文太と真堂丸

だかずお

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~幕開け~

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ザーッ ザザーッ ザザーッ

真っ暗な空から強い雨が地に降り注ぐ
まるで僕らの争いを嘆く天の涙の様にも感じた。

「文太、しんべえ走るぞ」

「はいっ」

「嘘だろ、そんな全力で逃げなきゃいけないくらい切羽詰まってるのかよ」
しんべえはまだ完全に勘違いしている。

「暗妙坊主の事をこないだから調べた、あくまで平均でしかないが、奴が風車をつけて殺すまで大体三日、はやくて二日。
翌日もありえるが可能性はかなり少なかった。あくまで統計でしかないがな」

「出来るなら、奴と烏天狗が仲間の可能性がある以上、バラバラの時に討ち倒しておきたい 。それにはこちらから奴らが合流する前に突然の奇襲をかけるのが良い」

「確かに、二人が同時に攻めてきて姫を守りながら闘うのはきついですね」

「だけど、もし今日暗妙坊主が動いたら?」

「一種の賭けだ、あの隊長、清正それに一之助は強い 、あいつらが手を組めばさすがの暗妙坊主も納言暗殺はそう楽じゃないはずだ」

しんべえは思った、こいつらいつまで演技をしてるつもりだ?
もう、城の奴はいないだろ?まだ、烏天狗を討つなんて嘘つく必要ないだろ。ただ、全力で逃げなければと二人に必死にくらいついていった。

「万が一の時 清正に煙をあげるように伝えてある それがあがったら、暗妙坊主襲撃の合図だ」

「今日は上がらない事を祈るしかないですね」

もし、暗妙坊主が現れ、皆が殺されれば 作戦は失敗に終わる。
何としても、暗妙坊主が現れる前に烏天狗と決着をつけて戻らなければ。

「俺が城に入ってる間に煙があがった時は俺には見えない、外にいるお前がこれを鳴らせ、それは小さい爆薬」

「じゃあ、僕は城の外で煙が上がるのを見張っていれば?」

「ああ頼む、この距離ならお前の鳴らすこの音は察知出来るはず」

その時、しんべえは初めて理解した
こっこいつら、本気で烏天狗とやり合うつもりだ。
あの烏天狗と………

「てっテメエら、本気かよ?嘘じゃねえねえのかよ?」

「???」

「冗談じゃねえ、烏天狗の所なんか俺は行けるか、けえるぞ」
しんべえは来た道を振り返った。
真っ暗な山路が後ろに広がっている

こっ、これを一人で歩くのか・・・
もし天狗のガキどもに会っちまったら。
ちっ、ちくしょう 城の前までだからな。

大体、走って20分って所だった。
山を抜けると、そこには、烏天狗の城が広がっていた。

「まっ、間違いねえ見ろよあれ」
城の最上のあたりは天狗の鼻を象徴してるようなものが壁から突き出ていて、まさに天狗の顔の形になっていた。

「ひぃぃぃいっ、神様 神様 どうか烏天狗に見つかりませんように」しんべえは祈り始めた。

「文太 行って来る ここは任せた、もし納言の城の方から煙があがって、爆薬を鳴らした後はお前の判断に任せる、俺の方は必ず 烏天狗を倒しすぐに城に向かう」

「分かりました」
僕は真堂丸の言葉を信頼した。
城から煙があがった時は向こうの危機、その時は僕は決断しなければ。
自分の出来る事をしなければ。
今日煙があがらないことを祈った。
一之助さん、納言さん・・・みなさん どうか無事で。

しんべえは二人の会話を聞き、空いた口が塞がらない こいつ本当に本気で烏天狗を倒すつもりかよ・・・・
たった、一人で奴の城に行くのかよ。
馬鹿野郎 馬鹿野郎が、しんべえの足は震えていた。


