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~ 迫り来る時 ~
しおりを挟むこのまま、時が止まればいい。
満天に輝く星空の下、そんなことを思う。
だが無情にも、その時は一刻一刻と近づいてくる。
文太はただ空を見上げていた。
ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴオオオオオオオオオーッ
無数に走る馬の足音が大地を震わせ揺らしている
その中に鬼道がいた。
今や国中から大帝国の兵達が集まり、決戦の場に向かっている。
小さな村、いや、たった一人の男を殺すが為にそれ程の軍勢が。
鬼道は思う。
思ったよりも兵の集まりは少ないやも知れぬ。
人々は真堂丸と言う男に希望を見出したのだ。
我々大帝国がもしかしたら、敗北するやもなど、あり得ないことを信じ始めた。
今、真堂丸と共に戦えば変わるかもなどと。
鬼道は歯をくいしばる、この戦いに参加しなかった奴らも後に見せしめとして、皆殺しにしなければな。
国中に真堂丸の話が流れたきっかけは、たった一粒の水滴のような噂。
怪物と怖れられていた大帝国の幹部が、こと如く真堂丸に打ち取られてる、もしかしたら大帝国の支配が終わるかも知れない、この機に皆立ち上がれ。
その小さな水滴の源泉は菊一が広めた噂と言う滴。
その水滴は川となり大海へと変わり始めていた。
「もしかしたら、変わるかも、俺たちも立ち上がらないか」
「我々にも人間らしく平和に暮らす権利がある」
「俺、大帝国の兵だけど今回の戦は行かないつもりだ」
もちろん、一粒の水滴が大海に変わるまでに力を尽くした人間達は他にもいた。
それは、文太と真堂丸達が今まで出会った人々であった。
少しでも、この世界に希望を。
不安や怖れ、無力感、怒りを広め拡大させるのではなく、希望を、人々に尊厳と力、喜びを。
その為に立ち上がった人々がこの時、大勢居たのだ。
人々は気づきはじめる、状況に嘆き、泣き崩れ、祈り、すがっていても始まらない。
自分が立ち上がることによって、なにかが変わるきっかけになり得ることを。
一人一人が、今こそ外に与えていた力を自身に戻す時
彼らもまた、自分の場で全力を尽くし立ち上がっていたのだ。
それらの動きのおかげか大帝国の集まる兵は鬼道の想像を遥かに下回るものとなる。
「鬼道様、何故今すぐにでもあの村を襲ってしまわないのですか?」
「笑わせる、貴様は真堂丸と言う男に会ったことがあるか?」
「いや、ですが何万の兵がいるのならば、たった一人の人間くらい」
「貴様は人間を知らんなぁ」
そう、たった一人、だが絶対的な強者を目の前に人間は震え上がり動けなくなるだろう、誰しも自分の命が惜しい、自らの命を差し出し、最初に斬り込める人間が、この兵の中に居るか、そこまで忠実な兵はここに居るか。
鬼道は笑う、どれほどの男
女狐を超え、鬼神、骸、更には一斎までも。
正直、この鬼道をもってして震えが来る。
この時代に刀で頂点に立った男であることに間違いないだろう。
三國人あんたらはそんな男に勝てるかい?
