文太と真堂丸

だかずお

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~ 立ち上がる者達 ~

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いつからだろう、人間を斬り殺すことに躊躇(ためら)いを覚えたのは?
俺は沢山の人間を殺(あや)めた。
人を斬ることを何とも思っていなかった。
そんな俺を変えたのは、一人の人間との出会い

文太と真堂丸の出会い

最初はただ鬱陶しかった。人間と関わることを極力避けて生きてきた。本当は怖かったのかも知れない、こんな自分を受け入れる者が、この世に居ないと知ることが。
俺は自分を、無慈悲な世界を、この意味のない人生を心底憎んでいた。
永遠に続くかのような果てしない暗闇を俺はただ一人彷徨っていたんだ。

どうして俺なんかが存在している?

斬って 斬って 斬って 斬って 斬って 斬って 斬って 斬って やった。
殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺しまくった。憎かった訳ではない、生き抜く為にするしかなかった。殺らねば、殺られる。
他者の命など俺には興味がない、そう心の何処かで思わなければ、自分が壊れてしまいそうだったのかも知れない。
俺は己を偽り続けた。
俺に刀を向けるのが悪いんだ、俺に非はない。
斬らなきゃ、斬られる。
そんな生活がずっと続いた。

どれほどの力を手にしても、どれだけ勝利を積んでも、名声を得ても、満たされることはなく、抱えていたのは、ただただ空っぽの空虚。
そもそも力など求めてはいなかった、生き残る為に斬るしかなかった。
永遠に満たされることの無い心にすっぽり空いた穴。
何処に向かっても無くならない虚無
目的地も辿り着く場所もない放浪の旅
俺は一体・・・・・何故存在したんだ?
そんな時、お前に出会う。
最初は鬱陶しかったお前だったが、いつしかお前の笑顔を見るのが嬉しくなった。
いつぶりだろう、こんな気持ちを感じたのは、人間と一緒に居る事に安心を覚えたのは。
お前の生きる姿勢は、自分が生き残る為に平気で人を殺す、この時代に信じ難いものだった。
他者の為に涙を流し、見ず知らずの人間の為に命を張る。
弱いくせに、お前は誰かが傷つくのを身体を呈して守ろうとするんだ。自分の命をかえりみず。
いつしか幼き頃、自分にもあった、そんな気持ちを思い出させてくれる様だった。
お前は世界や時代、どんな状況にも左右されず、染まらず、己を生きていたんだ。
俺には、そんなお前が輝かしく見えて仕方なかった。
お前に会ってから、埋まらない筈の空洞はナニカで満たされ気にならなくなった。
いや、空洞は埋まらず、変わらずにそこにあったのかも知れないが全く気にならなくなった。
他人のことなど、どうでも良かった俺が、人が傷つくと自分の心が痛くなった。
人が泣いていると自分の胸が苦しくなった。

俺は沢山の人間を殺した。
今更、償うことは出来ないかも知れない。
ただ、もし出来るなら、俺と同じ気持ちを他の奴には合わせたくない、もし出来るなら、これ以上の悲劇を繰り返させたくない。
いつしか他者が己になっていた、己が他者になっていた、境界線は消え、繋がっていることに気がついた。
人は生まれ変われる、いつだって変われるんだ。

文太

お前はずっと、真っ暗闇を彷徨っていた俺の光だったんだ。
俺はお前を見ていて、自身の中に同じそれを見い出した。いつしか忘れていた本当に大切なもの。
俺は初めて生の実感を得た、そんな気分になった。

お前のおかげだ。
失ったと思ったはずの道は、己の歩く後に出来ていて、失ったと思ったものは、いつでも俺自身の中にあった、いや、それ自身が本当は己だったのかも知れない。

心に灯る光、俺は己を取り戻した、そんな気がした。

「これ以上、大帝国に人間を殺させてはいけない」

真堂丸の脳裏に一瞬こんな思いが浮かぶ。

「ふっ」骸は何故かほくそ笑む。

「勝てるのかい?大帝国に、いやこの表現はおかしいか?貴様のやろうとしてる事は無謀」

「貴様の思う勝利とは力で勝つ事ではないのだろう?」

「ああ」

「笑わせる、貴様は鬼道を知らない。一山は貴様のそんな思いを全て見透かしたうえで何も言わなかった、いや言えなかったんだろう クハハハハハ 本当に笑わせるぜ」

「違う」

骸は笑うのをやめた。

「俺を信じてるからだ」

「好きに思え」

「鬼道を斬り、それで終わらせるのなら貴様は・・」

「ふっ、どうでもいい。じゃあな、もう会う事もあるまい」骸は歩き出す。

真堂丸も歩き出す


ヒュオオオオオオオオーーーー


「ヨォ」


「俺に勝った奴が、負けるなよ」骸は振り向かずに足を止めずに、そんな言葉を残す。


「ああ」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴオー

「行かせない、ここは絶対に、真の兄貴と約束したんだ」泣き叫ぶ太一は倒れながらも、一人でもこの先に行かせないように必死に通り抜けようとする大帝国の兵達の足を掴んでいた。

