チャラ男設定の騎士を持ち帰って美味しくいただいたら「おかわりは?」と執着されました!

三月よる

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屋敷は、静寂そのものだった。
流れゆく雲間から、月明かりが注ぐ。
ベッドに仰臥した男の上に身を乗せると、アデリナは薄笑みを浮かべた。

隅々まで鍛えられた四肢の筋肉と、それを彩る古い傷跡──騎士の勲章だ。
けれどアデリナにとって、それは一種の調味料だった。
サラダにはドレッシング、騎士には古傷。
傷があるほど、うまみが増す。

「綺麗な体ですこと。この傷が、わたしのお気に入りなの……知ってまして?」

アデリナは導かれるかのように、男の肌に指を滑らせた。腰から腹の下へ。
普段は上衣の下に隠れて見えない傷は、まるで秘部のようだ。

男──夫のブレンは、敷布を掻いて眉をひそめた。懸命に腰をねじり、存在を主張する。
下腹を突く勢いで反り返ったそれには、鍛え抜かれた筋肉と同じように、太い血管が浮いていた。

ブレンの瞳が潤む。その眦に浮かんだ涙に、アデリナはそっと口づけた。

「情けない顔。でも、きらいじゃないわ」

「アデリナ、もっ……許してっ……限界だ」

「もうなの? しょうがないひと」

クスッと喉の奥で喜悦を漏らし、欲の塊に乗り上げた。
かろうじて暴発を踏み止まる、激しい脈動が伝わってくる。ブレンはそれを、アデリナの濡れそぼつ陰に擦りつけては、熱い吐息を漏らした。

──くちゅ。蜜を練る音が夜気に響いた。
それが開始の合図だった。
ブレンはアデリナの腰を掴むと強く突き上げた。

アデリナは息を詰めた。星が瞬くような快楽に、顎が不随意に上向く。指の先まで快感が滲むと、体がどっと弛緩した。

ブレンは膝を折り、アデリナを胸で抱きとめる。そして存在を確かめるように、背中に指を這わせてきた。

「はぁっ……かわいい……アデリナ。僕を食べられるのは、きみだけだよ」

熱く口づけながら体を揺さぶられ、アデリナは快感の波に呑まれた。本能のまま、男の筋張った首筋にかぶりつく。

ブレンは、ことさら強く腰を打ち据えた。
視界が強く明滅する。
そのとき、ふと思い至った。

『僕を食べられるのは、きみだけだよ』

それは、"チャラ男設定"のブレンが──ヒロインに言うはずの台詞だった。


 ◇◇◇


自分は転生者だ──。
アデリナがそう気づいたのは、十日ほど前のことである。

ここは18禁乙女ゲームの世界。イケメンを攻略して、あれこれ楽しむタイプのゲームだ。

自分が誰に転生したかといえば、ヒロインでも悪役令嬢でもなく、脇役ですらない。
名もなきモブの一人だった。果たすべき使命も、生命の危機もない。ただの通行人A。

しかし、外見と身分には恵まれていた。
金髪碧眼の美女にして、侯爵令嬢。
話題性こそヒロインたちに及ばないが、社交界ではそれなりに知られた存在だ。
"生きる天使"などと呼ばれているらしいが、謙遜はしない。

アデリナは思った。

(ありがとうございます、神さま。この与えられた生を……この"性"を! 全力で楽しませていただきますわ!)

意気込んで迎えた今日、アデリナは舞踏会に参加していた。
ヒロインと悪役令嬢、そして攻略対象も一堂に会している。

アデリナは、遠巻きに彼らを見た。
やはりメインキャラの美貌は格別だ。その身から、まるで光を放っているかのようで、自然と視線が奪われる。

ヒロインは、メインキャラ全員に粉をかけていた。どうやら逆ハーエンドを目指している様子である。
自分にも目指すものがある。
アデリナは目を眇め、目標をとらえた。

(いたわ──"チャラ男騎士"!)

秋の紅葉を思わせる赤髪と、蜂蜜色の瞳をした美しい男──ブレン・シュタルク。
彼は攻略対象の一人で、ヒロインと出会うまでは、女性に引く手あまたの男だった。

(最低で最高とはこのことね。あの人となら、後腐れなく楽しめる──!)

そのとき、ブレンがヒロインのもとを離れた。
──チャンス!

アデリナは残ったワインを一気にあおり、空になったグラスを音を立てて置いた。すぐにウェイターから、新しいグラスをもらう。それをゆるく持つと、ブレンの方へと向かった。そして、

「きゃっ!」

ブレンの肩口にぶつかり、わざとグラスを傾けた。注ぎたてのワインをたっぷりと浴び、ドレスには紅い染みが広がっていく。
──計画通り。
思わず上がりそうになる唇の端を、アデリナは必死で抑えた。

「アデリナ嬢っ、申し訳ありません!」

ブレンは反射的にハンカチを差し出す。
これといって慌てる様子はなく、むしろ手慣れたものだった。
彼自身、この手法で"お持ち帰り"した経験があるのかもしれない。
そう思うと、心がますます弾んでくる。

アデリナは濡れた胸の稜線を撫で、ブレンを上目遣いに見つめた。

「着替えないといけませんわね。……ねぇ、シュタルク卿。手伝ってくださいます?」

吐息のように囁きながら、ヒロインと攻略対象たちを流し見る。
まだ彼らは、完全には攻略されていない。
だからイケる……はず。

ブレンは、一瞬だけ目を大きく見開いた。だがすぐに妖艶な笑みを深くすると、上躯を傾け、耳元に顔を寄せてきた。

「ええ、喜んで」

艶のある低い声が敏感な鼓膜を刺激する。
ブレンは、アデリナの手背に口づけた。
熱い眼差しと眼差しが、互いの欲を映していた。

──至高のチャラ男!

