文太と真堂丸

だかずお

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~ 新たな地へ ~

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とてつもなく長く感じた、不安な夜は明け 翌日、城と町は歓喜に包まれていた。

「ほっ、本当か?もう烏天狗はいないのか?」

「信じられない、一体何処の誰がやったんじゃ?」

「それが、良くわからねぇんだ」

昨日城に来た町人とも話しあい、暫くは真堂丸がやったということは隠してもらうことにした。
何故なら噂がひろまれば、大帝国に僕らの居場所を知らせる事になるからだ。

依然緊迫した状況は続くが、この地の人達は大帝国の支配を退けたのだ。
それは、何よりも嬉しかった。
こういう地域をどんどん拡げていけば、なんとかなるかもしれない、いや必ず何とかなる。
本当に希望は見えてきた。
どんな絶望的な状況でも必ず光はあるものだ。
僕は色々な体験と経験を通じ、信頼することを学んでいたのだ。

「お主達はこれからどうするのだ?」納言が二人に問う。

「うーん、実は未定です」苦笑いする文太

「それなら、一つ提案がある ここより南に私の知り合いの殿がいる町がある、その地域の人達とも手を繋ぐというのはどうじゃ?」

「それは、いいですね」

「ただ・・・」納言が言葉をつまらす。

「ただ?」

「そこに行くのに一つ難点がある」

「難点?」

「地獄岳と呼ばれる、無法地帯を抜けなければいけないのじゃ」

「地獄岳?」

「まあ、そなた達なら大丈夫だと思うが、特にここ最近あまり良い噂は聞かぬ」

「以前から無法地帯ではあったが昔は行き来する人はまだ多かった。ここ最近特に危険になり、私達もあまり行く機会が少なくなってその殿とも顔を合わせていないから心配していたのだ」

「今は稀に伝書鳩でやりとりするくらいじゃ」

「それなら、是非行って来ます、真堂丸どう?」

「ああ」

「その地域には、その場所を通らなきゃいけない事もあってか、大帝国の支配はまだ行き届いてないと聞くが」

「それなら、好都合です」

僕らはさっそく明日の朝 出発する事になった。

「じゃあ、今日はこの町でゆっくりして行きましょう」

「一之助さんはこれからどうしますか?」

「お二人が良ければ、あっしも是非お供させてもらいたいでごんす」

「それなら是非」

「ああ」

「あっしも微力ながらみなさんの力にならさせてもらいます」

「私らもだ」納言も微笑み、光真組の人間達は頭を下げた。

どんどん頼もしい仲間が出来て、僕は嬉しくて涙した。
人々はただ恐怖や力に屈し怯えてるだけではない、こうして立ち上がり声をあげる人達も大勢いるのだ。

城の外に出た時、柱の影に隠れてるしんべえを見つけた。
「あっ、しんべえさん」

「あっ、暗妙坊主はもう大丈夫なのか?」
しんべえは暗妙坊主を怖がりずっと城の外に隠れていたのだった。

「はい、もう大丈夫です」

しんべえはその言葉に驚いた、あの野郎本当に烏天狗と暗妙坊主を倒しちまいやがった。
しんべえは考える、これから先、あいつの近くにいりゃあ 俺は安全だ。
それにこいつら、また、たんまり銭を姫からもらったにちげえねえ。今度こそ、そいつを盗んでやる。

「そう言えば、しんべえさんはこれからどうしますか?」

「えっ、あっ、俺もお前たちについて行こうかと」

「そうですか、明日出発します」

「そっ、そうか」
こりゃあ、良い方向に向かってきたぜ、しんべえはほくそ笑んだ。

僕らは美味しい物をご馳走になり、お酒を飲み、町はお祭りのように賑わいを見せていた。
みんなが笑い合い平和に過ごせる世界
喜びで賑わう町はさながら僕にそんな気持ちをいち早く味わせてくれた様だった。

一之助は姉を殺された弟と一緒だった。

「お兄ちゃんあの時、僕を助けてくれてありがとう、傷はそう簡単には癒えないかもしれないけど 僕、お姉ちゃんをちゃんと感じるんだ」

一之助はハッとしてその子の顔を見た。

「お姉ちゃんはずっと僕の心で生きつづけてる、ちゃんと生きてるよ、だから、僕お姉ちゃんのぶんまでこれから先も笑って生きるよ」

一之助は自身の瞳からこぼれ落ちる涙を堪えられず空を見上げた。

そして
「ああ、これから共に沢山笑おう」
一之助はこの時、文太と真堂丸と共に、この国の者達が未来を安心して生きれる世界であれる様にする事に全力を尽くす事を心に強く決めた。
頭上には雲ひとつない透きとおった海の様な夜空がひろがっていた。

城内では
「誠よ、正直私も一山様の一件を聴いた時、心が折れそうになった。だが、今私の心は一層逞しくなった。そして、信頼を生きようと思う、あの者達を心より信じる事を決めた」

「きっと、お父上は今の姫の姿を見てお喜びになられてますよ。
そして我々も姫と同じ気持ちです、これから先我々、光真組は全力を持って彼らの力になります」

「私も、あの者たちの様にもうあきらめません」

「ああ、そうじゃな」

月夜の空の下
人々が賑わう隅っこで
「あの時、本当は暗妙坊主を斬りたくなかった気持ち僕には痛いほど伝わった」

真堂丸は空を見上げながら
「以前の俺なら、人を斬る事に何のためらいはなかった。だが、お前に出会い人間達の優しさに触れ、どんな生命も愛おしいことがようやく分かってきたんだ。
少々、皮肉なもんだな争いを止める為に人を斬り、その相手と殺し合わなきゃいけない」

