ゆるスロットル

SRW

文字の大きさ
6 / 10

第1話「付喪神」其の五

しおりを挟む
午後1時過ぎの大学の食堂。さっきまで大勢の学生たちで混んでいたのが、午後の授業が始まると一斉に波が引くように喧騒が去っていく。今日は午後に授業を入れていないので、この時間を狙って学食にやってきた。お気に入りのから揚げ丼とサラダを頼み、食堂の隅に席を取る。そこへ、

「よー」

間延びした声で猪口さんがやってきた。彼も今日は午後授業がないらしく、夕方部活があるだけなので昼食を一緒にとって、レポートの続きをしよう、ということになっていた。さすが柔道部なだけあって、彼の持つトレーの上には大盛りご飯のしょうが焼き定食に、その他漬物や冷や奴の小皿が載っていた。

「いただきまーす」

まずは腹ごしらえ。このから揚げ丼、珍しいことに、から揚げの上に甘辛い卵とじのあんがのっている。さしずめ ”あんかけから揚げ丼”、といったところか。僕の大好物だ。

「ところで猪口さん」

「ん?」

「バイク買った」

「マジかよ!!」

そのデカイ体から発せられた大声に視線が集まるのを感じる。

「うるさいって」

「っていうか、免許は?もう取ったん?」

「うん。こないだ卒検に受かった。あとは明日、免許試験場行って、免許発行してもらうばかり。その足でお店行って午後に納車の予定。明日は一日中講義入れてないし、バイトもシフト入ってないし」

卒検に受かったその日にショップに連絡を入れ、一日フリーの明日に納車の段取りをしてもらった。

「なあーシンさん、明日ついってっていい?」

「別にいいけど。猪口さん、明日の予定は大丈夫なの?練習とか、バイトとか」

「バイトは無いけど練習がある。シンさんのバイク見たら帰る」

「じゃあ明日、午前9時に駅集合でいい?」

「うっす」

こうして翌日の約束をし、いつも通り二人でレポート作成を続け、夕方いつも通り駐輪場で分かれて帰路についた。



翌朝9時。K電鉄M駅前。

「よー」

昨日と同じテンションで猪口さんがやってきた。僕は帰りにバイクで帰るので、ヘルメット持参だ。この日のために予め用品店で買っておいたのだ。

「おー、いーメット買ったやん」

「まあね。セール品だけど。僕はバイクで帰るから。猪口さんは帰り一人やで」

「わかってるって」

そんな話をしながら電車とバスを乗り継いで免許試験場へ向かう。試験場では2時間ほど時間を要し、全て終えた頃には昼になっていた。バスで駅まで戻って、ハンバーガーショップで昼食を済まし、電車でバイク屋へ向かう。



「やあ、待ってたよ。免許取れたって?おめでとう」

「おおお~、シンさんカッコイイの買ったやん!」

バイク屋では店長が待っていたように出迎えてくれた。そして店の前にはピカピカに整備されたセローがあった。

「じゃあまず、残りの代金ね」

「あ、はい。こちらです。確認お願いします」

「ありがとうね。すぐ領収書を切るから。そしたら説明するからね。ちょっと待ってて」

店長が店に入っていく。残された僕らは、目の前のバイクを触ったり、跨ったりしてはしゃいでいた。

その時だった。

「おう、どっちだ。今回セローに選ばれたって奴は」

店長とは違う、低い声。二人同時に振り返り、声を失う。そこには一人の虎獣人が立っていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

貞操逆転世界で出会い系アプリをしたら

普通
恋愛
男性は弱く、女性は強い。この世界ではそれが当たり前。性被害を受けるのは男。そんな世界に生を受けた葉山優は普通に生きてきたが、ある日前世の記憶取り戻す。そこで前世ではこんな風に男女比の偏りもなく、普通に男女が一緒に生活できたことを思い出し、もう一度女性と関わってみようと決意する。 そこで会うのにまだ抵抗がある、優は出会い系アプリを見つける。まずはここでメッセージのやり取りだけでも女性としてから会うことしようと試みるのだった。

処理中です...