差し伸べられた手を、逡巡なく掴み取る。
ピアスで飾られた耳朶が赤く見えたのは、きっと照明のせいだろう。

ゲーム製作陣に心から感謝しつつ、アデリナはブレンとともに会場を後にした。


 ◇◇◇


アデリナはホテルへ直行した。
部屋は事前におさえていたスイートルーム。天井から吊された豪奢なシャンデリアが、絨毯に煌めきを落とす。
ベッドを見やれば、情熱的な薔薇の花びらがリネンを彩っていた。

部屋へ入るなり、アデリナはブレンの首に絡みついた。あからさまに胸を押しつけると、応じるように腕が腰へと回される。

ブレンは双脚の間に割って入り、そのままアデリナを壁に押し付けた。またたく間に赤い唇が奪われる。

「んっ……ぁっ、ん……」

アデリナのくぐもった嬌声が響いた。
自分の喘ぎにすら興奮を覚え、体が火照る。
ようやく唇が離れると、二人の間に、つうっと銀糸が伸びた。
ブレンは、微酔を湛えて微笑んだ。

「アデリナ嬢が、こんなに積極的な人とは……知らなかったな」

「わたしのような女は、お嫌い?」

「いいえ。とても魅力的ですよ」

ブレンは吐息混じりに一笑し、アデリナをベッドへ運んだ。
滑るような動きでコルセットの紐を解き、まろび出た双丘に舌を伸ばす。
その頂に刺激が与えられると、

「ああっ!」

アデリナは上体を大きくのけ反らせた。
はだけたドレスを手繰り、ブレンは中へと指を忍ばせていく。

丁寧で、壊れ物を扱うような指使い。
思った通り、ブレン・シュタルクは女性を尊重するタイプのチャラ男──!

胸の奥で、欲望の熱が弾ける。アデリナは堅牢な胸板をぐっと押し戻し、彼を仰臥させると、そのまま乗り上げた。
ブレンは黄金の瞳を大きく見開く。

「アデリナ嬢?」

「あなたとこうなることを、わたし……ずうっと焦がれていましたの」

そう、ずっと。厳密には十日前から。
前世でやり残したこと──"イケメンを食べる"日を、どれほど待ち望んでいたことか。
恐ろしく均整の取れた目鼻立ちも、服の上からでもわかる肉体美も──ああ、すべてが美味しそう!

内なる獣を必死に抑え込んできたアデリナは、まるでご馳走を前にしたような舌なめずりの表情を浮かべた。
そして祈るように手を合わせると、欲望迸る目を細める。

「いただきます」

「えっ」ブレンは何かを言いさした。
アデリナはすかさず唇を塞ぎ、ねっとりと舌を挿し込む。
赤くなった首筋を、指の腹で遅々となぞっていく。

「アデリナ嬢、待って──」

縋ってきた手を、アデリナは振り払う。
待たない。誰にも、自分自身にも止められない。
流れるような手さばきで、服を剥いでいった。

鍛え上げられた肉体には艶があり、触れれば吸い付くようだ。
ベルトに指をかけ、下着ごとズボンを下ろす。
その瞬間、待ちわびていたものが勢いよく飛び出した。

「まあ! なんて立派なっ……!」

下腹を叩くそれは、雄々しい反り返りを誇っている。
アデリナは口を覆い、喜悦の声を押し殺した。
天はときに、二物どころか三物を与えるらしい。

逸る気持ちを抑えようとしたが、気づいたときには、すでに"それ"を握っていた。

息つく間もなく擦られると、ブレンは顔を歪めた。胸を小刻みに上下させ、首の付け根まで真っ赤に染まる。
視線は夢中で、アデリナの指の動きを追っていた。

「っ……アデリナ……!」

「ふふっ。なぁに? ブレン」

ブレンは喘ぐような呼吸を繰り返した。
アデリナは後ろ手で剛直を持ち、ゆっくりと飲み込み始める。
重力に身を任せれば剛直に貫かれ、痛いほどの快楽が突き抜けた。

「……キツ……ッ、はっ、くそっ……!」

繋がった瞬間、ブレンは跳ね起き、アデリナを掻き抱いた。
力任せな指先が、柔肌に深く沈み込む。
そして乱れた呼吸で、首筋に顔を埋めてきた。

「ね、いつもっ……こうなの? どこで覚えたんだ、こんな……」

「心外ですわ。これが初めてですのに」

「……本当? 初めての相手が僕って、それで良かった?」

そう言われ、アデリナは自分から後ろへ倒れた。ベッドが背中を受け止め、ブレンが上から覆い被さる。
アデリナは彼の腰に脚を絡め、自分へ引き寄せた。

「あなたが良いの。ブレン・シュタルク卿」

「……理由は? 君みたいな女性なら、どんな男だって落とせるだろう?」

首筋に埋めていた頭を擡げ、ブレンが問う。
煙る黄金の瞳は、哀願を湛えていた。
アデリナは黙って、天使の微笑を作る。

(あらやだ、ちょっと面倒な男)

煩わしさを覚えつつも、表情は崩さない。
明確な理由はいくつもあるが、いちから説明するのは面倒だ。
そもそも一夜限りの関係。互いに、それ以上を求める理由はない。
アデリナはブレンの頬に手を触れた。

「おしゃべりは後にしましょう? 今はただ……あなたが欲しいの」

ゆっくりと導き、唇を重ねる。
ブレンは熟した林檎のように紅潮した。隙間なく抱き締められ、腰の角度が変わると、アデリナの全身は鳥肌と化す。啼き声を上げれば、ブレンは恍惚の笑みを浮かべた。

「……ここが好き? かわいい、アデリナっ……」

アデリナは声にならない嬌声を漏らした。
熱い吐息が重なり、室温が上がっていく。
身体が宙に浮くような快感に包まれ、幾度となく果てる。
とめどなく注がれる白濁は、敷布に染みを作っていき──、それからブレンの腕に包まれると、泥と化して眠りにつくのだった。



カーテンの隙間から、細い朝光が差し込む。
それがちょうど瞼に重なり、アデリナは目を覚ました。
身じろぎすれば、双脚の間で糸が引く。

アデリナは音を立てないようにベッドを抜け、身支度を整えた。
昨夜の情事を仔細に回想する。

──控えめに言って、最高だった。

イケメンを攻めに攻め抜いた、甘美な夜。
欲求を満たした体は鉛のように重いが、心は羽のように軽い。

そのとき、ベッドの中でブレンが身を翻した。
ぐっすりと気持ち良さそうに眠っている。
温もりは優しく、腕枕も存外悪くなかった。

「ごちそうさまでした」

最後に美しい寝顔を拝み、アデリナはホテルを後にした。


 ◇◇◇


小鳥の囀りと清澄な葉擦れの音が、風に乗って運ばれる。
バルコニーへ出たアデリナは晴天を仰いだ。

「神さま、感謝いたします」

などと合掌すれば、腰に鈍痛が響く。
蜜のような甘い夜から、今日で三日。
心ゆくまでブレンを啼かせたアデリナは、多方面へ感謝していた。

ありがとう、ゲーム製作陣。
ブレンをチャラ男かつ巨根に設定してくれた彼らのおかげで、いまの自分がある。
もし硬派なキャラばかりだったら、『イケメンを食べる』という野望は、叶えられなかっただろう。

