文太と真堂丸

だかずお

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~ 絆 ~

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日記は開かれた
そこに描かれていたのは、のの  が知らなかった自身の家族の物語
尚によって書かれた文章を文太が読み始める。

ここに記した文章は妹、ののにいつか話す時が来る前に私の身に何かが起こった時の為に残しました。
私自身の心の整理がつくまで、それと鬼神から解放され自由になった時にこの話を直接するつもり。
それまで 話せなかった 私の弱さを許してください。

私が絶望せずここまで生きてこれたのはある人のおかげ

その人は誰よりも のの、あなたの誕生を心待ちしていた人

これが、読まれてるって事は私の身に何か起こったのでしょう、ずっと隠してきたこれがあなたの目につく場所に置いてあったのだから。

私が居なくなっても 生きることをどうかやめないで欲しい、 これは あなたと 私、 あなたを愛した あなたの祖母の語らなかった思い出です。

ゴゴゴオオ

鬼ヶ島
私 尚は生まれ落ちたこの場所に絶望した

ここは地獄?

尚6歳の時
鬼に支配された島
転がる人間の死体の山
朝から晩まで過酷すぎる労働
許されぬ自由
恐怖の中 地獄の日々
しかし、私には一つだけ 支えがあった。
それは祖母の笑顔
私は泣いていた、島に響き渡る人間の悲鳴
鬼の声が聞こえるだけで、身体中の震えが止まらなくなる。
そんな私を祖母は抱きしめいつも優しく微笑んだ。

「婆はどうしてこんな目にあって笑っていられるの?私もう死にたい」
祖母は悲しい表情をした
だが、すぐに微笑み、真剣な眼差しになり
「ばあちゃんにとって、ここはただの地獄じゃあない、尚っていう、ばあちゃんにとっての天使がいるんだから、あきらめちゃいかん、必ず心から笑える日が来るから、信じていなさい」

「それに、尚や、あなたはお姉ちゃんになるんだ」

「えっ?」

「妹が生まれるんぢゃ、 二人の天使に囲まれてあたしゃ幸せだよ、二人を抱きしめるのが今の私の夢ぢゃ、あたしの宝物」
その笑顔に尚は生きる事を決意する

婆ちゃんがいるから、ここはあたしにとってもただの地獄じゃない、私は婆が大好きだった。

鬼神は希望を口にする人間 婆を疎ましく思っていた。
「人間め、貴様らにそんな権利はない生意気だ、おいっ、あのババアを呼んでこい」

「はっ」

その日、私はなかなか戻らぬ婆を心配し外に出る
なんだか胸騒ぎがした
婆を探し歩きまわっていると野原にうずくまる、婆の姿を見て心臓がはちきれんばかりになり叫んだ

「婆」

「尚か」
婆は振り返りすぐに笑った

婆の無事に安堵した

「良かった」

ぽたっ   ぽたっ

私の瞳から涙がこぼれはじめた
婆の額から流れる尋常ない汗とその姿を見て私は泣き叫んでいた。
婆の両の手首は斬り落とされていたのだ

それから3日、知り合いに治療してもらった婆は家に戻る
婆は私達をもう抱けない、婆が口にしていた自身の夢、そんな事を思うととめどなく涙が溢れた。
私は婆に会うのが怖かった
だが会った瞬間、私の心配は嵐のように去りゆき、安堵に包まれる
私が見たのは婆のいつもの優しい笑顔
「尚や、今日も天気が良いの」

「さあ、尚の妹が産まれる、わたしゃ楽しみだ、二人で沢山の愛を注いであげよう」

「うんっ」私にも生きる希望がわいた
妹は私の大切な大切な存在になる

私は心強くあれた、どんな地獄のような場所でも、奴隷として扱われていても、婆が居たから。
鬼神は許せなかった、どんな状況にも絶望せず、笑い立ち上がる婆が。

その事件は起こる

ある朝の早朝

戸口は叩かれた
「婆さんっ、逃げろ鬼神があんたを殺しにくる」それは婆の仲の良い友達の知らせ

私はその言葉に頭が真っ白になる
突然、婆はしゃがみ私の顔を覗き込んだ。

「尚や、妹を頼む  婆はいつも見守っている 必ずこの状況から抜ける時がくる   信じて生きろ、必ずいつか助けてくれる者が現れる」

「そんな、婆 やだよ  いかないで」
私が婆を離さないのを止める両親

「尚や婆の最後の願い聞いてくれるか?」

尚は泣きながら頷いた
「あたしに尚の笑顔を見せておくれ」
尚は泣きながら笑った

精一杯笑った

涙を流しながらも、必死に笑った

婆も笑い
「妹に大切な婆の笑顔を伝えて欲しい、尚の笑顔は婆にそっくりだ」
婆は微笑み
「愛してる 」
婆の初めて見せた一粒の涙

婆は一人出て行った。

「よお、ババア 俺はお前が嫌いだ、だから殺すことにした、ハッハッハお前は永遠に俺の奴隷だったな、死ぬ時まで俺に決められる、永遠にもがき苦しめ」

「あっはっは、はっはっは」

「貴様何が可笑しい?」

「鬼神や、あたしはあんたの奴隷になった覚えなどこれっぽっちもない、死にぎわだって笑ってやるさ、あたしはお前に支配などされない」

「あたしの勝ちじゃ、あたしは何者にも支配はされない」

ブチッ
「ババア」

婆が二度とうちに戻ることはなかった。

私は心に誓った

これから産まれる大事な妹の為
婆が私に見せてくれた姿勢を貫くこと
どんな時でも生きる喜びを見失わないよう、また見つけられるよう
沢山気づかせてあげること
あなたはひとりじゃない
私と婆は永遠に あなたを 愛している