文太も空を見上げた
「はい、話し合いで解決出来ればそれが一番良い、でも、その時今まで虐げられてた側の人間が許せるか?
今度は大帝国の人間に対して同じ事をするんではないか、少し怖くもあります、でも一番最良の可能性を尽くしましょう」
文太は空を見上げた。

「今は僕らに出来る事をやっていきましょう。いつか人類が問題を争いなしに、殺しあうことなしに解決出来る様になることを信頼しています」

真堂丸は微笑んだ。
「文太お前はどこまでも信頼出来るんだな」

「俺もそいつを信頼しよう」

「はいっ」

二人は笑いあった。


その頃大帝国の本拠地の城では

「おかしな事があるんです、秀峰様」

「何だ?」

「烏天狗様と連絡が繋がらないのであります」

「どうせ、どこか、ほっつき歩いてるのでしょう」

「いえ、それが城の者なにものからも返事がないのです」

秀峰は立ち止まった。
「何だと?」

「すぐ様、鬼道様に報告してきましょう」

秀峰は一瞬何かを考えた表情を浮かべ。
「いや、待てこの事はここだけの話にしておけ」

「えっ、ですが?」

「いいな?」

「はっ、はい」

ふふっ、繋がった。
私の予想だと奴ら最後に報告のあった町から舟にのり、烏天狗のいる地域に行ったと見える、間違いない烏天狗は真堂丸に倒された。
なるほど、私だけが今奴等の足どりを予測出来る訳か。
間違いなく、奴等はこれから更に南に南下するだろう。
さしずめ、あの無法地帯を抜け、手つかずのあの地域の物達と手を組もうとするだろう。
くっくっく、そう簡単に行きますかねぇ。
更に予測を続けるとその後も間違いなく、戻らず南下する。
だが問題はそこなのだよ。
一番行ってはいけない地域は
フハハハ
そこが奴等の墓標となる。
骸さんには悪いが、私の地位を上げたいものでね。
くっくっく、真堂丸その首もらう。
部屋には秀峰の不気味な笑い声が響いていた。


翌日は快晴。
「これは、私からの気持ちだ受けとってくれ」

「えっ?これはっ?」

二頭の馬と馬が手綱で引くのは木で出来た屋根のある小屋の様な物。
「馬車(うまぐるま)と我々は呼んでいる」

「うひょーこりゃ、立派な基地が出来たな、後ろでくつろげるし、移動するし、何より歩かなくていい」
しんべえは喜んだ。
こりゃあ、こんなもんもらって他にもたんまり何かもらったんだな。

「でも、納言さん悪いですよこんな高価な物いただけません」

「ええい、遠慮などするな 頬っぺを引っ張るぞ」納言は頬っぺたを引っ張る動作を見せ笑った。

「私達は命も町も救われた、少ないくらいじゃ、本当に心より礼を言う」

「向こうの殿には伝書鳩を飛ばして、お主達の事を報告しておく」

「ありがとうございます」

「文太、真堂丸 これからお主達の歩く道は険しいかも知れぬ、でも忘れるな、ここにも仲間がいる事を」

「我々、光真組も全力で何処であろうとかけつけよう」

僕の瞳は潤んだ。
「はいっ、ありがとうございます」

「また、必ずこちらに来た時は寄ってくれ、旅の無事を祈っておる」

「はいっ」

「貴殿の強さ、見惚れる程だった。我々もこれから更に腕を磨く」
手を出したのは誠だった。
真堂丸も手を出し二人は握手を交わした。

「それに、一之助殿 あの時は助かった」

「あっしこそ礼を言わせてもらう」

清正と平門とも握手を交わし

それぞれは、馬車に乗り込んだ。
「本当にありがとう、道中気をつけて」納言は頭を下げた。

「こちらこそ、ありがとうございます、そして、また会いましょう」
納言、光真組の人達は微笑み、いつまでも、いつまでも手を振ってくれていた。

僕等は町を抜ける時、外を見て驚いた。
町の人達がみな頭を下げていたのだった。
気づいたら僕は窓から顔を出し叫んでいた。

「さようならー お元気で~」

人々はいつまでも、いつまでも手を振り優しく身送ってくれた。
僕の心は何だかとても暖かい温もりで包まれてる感じがして、ほんの少し別れるのが寂しくも感じた。

遠い昔に会った事があるような
ずっと昔から知っていた事があるようなそんな不思議な懐かしい様な心の温もりを感じていた。


ここは、地獄岳

「ひぃぃぃっ頼む、金目のものはすべてだすだから命だけは」

「もちろん金目の物はいただく、で助ける義理がどこにある?」

「ひいいいいいっ」

「おい、乱 やめておけ」

「冗談ですよ、頭」

「俺たちの目的は」

「はいはい、知ってますって」

巨体の男がニヤリと笑う。


僕等の馬車は今、地獄岳に向かっている
「ところで俺たちは何処に向かってるんだ?」しんべえは言った。

「地獄岳って所です」

「じっ、地獄岳? おめぇ冗談じゃねえ最近物騒になってるって場所じゃねえか」

「降ろせ~」

「ほれっ、出れるぞ」一之助が扉を開けた

「ばっ、ばきゃろーこんな場所、一人で歩けねぇーよー」
みんなは笑った。

かくして一行は地獄岳へと突き進む。
一体何が待ち受けているのやら。


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