文太と真堂丸

だかずお

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~ それぞれの覚悟 ~

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真堂丸と女狐は睨みあい対峙したまま動かない。
この時、極度の緊張感の中、しんべえの頭から日常日々流れているはずの時がまるで消えてしまったかのようだった。
この目の前に立つ二人の対峙のせいだろうか?
今という瞬間がしんべえに強烈かつ鮮明に流れこんでくる。
ゴクリ、唾を飲み込む音、細かな動作が自身の身体中に響き渡る。
極度の緊張感がそうさせたのか?
この瞬間の事以外考えられない
この時、前も後ろも時間というつながりはしんべえの頭から消えていた。
それはまるで何も無い無空間の中に投げ出されたかのような感覚であった。
額から一筋の汗が瞳に落ち、しんべえは、はっと我にかえる。
目蓋は閉じれず、必死にあけているのが精一杯。
依然として二人はぴくりとも動かない。
いつも当たり前にひろがっている空間の中にいるはずなのだが、例えるならば、この時、まるで生き物の背中に乗ってうねっているように時空間が歪んでる様に感じられた。
この二人の衝突が空間をねじり、自分にこんな体感をさせているとでも言うのだろうか?
なんにせよ、猛烈な緊張感と集中力がしんべえを現在この瞬間に貼り付けていた。
二人は対峙したまま、まだピクリとも動かない
しんべえは一瞬でも瞳を閉じようものなら、この戦いの決着の瞬間を見過ごしてしまう気がした。
これは試合ではない、勝ち負けではない、どちらかが生き、どちらかが死ぬのだ。
しんべえの体感では、この瞬間がとてつもなく長く感じた、それはまるで永遠に続くかのようにさえ思われた。

次の瞬間 動きが生じる。
しんべえは常識をはるかに超えた信じ難い光景に声をあげるしかなかった。
「うおおおおおっ」
凄まじい女狐の何百もの突きが真堂丸を襲う、それを冷静に首を動かし全てよけている真堂丸
速過ぎて どれほどの突きを躱しているのかはしんべえには分からなかったが、ものすごい速度で首を動かし攻撃を躱している真堂丸の姿が自身の瞳に映っていた。
すっ、すげえ あいつ ちょっとでも しくじったら、首が飛ぶんだよな・・・全く信じられねえ、光景だぜ…
すっ、凄すぎる。

キィン
真堂丸と女狐の刀がぶつかり合う。

「そんな、細い身体で随分、力があるじゃないか」

ギギギギギギッ
女狐は力で後ろに押されていた。

ビュン
瞬間、真堂丸の刀が横一直線に空を斬り裂くように動いた。
その動きはまるで、刀自身が意思を持ち、生きてるような程見事なものであった。
その太刀をしゃがみ込み躱す女狐
そのしゃがんだ反動を利用し、足を力強く地面一杯踏み込み、すぐさま地面を蹴り上げ、真堂丸に向かって斬りかかる。
それをまた躱し、即座に真堂丸が斬り込む。

さっきまで、あっちで戦ってると思ったら、もう逆側にいやがる。何て速度だよ。しんべえはその戦いから目が離せなくなっていた。
こいつら、本当に凄げぇ
どんな鍛練をつんだら、こんなになれるんだよ、どっちも普通じゃねえ・・・

「くっくっく、面白いよ 想像以上の強さに笑みが出てしまう」
真堂丸は刀を構えた
「妾の恐怖をこれから思い知らせてやろうぞ真堂丸」

「妾は幼き頃から普通の人間とは違った、気がついたら、こんな事が出来た」

ボオッ
真堂丸は瞬間、かがみ込んだ。
先ほどまで立っていた場所はなんと炎に包まれていた。

「あまり驚かないねぇ、人間とは違う姿、常識を超える能力 妾が怖くないのかい?」

女狐の目の前には何も言わず刀をこちらに向け立っている真堂丸がいた。

「・・・・・・フッ」

「人間風情が本当の力の差を見せてやろうぞ」

女狐の両手、両足の先に血管が浮かび上がったと思うと、両手足の指先は膨れあがり、爪が前に押しだされるように突き出てきた。
「クックックック 本当の恐怖はこれからだ」刀を背中に仕舞い
女狐はまるで獣のよう両手脚を使い壁によじ登り始めた。
突如上から降り注ぐ炎

