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エンゲージゲーム 事故物件王子の新しい婚約者は、魔王のようです。
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(1)
黒い扉に、黄金の大樹が描かれている。
天を支えるようにどこまでも枝を広げ、大地に深く根を張った荘厳なる大樹の、しかし、そこかしこに滅びの気配は忍び寄っている。
地の底では、邪悪な嘲笑を浮かべた竜が根を齧りとり、ひたすら噛み砕いている。
蒼穹へ伸びた枝には、邪竜に匹敵する大鷲がとまって世界を睥睨し、大鷲の眉間では豆粒ほどの鷹が忙しない羽ばたきを繰り返す。大樹の梢には四頭の牡鹿が群れて、枝や樹皮を好き放題に食い散らかしている。
少し離れた高御座には、王冠を戴き、嘴に鍵をつまんだ烏。
彼方の地平を彩るのは、折り重なる骸か、終末の業火か。
全ては、ここから始まった。
王子の婚約
魔晶石をちりばめたシャンデリアが、生い茂る緑の枝葉と花に戯れる鳥たちを描いた細密な天井画を、真昼のように明るく照らす。その眩い輝きの下、高い天井を支える列柱の間に、着飾った男女が集い、笑いさざめく。
晩春の今宵、テオフィルス王国王宮、コンスキエンティア宮殿の〈豊穣なる恵みの間〉では、国王主催の夜会が華やかに開かれている。
優雅な管弦楽の音色にまぎれ、色鮮やかな絹の扇や羽扇の陰で、ひそひそと好奇に満ちた囁きが交わされる。
「――一年ぶり、かしら……?」
「ええ、それくらいですわ」
「あれ以来、ずっと引きこもっていらしたのよね、アルファレド殿下」
「久しぶりにお顔を拝見したけれど、相変わらず見目麗しい御方……、周辺諸国の王族の中じゃピカイチだわ」
甘い溜息に、でも、と冷笑が混じる。
「いくら目の保養によろしくても、中身が、……、ではね」
赤い唇が嘲りの言葉を形作る。くすくすという忍び笑い。
アルファレドは獅子の頭が彫りこまれた椅子の肘掛けを握り締めた。
聞こえないと思っているのか、聞こえてもかまわないと思っているのか。
一段高い玉座から夜会のありさまを眺めている、父王アレクタリス四世の柔和な横顔に、王子はひそかに恨めしい視線を送った。
この一年、夜会はもちろん、公式の場には一切顔を出さず、徹底して避けてきたのに。
今日は王の命令書を掲げた侍従の一個小隊が部屋になだれ込んできて、無理やりベッドから引きずり出された。クビにしてやる、牢に放り込んでやるぞと脅しても、有無を言わさず風呂に投げこまれ、全身くまなく磨きあげられて、伸び放題だった髪もきれいに刈りこまれた。そして金銀のモールで飾られた真新しい服を着せられ、新年祭の鶏のようにコテコテにめかしこんだところを、夜会の会場に連行されたのだ。
黒い扉に、黄金の大樹が描かれている。
天を支えるようにどこまでも枝を広げ、大地に深く根を張った荘厳なる大樹の、しかし、そこかしこに滅びの気配は忍び寄っている。
地の底では、邪悪な嘲笑を浮かべた竜が根を齧りとり、ひたすら噛み砕いている。
蒼穹へ伸びた枝には、邪竜に匹敵する大鷲がとまって世界を睥睨し、大鷲の眉間では豆粒ほどの鷹が忙しない羽ばたきを繰り返す。大樹の梢には四頭の牡鹿が群れて、枝や樹皮を好き放題に食い散らかしている。
少し離れた高御座には、王冠を戴き、嘴に鍵をつまんだ烏。
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全ては、ここから始まった。
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魔晶石をちりばめたシャンデリアが、生い茂る緑の枝葉と花に戯れる鳥たちを描いた細密な天井画を、真昼のように明るく照らす。その眩い輝きの下、高い天井を支える列柱の間に、着飾った男女が集い、笑いさざめく。
晩春の今宵、テオフィルス王国王宮、コンスキエンティア宮殿の〈豊穣なる恵みの間〉では、国王主催の夜会が華やかに開かれている。
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「――一年ぶり、かしら……?」
「ええ、それくらいですわ」
「あれ以来、ずっと引きこもっていらしたのよね、アルファレド殿下」
「久しぶりにお顔を拝見したけれど、相変わらず見目麗しい御方……、周辺諸国の王族の中じゃピカイチだわ」
甘い溜息に、でも、と冷笑が混じる。
「いくら目の保養によろしくても、中身が、……、ではね」
赤い唇が嘲りの言葉を形作る。くすくすという忍び笑い。
アルファレドは獅子の頭が彫りこまれた椅子の肘掛けを握り締めた。
聞こえないと思っているのか、聞こえてもかまわないと思っているのか。
一段高い玉座から夜会のありさまを眺めている、父王アレクタリス四世の柔和な横顔に、王子はひそかに恨めしい視線を送った。
この一年、夜会はもちろん、公式の場には一切顔を出さず、徹底して避けてきたのに。
今日は王の命令書を掲げた侍従の一個小隊が部屋になだれ込んできて、無理やりベッドから引きずり出された。クビにしてやる、牢に放り込んでやるぞと脅しても、有無を言わさず風呂に投げこまれ、全身くまなく磨きあげられて、伸び放題だった髪もきれいに刈りこまれた。そして金銀のモールで飾られた真新しい服を着せられ、新年祭の鶏のようにコテコテにめかしこんだところを、夜会の会場に連行されたのだ。
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