は……はい」
恋愛という単語すら知らないようなルネが、質問の意味をすぐに理解したのは少し意外だった。
初めは「家族や騎士団の皆が好き」というようなルネらしい回答が返ってくると思っていただけに、一気に緊張が高まっていく。
アダンは空になったグラスを見つめながら、ルネの返答を待った。
「そういう意味なら、いない」
迷いのない声だった。
想定通りの返答に安堵する一方で、なぜか少しばかりの落胆を感じていた。
あり得ないと分かっていながら、心のどこかで自分の名が紡がれるのを期待していたのかもしれない。
「……アダンはいるの?」
「え!?」
自分に話が振られるとは思ってもいなかったアダンは、裏返った声とともに顔を上げた。
「ど、どうしてです?」
「好きな人がいるからそういう話をしたいのかな、と思って」
「そ……うです。います、好きな人」
今まさに目の前に――とまでは口にできないが、少しでも関係性を前に進めるためアダンは正直に告げることを選んだ。
アダンの覚悟など知らぬルネは、申し訳なさそうに目を伏せた。
「ごめん、アダン」
「……え?」
「俺には話せることがない。今まで一度も、そういう気持ちになったことがないから」
十秒と経たないうちに振られてしまったのかと心臓が止まりかけたが、続いて紡がれた言葉にアダンはほっと胸を撫でおろした。
「俺も二十三年間生きてきて、これが初めてです」
「……そうなんだ」
ルネはあからさまに安堵の表情を見せた。
こと恋愛に限らず、大多数の者が経験したことのある感覚が分からないのは、どこか疎外感や不安を覚えるものだ。
ルネの意識とは別に、何となく心に引っ掛かるものがあったのかもしれない。
「でも、団長はモテるでしょう。言い寄られたことはたくさんあるんじゃないですか?」
「……モテるどころか、女性には嫌われていると思う」
「え!? そんなはずないですよ!」
「いや、大抵の女性は目を逸らして、そそくさと立ち去っていくから」
それは恐らく嫌われているのではなく、自分より遥かに美しい存在と同じ空間にいるのが居たたまれないからだ。
料理を運んできた女性店員が足早に店の奥に引っ込んだのも、それが理由だろう。
特に貴族の女性ならなおさらだ。
時間を掛けて丁寧に手入れをし、化粧もドレスも流行に気を配りながら着飾ったのに、素顔のままのルネの方が美しいとなれば、その女性の気恥しさややるせなさは女心に疎いアダンでも容易に想像できる。
目を逸らされたから嫌われていると結論付けるのは短絡的な思考だ。
女性の表情を観察していれば嫌悪ではないと分かるはずだが、特に慕われたいわけでもないルネにとって、理由など何でもいいのだろう。
「うーん……女性の心理はよく分からないですね」
「まあ、俺個人に対する嫌悪からヴィレール家や騎士団の悪評を流されたら困るけど、実害がないなら別に構わない」
「なるほど。女性で親しい方はいないんですか? その……例えば婚約者とか」
これ以上この話を広げるのは無益だと悟ったアダンは、切り口を変えた。
ルネに婚約者がいるという話は聞いたことがないが、ヴィレール家といえば王国屈指の有力貴族だ。
レニエ王国では、貴族の男性は二十五歳、女性は十八歳までが結婚適齢期と言われている。
年頃になる十五、六歳頃に婚約者と引き合わせるのが一般的だが、良縁を逃さないよう幼いうちから婚約者を決めてしまう家も珍しくない。
引く手あまたの公爵家ともなれば、婚約者がいない可能性の方が少ないだろう。
「婚約者はいないよ」
「本当ですか!? よかった!」
「え?」
「い、いや、こっちの話です! そういう話はこれまでなかったんですか?」
「うん、父の方針で。だから兄上にもまだ婚約者はいない」
ルネの兄ルノーのことは、王宮の舞踏会で幾度か見かけたことがある。
父親であるヴィレール公に似た顔立ちで、確か年齢はアダンよりいくつか上だったはずだ。
年若いルネはともかく、ルノーにも婚約者がいないことにアダンは正直に驚いた。
「ルノー卿は確か二十代半ばくらいですよね。この年齢で婚約者がいないのは、貴族としては少し珍しいですね」
「父と母は恋愛結婚だったんだ。だから俺たちにもできれば好きな人と結婚してほしいと思ってるみたいで。三十までは自由にしていいって言われてる」
およそ大貴族の主らしからぬ方針ではあるが、王家に次ぐ地位にある公爵家であれば確かに問題はなさそうだ。
目に見える勢力争いのない平穏な世にあっては、何が何でも縁を繋いでおきたい家などないのだろう。
嫁がせる側の家からすれば、ヴィレール公爵家と縁が結べるなら三十歳という年齢は障害にはならない。
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「うん。アダンは?」
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