「うっ、うわあああああ」叫ぶしんべえ

「しんべえ、離れてろ」
真堂丸は炎を避けながら女狐に向かって行く。
全ての炎を躱し、高く跳んだ。
そして女狐の目の前、刀を振りかざす。
「あまいねぇ」
女狐は口から炎を吹き、真堂丸の全身を炎が包む。
ゴオオオオオオオオーーーッ

「やべえっ」叫ぶしんべえ

すると、炎の中から刀が突き出る
「うおおおおおおおおーっ」

「よしっ、いける」しんべえは手を力強く握りしめた。

「かーっ、駄目だねぇ、それもあまい」
女狐は自身の刀を背中から取りだし、自らの刀に向け炎を吹く、燃えさかる刀

「くらいな」

ズシャ
真堂丸から血が噴き出したと思ったと同時に傷口が燃え上がる。
かろうじて致命傷は避けたが、肩の部分が斬られていた。

「ふっふ、どうじゃ、こんな傷は初めてぢゃろ?」

「まだまだ、妾との絶望的な力の差をみせようぞ」
女狐は不気味に笑い出す。


その頃、文太と一之助は大同達に先を急いでもらうことにし、彼らより少し遅れて、後方を走っていた。
元郎殿の子よ無事であってくれごんす…
「間に合ってくれ 間に合え、間に合う」祈り願いながら文太は全力で走る。

真堂丸
一瞬後ろを振り返り文太は再びすぐに前を向く
文太が目にした後方の光景
それは見た事もない量の真っ黒の煙が城の回りを包み覆っている不気味な光景だった。
一之助もそれを目にした。
しかし、何も言わなかった。

今は信じるのみ

''先生どうかご無事で”

その時、城を抜けた所で大同達は止まっていたのだ。
なんと目の前に立つのは女狐の妹君。
その後ろには元郎の子がいた。
「父ちゃん」

「今助けるぞ」

「おや?元郎どういうことだい?お前、姉上に逆らうのかい?」

「息子を返してもらおう」

「それが、答えかい? 貴様 私の力を知っておろう」
妹君の表情はみるみる変わっていく。
大同、元郎、乱は同時に刀を抜く

「生意気な」

城の中

「うわああああああ」
しんべえはただ声をあげるしかできない。
目の前では、炎に包まれた刀で物凄い猛攻が繰り広げられている。
キィン キィン キィン キィン
女狐は炎を操るだけではなく刀の腕前も文句無しの実力だった。
「フハハハハ楽しいねぇ、こんな戦いは久しぶりだねぇ」