私達の分まで 尚の幸せを願って
ここに記す
日記はここで終わっていた。

「ぐすんっ」 「泣いてなんかねぇぞ俺は」としんべえ

文太と一之助、太一は のの を見つめた。
黙り込み目を閉じている のの
「あっし達は外に出ていましょうか?」
外に出ようとした時だった

「みなさん、ありがとうございました、時間はかかるかも知れないけど私また歩きはじめます」
その表情はきっと、お婆さん、尚さんの笑顔を受け継いだ笑顔
本当に最高の笑顔だった。

皆はその言葉を聞きホッとする
「僕らは友達です、いつでも力になるし、どこに居てもかけつけます、決して一人ぼっちじゃないですから」
文太はののを見つめ言った。

「まっ、こほんっ、俺もいるし大丈夫だ」としんべえ

「いつでも頼るでごんす」微笑む一之助

「いつだって力になるぜ」と太一

「みなさん ありがとう」

外に出ると、土下座をして泣いてる青鬼が
「お前さん達 本当にありがとう  よかった、よかった」

後ろには道来も立っていた。
「道来さんっ」

「娘はもう大丈夫そうだな」

「真堂丸は?」

「あいつなら、多分大丈夫だ、あれくらいでくたばる奴ではないはずだからな」

冷静になった青鬼はようやく、その名前に聞き覚えがあることを思い出した。

「真堂丸」

「まさか、あいつが真堂丸なのか?」
あいつが女狐を。

頷く道来

その時だった
「ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオオー」
鬼神の叫び声

「大変だ」

「なにが大変なんだよ、青い鬼」としんべえ

「鬼神さんがお前達を呼んでる」
鬼神の声が島中に響き渡る
「なんて、馬鹿でけぇ声」太一が言った。

地が揺れている
「侵入者よ俺の居住地に来い、自ら来なければ島中の人間に地獄を見せる、まあ貴様らは来たならば地獄の処刑は絶対だがな、人間の心を見せよ ハッハッハ選択しろ、貴様らの命か、島中の人間の命か」

「俺が楽しむ為に猶予をやろう、明朝5時に姿を見せよ」

「楽しみにしている」

辺りは静かになった。
「お前達どうするんだ?」

「そりゃ行くに決まっているでごんす」

「それまで、少し休むぞ」と道来

「まっまじかよ~本当に行くのか?」震えるしんべえ

「殺されるんだぞ」青鬼が叫ぶ

「行かなきゃならない、僕らはひけない」
文太が言った。

「何故だ、お前達、今なら逃げれば生きられるんだぞ、行ったところで鬼神さんには勝てないだろ」

「お前にだってちゃんとわかってるだろ、俺たちが絶対に引けないことを」太一が言う

青鬼は黙り込んだ。
そう、彼らにとって守りたかったのは島の人間の命だけではない。
青鬼、それに、のの達のこれからの未来

彼らはもう大切な仲間
ここだけは絶対にひけない

青鬼は彼らからその思いを感じとっていた。
「青鬼さん、僕らは友達です 僕らを信じて下さい、僕らは仲間を見捨てない」
青鬼はずっとあきらめていた
人間の友達が出来るなど不可能

だが

こんなに沢山出来た

人間って

人間って
こんなにあったけえんだ

青鬼は泣いた。



ありがとう

絆が出来た、鬼の俺を仲間だと呼んでくれる
会ったばかりの俺とのの の為に命を張る この優しい人間達
俺は好きだ。

のの  にも話し声は届いていた。

この時 実は二人
青鬼とのの は各自に思っていた
この者達を死なせたくない
この思いが各自の行動を駆り立てさせる

その頃 真堂丸は 先ほどの鬼神の声を聞き皆の無事を確認したので合流する為、探していた。

皆が寝静まった頃、そっと青鬼は立ち上がる
「優しい人間達よ、ののと共に島を出て、生きてくれ俺が命をかけ時間をかせぐから」
手紙を残し動きだす。

その時だった
「まったく、お前は」暗闇の中から声が

青鬼は声の主の姿を見て驚く
「お前鬼神さんに殺されたんじゃ?」
そこに立っていたのは真堂丸だった。

「すぐ先ほど、娘も通った」

「なんだって、 ののが」

「覚悟を決めた目、止められなかった」

青鬼は走り出した
暗闇の中から声がし始める
「まったく、お人よしな鬼だ」道来が立ち上がる

「その通りで」と太一

「行くでごんすか」

「真堂丸、無事で良かった」と文太

「ぐぅー」しんべえのイビキがこだまする。

「しっかし、娘まで出たのは知らなかった」道来が言った

「大丈夫なのか?」

真堂丸は刀に手を置き
「あいつらは仲間、死なせやしない」

「さて、行くぞ 」

「ああっ」

ゴゴゴゴゴゴゴオ~ 

    鬼神との決戦がいよいよ始まる

鬼ヶ島は不気味な静けさに包まれていた。


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