エンゲージゲーム 事故物件王子の新しい婚約者は、魔王のようです。

ミツユビナマケモノ

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エンゲージゲーム 事故物件王子の新しい婚約者は、魔王のようです。

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 結果は案の定、針の筵。四方八方から突き刺さる嘲りと蔑みの視線に頬がちりつく。
 今すぐ帰りたい。夜会の開始直後から逃走機会をうかがっているが、王の意向をうけた侍従が目を光らせていて、果たせずにいる。
 気分が悪い。ダンスに興じる人々を見ていると、目まぐるしい色彩の回転に眩暈をおぼえる。一年前までは、あの踊りの輪に加わっていたことが信じられない。
 もっとも今踊る気になったところでパートナーなどいない。自分から誘う気はないし、仮に笑顔で近づいてくる女がいたらと思うと……、ゾッとする。
 ダンスに参加しない招待客たちは、グラス片手に飢えたハイエナの笑顔で歩きまわり、社交と称する腐肉漁りに余念がない。彼らが好んで漁るエサは、もっぱら王太子からタダの王子に降格になった間抜けと、その愉快な経緯にまつわる醜聞スキャンダルについて。
 以前は、こうではなかった。我が身に集まる視線は尊崇や憧憬で、周囲には幼いときからの忠実な‘ご友人’たちが常にひかえていた。優しい恋人も……。
 どちらも今はいない。一人だ。これほど人がいても、一人きり。
 演奏が独奏パートに移り、バイオリンの伸びやかな高音が響く。
「陛下は相当、御苦労なさっておられるようだ」
「では、あの話は本当に……?」
「しかし、軒並み断られているらしいな。タリン公爵も、頼みの綱の忠臣リュシエール侯爵も断ったと聞いた」
「なんと。堅物のリュシエール侯爵はともかく、タリン公爵のほうは以前はむしろ積極的だったように思ったが」
「買い手など見つかるまいよ。誰が好んで引き受けるものか。あんな――」
 事故物件――吐き出された嘲笑が耳に届き、ぎり、と奥歯を噛み締めた瞬間、バイオリンの音がひときわ高く極まって、次第に細くなり、途切れた。
 曲が終わった。次の曲がはじまる前に今度こそ、と焦って立とうとして、足が椅子にぶつかった。がたん、と無粋な音に、近くにいた数人がこちらを見る。
 しまった。己の不始末に硬直したとき、カン、と高い音が響き渡った。
 大勢が音の方をふりむいた。
 広間の正面入り口に立つ儀仗兵が、手にした杖で床を打ち鳴らす。最初の合図の後に、やや間をおいて、カン、カン、カン、とさらに三度。
 身分高き客人が新たに到着した合図だ。随分と遅れて到着したものだが、すでに目ぼしい顔は出そろっている。となると、誰が来たのか。今の杖の音には緊張が感じられた。
「ランシエナ大公、レティウス・カスティエル・アニエスカ殿下、御入場――」
 会場内に大きなざわめきが生じた。
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