ありがとう、ヒロイン。
彼女が攻略に難航しているおかげで、ブレンに付け入る隙があった。
もしブレンのルートを選択されていたら、達成できなかったはずだ。

(あぁ、今日も世界が美しい……)

腰痛と万感の思いで熱くなった目頭を、アデリナはぐっと押さえた。

そのとき、慌ただしい足音が耳に届いた。
何事だろう。異様な騒々しさに、アデリナは眉根を寄せた。
現れたのは一人の侍女。彼女は瞳を輝かせ、興奮気味に言った。

「"あの"シュタルク卿がお見えですよ! ものすっっっごい色男です!」

あの──"チャラ男"のブレン・シュタルク。
この世界では“美貌の女たらし”として知られている。
夜を共にした女性たちは、決まって「最高だった」と言うらしい。
それについては身をもって立証済みなので、激しく同意するのだが、"後日談"は聞いたことがなかった。

(知っていたら、何か対策をしたのに……)

応接間へ向かう途中も、侍女は声を弾ませていた。

「あんな有名人とお知り合いだったんですね」

お知り合いどころか、夜通し睦み合った仲です。とは、当然言えるはずもなく。

「いいえ? とにかくお会いしてみるわ」

そう言って、涼しい顔を見せた。
扉の前に立つと、アデリナは深く呼吸した。
そしてノックをする寸前、一瞬、手を迷わせる。

(油断は禁物よ)

自らに釘を刺して、扉を叩いた。
中へ入るとブレンに一瞥もくれず、優雅な所作で頭を下げる。

自分たちは初対面。
イケメンを美味しくいただいた事実などございません。ええ、もちろんですわ。
演技に支障が出ないよう、アデリナは記憶を改竄した。

「お初にお目にかかります。わたしは──」

アデリナが顔を上げた、そのとき。

「アデリナ!」

椅子を蹴る勢いで、ブレンが立ち上がった。
長い脚を素早く捌き、こちらへやって来る。
美しい顔はそのままだが、目の奥にはわずかな焦燥が滲んでいる。
思いも寄らない彼の行動に、アデリナは反応に窮する。

(まったく、初対面の設定が台無しだわ)

口を閉ざすと、彼は逡巡なく抱きついてきた。
頑強な胸板、焼け焦がすような体温。
甘い香水が鼻腔をくすぐり、濃艶な夜が頭をよぎる。

──なるほど、"アフターケア"!

思い至ったアデリナは、体を離れたブレンを見上げ、

「ごきげんよう、シュタルク卿。わたしにご用があるとお聞きしました」

と、花開くように微笑んだ。
すると、ブレンが優美な仕草で耳元に口を寄せてくる。

「朝、どうして起こしてくれなかったの?」

ひそやかに、吐息のような声で囁かれた。
アデリナは固まった。
ふっと唇が触れた耳朶を、反射的に手で覆う。

「手紙を書いたのに、待てど暮らせど返事はこないし……捨てられたかと思った」

ブレンはそう言うと、アデリナの侍女を笑顔で一瞥した。
侍女は、茹で上がったタコと化している。
アデリナは素知らぬ顔を作り、彼女を下がらせた。

二人きりの部屋に、重い沈黙が落ちた。
アデリナはきつく腕を組み、下からブレンを睨め付ける。

「"あの"シュタルク卿ともあろう御方が、マナー違反じゃありませんこと?
情事をほのめかすなんて」

アデリナは声音に険を含ませた。
侍女には何と言って誤魔化そう。「知り合いじゃない」と嘘をついた手前、何を言っても勘繰られそうだし……。
ブレンは、するりと腰に腕を回してくる。

「そのシュタルク卿っていうの、やめてくれ。ブレンって呼んでよ、昨夜みたいに」

扉からソファへ。
目と鼻の先の距離をエスコートされる。
天鵞絨のソファに腰掛けると、隙間なく詰められた。

ブレンは美しい顔に喜色を湛え、

「会いたかった。ずっと、きみのことを考えていたんだ」

艶のある低音で、そう囁いた。
腰に手を添えたまま、横顔に何度も口づけてくる。
チャラ男の裏側に、こんなに地味な努力があったなんて。

(ふふ、愛おしいわね。ゲームのファンたちに教えてあげたい)

アデリナはブレンの唇を指で遮り、笑顔を向ける。

「心尽くしのサービスに感謝いたします。もう結構ですわ」

「サー……ビス?」

まるで心当たりがない。と、顔に書いてある。
なかなかの演技力だが、自分には分かる。
きっとブレンは、女性関連で苦労してきたのだ。それゆえの手厚いアフターケア。
──チャラ男の深い業、か。
訳知り顔のアデリナは、吐息で笑った。

「あなたのことは、とっても美味しくいただきました。もう十分ですわ」

そう言って深々と頷き、ブレンを見た。
聞こえなかったか、聞いていなかったのか。
彼は、呼吸の仕方も忘れているようだった。

「それ、僕たちの関係は……終わりって意味じゃないよね……?」

薔薇の面色が、波のように失せていく。
まさか、不機嫌だと勘違いさせただろうか?
アデリナは、ことさら頬を高くする。

「終わりじゃありませんわ。そもそも、始まっていませんもの」

疑いの余地なく、きっぱりと否定した。
──これで誤解も解けたはず。

そんな安堵感に反し、ブレンはアデリナの両手を性急に握ってきた。

「でも、僕のことが好きで選んでくれたよね?」

彼の拳の中は熱く、火傷しそうだった。
切迫感を孕む黄金の瞳が、アデリナを映す。

「まさか!」

アデリナは激しくかぶりを振った。

「一番の理由は、卿が口が固い御方だからです」

"美貌の女たらし"の噂の火元は、いつも女性側だった。
だから自分さえ口を滑らせなければ、あの淫らな所業が知られることはない──!

