天然クールな騎士団長のアブないマッサージ

うこと

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いざ、初デート8

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「団長はご家族に愛されているんですね。俺なんか三男だからか、扱いが雑ですよ」
「アダンはしっかりしているから、信頼されているんじゃない」
 
「え!? 俺、しっかりしてるように見えます? 結構まぬけな姿を晒しちゃってると思うんですけど……」
「ううん。俺はアダンのこと、すごく頼りにしてる」
 
 真っ直ぐな眼差しを向けられ、アダンは目の端を赤くした。
 
 ――ああもう。急に褒めてくるなんて反則だ。
 アダンは今すぐルネを抱きしめたい衝動に駆られた。
 
 きっとその従弟も、こんなふうに瞬間的に沸き上がった欲望に負けてしまったに違いない。
 
「ありがとうございます」
 
 アダンはどうにか欲望を抑え込むと、顔の火照りを冷ますべくビールグラスを掴んだ。
 
 だが、そこに期待した冷たさはなかった。
 
 先程一気に飲み干してしまったことを思い出し、アダンは慌ててカウンターの奥にいる店員に声を掛けた。
 
 
 
 
 
 
 それから数杯のグラスを空けた後、二人は店を出た。
 
 酒が進めばマッサージに誘えるかもしれない――そんな卑怯な考えが何度か頭を過ぎったが、結局アダンはルネの酔いが回る前に食事を切り上げた。
 
 騎士団長であるルネに門限を破らせるわけにはいかないし、もし今日ルネに手を出せば、ジュストは今後なりふり構わずルネとの外出を阻止してくるに違いない。
 
 アダンの目標はルネを抱くことではなく恋人になることだ。
 
 日々の生活では一向に縮まらない距離を埋めるためには、今日のように二人きりの時間を作るのが一番だ。
 現に今日一日で、ルネという人物への理解がかなり深まった気がする。
 
 当然、健全な男性である以上身体を重ねたい欲望はあるが、そのためにデートの機会を失うのは逆に目標から遠ざかることになってしまう。
 
「団長、今日はごちそうさまでした」
「こちらこそ。付き合ってくれて助かった」
 
 従弟の話の後は、事前に想定していたことを無事に聞き出せた安堵から、気負わずに色々な話をすることができた。
 
 アダンが質問しルネが答えることがほとんどだったが、稀にルネから話題を振ってくれることもあった。
 
 意外だったのは、ルネの話にはジュストよりもルノーの方が多かった点だ。
 
 アダンも自身の兄たちと仲が良い方だと思っているが、ルネとルノーとの仲はその比ではない。
 
 兄について話すルネは、実にいきいきしていた。
 元からルノーには憧憬の念を抱いていたが、幼い頃の誘拐未遂事件をきっかけに更に尊敬を深めたと話すルネの頬は、恋を語る少女のごとく桃色に染まっていたほどだ。
 
 ルネは平然と語っていたが、社交界に顔を出さなくなった背景に誘拐未遂があったと聞いた時には、過去のことながら肝が冷えた。
 
 そんな事件があったのなら貴族たちの間で噂になっていたはずだが、団員たちからも聞いたことはない。
 公爵家の次男の誘拐未遂という大事件が公にならなかったのは、ルノーの判断と対処が素早く適切だったからだそうだ。
 
 ルネの家族が過保護であるのも、ジュストがルネに束縛めいた行動制限をするのも、全てはその一件に起因しているのだろう。
 
 ルネとジュストの間には、アダンの知らない十数年がある。
 
 だが、この恋を諦める理由にはならない。
 知れば知るほどルネを想う気持ちは膨らんでいくのだから。
 
 振り返ってみると、今日は初回のデートとしてはまずまずだったのではないかと思う。
 聞きたいことは聞けたし、ルネの楽しそうな顔も見ることができた。
 
 何の進展もなかったこの半年と比較すれば、大いなる前進と言っていいはずだ。
 
「――あの、団長」
 
 もう少しで王城の門が見えるというところで、アダンは足を止めた。
 気付いたルネも立ち止まり、アダンの方を振り返る。
 
「今日は本当に楽しかったです。……また、誘ってもいいですか」
 
 何かルネの心に残るようなことを言いたかったが、そんな魔法のような言葉が咄嗟に思い浮かぶはずがない。
 結局、口から零れたのは至極ありきたりな文句だった。
 
「うん、俺も楽しかった。また誘ってくれたら嬉しい」
 
 そう言ったルネの柔らかな笑顔は、薄暗い路地を照らすほど眩しく見えた。
 
 誰もが心を奪われる美しい微笑みが今、自分だけに向けられている。
 意識した途端、アダンの心臓がどくどくと収縮を速めた。
 
 今日一日だけで、ルネの表情や振舞いに何度翻弄されたのだろう。
 
 仮にルネと恋人になれたとしても、一生ルネに振り回されるに違いない。
 そうなれたら、どれほど幸福だろうか。
 
「団長、俺は……もっと団長のことを知りたいし、もっと親しくなりたいって思ってます。その……迷惑じゃなければ、ですけど」
 
 アダンが今口にできる、精一杯の言葉だった。
 
 はたから見ればあからさまな好意を含んでいる台詞だが、ルネには言葉の通りにしか伝わらないだろう。
 だが、今はそれでもいい。
 
「……ありがとう」
 
 ルネは大きな瞳をまばたかせた後、もう一度ふわりと笑った。
 
 その愛らしさに思わず見惚れていると、弧を描いていたルネの唇が薄く開いた。
 
「じゃあ、俺たち……友人ってことになるのかな?」
「えッ?」
 
「……ごめん。やっぱり、上司を友人になんて思えないか」
「いえっ! そうじゃなくて!!」
 
 思ってもみない言葉に一瞬狼狽えてしまったが、これは非常に良い兆候だ。
 
 知人や部下というカテゴリーから抜け出て、より近しい存在へと上がったということなのだから。
 
「そう思ってくれたことが嬉しすぎて! へへ……嬉しいです!」
「ふふ、何回言うの」
「だって、嬉しいですから!」
 
 ジュストと対等になったと思うほど自惚れてはいないが、大きな括りとしては同じ分類に入れたと思っても良いはずだ。
 
 ジュスト・グラック――ルネと恋仲になるためには、どうしても意識せざるを得えない相手だ。
 
 想像したくはないが、二人が定期的に身体を重ねているのは間違いないだろう。
 
 幼馴染かつ副団長という立場であるジュストは、職務の都合上ルネと休日こそ過ごせないものの、ルネの部屋を訪ねる理由はいくらでも作ることができる。
 
 ルネがジュストに恋愛感情を抱いていないのなら、ジュストは単に「一番気心が知れていて、頻繁に部屋を訪れても不自然ではない相手」に過ぎない。
 
 つまり、ルネからすれば相手がジュストである必要はないはずだ。
 
 断られた時のダメージを考えると、酒の力でも借りない限りアダンから誘う勇気はまだない。
 だが、ジュスト以外にも選択肢があることは伝えておきたい。
 
 今日も恐らく、ジュストは業務報告と称してルネの部屋を訪ねるのだろうから。
 
「団長……あの……もしマッサージしたくなったら、これからは俺にも声を掛けてくれると嬉しいです」

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