冬馬君の秋と冬

だかずお

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『プーとの別れ』

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冬馬家は、皆が集まり賑やか、盛り上がっている。
「プー高い、高い」冬馬君がプーを持ち上げる。
プーも大ご機嫌である。

「やっぱり犬は可愛いな」きみ子が言った。

「まさか、冬馬家が犬預かるとは」と大喜。

だが、実は、冬馬君は少し寂しかった。
何故なら、明日はプーを飼い主にかえす日だからである。
プーと離れたくない、冬馬君はそんな事を考えていた。
ここ数日、冬馬君はずっとプーと一緒、寝る時も、ご飯を食べる時も、プーは冬馬君になつき、トイレやお風呂場までもついて来た。
家の中ずっとくっついてくる、まるで、可愛い兄弟でも出来たみたいだった。
自分の歩くとこ、何処でも一緒に居た。

プー、君は、明日のこの時間には、僕と一緒じゃないんだね。
冬馬君は切ない気持ちになる。
でも、そんな事、君には分からないよね。

すると、きみ子が「冬馬君、プーちゃんとずっと一緒だったから、明日お別れちょっと寂しいんじゃない?」

冬馬君はプーの顔をチラリと見る。
プーもジッと冬馬君を見つめていた。
だめだ、冬馬君はすでに泣きそうになってしまう。
たった、一週間、一緒に過ごしただけ、プーはきっと僕のことなんか、すぐに忘れるさ。

きみ子に返事をする「大丈夫だよ、一週間しか、一緒に居なかったんだから」

こんな事で、すぐ泣いちゃうなんて恥ずかしい。
冬馬君は別れ際は、絶対に泣かない事を決めた。
僕が泣いたらプーもきっと、びっくりしちゃうから、笑顔で別れよう。

ちなみにどうでもいいが、多網はプーの名前を何故かブーと覚えていた。
一人、ブー、ブーと言っている。
「ブー ブー」

しばらくすると隆が帰ってきた「ただいまー」
「プーちゃん、どこでちゅかー」
この男もまた溺愛していた。

ハッ、大喜達が来ていた事を知らずビックリ。
しまった、赤ちゃん言葉、聞かれちゃったか?
すぐに焦り言い直す。
「こっ、こほん、どこですかぁー」
無情にも、誰も聞いてない、その言葉は辺りにこだまする。

「どこですかぁー?」

まっ、まあ良かった、誰も聞いてなかったか。
少しむなしい隆だったが、ホッとした。


リビングに隆が入った瞬間、きみ子が「おじちゃん、赤ちゃん言葉使うんだね、しかも微妙に言い直したよね」容赦ないおなご きみ子。

隆は、一人テンパっていた。
「どこでちゅかー、どこですか、噛んじゃった」と一人、空回りの言い訳は続く。


夕食時
「いつも、以上に大人数 最高だね」と大喜

今日はいつものメンバープラス、プーちゃんまでいる。
賑やかなお家になんだか、正子や隆も嬉しくなる。
ああ、仕事終わって家に帰ってくる、この時は最高だな。
隆はさっそく、冷蔵庫からビールを取り出し「瓶ビールが美味いんですよ」とニンマリ、キンキンに冷えたビールをグラスに注ごうとすると多網が。

「注いであげる」

「おっ、気がきくね」

トクッ トクッ トクッ

多網の注ぐ、泡九割ビールに男は泣いた。

「いっただきまーす」

「プーちゃんも、今日が最後の日だから」正子はプーに美味しそうな犬の餌を買ってきていた。

尻尾を振って大喜び、本当に美味しそうに食事を食べる。

それを見たきみ子の腹も途端に減る「っしゃーペコペコ」

多網の腹も「ぬくしょー」

「しかし、二人の、このテンション、冬休みの婆ちゃん家旅行の食べ放題思い出すね」と冬馬君と大喜は笑った。
あれは、凄まじい食べっぷりだった。

今日の冬馬家の夕飯は唐揚げ。
パクっ「んみゃー」きみ子が叫ぶ、そして、すぐさまご飯をかき込む「おばちゃん最高~」この味付けに、白飯合う~~

多網は目を閉じ、カッ すぐさま見開いた。
唐揚げをパクリ、白飯の匂いをくんくん嗅いで、ガツ ガツ ガツ 、白飯をイッキに口の中へ「ぬほーっ」

この二人も、美味そうに食べるな、隆が思う。
では、自分も。
ビールをグビリ、よだれを垂らし、そしてビールの余韻が消える前にイッキに口に唐揚げを。

プーん

ハッ 何だビールの芳醇な香りが、一瞬でかき消された、何故こんな匂いに?
隆は後ろを振り向く、そこにはプーの、出来たてホヤホヤうんにょ君がスタンバッていたそうな。

「よっ、隆!!」

オーーーーーノーーーーーッ
何故か男は英語で叫んだそうな。

夕飯も終え、冬馬君達はいっせいに、二階にかけあがる。
「よーし、夜中の語り合いだー」そう、子供達の恒例行事、大好きな時間である。
今日はプーもいる。
彼女も全力で皆の後にくっついて行く。

敷いた布団の上に、ゴローン。
そうそう、この自分の部屋に布団が敷き詰められてるこの光景大好きだ。
皆が泊まりに来てる時の部屋の光景なのだ。
冬馬君の布団にプーも入ってくる。

