ブラインドワールド

だかずお

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『ミサ』

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「おいミサどういう事なんだ?」

そこには呆然と立ち尽くす多村の姿があった。
光堂はとっさに叫ぶ、多村がこれ以上傷つく姿を見たくないと感じたからだった。
ミサの口から直接真実を聞いて、今までの、いや多村が好きになったミサのイメージがこれ以上崩れていくのを少しでもやわらげたいという悲しい気づかいでもあった。

「嘘だったんだよ、妹っていうのは」

「どういう事だ?」

多村も、マサも、ペレーも、唖然としている

「いいわ話してあげるわ本当の事を、私はスーツを着てるマフィア連中のボスの娘、そしてこの子は組織の優秀な化学者と言ったところかしら」

光堂の後ろから声が聞こえ始めた
「私は、この組織の人間に、二年前に黒楽町に連れてこられたの、彼らは化学兵器をつくるのに躍起になっていたわ、ここを支配する為に。私達は実験を重ね、遂に恐ろしい兵器を完成させたの」

ミサは笑った
「そこまでは良かったのよ、そしたら完成とともに、化学者達がびくついちゃってね、研究成果を隠し逃げちゃったわけ、もちろん他は、みんな私達に向かってきて死に、あなただけが皆に生かされ逃げたわけ、私達としては生け捕りにし、是が非でも完成品を受け取らなきゃ困るわけよ」

「それで組織の人間じゃあ、この子に顔を知られてるから、たまたま町に入ろうとしてる俺達を見つけ、わざと簡単に町に入れさせ、探すのを手伝わせたって事か」光堂は叫んだ

「まあ、そんなとこね、他の者に命を助けられたこの娘は自分で死ぬ様な事はしない、他の組織に、そんな危険なものを売り込むような事もしないのは分かってた。だから、いずれここに来ると思ってたわ、まぁそれでも一つの可能性、一刻も早く見つけたかったのよ」

「さあ、こっちにいらっしゃい」

ペレー達は何とか隙を見てはミサの銃を奪い取りたかったが、目の前にはミサの手下の男が銃を構えている

ここまでか

「まあ、安心して 何もあなた達を本当に殺しはしないわ、私は鬼じゃない 」ミサは言った。

「えっ、ホントウキか?」

「ええ、嫌いじゃないもの」

「じゃあ、帰れるウキね」

「フフッ そうよ と言いたいところだけど、それは無理。ずっとここで私達組織の一員として生活してもらうわ。あなた達の事は好きだからパパに言って、良い地位を与えてあげるわ」

「さあ、はやく その娘を渡しなさい」

どうする事も出来なかった。
光堂は悔しかった、素直に聞き入れる以外の方法がなかったからだ。
「これで ほとんどのシマは私達のものになるわ」ミサはつぶやいた。

多村は、目をつむり立ち尽くしている

光堂の後ろから少女が、ミサの方に向かって歩きだす
どうやらここまで、私がもしヘブンズロードに逃げたら、間違いなくこの人達を皆殺しにする、もう逃げられない。
ミサの方にどんどん近付いていく少女

その時だった

パンッ

突然、けたたましい発砲音

ミサの手下の男が倒れる

「ちっ」ミサは舌打ちした 最近誰かに見られてる気がしたら。
それはミサ達と敵対してるグループの人間だった。
彼らもまた、化学兵器を狙っていて、ミサをずっとつけていたのだ。
ミサとその男は撃ち合っている
その隙に光堂は娘に言った「今だ、ヘブンズロードを行け」
娘は頷き 走って行く。

「待ちなさい」ミサが叫ぶ

その瞬間だった

 パンッ

ミサは、自身のお腹を抱えると同時に相手に撃ち返した。
相手は倒れ、ミサも地面に倒れ込む。
とっさに、多村はミサにかけよった、身体が動いてしまったのだ。

「ミサ!!!」

「私としたことが、やられたわ」
ミサのお腹からは、大量の血が流れ出ていた。

「おいっ、しっかりしろ」

「ミサ答えろ、一緒にご飯を食べてる時、話してる時の笑顔も全部嘘だったのか? 」

「ええ、全部演技よ」ミサは笑った

「最期まで、お前は嘘つくんだな」

「ペレーが木に挟まった時、車で助けに来たよな、随分と命をかけた名演技だったじゃないか、嘘つきめ」多村は泣いていた

光堂も多村もペレーもマサもみんな分かっていた。
騙されてはいたけど、ミサが四人を仲間として扱ってくれてた事を 、自分の命をかけてペレーを助けてくれた事を、そこには嘘がなかった事を。
ミサと過ごした日々が、頭の中に駆け巡る。

ミサは多村の顔を見ない為に目をつぶった
「あなた達みたいに、自分の命をかえりみず他人の命を救いに行く、ここで育って生まれて初めて見たの、とってもまぶしくて、羨ましくなった」

「お前も、同じ事をしたんだ。俺の目からも、とってもまぶしかった」

ミサの頬をひとすじの美しい涙が伝う

「逃げて 追っ手が来るわ、もっ、もうそこのみちにいく・・・しか な・いわ  でも あ な・た・・・たちなら」

ミサの声は今にも消え入りそうだった。
後ろから、沢山の人間が近づいてくる気配がしている。

「みんな、行くぞ」光堂は叫んだ

光堂、ペレー、マサは、ミサを見つめては、ヘブンズロードに入って行った。

「おいっ、多村急げ」光堂は多村を見つめ前にすすむ。

多村は、ミサの手を強く握りしめていた。

ミサは、この時ようやく瞳を開き、多村の目を見つめ優しく微笑んだ
「人を・・ころすな 、しかってくれて嬉しかっ・・」

先程まで動いていたミサの手からは嘘の様に力が抜け、地面に落ちていった。

多村は身体を震わせ泣いた

ミサのほんのさっきまで聞こえていた声、息づかい、温もりは、もうこの世にはなかった。
ほんのさっきまで、言葉を交わしていたのに。
目の前には電池を失って、動かなくなったおもちゃのようなミサの身体が横たわっていた。
多村はミサに口づけをかわした

「俺は君を愛してしまったんだ」

そうつぶやき、瞳にあふれては、あふれては永遠に止まりそうもない涙を手で拭って、ヘブンズロードに走って行った。
ミサの顔は、とても安らかな表情を浮かべ、もう二度と動く事も、共に過ごした日々の様に微笑む事もなかった。
黒楽町には静かな、暗く冷たい風が、音をたて響いていた。

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