城の中
最上階の部屋に奴は居た
烏天狗は突然目を開き

「なんだ、何匹か 初めて嗅ぐ人間の匂いが、紛れこんでいやがる」
ぎょろり大きな目ん玉は真っ正面を見つめた。

異様な程大きな口は横に寝そべる
三日月のような形
烏天狗は不気味に笑ったのだ。
この時点で奴は三人の事をすでに把握していた。
ここにて、奇襲という作戦は失敗。
しかしそれは仕方がなかった。
誰も、真堂丸でさえも
奴の異常に発達した嗅覚を見抜けなかったのである。

目をつむり、暗い部屋の中
烏天狗は一人で舞い
くるくる回り踊り始めた。

「ららららー らら」

「らららーららっ」

「らららっ」


暗妙坊主は風車で予告をした後、
大抵二日はあける。
それは何故?
彼にとっては儀式めいたもの、と言うより彼の高まる興奮を味わう為にわざとあけていたのだった。

しかし、稀にその期間が存在しない時がある
それは、ただ単にはやく済ませたい時、それと異常な程、高まる興奮を抑えられない時

今宵は後者だった…

暗妙坊主は刀をベロベロ舐めはじめ、舌からは血が垂れ流れている

「ああ、抑えられない 今日 今すぐに行こう」

間は最悪だった、暗妙坊主は立ち上がったのだった。
更に間の悪い事が重なる
烏天狗の子供達はこの機に納言の町の人間を片っ端から斬ると言う彼らの言う遊びを決行しようとしていた。
そう、町は彼ら二組みによる同時襲撃を受ける事となる。

一之助の頭の中には文太に言われた言葉が響いていた。
殺された家族は本当に復讐だけを望んでいるのだろうか?優しかったあの二人…しかし、だからこそ。
許せない…これは己の心。

一之助が城の周りで警戒している時だった。
一人の少年が目に入る。
あいつは、こないだ暗妙坊主に殺された姉の弟。
右手に持つ刀を見た。

「何をしてる?」

「俺はな、姉ちゃんの敵をとるんだ」

「帰れ、邪魔だ」

「お前に勝てるとでも?」

「うるさい、勝てなくたってやるんだ」

「死ぬんだぞ」

「分かってる」

一之助の時はここで止まった、全てが明白に真っ白になった。
これから先、俺がこの子に言うこと・・・
一之助は拳を力強く握りしめ。

「死んだ姉さんが、本当にそんな事を望んでると思うか?」

「うるせぇ、お前になにがわかる」

「お前が殺され、死んだ姉さんが喜ぶと思うか?残されたお前の両親はどうなる?」

少年は男の自身に向けての真剣な言葉に黙りこんだ。

「お前の生涯が復讐と怒りに埋れた人生を姉さんが見て喜ぶと本当に思うか?」

少年はその言葉で姉の最後に言った事をハッキリと思いだした。

"敵討ちなんて望まない 両親をよろしく頼む"

姉は確かにそう言っていた。
少年は刀を落とし泣きくずれた。

一之助はよく分かっていた。
今のは他ならぬ自身にも言った事
そして、きっと誰よりも平和を愛した自分の家族の想いだろう。
己は誰よりも優しい家族の本当の気持ちを分かっていた。
お父さんは幸せになって。

泣いた
とめどなく溢れでる涙が止まらなかった。
暗妙坊主よ
俺はもうお前を怨んではいない。
一之助自身が赦す事により解放された。
それは、他ならぬ自身が巻きつけた怨の呪縛。
それは自身で解く事が出来るもの。

文太さん、あんたの言葉は最初から分かっていた、自分でそれを受け入れたくなかったのは知っていた。
復讐に生きる事によって己は逃げていた。
自分の感情と向き合うのを逃げていた。
己の優しい家族は自分の幸せを願っている。
空を見上げ真っ直ぐ立った。


ヒョオーォォォーッ
冷たい風

それは突然の殺気

目の前に奴がいた。

全身に自身の刀で文字を刻み込んである不気味な出でたち。
それは紛れもない暗妙坊主だった。

「侍どけよ、これからこの城の姫を殺すんだよ」

正直心配だった、こいつを目の前にした時 怨の呪縛に再び取り込まれる事を、しかし一之助の心は落ちついていた。
今、己は殺したい程こいつを憎んではいない。
怨む事によって見失っていた大切なものを再びしっかりと掴んでいた。