一番良いのが、三國人どもが真堂丸と戦い敗北し、その後、真堂丸を殺すこと。だが、奴らは間違いなく真堂丸と戦うことはしないだろう。
奴らには刀で頂点をとることなど興味はない。
さて、己は奴らをどう消すか。
鬼道にとって自身こそ天下を取ることが目的。
この戦で、すべて片付けてみせる、私にとって邪魔な存在達を、そう すべて。
「お前、真堂丸に何故、奇襲をかけないかと言ったな」
「はいっ」
「一番楽しいところを私が見逃してどうする」
「はっ、その通りで」
場面は変わる
道来の居る城の中
うなだれる氷輪を背に道来は歩き始めた。
すると
「道来さんっ」そこに来たのは太一達
「無事ですか?」
「ああ」
「道来さん、大変な事を知っちまった」太一は動揺していた。
いや太一だけではない、一之助、しんべえもだった。
「俺たち文太の兄貴の村に居たから何一つ情報が入って来なかったんだ、国中に、国中に」
「ああ、分かっている」
「道来殿、一番怖れていた事に」
「とにかく俺たちは真堂丸達の元に、この事を伝えに行こう」
「氷輪、お前うつむいてるが大丈夫かよ?」しんべえが氷輪の様子に気づく。
「ふっ、俺はな」
すぐに道来が氷輪の言葉を覆い隠すかのように言う。
「こいつはちょっと傷をおったが大丈夫、すぐに立ち上がる」
そう、道来は誰にも言うつもりはなかった、すべての事のいきさつを。
「大丈夫か氷輪」太一が手を差し伸べる
馬鹿野郎が、本当に大馬鹿野朗だよ、道来あんたと言う人間は。
氷輪の瞳には、薄っすらと涙が浮かんでいた。
ヒュウウウウウウウ~~ ヒュウウウウウウウウウ~
真堂丸の休む小屋の中、隣で文太も横になり休んでいた。無論、眠ってはいない。
心臓の鼓動が激しく揺れる
真堂丸が、僕の手の届かない何処か遠いところに行ってしまうようで、不安だった。
今目の前に見える、真堂丸の身体、鼓動、声。
当たり前にあったそれが、どうして今こんなにも大切に愛しく感じるんだ。
大丈夫、きっと真堂丸は無事に帰ってくる。
文太は自分に言い聞かせていた。
その時だった
ザッ
後ろで真堂丸が立ち上がる
ドクンッ
心臓がどうしてこんなに切なく 鼓動するの
どうして こんなに胸が締め付けられるように痛いの
ザッ カチャッ
何も言わずに行っちゃうの
その時だった
「文太、世話になった ありがとう」
僕はすぐに立ち上がっていた、止める事はしたくても出来ない、これ以上、真堂丸の心に重しをのせるわけにはいかない。
僕が唯一出来ること。
込み上げる涙をおさえ、いつもと変わらない微笑みを浮かべ
「やだなぁ、別れみたいだよ、そんな挨拶」
一瞬の静寂が二人を包む
「すぐに僕も平野に向かうから」
こんなことしか出来なく、言えなかった。
「村の人々を任せた」
「うん」
こんな時にも君は自分の心配ではなく、人の心配なんかして、僕は拳を強く握りしめていた。
泣き顔なんて、見せたくない、そんなの、本当にこれが最後みたいじゃないか。
ザッ まだ暗く、肌寒い空の下、真堂丸は歩きだす。
僕の視界から、真堂丸がどんどん小さくなって行く
何度も何度も見てきた、君の後ろ姿がどうしてこんなに目に焼き付くの、どうして一瞬でも、目を離すのが惜しく感じるの。
僕はその場を動くことが出来なかった。
真堂丸の姿が見えなくなっても
ずっとその場を
動くことが出来なかった
ヒョオオオオオオ~~
真堂丸が歩いていると、目の前に人の群。
五十人くらいか?大帝国?いや、違う。
「あんたも、そうかい?」
「?」
「この先に真堂丸様と文太様がおられると聞いて、私には戦う力がない、ですがせめて希望と共に死ねるなら本望かと」一人の老婆が言った。
そう彼らは、それぞれの理由を胸に、文太と真堂丸の元に集まっていた。
「俺達はよ、真堂丸さんと一緒に戦って死ぬつもりよ」三人組の男達が言う。
「文太様達なら、我々家族を助けてくれるんではないかと」
「どうせ大帝国に支配されて死ぬなら、僕らはここで彼等と一緒に戦って死んでやる」
真堂丸は一人一人の表情を見る
大帝国の刺客はいない。彼はこの様に、人の心を見る事に非常に長けていた。数々の死戦を繰り広げた結果そうなったのか、生まれつきかは知らない。
真堂丸が言う
「この先に文太がいる、行けっ」
「はいっ」
真堂丸はその者達を文太の元へ向かわせ、一人、大帝国が集まる平野に歩き向かう。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴオオ~~
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