キィン
「妾が殺す気で刀をふっているのに、いっこうに斬られず、妾の刀をさばく男か 」

キィン キィン キィン キィン

「正直、このまま刀だけの腕前ならば妾に少し分が悪かったかもなぁ」

「だが」
ニヤリ 口元は耳までひろがった。

「あっ!!!!」
しんべえが目にしたのは尻尾だった。
尻尾が真堂丸の足を掴むように捕えた。

その瞬間だった

「あっ、危ない」

「シャッ」

ズバッ ズバッ ズバッ ズバッ

「死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 終わりだ」
真堂丸を炎が包み 何も見えなくなる。

「あっ、あっ ああ 負けちまった 女狐の勝ちだ」しんべえの両膝が地についてしまっていた。


城の外、大同、元郎、乱は地面にうずくまり倒れている。
「私達に逆らったということを後悔を持って知れ」

「だが、元郎 私は姉上より優しい最後にお前に機会をやろう」

「貴様の友の首をハネロ」

「そしたら、息子は助けてやる」

「ばっ、馬鹿を言え」叫ぶ 元郎。

人質がいる以上、三人には手を出せる状況ではなかったのだ。
このままじゃ、全滅・・・・

その時、元郎の肩に手がのった。
「やれ、覚悟は出来ている」

「だっ、大同」

「お前の息子があっちにいる以上、手が出せないのは事実、このままじゃ」

「馬鹿野郎、そんな事できるわけないだろう」

「お前の息子を救え、私の願いだ」

「あっはっはっは、見ものだねぇ」

「うっ、嘘だろ 元郎さん、大同さん?」乱が小声で囁く
元郎は刀を力強く握りしめる。

「そうだ、そうしろ」大同は目をつむった。

「冗談ですよね?」
乱はまるでこれがなにかの悪夢ではないのか?
信じられない状況に気がついたら自身の手の皮膚を力いっぱい引っ張っていた、これは悪夢ではない

「さあ、急げ 、友か息子か選べ、そろそろ息子を殺すぞ」

「うおおおおおおおっ」


空には真っ赤な夕陽が朧げに浮かんでいた。




カラン


「でっ、できません、どうか自分の命で勘弁してください」
それは、土下座をして赦しをこう元郎の姿であった。

「ばっ、馬鹿野郎」

「ああ、もう駄目だねぇ、皆殺しだ、まずは 子からだ」

「おっ、お願いだ、頼む待ってくれ」


ズシュ


「うっ、うぐっああああああ」

「おっ、おい嘘だろう」元郎の頬から涙が伝う。

カラン 大同の手元から刀が落ちた。

それは、元郎の息子をかばい刺された乱の姿だった。

「がはっ」

「乱、お前」

「げっ、元郎さんなら、そうすると思い、助ける隙ができるとお ガハッ もってまっ ました」
元郎は頷くことしか出来なかった。
涙が止まらない。

「馬鹿だねぇ、貴様の子はまだこっちにいるんだよ、無駄死にだったねぇ」

「しっ、信じてますから あの方達を」

「何?」妹君がそう言った瞬間、後ろにのけぞり倒れた。

スパン

「ちっ まだ、仲間がいたか」

一之助だった。

「おっ、お前」

「来てくれると しっ 信じてましたよ」

「もう、喋るな」一之助が血塗れの乱を見て叫ぶ

しかし、その瞬間は致命的な失敗だった。
敵は女狐の妹、女狐に似て残酷かつ隙がなかったのだ。
その一瞬誰もが油断していた隙

「さようなら、糞ガキ」

ズバッ

辺りに血が舞った。


「あー あー あー」


「???」

「なんだよ、てめぇは」

背中をかすかに斬られたのは文太だった。

「この命、お前にはやれない」

「ぶっ、文太さん」

「じゃ、二人ごと串刺しにしてやろう」

キィン 三つの刀が同時にそれを阻止した。
この人はこれからの時代必ず必要な存在だ。
命にかえても、お守りする。
三人の意思と気持ちは同じだった。

「うっとおしいねぇ、しかし冷静に考えなさいよ、元郎 お前何をしてるか?事の重大さが見えてないねぇ、姉上を敵にまわすってことは、これから逃げ場のない永遠の恐怖を味わうことになるのを分かってるか?」

「悪いことは、言わない今なら許してやろう、こっちにつけ」

「姉上は無敵、誰も逃げられない、さあ、はやくこい」

元郎は刀を妹君に向けた。

「貴様」

「恐怖から生まれるのは無力な闇」

「僕はこの人達に教えてもらった、人を思いやる心からは、何ものにもまけない無限の力が生まれるんだ、真堂丸さんは必ず女狐を倒す」

「戯れ言を、もうゆるさんぞ」


城の中

真っ赤に燃え上がる炎が包んでいた。

「はっはっはっはっは、やはり妾のが強かったようだな、灰になりな」

その時、女狐の頬が斬れ 血がたれた。

「貴様」

「まだ、勝負はこれからだ」
揺らめく炎の中から、真っ直ぐ力強い視線が女狐の瞳に映りこんでいた。


ゴオオオオオオオオオー

「ふっ、面白いではないか、決着をつけようぞ」


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