文太と真堂丸

だかずお

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~ 狼泊との対峙 ~

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僕は返事に困っていた、正直僕にはどうしようも出来ない。
この人がいくら僕に酷い事をしたとしても、血まみれになり泣きながら土下座している状況で、ほっとく訳にはいかない。
でも、僕に出来ることはせいぜい、真堂丸にお願いするくらいかもしれない

その時、後ろに人の気配が、振り向くと真堂丸が立っていた。

「あっ兄貴」

「笑わせやがる、散々偉そうにやってたくせに、自分が困った途端これか、お前も同じように そいつの餌になっちまえばいい 助ける理由もない」

男は頭を地面につけながら、惨めに泣き崩れている

真堂丸が部屋に戻ろうとした時
男は言った
「おれはもともと性根の腐った人間、そんな俺を道来さんだけが優しく接してくれた、だからどうしても恩をかえしたい 頼む何でも言うことをきく、この通りだ」
男は頭を地面につけ、必死だった

真堂丸はその言葉を聞き終え 部屋に戻ろうとしていた。

僕はこれ以上耐えられなかった
「分かりました、僕に何が出来るか分からないけど、何かしら出来るかもしれない行きましょう」

男は文太の顔を見てボロボロ泣きくずれた「あんな酷い事したのにあんたはどうして?」

「今はそれどころじゃないです、とにかく行きましょう」

「ありがとう」

僕はとにかく向かう事にした、後ろを振り向き真堂丸を見る、やはり来るつもりはないみたいだ。
僕は男と一緒に全力で走りその場に向かう

「本当はあの人に来てもらうつもりで来ました、でもあんさんの気持ちが嬉しくて、信頼することにしました」

「実際、僕が行っても なんにも出来ないです。
ただ、僕もあの道来さんに救われたんです、恩を返したい」

男はまた涙を拭った
「ありがとう、私は最後にあんさんに会えて良かった、救われた気がします。着いたら 俺が時間を必ずかせぎます、だから道来さんだけでも連れて逃げて下さい 名前は?」

「えっ僕 ?文太」

「文太さん 恩にきる」

走っている僕らの目の前の景色は、すぐに真っ暗な山道になった。
その時、男はつぶやく

「もうすぐそこです、平静を保つよう覚悟してくだせぇ 」

「えっ?」

「半端な気持ちで、あいつと関わるとたちまち恐怖に支配されちまう、何人かは姿を見ただけで恐ろしくて動けなくなった。さあ行きますよ」

木々を払いのけ、僕の目の前に飛び込んで来た光景はおぞましいものだった。

昼間いた 道来さんの仲間は皆血塗れで、何人かは息があるのか、ウーウーわめいている。あたりにはバラバラになった、腕や、脚などが転がっている。
その中に道来さんの姿が、彼はまだ生きていた。

「道来さん」

「お前なぜ戻った、逃げろと行ったろ」

「道来さんを置いていけません」

「馬鹿が、俺はもう動けん、奴はすぐ戻ってくる逃げろ」

「狼泊はどこへ?」

「胸くそ悪くなるぞ、俺たちを動けない状態にして今調理道具をとりに行ったところさ、食べる気なんだよ」

「意識まで残しておいて恐怖におののけとさ、はやく逃げろ」

「文太の兄貴、道来さんをお願いします」

その時だった 

「あははははは、餌が二匹増えた」
かん高く気味の悪い声が、暗い山の中、鳴り響く

声のする方を見て、僕は怖ろしくなった。

狼泊という男は本物の獣のように手足を地面につけて歩いている。
それが、何とも俊敏な動きで、まるで本物の獣を見てるようだった。顔は血で真っ赤に塗りたくられていて、まるで化け物