「今日はプーも居るし、また違う感じで良いね」大喜が言った。
皆も、その言葉にニッコリ頷く。

「今日は何話す~?」きみ子ニンマリ

即、奴は言った「怖い話」ギラリ 多網。

「本当多網も好きだね~~」皆は笑う。
プーも何だか嬉しそうに尻尾を振っていた。

その日も、子供達は夜遅くまで語り合っては、いつまでも起きていた。
語り合うと言っても内容は、どうやったら強烈な屁が出るかと言う、内容がないよう(ダジャレ)な話だったのだが。

皆が寝静まった後、冬馬君はふと目を開ける、目の前にこちらを見つめるプーが居た。
二人、いや、一人と一匹はしばらく動かずジッと見つめあっている。
冬馬君はプーの頭を撫でた。
プーありがとう、君のおかげでこの一週間本当に楽しかったよ。
寝っ転がり、お腹を出すプー。
冬馬君は、また泣きそうになってしまった。
プー、明日はお別れなんだよ、もう会えないんだよ。
でも、悲しい別れにはしないよ、笑ってお別れするんだよ。
冬馬君はプーを抱きしめ、眠りについた。

きっと、こんな純粋な眼差しで見つめらたら、気持ちに嘘はつけない、すべて見透かされている様な気がした冬馬君。

別れがちっとも辛くないように、強がって、いつまでも、いつまでも抱きしめていた。


翌日

冬馬君達はリビングで遊んでいる、プーと部屋の中を一緒になって、駆けずり回り楽しんでいる。
犬にあまり、興味を示してなかった多網も、今はすっかりプーと仲良く遊んでいる。
やはり、多網はプーの名前を間違えていた。

「ブー、ブー、ブー、ブリッ へへっ」

すると、その時はついにやって来る。

ピンポーン

「あっ、きっとプーの飼い主だよ」ときみ子

何故か多網が、プーを帰したくないのか、両手を広げ玄関に行かせない様にしている。
それは、まるで冬馬君の気持ちそのものの様だった。

「すいません、プーが大変お世話になりました」

その時だった、飼い主の声を聴いたプーが一目散に玄関に走って行ってしまった。

プー、冬馬君が思う。
そうだよね、向こうが飼い主、そうだよ。
振り返らないで、プー行くんだ。
もう僕のことは忘れて、幸せにやるんだよ。

「冬馬、プー帰っちゃうよ玄関行かないの?」と大喜

「いや、良いんだ」
だって、行ったらきっと別れが辛くなる、これで良いんだ。

大喜や、多網、きみ子は冬馬君の気持ちに気づいていた。
きっと寂しいんだ。

「良いの挨拶?」と多網

「もう、会えなくなっちゃうんだよ」と、きみ子

ドキッ その言葉に冬馬君の頭の中、プーの顔が浮かぶ プー。
だめだ、今行ったら、どうせ僕は泣いちゃう、そんな姿をプーに見せる訳には行かないんだ。

冬馬君は言った「うん、良いんだ」

その時だった

「ワンッ」

プーが冬馬君に挨拶、感謝するかの様に戻ってきたのだ。

そして、冬馬君の方に向かって来て離れなかった。
「ワンッ ワンッ ワンッ」

プー

冬馬君の両目から、どめどなく涙がこぼれた。
あれだけ泣かないって決めてたのに。
涙は止まらなかった。

「プー ありがとう ありがとう」

「ワンッ ワンッ ワンッ」

その光景にきみ子も涙を流す。
「フランダースの犬や」ちなみに、きみ子はフランダースの犬を観たことはない、内容も知らないよう。(再びダジャレ)

大喜や多網の目がしらも、目の前の光景に熱くなっていた。

涙を流すことは、ちっとも恥ずかしいことなんかではない冬馬よ(誰だよ)。

プーはいつまでも離れようとしなかった、本当に冬馬君のことが好きだったのだ。

飼い主がプーの名前を呼んでも、離れない。
プーにも分かったんだ、きっと、冬馬君ともうお別れの時だと、悲しげに吠えた「ワンッ、ワンッ」
冬馬君もプーを抱きしめ二人は、いや一人と一匹と後三人は大泣きである。

「うえええええええん、寂しいよ」

「ワンッ ワンッ ワンッ ワンッ ワンッ」

「ブー ブー ブー ブー ブー」だから多網よ、名前ちゃう。感動シーンなんだから頼むぜ。


玄関では「すいません、今、連れて来ますから」

ようやく、皆は玄関に。
「うえーーん」皆は、まだ泣き止まず。
まあ、多網はこの頃には鼻くそをほじっていたのだが。

飼い主は嬉しかった。
こんなにもプーを大切に思い、好いてくれたことに。

「みんな、また絶対に連れてくるからね、その時はまたよろしくお願いします」

子供達はその言葉にようやく安心した。
またプーに会える。
「本当、またプー来てくれる?」と冬馬君

「うん、約束する」

プーまた必ず会おうね!!
冬馬君はプーを抱きしめた。皆もプーを撫でる。

「ワンッ」

プー元気でね、また会おうね。

バイバイ プー

プーは自分の家に帰って行った。


ありがとうプー。

プーからもらった沢山の愛情ずっとずっと忘れないよ。

なんだか、少し大人になった冬馬君であった。


すると多網は言った「あーあ、ブー行っちゃった」

多網よ、 プーや!!!


またねプー 


冬馬君はいつまでも、いつまでも、自分の手に残るプーの温もりを忘れることは無かった。
心の中にはプーと一緒に過ごした日々が、浮かんでいた。

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