アデリナは拳から手を抜き取ると、彼の唇に、そっと指を押し当てる。

「絶対の秘密は、存在しない事実ですわ」

「……無茶苦茶なことを言うね」

瞬間、ブレンは指頭に歯を突き立てた。
眉根を寄せ、苛立ちを露わにしている。
熱い舌先が肌を掠め、あの夜を思い出した。
実に美味しい、とろけるような舌だった。

ブレンは眼光を鋭くして、こちらを見遣った。

「僕たちに起きたことは、疑いようもない事実だ。ね、結婚式はいつにする?」

「はい?」

「どんな経緯であれ、僕はきみの乙女を奪ったんだ。こう見えて責任は取る男だよ?」

ブレンは羽根のように軽く、アデリナの薬指にキスをした。
そして流れるように、手背へ舌を這わせていく。

アデリナは、呆れ混じりに吐息した。

「お断りしますわ。自分の責任は自分でとる主義ですので」

アデリナは手を反すと、ブレンの舌を指で挟み込んだ。
そして滑るように口の中へ挿し入れ、頬の柔肉を撫でつける。
彼の赤い唇が、唾液でしとどに濡れていく。
その瞳は甘く蕩けており、アデリナは花笑んだ。

「まともに求婚できないダメな口は、躾け直しましょうね」

そう問いながら、歯列をなぞっていく。
ブレンの肩が震えた。
舌に絡めていた指を解いてやると、彼は大きく息を吸い込んだ。

「僕……僕は、軽い気持ちで人に触れない。触れさせないっ……でも、きみだけはっ……!」

息を弾ませながらブレンはそう言った。
アデリナは陽だまりの笑みを浮かべる。

「まぁ、色気のない台詞ですこと」

もっとこう、「愛してる」とか「きみしか見えない」とか言えないものか。
甘い言葉の一つや二つ、いくらでもあるはずなのに。
期待外れの返答だ。

(チャラ男が聞いて呆れるわ)

落胆したアデリナは、視線を落とした。
その瞬間、青い瞳が喜悦で歪んだ。
胸の奥に火が点る。

「あら、ふふっ! こちらは雄弁ですのね」

ブレンの耳朶に唇を寄せ、腿には指を滑らせた。
ズボンの布地が、中央で高く盛り上がり、張り詰めた熱を伝えてくる。
首まで赤くなっているブレンは、股座を撫でる手を取り、唇を当てた。

「……"おかわり"する? きみのためなら何でも捧げるよ」

欲望を孕んだ熱い吐息が、手肌を湿らせた。
アデリナの肩が震えた。

──つまり、イケメンを違った味で楽しめるということ!?

思いがけない言葉に狂喜して、顔が熱くなる。

「それなら……これを慰めるところを、見せてくださいます?」

「いま?」

「もちろんですわ」

アデリナは、戸惑った大きな掌を彼自身へ誘うと、欲望を露わにさせた。
突き破る勢いで出てきたそれは、微かなぬめりを帯びている。
準備は万端だ。

「アデリナが、それで満足するなら……」

ブレンはこちらを見つめながら、拳を上下させた。
透明な蜜が切先から垂れていく。
彼の息遣いを聴きながら、アデリナはその景色を堪能した。

「ふふっ、あなたが持つと剣みたい。高潔な騎士が、こんなに淫らでいいのかしら?」

悪戯にブレンの唇を舐める。
するとすぐさま舌が絡め取られ、貪られた。

ブレンは溢れてきた蜜を纏わせ、何度も扱く。
粘り気のある水音が鳴る。
欲望は膨張を続けていった。

次の瞬間、白濁が一気に放たれた。それを掌で受け止めると、ブレンは恍惚の瞳で見つめてくる。快楽だけではない。どこか探るような色を湛えていた。

アデリナは赤い髪に指を通した。
"おかわり"させてくれるなど、想像もしなかった。
それだけで称賛に値するが、相手は攻略対象だ。
いずれ逆ハーの一員となる、期限付きの夫は不要なわけで。

(惜しいわよねぇ~)

アデリナは悔しさに、深いため息を漏らした。

不意に、胸元にブレンの顔が埋められた。
その瞬間、刺すような痛みが一点に走る。
それを宥めんと、すかさず熱い舌が上を這っていった。
甘い痺れが執拗に与えられ続ける。

アデリナはブレンの顔を包み、自分に向かせた。

「んもうっ、わかりましたわ。少しだけ好きになりました! ブレンのこと!」

「少しじゃ困る。少なくとも"世界一"好きになってもらわないと、僕につぶされてしまうよ」

ブレンは頬に添えられた手を取り、その細い手首に口づけた。
アデリナは息をのんだ。
女慣れした言動とは裏腹に、彼の瞳は真摯な光を宿していた。

──"キャラぶれ"している?

ゲームのスチルが頭をよぎる。
その瞬間、アデリナは気がついた。
まるで記憶が抜け落ちたかのように、"ブレン"だけが思い出せなかった。


 ◇◇◇


昼食を終えた頃、侍女から手紙を渡された。
頼む前にペーパーナイフを用意され、仕方なくその場で開く。

差出人は──ブレン・シュタルク。

中身は、隙間風も通さないほど文字で埋め尽くされていて、いつも"様子がおかしい"。
ほら、今日だって。

『稽古中に指を切った。アデリナと触れるとき以外は、怪我をしたって何も感じないよ。さて、今月のデートは明日と明後日と──』

この通り重症である。

アデリナはいわゆる筆不精だった。
けれど、良い返事がもらえなければ、ブレンは屋敷を訪れ、逃げ道を塞ぐように迫ってくる。

(困ったひとね。これじゃ丸っ切り"一途"キャラだわ)

手紙には、数日後のガーデン・パーティーについて書かれていた。
ヒロイン主催の社交パーティー、ゲームのイベントだ。
自分も招待客の一人なので、顔を合わせることになるだろう。

アデリナは深く深呼吸をした。
手紙に滲んだ甘い香りが、頭の中をふっと軽くした。


 ◇◇◇


昼の社交界は本当に久しぶりだ。夜会ばかりに出ていたため、顔ぶれがまったく想像できない。
アデリナは小さな手鏡を覗いた。華やかな顔に不安の影が落ちており、そのせいかどこか幼く、頼りなげに見える。

──でも大丈夫。"生きる天使"だもの!

紅い唇に笑みを作り、馬車の扉に手を伸ばす。
そして視界が広がると、アデリナは愕然とした。
あまりに殺風景な会場だ。

ゲームでは、ヒロインに代わって、攻略対象たちが催しの資金を負担してくれた。
金銭的な後ろ盾を得たことで、貧乏な男爵家では到底及ばない、豪奢なパーティーを実現できたのだ。

現実は、会場の装飾も料理も最低限。しかし招待客だけは、引きも切らずに訪れた。
アデリナはグラスを片手に、近くのトピアリーに擬態する。
そして会場を見渡すと──いた。

ヒロインと攻略対象たちだ。
彼らを見るなり、アデリナは瞳を大きく見開いた。

(えぇ!? 和気藹々としていらっしゃる!)