僕は声をあげた 恐怖で勝手に声が出てしまった

「うわぁぁぁぁぁ」

「おいっ、しっかりしろ」道来さんの声で正気を保つ

僕は冷静になり道来さんに言った。
「連れて逃げます」

「馬鹿いうな、あいつと逃げろ」

「あの人は僕にお願いしました、死ぬつもりです、それでもあなたを助けたがった、命にかえても」

「馬鹿野郎が」

狼泊はゆっくりとニタニタ笑い、四足歩行で近づいてきている

「あはははは あははははは」

道来は持てる力を全て出し切り、立ち上がった 

「お前だけを置いて、私が逃げるとでも思うか」

僕を連れてきた男は下を向いた。

「おいっ 君」

「はっ はい?」

「君の連れの男は 来ないか?」

僕は下を向き頷く

道来は微笑んだ「そうか、君は逃げろ、命にかえても 君くらいは逃がす」

共にここに来た男も叫ぶ
「文太の兄貴 意味なく連れて来た様になっちまって、すまなかった 逃げてくれ、死んでも こいつは行かせない」

僕は二人の命と覚悟を無駄に出来なかった

泣いた 泣きながら 走って 逃げた。

真堂丸、助けて。どうか、あの優しい人達を助けて、僕はなんだってする。だから、あの人達を助けて。
全力で走った。
モタモタしてたらあの人達が死んじゃう、殺されちゃう。

僕は岩につまずき転んだ

「うっうっ」

間に合うはずがないじゃないか

今から街に行って呼んで来たって…

僕は逃げられたけど、彼らはもう助からないだろう

涙だけがこぼれ落ちた
「あきらめるな あきらめるな 文太、全力を尽くすんだ」僕は自分に向かって言いきかせた。

そして再び立ち上がる

そして、暗闇の森の中 目の前を見て泣いた。

「どこだ?」

「あっちです」

そう、目の前に僕が見たのは真堂丸の姿

全力で僕の逃げて来た道を走り向かって行く真堂丸の背中を、僕はじっと見つめていた。


「なんだよ、お前等のせいで一匹逃がしちまったよ」

「ざまぁみろ」

「道来さん あの世でも仲良くしましょう」

「お前等 もう死ねよ」

狼泊がまさに道来の首を斬ろうとした瞬間だった

凄まじい速度で刀の鞘が飛んできた 

「ウオッ」

横に飛び跳ね よけた狼泊が叫ぶ

「誰だよ 今度は」

「俺が相手になろう」

「あっ兄貴」

「お前は」道来は驚いていた

「てめぇ、強いな 分かるぞ 嫌な空気がプンプンしやがる」

狼泊は真堂丸を睨んでから舌を出し
「あははははは この刀じゃ分が悪い、貴様覚えておけよ、俺の食事を邪魔しやがって、すぐに殺しに行くからな」

ものすごい速さで、狼泊は山の奥に消えていった。

「大丈夫ですか」僕は走って戻って来て、みんなが無事なのを確認し、胸をなでおろした

「兄貴たちありがとう」

「すまなかった」道来は頭を下げる

そして、彼らは仲間の無残な姿を前に泣きくずれた。
もう、その時点で息の残ってる人は他に誰もいなかったのだ。

街に戻り、彼らは知り合いに傷を診てもらいに行き、僕らは家に戻った。

「あんたら、大丈夫だったかい?」平八郎さんが家の前、心配そうな顔で待っていてくれていた。

「はいっ、迷惑かけました」

部屋に戻り
「真堂丸 ありがとうございました」

真堂丸は布団に入る

「どうして来てくれたんですか?」

返事はなかったが、僕は全力で走っていた 真堂丸の姿をちゃんと知っている。
なんだかとても嬉しい気持ちになった。

「でも、そういえばあの狼泊って男どうなったんですか?」

「奴は必ず現れる 注意しておけ」

外の風の音が異様なほど不気味に感じた。
あの狼泊と言う獣に、また会うかもしれない、僕は怖くて何も出来なかった。
あの姿が脳裏に焼きついている。
大丈夫 大丈夫 僕は自分に言いきかせ目を閉じた。


緊迫した夜はこうして更けていく


山奥の中

「いいよ、いいよ、あの男 必ず食してやるからな 待ってろよ」


不気味な獣の様な男 狼泊。
奴の牙は真堂丸に向き 不気味に闇の中ひかっていた。


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