「るせぇんだよ」ガスッ 太一の顔面を踏みつける兵

それでも太一は、手を離す事はなかった。
「文太の兄貴、真の兄貴」ガスッ ガスッ

「なんだ、こいつら気持ち悪りぃっ」
一之助も、乱も、元郎も同じだった。

無情にも大帝国の兵達は次々に道を抜け始める。

悔しくて、情けなくて涙が止まらねぇ。
あれだけみんなが命を張り、守り通したのに。
すいません、すいません  みんな。

ヒュオオオオオーッ

こちらも限界だった。
刀を握りほくそ笑むのは鬼道千閣。周りに倒れるのは仲間たちの姿だった。

「ちっ、ここまでか」もう身体は限界だ、菊一はそれまで決して放すことのなかった刀を手放してしまう。
刀を握る力もなくなったか。一山すまねぇ、どうやらここまでだ。

「さて、貴様から殺すか、菊一」

仲間たちは誰一人立ち上がれない、身体は限界をとうに超え、もう動かせない状態だったのだ。

「菊一さん」必死に立ち上がったのは道来

「ほぉ、まだ立つか。何故そこまでして戦うのか俺には到底理解できんな。最初から結果は見えていた戦だっただろう?」

「良いだろう、貴様から殺してやる」

「道来、よせっ」叫ぶ菊一

「私はあきらめない」

「さようなら、道来君」


ザンッ

「ぐわああああああああああああああっ」

それは後方から聞こえた音

太一は自身の目を疑った。

「うっ、うっうっ」

道を通り抜けたはずの大帝国の兵達が、一人残らず吹き飛んで来た。
その兵達の先に立っていたのは、真堂丸だった。

「真の兄貴っ」  「先生」

「真堂丸だと、馬鹿な。奴は確かに死んだはず」鬼道は震えあがる。

ザッ 太一達の前に立つ真堂丸
「みんな大丈夫か?」

「ぐすっ、真の兄貴、俺はてっきりあんたが死んだと」

「すまない、もう大丈夫だ」

これにより限界を超えていた男達の精神と魂が奮い立たされる。
生きていたんだ、真堂丸が生きていた。

馬鹿野郎 心配かけさせやがって。

「真堂丸殿」  「あいつ」瀕死の状態だった仲間たちが次々と立ち上がる。

「真堂丸が超えた限界、俺たちも超えてやる」

ドオオオオオオオオオンッ
「まだ、終わりじゃない」

「馬鹿な」

突如、真堂丸が叫んだ
「道来、鬼道を頼む」

その言葉に、自分でも気づかぬうちに涙が頬を伝っていく。
嬉しい。最も尊敬する男がこの私を信じてくれた。
いや、真堂丸はずっと私を信じてくれていた。
最後の重要な砦とも言える相手を、私に任せてくれた。

道来はハッとする、ずっと自分を疑って、信じられなかったのは自分だったんだ。私は心の何処かで知らず知らず、思っていた、自分には出来ないと。
だが、あいつはずっと私を信じてくれていたんだ。
グッ いつだってお前は私を信じてくれた。
道来は瞳を閉じる。

「道来いけるか?」

「菊一さん、大丈夫」

「必ず鬼道を抑える、他の場所の援護に向かって下さい」
それは確信を孕(はら)んだ音だった。

ニヤリ
菊一の瞳に映る、大きくなった弟子の背中姿。
随分大きくなった。ちっ、嬉しくて涙が出ちまうな。
お前はもう充分強い。
「道来、鬼道を任せる」

実際、もうこの中で真堂丸以外にあそこの場所を守り抜ける者もいないだろう。
鬼道一人、こいつに勝てる可能性のある者は道来お前だけだ。
道来、お前を信じる。
道来の言葉を疑う者は、誰一人居なかった。

「道来、ここは任せた」

「援護は?」雷獣が言う

「大丈夫、一人の方が自身を追い込めそうだ」

「ふっ、相変わらずだな。死ぬなよ」

「お前も」

ガシッ 
「笑わせるな、先ほど実力の差を見せた筈だが。お前の仲間たちは本当に阿保だな、勝てないのは目に見えてるだろ」

「お前は、知らない。絆が、仲間がどれほど力を与えてくれるか。先ほどとは違うぞ」

「戯言をほざくな」

「行くぞ」

キイイイイイインッ

道を抜ける事は大帝国にとって、ただ、文太達と百名程の人間を殺すだけの意味ではなかった。
国中に大帝国に逆らえばどうなるかを、知らしめることでもあった。
即ち今は大帝国の絶対的な力を誇示する絶好の機会。
この戦の勝利により、国中の人間が震え上がり、恐怖に支配され、大帝国の完全なる支配が始まる。
勝利はすぐそこ。

仲間たちは、それぞれが直感で自身が一番力になれる場所に動くことになる。
仲間たちは最善の配置場所に散り散りとなった。


その頃、河原を一人ボンヤリ眺めている姿が、それはしんべえの姿だった。
 

「あいつら、生きてんのかなぁ?」


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