攻略対象である王太子が、悪役令嬢と睦まじくしている。あれはまるで、恋人の距離感のような。
他のキャラたちも分け隔てなく、悪役令嬢に好意的に接している。
その中で、ただ一人、死んだ魚のような目をした男がいた。──ブレンだ。

(あんな目をしちゃって。でもゲームのメインキャラたちは、やっぱり絵になるわね)

満足したアデリナは、オードブルに舌鼓を打っていた。
そのとき、「アデリナ嬢!」と参加者の男に声をかけられた。
彼は──"生きる天使"の熱狂的なファンである。

手背に挨拶のキスが落とされる。手袋越しにも分かる、刻みつけるような熱だ。

「お変わりございませんか? 最近、夜会でお見かけしないので、ずっと気にしていたのです」

「あら。ふふっ、そうでしたのね」

アデリナは肩をすくめて微笑んだ。頬に手を添え、小首を傾げる。
そして空笑いを繰り返し、動揺を押し隠した。
ただの一通も、夜会の招待状は届かなかったのだ。

「はぁ……太陽に照らされた"生きる天使"もお美しい。アデリナ嬢の、ひばりのようなお声を聞くと、天にも昇る心地になります……」

「まぁ、お上手ですこと」

こちらが微笑むと、男はうっとりと瞳を蕩けさせた。
流麗な甘い言葉が、間断なく紡がれていく。恥じらいは一切見られない。
一方的に話されると、まるで彫像になった気分だ。

アデリナは、表層だけの言葉の応酬をした。
気が遠くなり会場を抜けようとした、そのとき。

「──待って!」

鋭い声が背中に刺さった。会話したことはないけれど、聞き馴染みのある女声。
アデリナは翻って、その人物と正対した。

自分より背はやや低く、全体的に丸みを帯びた愛くるしい女性。──ヒロインだ。
彼女はつま先立ちで背伸びをし、こちらと視線を合わせた。

「ブレンに何をしたの? ずっと変なんだよ」

問い糺すような口振りだ。
犯人が自分だと断定しているのだろう。
なんて勘の鋭い子。

アデリナの背中を冷たいものが伝った。
何をしたかと訊かれても、『美味しくいただきました』としか──!

焦って言葉を探りながら、口を開く。
だがヒロインは、息もつかせず話し続けた。

「ブレンは、ちゃら……女たらしなはずでしょ? それなのに、"キャラじゃないこと"ばっかりするんだもん! ガードが固すぎて、誘わせてもくれないし!」

肩を震わせながらヒロインは言った。

(ええ、誰よりも存じておりますわ)

アデリナは首が折れんばかりに首肯した。
連日のように、ブレンは自分と会っていた。
ヒロインが彼を攻略できる時間など、物理的に微塵もなかったはず。
そうさせているのは、他ならぬブレン自身だった。

ヒロインは、じりじりと詰め寄ってくる。
愛らしい顔は不愉快そうに顰められていた。

「ねえ、何か弱みを握って、脅迫しているんでしょ? そうじゃなきゃ、ブレンが一人に執着するわけないもん!」

「脅迫」という言葉に、周囲の視線が向けられる。

さて、どうしたものか。
返事に窮したアデリナは、ひとまず晴れやかな笑顔を作った。
そのとき不意に、温かなものが背後から肩に触れた。

「──美しいレディたちの口にのぼるなんて、僕は幸せ者だな」

鼓膜を疼かせる艶やかな男の声。
彼──ブレンは滑るように腰に腕を回してきた。
アデリナに絡みつき、上から頭頂に口づける。
躊躇う様子は、一切見られなかった。

「ドレス……着てくれたんだね。とても似合ってる」

濃厚な甘い空気と、蜜のような囁き。
普段通りのブレンだ。
ヒロインを前にしても、彼の熱は、すべてアデリナに向けられていた。

(そうよね、人間ですもの。ゲームとちがって当然だわ)

これまでのブレンの言動の理由、すべてが腹落ちした。

──ブレンは、わたしのことが好き。

だから忙しい合間を縫って手紙を書き、デートする。
遊びでも打算でもない。ブレンはただ、自分のことが好きなのだ。

そう思い至ると肩の力が抜け、アデリナの顔に柔らかな笑みが浮かんだ。

ヒロインは、信じられないとばかりに瞠目した。
それに構うことなく、ブレンは唇に柔和な笑みを作った。

「どうして誤解されたか知らないけど、アデリナは何もしていないよ? 僕が一方的に口説いてるだけさ。必死に、ね?」

ブレンはもう片方の手で、アデリナの頬を、指の背で撫で下ろす。
そして首を傾げ、同意を求めてきた。

こういう仕草と台詞を優雅にこなせるのは、熟練の女たらしたる所以だろうか?
アデリナはブレンの言葉に、静かに首肯した。

周囲の囁きが重なっていく。
ヒロインは口をあんぐりと開け、呆然としていた。
対照的に、アデリナは唇を引き結ぶ。

「僕たちはもう行くね。まだ今日の分が口説けていないんだ」

ブレンはごく自然に、アデリナを会場から連れ出した。
あの甘い夜を思い起こさせる艶やかな雰囲気を纏った二人を、止める人は誰もいなかった。

馬車は、アデリナの屋敷へ向かっていた。
柔らかな背もたれに身を預け、アデリナは深いため息をついた。
緊張が解け、一気に倦怠感に襲われる。

はす向かいに座ったブレンは目頭をぐっと押さえ、難しい顔をした。

「さっきはごめんね。彼女……悪いひとではないんだ。基本的には」

「ふふっ、分かっています。あの驚いたお顔、愛らしくて、まるで砂糖菓子でしたわ」

アデリナが軽やかに笑うと、ブレンは頭を擡げた。
そして口の前で手を合わせ、独語をこぼす。

「ああいうのが良いのか……? でも僕の外見じゃ、砂糖菓子は無理がある……」

すべて筒抜けだ。
そんな風に心配にならなくていいのに。

「ここに座って?」

アデリナは、自分が座っている隣の座面を、ぽんぽんと軽く叩いた。

ブレンは一瞬だけ腰を上げると、すぐに下ろし、不安げな顔をして席を移ってきた。
アデリナは彼の頬に、そっと指を這わせる。

「ブレンはかっこよかったわ。例えるなら、あなたはメインディッシュね」

ブレンの喉が、ごくりと鳴った。


 ◇◇◇


祝宴は盛況のうちに進んだ。
招待客が矢継ぎ早に挨拶にやって来る中、常に注目の的だった二人の結婚は、王都を大いに沸かせていた。

「結婚したって、俺たちの天使だ!」

自らを叱咤するような男の声が聞こえてきた。
新郎の眉根が、不愉快そうに寄せられる。
ちらりと横を見れば、新婦の前には長蛇の列ができていた。
その多くが、結婚適齢期の男たち。彼らはまるで誘うような甘い言葉を、新婦に囁く。

