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第28話 元婚約者からの連絡
しおりを挟む1ヶ月ぶりに触ったスマホは、妙に重く感じた。充電切れだったのでプラグを挿す。
そして、真っ黒な画面が、ぱっと明るくなった。4桁の暗証番号を打ち込んでいく。
番号は、自分の誕生日を登録していた。1224、クリスマスイヴである。
幼い頃は、クリスマスと誕生日をまとめて祝われた。ゆえにプレゼントも1つにされ、損をしている気分になったものだ。まあ、今さら、どうという事もないが。
待ち受け画面が開く。婚約中に誠と一緒に行ったカフェの、ラテアートの写真だ。ちなみにチワワを注文したのだが、どう見てもクマである。
居間の縁側に腰を掛け、間抜けなラテアートを見て、丹子はふっと吐息で笑った。
「なにが面白いの?」
「ひっ!?」
出し抜けに背後から声を掛けられる。
肌が粟立ち、小さな悲鳴を上げた。
丹子は、爆ぜるように振り向く。真後ろに仁王立ちした真白が、彼女の手元を見た。
「久々にスマホを触ったら、なんだか新鮮な感じがして」
「スマホ!?」
真白は顔を輝かせ、隣に座した。丹子は、再び暗証番号を入れて画面を開く。すると、待ち受け画面を見た真白は目を剥いた。
「これはなに?」
「ラテアートです。コーヒーにミルクを注ぐ時に、店員が描く絵ですよ」
「へえ、外界は粋な事をするんだね」
そして、再びスマホに視線を落とす。しばらく機種変をしてないので、古い機種である。けれど、そんなに珍しい機種でもないのだが。丹子が画面をスワイプすると、真白は目を輝かせる。
「知識はあったけど、実際に見ると圧倒されるな」
「あの……スマホは持ってないんですか?」
「う、うん、そうなんだ……。あ! でも、これは持ってるよ。ほら」
そう言って、真白は懐からある物を取り出した。二つ折りのそれを、カパッと音を立てて開く。
過去の遺物──ガラケーだ。スマホ以上に珍しいので、丹子は食いつく。そしてガラケーとスマホを交換し、各々いじり回す。
丹子は、真白をちらりと横目で見た。ぎこちなく画面をタップする姿が愛らしい。
「どうしてガラケーなんですか? あえてそうしてるんですよね?」
「機密情報が漏洩しないよう、対策としてね。鬼月村の人間は皆ガラケーなんだ。不便な方が、外界に確たる情報を流せないからね。犯罪を未然に阻止できる。っていう、鬼門家の方針」
「なるほど……」
真白の説明で腹落ちした。
けれど、1つ気になった事がある。丹子がスマホを持っている事も、問題なのでは? ……と。丹子は真白の顔色を窺う。すると、あたたかな視線を送られて。
(ほっ、よかった。わたしは大丈夫そうね)
スマホを使う必要性は、今のところない。
けれど、写真撮影や何か調べ物をする時に使いたい。だから、手元に置いておきたいのだ。
内心ほっとしながら、真白にガラケーを返す。真白も丹子にスマホを返そうとした、その時だった。スマホの通知音が鳴り、画面上部にバナー通知が表示されたのである。
『羊申誠』からの新着メッセージ。
送り主は丹子の元婚約者だ。丹子の義姉と浮気した挙句、丹子と婚約を破棄して、義姉に乗り換えた男。甚だしく不誠実な男である。名前は"誠"なのだから、最大の皮肉だ。
真白は、冷然とスマホを見下している。
「丹子の元婚約者だね」
「そう……ですけど、なんで知っ」
「ああそう。それで、どうして連絡を取ってたの?」
真白は、丹子の言葉を言下に妨げた。そして目に角を立て、丹子を冷視する。
後ろ暗い事は何もない丹子は、堂々と答えた。
「だから取ってません! 誠さんとは、もう関係ないので」
「誠さん?」
真白の面差しに陰が落ちた。眼光鋭く丹子を見やり、手首を掴み取る。そして、片頬笑んで言った。
「名前で呼ぶほど仲が良かったんだね」
「はい!?」
真白の言葉に丹子は狼狽する。
一瞬でも仲が良かったなら、逆に連絡先を消していた。どこかで繋がりがあると、未練が残りそうだから。けれど、誠に関しては放置していた。
すぐに気持ちを切り替えられたからだ。
『誠との婚約期間は、宇宙人との交流だった』そう思考して、すぐに切り替えられたほどである。
けれど、真白は実情を知らない。眦をますます釣り上げた彼は、丹子にスマホを持たせて言う。そして、声をひきつらせて言った。
「見せて」
「はい?」
「証拠を見せて。やましい事がないなら、当然できるよね?」
そう、メッセージを見せろと要求されて。
真白が『めんどくさい彼女』のようになってしまった。丹子は、ただ、唖然としてしまった。
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