エンゲージゲーム 事故物件王子の新しい婚約者は、魔王のようです。

ミツユビナマケモノ

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エンゲージゲーム 事故物件王子の新しい婚約者は、魔王のようです。

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 周囲には他の招待客が乗ってきた、各家の紋章を掲げた馬車が並んで待機しているが、馬たちは皆耳を寝せ、バイコーンから後ずさるようだ。
「他の馬が脅えているが……?」
「馬は食わないように躾けてある」
「馬?」
「――殿下、後がつかえてんですけど?」
 背後からケイツビーが小突いた。
「ステップの途中で止まんなよ」
「悪い……」
 アルファレドが退くと、ケイツビーは軽快に飛び降り、すぐ馬車に向き直って手を差し出した。小姓に手をとられ、最後に降りたのはアードラー伯爵夫人だ。
 艶のあるインディゴのドレスをまとい、真珠をあしらった髪留めをつけた夫人は、今宵も一部の隙もなく完璧。ただし、つきそいという役割上、華やかさは抑え気味だ。
 大公は通常運転。今日は一応、髪飾りのようなものをつけている。
 右耳の上に挿した、質感すら本物と錯覚させる黄金細工の羽根に、露のようにちりばめられた色とりどりの宝石が、身じろぎするたび虹色の煌めきとなってゆらめく。幻のような、なんとも現実感の薄い光景だ……。
 ケイツビーが侯爵邸の正面玄関を指さした。
「なんか出迎えの連中が戦々恐々してるから、行って安心させてやろうぜ」
 そりゃこんな総黒塗り馬車で乗りつけりゃ誰だってビビるわ、と思いつつ、差し出した手は、またもや空を切った。大公はアルファレドの鼻先を通りすぎ、杖をついてさっさと会場へ向かい、その後にケイツビーと腕を組んだ夫人が続く。
 多分、大公の頭にはエスコートという概念が欠落している。のだと思う。
 三人の影が遠ざかる。
「乗り心地、最っ高でしたわ~。帰りも乗せていただきたいくらいですけど、息子が迎えにきますから、現地解散、各自直帰、でよろしいですわね」
「そうしてくれ」
「ところで今晩の主催者って誰だっけ?」
「ネミル侯爵夫妻ですわ。御夫婦ともども異国趣味に凝っておられるとかで……」
「ほー、じゃ外国の料理とか食べられる?」
「どうかしら。夜会のお食事って期待薄ですし……」
 ラクとロアが馬車を引いて、勝手に待機場所に片付いていく。
 なんだかな。
 おいてきぼり感がすごくて、背中に吹く木枯らし(春だが)の音をぽつねんと聞いていると、大公が回れ右して戻ってきた。端整な顔が目の前にずいと迫る。
「え?」
「ん?」
「なに……って、あだっ?」
 こちらに手を差し伸べてきた。――と思ったら、眉間を爪先で鋭く弾かれた。
「なっ、デコピン……っ?」
 なんなんだ、と抗議する前に、大公はすたすたと行ってしまった。
 しばらく呆然としていたが、木枯らし二号を背負っている場合ではない。
 慌てて追いかける。今夜のアルファレドは自分の招待状を持っておらず、ケイツビーや伯爵夫人同様、大公のお供でしかない。顔パスがあるから、まさか入り口で追い返されるとは思わないが、あまり自信がないのだ……。
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