頭の中で何かが弾ける音がした。
──どいつもこいつも。
新郎はわざと音を立て、グラスをテーブルの上に置いた。もう限界だ。
招待客は目を見開き、こちらを窺っていた。そして、新婦も。

「ふふっ! ブレンったら、どうなさいまして? お酒が切れたのかしら?」

ほんのり酔ったアデリナは、いつになく上機嫌だった。
肝心なときに無防備で困る。
ブレンはアデリナを腕に抱き、祝宴から逃げるように部屋へ急いだ。

扉が閉まる音が、祝宴の喧騒を完全に断ち切った。

宵闇のなか、純白のドレスが浮き彫りになる。
童話の人魚を思わせる優美な形が、アデリナの柔らかな曲線を、余すところなく際立たせていた。
腰まで深く切り込まれた背中は裸同然。レースアップの紐は、すでに解けかけていた。

ブレンはアデリナの腕を引き寄せた。
体を密着させ、背後から彼女のまろい臍下を撫で回す。甘い吐息を聞けば血潮がわき、指先が戦慄いた。

「……僕を試してた?」

そう囁き、唇で耳の輪郭をなぞる。

「何のこと?」

アデリナは腰をしならせ、ブレンの手を上へ上へと誘導した。
普段は剣を握る硬質な手が、柔らかな肉線をたどっていく。ブレンは押し殺すような声を出した。

「とぼけても無駄だよ。他の男にこんな格好を見せるなんて、僕がどうなるか知っているくせに」

「さぁ? どうなるのかしら……」

とぼけたアデリナは男の指を口に含んだ。
厚みのある舌にねっとりと舐られると、

「っ……アデリナッ!」

喉を焼くような熱い息が漏れた。
柔らかな臀部が押し当てられ、分身がいきり立つ。ブレンは夢中でドレスの紐を解き、その薄い肩に牙を立てた。彼女は天使だから、きっと見えない翼がここにある。

「あんっ! それ好きっ、あっあっ」

甘い嬌声が、鼓膜を刺激する。気がつけば、赤い噛み跡が新雪の肌を埋め尽くしていた。
それでも、自分のほうが食べられた気持ちになるのは何故だろう──。


思えば、初めからそうだった。


アデリナと出会ったのは、三ヶ月と五日前。
ブレンは軍馬の厩舎にいた。

筋骨隆々とした四肢、艶やかな黒毛。新たに引き取ったその雄馬は、ひどく難しい性格だった。
その日もブレンは、その馬の手入れに苦戦していた。

「だいたい何だ、"マーガレット"って。そんな柄じゃないだろう」

愚痴をこぼすと、馬は得意げに鼻を鳴らした。
マーガレット──この気性の激しい雄馬の名である。
どんなに考えても釣り合わないその愛らしい名前は、馬主が命名したものだ。

「名付け親の顔が見てみたいよ、本当に」

呆れ混じりに呟いた、そのとき。

「──どなたかいらっしゃいます?」

入り口のほうから、知らない女性の声がした。

──またか。
馬糞が臭う場所に好き好んで来る者などいない。それでも足を運んでくる女は、大抵、ブレンを目当てにしていた。
呆れ混じりに、渋々その女性を迎えに行った──その瞬間。息が止まった。

なめらかな金髪が日の光を弾き、青い瞳は水面のように煌めいている。どこの令嬢だろう? その美貌は、風景から浮き彫りになっていた。

(見覚えがある気がする……でも誰だ?)

記憶を辿るが、しかし判然としなかった。
令嬢は揚々と口を開く。

「馬に会わせてください。こちらが許可証です」

渡された書面には、たしかに騎士団の印章が押されていた。
ブレンはそれを丸めると、令嬢を厩舎の奥へ先導した。

左右に馬房が並んだ通路を進んでいく。
令嬢は、跳ねるように通路を走った。
行く先は──マーガレットの馬房だった。

「ダメです、止まって! その馬は──」

言い差したが、口を噤んだ。
何度も目を擦った。信じられない光景だ。
腕を広げた令嬢に、マーガレットがこうべを垂れたのだ。

「マーガレット! 会いたかった。あなたのことばかり考えていたわ」

令嬢がその頭に手を触れると、マーガレットはうっとりと令嬢を見つめる。
甘い空気が漂い始め、居た堪れなくなったブレンは小さく咳をした。

「あら、ふふっ! わたしったら久しぶりに会えたもので、つい」

彼女は、こちらに笑顔を向けた。
それを弾き返すように、ブレンは鋭い瞳を向けた。

「あの、失礼ですが、マーガレットとはどういうご関係で?」

などと、思い余って問い糺す。
屈強な騎士たちが匙を投げた暴れ馬を、平然と愛でる人物。彼女は赤い唇に、余裕の笑みを作った。

「わたしは、マーガレットの名付け親ですわ。素敵な名前でしょう?」

──"あの"馬主か。
どうやら彼女は、美貌と引き換えにネーミングセンスを置き去りにしたらしい。
不意に、令嬢が手を打った。

「そうそう、差し入れを持って参りましたの。気に入ってくれるかしら」

令嬢は腕にさげたバスケットに、そっと手を差し入れた。
ブレンはその華奢な腕を優しく掴む。

「申し訳ありません。差し入れは遠慮しているんです」

差し入れを持ち寄る女性は大勢いる。
その多くは手作り料理だった。厚意を無碍にすることができず、ブレンはそれを受け取っていた。
しかし見ず知らずの女の料理を口にする気にはなれない。さりとて廃棄するのも忍びない。

代わりに同僚に食べさせていた、ある日のこと。その同僚が体調を崩した。差し入れに媚薬が仕込まれていたのだ。

以来、女性からの差し入れは謝絶している。

眼前の令嬢は、青い瞳を丸くした。

「団長さまはお許しくださいましたのよ?」

引き抜いた手には、手料理──ではなく、瑞々しいニンジンが握られていた。

ブレンは得意の笑顔を貼り付けた。
落ち着け自分。包丁を握る貴族令嬢など、そうそういないんだ。でもまさか──皮すら剥いていないなんて!