後ろに居た少年は初めて見る暗妙坊主の姿に震えていた。

「お兄ちゃん」

「何だ?」一之助は返事をした。

「もう、敵討ちどうでもいい」

「僕生きたい、姉ちゃんの分も生きたい」

一之助は微笑み少年の頭を撫で言った。
「承知した」

「何だお前、俺とやるのか?」

「俺を覚えているか?暗妙坊主」

「?」

「俺はお前に妻子を殺された、お前と闘い守ろうとしたが、何も出来ず、ただ見ているしか出来なかった」

「いちいち、そんな事 覚えちゃいねえょ」

「あっしが、お前をくい止める」

「ああっ?」
目の前には物凄い形相で一之助を睨みつくす暗妙坊主が立っていた。


町では、人々の悲鳴がなり響き始めている。
それは、烏天狗の子供達の遊びが始まったからだ。
この事はすぐに納言の城に伝わった。

「誠よ」

「何ですか?姫」

「聞いたであろう、民が危ない お前が向かえ」

「姫、我々 光真組は民を守る為ではなく 前殿の娘を守る為だけに今日まで闘って参りました」

「あなたの命が危ない今、それを無視して行く事など出来ません」

「誠」

「 生命の重さは人によって違うのか?」

「私が姫だから私の命のが民より尊いのか?」

「そうは、申しませんが我々の縁や関係にとっては、他より重く大事と感じてしまうのは当然の事かと」

「ここにお前がいて、守れるのは私の命だけ、お前が今町に行けば沢山の命が救われる 行け 躊躇するな、私の大切な宝を守ってくれ」

誠はしばらく黙っていた。
「ふぅーっ」

「きっと、姫のお父上が生きていても同じ事を言ったでしょうね、本当に殿の精神を受け継いで立派になられた」

「我々はそんな姫が大好きなんですよ」
誠は立ち上がり廊下に出る為部屋の襖を開けた。

「すぐに戻ります」

「ありがとう」

襖のすぐ外には清正が正座をしていた。
「隊長、姫の宝は我々がお守りする」

その横には三番隊長 平門と言う男も一緒だった。
「隊長は姫を頼む、こちらは請け負った 大切な民の命 一人でも多く我々が守る」

「お前達」

「分かった任せた」

二人の男達は刀の柄を握り外に向かい歩き始めた。

「死ぬなよ」

「隊長も」
男達は命をかけた真剣な表情を浮かべ戦場に向かって行った。


暗い雲が空を覆い不気味な空が広がる下

「行ってくる」
真堂丸が敵の城の前、烏天狗を討ちに立ち上がる。
真堂丸どうか無事に帰って来て。僕は心から祈っていた。

まっ、まじかよ本当にたった一人で行くのかよ? 
こっ、これが真堂丸って男なのか。
しんべえは何とも言えない説明しがたい気持ちを感じていた。
何の利点があるんだ、こいつが烏天狗と闘って?
死んだら終わりじゃねえか しんべえには理解出来なかった。
何の為 何故・・・


その時だったのだ

それは

まさにその時だった



「らー らららー ららーっ」


「らーらららーららーっ」


そいつは空から降って来たようだった

たかーく たかく 空から降って来た

一人の人間?

「うわわああああああああああぁぁっ」
しんべえは叫びその場に座り込み失禁した。

「烏天狗だ」
上から刀を抜き空から奴は降って来た

すさまじい、威圧感
普通の人間にはなに一つ出来ないだろうと瞬時に感じさせる程の圧倒的で押しつぶされそうな空気感が上空から押し寄せるように一瞬で辺りをつつむ。

僕もきっと恐怖で腰を抜かし何も出来なかっただろう、きっと口を開けて震えて倒れるしかなかっただろう。

でも僕は立てていた。

何故なら
僕の目には
微動だにせず、
相手をしっかりと見据え刀を向けた真堂丸の姿がはっきりと映っていたから


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