そんな狼狽をつゆ知らず、令嬢はしなやかに腕を引き抜く。

「この子、ニンジンが大好物ですの。銘柄にもこだわりがあって……どうかしまして?」

「……差し入れって、マーガレットに?」

恐る恐る問えば、令嬢は深く首肯した。

「立派なニンジンでしょう?」

彼女の顔ほどもある大きなニンジンを手渡され、ブレンはそれを呆然と見つめた。
立派なニンジンだった。自分のためではない、馬のための差し入れが、ずっしりと腕に重い。

それを知ってか知らずか、素知らぬ顔で彼女は言う。

「マーガレットの世話は大変でしょう? とても賢いぶん、ちょっぴり難しい子だから」

"ちょっぴり"なんて可愛いものではない。
マーガレットを扱いきれず、骨折した者もいたほどだ。
ブレンは内心で毒づいた。だが彼女の笑顔を見ると、口にするのは躊躇われる。
完全に、向こうのペースにのまれている。

ブレンは負けじと、"美貌の女たらし"で評判の笑顔を作る。そして袖を捲ると、腕の擦り傷を見せた。マーガレットの蹴りを、咄嗟に避けたときの傷である。

「騎士団全員が嫌われていますよ。僕もほら、この通りです」

「まぁっ! いけない子」

叱るような口調とは裏腹に、娘はマーガレットに優しく手を触れ、まるで言い含めるように話す。

「どうか嫌わないであげて。この方は、あなたのために尽くしてくださっているのよ。そうですね? シュタルク卿」

彼女は眩しげに瞳を細めた。
やはり目当ては自分なのでは? 
そう思い至ると心に余裕が生まれ、

「僕をご存知で?」

華やかな笑みを浮かべた。
すると令嬢は不思議そうに首を傾げ、馬房に刻まれた飼育担当者の名札を指差した。

【ブレン・シュタルク】

ブレンは顔から火を吹いた。
令嬢は上目遣いに視線を絡ませ、こちらの困惑を楽しそうに眺める。

「マーガレットの機嫌を取ってください」

「……何をすれば良いでしょう?」

ブレンは深く呼吸して、平静を装う。

「"美しいもの"を与えてください。この子は美的感覚に優れていますから。たとえば……」

彼女はゆっくりと指折り数えた。
大輪の花や輝く星空。今日のような青空の下、自由に走り回ること──。

ブレンは半ば投げやりな様子で、ペンを走らせる。

(ありがたいね。厄介な馬に育ててくれて)

皮肉を唇の端に浮かべた。
令嬢はこちらの苦慮など意に介さず、ただ愉快そうに肩を揺らす。そして悪戯な笑みを浮かべ、胸板に指先を押し当ててきた。

「あなたなら、きっと気に入ってもらえますわ」

そう言い残すと、令嬢は厩舎を後にした。
彼女が帰るや否や、マーガレットはブレンの手からニンジンを奪い取った。まるで借りてきた猫のようだったくせに。

「美しいものが好き……か」

そのとき、乱れた足音が厩舎内に響き渡った。驚いた馬たちの嘶きを無視して現れたのは、ブレンの同僚の騎士だった。

「ブレンッ……お前まさか、"彼女"も食ったとか言わねぇよな!?」

目を血走らせた彼は、わっと声を荒げた。

「誰だよ。ていうか、食ったとか言うな」

ブレンは肩をすくめて手を叩き、グローブの汚れを落とした。

"美貌の女たらし"──それが世間から見たブレン・シュタルクだった。
ブレンは剣一筋で育ち、いつも汗臭い男に囲まれていた。

──そう、十八歳までは。

成人するやいなや、周囲の女性は飢えた獣のようにブレンに求愛した。
どこからともなく舞い込む見合い話は、もはや提案ではなく、強要で。
まるで"見えない何か"に、女性関係を迫られているようだった。

(実際はエスコート以外で手すら繋いだこともないのにな。笑える)

ふと見れば、骨折しても平然としていた同僚が、真っ赤な顔で飛び跳ねている。

「俺、いつも言ってんだろ!? "生きる天使"だよ!!」

"生きる天使"──同僚がよく口にする有名な呼び名だ。
その美貌を一度でも見たら、寝ても覚めても彼女のことを考えてしまうという。
名前はたしか──

「アデリナ?」

「てめっ! 呼び捨てすんな!」

頭の上に無骨な拳が落ちてきた。
明滅した視界に彼女──アデリナのまぼろしが映った。
鈴を転がすような声、そして甘美な花の香り。
そのすべてを、今この瞬間のようにありありと思い出す。

とても美しい女性だった。そしてとても不思議で、夢のようなひとだった。


 ◇◇◇


デートは例外なく強制的なものだった。
今日もブレンは義務で女性と会った。場所は、王都でも有数の高級ホテル。レストランでディナーを終えると、ブレンはロビーに呆然と立ち尽くした。

外は嵐だった。昼の快晴は見る影もなく、真っ黒な雨雲が空を覆っている。雷鳴が轟き、横殴りの雨が窓を打ちつける。まるで天が、今夜は帰るなと命じているかのようだ。
相手の女性は嬉々としてフロントへ向かう。
ブレンは真っ青な顔で口元を押さえた。

──また同じだ。
デートをすれば必ず帰路を奪われた。そして必ず、女性と夜を明かす展開となるのだ。

「ブレンさま、スイートルームをとりましたわ」

喜色を湛えた女性は、鼻にかかった声でそう言った。きつい香水が頭痛を誘う。

「お先に休んでいてください。僕は"準備"してから向かいますので」

ブレンは女性の耳元でそっと囁く。
彼女は真っ赤に染まり、一目散に部屋へと向かった。
それを笑顔で見送り、姿が見えなくなると、ブレンはどさっとソファに身を投げた。

(とか言って。ただの時間稼ぎだけどさ)

部屋に行けば、当然のように情交を求められる。けれどブレンに、その気はなかった。
望む相手でなければ、肌を合わせたくない。

自分は──"未経験"だ。

ホテルに押し込まれても、あらゆる手を尽くして、逆夜這いを回避してきたのである。
それにも関わらず、翌日になれば「絶倫」などと吹聴されるのだ。

(僕が何をしたっていうんだ……)

頭を抱えてうなだれる。そしてため息をつくと「はあ」と掠れ声が溢れ出た。

そのとき、やさしい花の香りが漂ってきた。
忘れもしない"あの"香り。
ブレンは広やかなロビーを素早く回視した。そして──見つけた。
シャンデリアの下で光の階調を作る艶やかな金髪と、たおやかな体のシルエット。
ブレンは爆ぜるように立ち上がる。

「アデリナ嬢!」

呼び声がロビー全体に響き渡った。
アデリナは優雅に翻り、こちらと視線を絡める。

ブレンは走りたい衝動を抑え、大股で彼女のもとへ歩いていく。そして、行かせないとばかりに彼女の道を塞いだ。けれど、向けられた瞳の美しさに、思わず強気の姿勢が挫かれる。

「ブレン・シュタルクです。先日、厩舎でお会いした……」

汗で滑る拳を握り締め、喉をこじ開けた。
入団試験ですら、これほど緊張したことはない。言葉が尻窄みになると、アデリナは一歩、距離を詰めてきた。

「ふふっ、マーガレットの世話役の騎士さまでしょう? 奇遇ですわね、こんな場所で」

そう微笑まれ、胸の鼓動が速くなる。
──覚えてくれていた!
まあ、マーガレットのおまけ程度しかない存在だ。それでも腹の底から喜悦が込み上げ、気を抜くとだらしなく頬が緩みそうだった。

何か会話を繋がなければ。そう考え、浮かんだままに問いかける。

「アデリナ嬢は、ここで何を?」

「支配人と打合せをしていましたの。わたしがこのホテルに出資していますので。シュタルク卿は?」

首を傾げたアデリナの華奢な肩から金糸が流れ落ちた。
ブレンは一瞬だけ口を開き、すぐに閉ざした。

──どう説明すれば良い?

躊躇いで視線を彷徨わせれば、アデリナは視界へ入り込んできた。
世界を見透かすような、澄み切った青。
それに映され惚けると、手を取られる。

「ご自宅までお送りしますわ」

「いえ、僕は……」

「当ホテルではお客さまの幸福が第一ですの。そんなに青い顔をされていては、わたしも黙ってはおけません。ね?」

アデリナは手慣れた紳士のように、優美な所作でブレンを導いていく。
そのとき、見知らぬ男が声をかけてきた。

「やあ! お久しぶりです」

自分ではなく、アデリナに向かって。
中性的な見目の美しい男だ。彼はこちらへ一瞥をくれると、アデリナに手を差し伸べた。

「これからお食事でもいかがですか?」

「あら、困りましたわね」

アデリナは曖昧な笑みを浮かべ、こちらに視線を投げてきた。

ブレンの拳に白い筋が浮き上がる。
この男は何者なんだ。出会い頭に彼女を誘えるなんて。それなりに深い仲かもしれない。

無力感が体の奥に沈み、指先から力が抜けた。

そのとき、ふっと息を吐いたアデリナから、笑ったような気配がした。
視線を交わすと、彼女は悪戯っぽく片目を瞬いた。

「ここからは彼との時間ですの」

そう言って腕を絡めると、隙間なく抱きついてきた。柔らかな肉の感触が余すことなく伝わって、ブレンの耳が熱くなる。

(うわっ! うわっ……!)

全神経が腕に集中して、思考が追いつかない。アデリナに半ば強引に連れられ、外へ出た──そのとき。
ブレンは息をのんだ。

雨は止んでいた。代わりに、地上に降り注ぐほどの満天の星空が広がっていた。

湿った花壇の土の匂いが鼻腔をくすぐる。
清らかな空気の中、馬車は滑るように走り出した。
急き立てるものは何もない。流れゆく美景を惜しむような、穏やかな走行だった。

「……夢みたいだ」

柄にもなく、あどけない感嘆がこぼれた。
アデリナは小さく笑って、手を伸ばしてくる。

「シュタルク卿、お口を開けて」

「あ?」

アデリナのほうへ顔を向けた。その瞬間、口の中へ何かが転がり込んできた。
舌に触れた途端、それは音もなく溶け、一瞬にして砂糖の甘みが広がる。
名残惜しくなるほど、後味は軽やかだった。

「美味しい?」

窓から差し込んだ月明かりが、車内をおぼろに照らす。アデリナのビスクドールのような細顔に、かすかな艶が滲んだ。

──そんな顔もするのか。
彼女の持つ雰囲気に溺れ、ブレンは無言で首肯する。
するとリボンで縛られた包みを渡された。
まだ、ほんのりと温かい。

「試作中のルームサービスです。差し上げますわ」

「貰っていいんですか? 僕が?」

小さく焼かれた白い菓子を指先でつまみ、アデリナに確かめる。まあ、返せと言われても返せない。返したくない。
あれほど女性からの贈り物を固辞していたのが、まるで嘘のようだった。

「世界中でいま最も甘い物が必要な人ですもの。それを食べて、ゆっくり休んでくださいませ──」


 ◇◇◇


ふと目を覚ますと、日が傾いていた。
物影が長く伸び、雑然とした机の書類は、茜色に染まっている。
懐かしい夢だった。けれど、いつ思い出しても色鮮やかで、今この瞬間のように胸が弾む。

机の上に視線を落とすと、ティーセットが置かれていた。
添えられた菓子は、思い出のメレンゲクッキー。
すっと溶けて消える潔さと、名残惜しさを感じさせる部分は、"どこかの誰か"に、よく似ている。

ブレンがクッキーに手を伸ばした、そのとき。ノックとほぼ同時に、部屋の扉が開かれた。こんな無礼が許されるのは、この世にたった一人だけ。
妻のアデリナだ。

「書類を確認してほしいのだけど、今よろしくて?」

「呼んでくれたら僕から行くのに」

「そんな時間はないでしょう? ほら、書類がたんまり残ってる」

机の上を指でなぞりながら回り込む。
そして椅子に腰掛けたブレンの両肩に手を乗せ、座面に膝を立てた。

夕焼けで橙色に染まった髪の毛が、さらりと顔に落ちてくる。それを彼女の耳にかけ、夜の気配がする艶美な笑みを堪能した。

アデリナはクッキーを指先でつまみ取る。
それを自分から迎えに行き、ブレンはうっとりと彼女を見上げた。

深い青色の瞳に弧が描かれた。
行き場を失くした白魚の手が、日焼けした頬にそっと触れてくる。

「ふふっ、本当にしょうがない人ね」

クッキーをひとつ咥えたアデリナは、それをブレンの唇へ運んだ。
とろけるような甘みが、隅々まで染み渡る。

「ブレンのキスが好きよ。とっても美味しいから」

「じゃあ、もっと食べて」

初めて食べたときと、同じクッキーだ。

けれど今の方が格段に甘く感じるのは、アデリナを心から愛しているからだと。

そう、思うのだ。




 (了)


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