ヤンデレ設定の義弟を手塩にかけたら、シスコン大魔法士に育ちました!?

三月よる

文字の大きさ
13 / 34

第13話 夢か現か幻か

しおりを挟む


 ふと気がつくと見知らぬ湖畔に横たえていた。
 重だるい体で緩慢に起き上がり頭を抱える。

(そうだ。わたしマルタに殺されかけて……)
 そして、意識を手放した。ピフラは眉を寄せて下唇を噛む。
 あの後ガルムとマルタはどうなっただろう。そして自分はどうなったのだろう。これは眠って夢を見ているのか、あるいは──死んでしまったのだろうか。
 湖を見渡せば水面はどこまでも凪いでいる。
 四つん這いでそれを覗き込むと、湖面に映る自身に目を見張った。
 朧だが見覚えのある面立ち、ダークブラウンの瞳と髪の女──前世の自分だ。

「……っ!!」
 ピフラは驚愕し、言葉を失った。
 湖面に映る自身の右肩からは、みるみる血が滲んでいく。先程攻撃を受けた場所、けれどこの身にはかすり傷すらない。

『肉体は切らないから。魂は知らないけど』
 ピフラの頭にマルタの言葉がよぎる。言葉通りに捉えれば、あの斬撃で傷を負ったのは体ではなく魂だ。
(じゃあ、これがわたしの魂……?)
 にわかには信じられず水面の己に手を伸ばす。するとピフラの背後から凛然たる声がした。
 
「それに触るな」
「きゃああっ!?」
 驚愕したピフラがバネのように跳ね上がる。その弾みのまま振り向くと、自分の頭と同じくらいの大きさの赤い濡れ色の双玉と突き合った。

「急に大声を出すなバカもん!」
 赤い玉はピフラの大声に形を歪めて文句垂れる。
 ピフラは立ち上がってその存在の全容を見た。くりくりの2つの赤い双眼、黒はもふもふ且つ艶々の毛並みで、胸毛にチャームポイントの赤毛が生えている。そして、体長はおよそピフラ2人分の巨大な……

「……犬??」
(もふもふで、きゅるんきゅるんで可愛い)
「ただの犬ではない、俺は史上最高の犬だ。頭を垂れろ人間」
(そしてめちゃくちゃ偉そう)
 その赤目の黒犬は、ぽふんっとピフラの頭に肉球を乗せて踏ん反り返る。体もデカければ態度もデカい犬だ、かわいいけれど。
 
「俺はおしゃべりしに来たんじゃない。お前に真名まなを貰いにきた」
「ま、まな……まな板?」
「真名だよ真名! 俺様に名前を付けろと言ってるんだ!」
 ずいっ、と犬の顔がピフラの前に押し出された。
 眉間を寄せる表情がどことなくガルムに似ており微笑ましい。
 ──そうだ、彼はどうしているだろう。
 あの大鎌やマルタだった者に傷つけられてはいないだろうか。「姉上!」意識を手放す直前に聞こえた、ガルムの悲痛な叫びが頭を過ぎる。
 ピフラの笑顔に陰が落ち、犬はフンッ!と鼻息をかけた。

「余計なことを考えずさっさと名付けろ」
(まったく。人の気も知らないで)
「はいはい名前ね。そうね……」
 呑気に欠伸する犬の横でピフラは逡巡する。
 犬やペットの名付け方は人によって様々だ。自分が好きな物の名前を当てるとか、身体的特徴を名前にする人もいる。例えばチョコレート好きなら「チョコ」、白い犬なら「シロ」。
 それに倣って名付けるとすれば、特徴的な赤い目をこの犬は──
 
「赤い瞳にちなんで『ルビー』はどう? 宝石の名前」
「この赤目か?」
「そう! わたしの弟と同じ綺麗な色だから」
 ピフラはガルムを思い起こし破顔した。澄まし顔のガルム、顰め面のガルム、その1つ1つを思い出す度に笑みがこぼれる。
 犬は湿った鼻先でピフラの額を小突いた。

「……良いだろう。俺の名は『ルビー」。確かに貰い受けたぞ、ピフラ・エリューズ」
 ルビーの鼻先が離れた額がひんやりし、ピフラの視界は再び暗転していった。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

【完結】攻略を諦めたら騎士様に溺愛されました。悪役でも幸せになれますか?

うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
メイリーンは、大好きな乙女ゲームに転生をした。しかも、ヒロインだ。これは、推しの王子様との恋愛も夢じゃない! そう意気込んで学園に入学してみれば、王子様は悪役令嬢のローズリンゼットに夢中。しかも、悪役令嬢はおかめのお面をつけている。 これは、巷で流行りの悪役令嬢が主人公、ヒロインが悪役展開なのでは? 命一番なので、攻略を諦めたら騎士様の溺愛が待っていた。

婚約破棄歴八年、すっかり飲んだくれになった私をシスコン義弟が宰相に成り上がって迎えにきた

鳥羽ミワ
恋愛
ロゼ=ローラン、二十四歳。十六歳の頃に最初の婚約が破棄されて以来、数えるのも馬鹿馬鹿しいくらいの婚約破棄を経験している。 幸い両親であるローラン伯爵夫妻はありあまる愛情でロゼを受け入れてくれているし、お酒はおいしいけれど、このままではかわいい義弟のエドガーの婚姻に支障が出てしまうかもしれない。彼はもう二十を過ぎているのに、いまだ縁談のひとつも来ていないのだ。 焦ったロゼはどこでもいいから嫁ごうとするものの、行く先々にエドガーが現れる。 このままでは義弟が姉離れできないと強い危機感を覚えるロゼに、男として迫るエドガー。気づかないロゼ。構わず迫るエドガー。 エドガーはありとあらゆるギリギリ世間の許容範囲(の外)の方法で外堀を埋めていく。 「パーティーのパートナーは俺だけだよ。俺以外の男の手を取るなんて許さない」 「お茶会に行くんだったら、ロゼはこのドレスを着てね。古いのは全部処分しておいたから」 「アクセサリー選びは任せて。俺の瞳の色だけで綺麗に飾ってあげるし、もちろん俺のネクタイもロゼの瞳の色だよ」 ちょっと抜けてる真面目酒カス令嬢が、シスコン義弟に溺愛される話。 ※この話はカクヨム様、アルファポリス様、エブリスタ様にも掲載されています。 ※レーティングをつけるほどではないと判断しましたが、作中性的ないやがらせ、暴行の描写、ないしはそれらを想起させる描写があります。

【完結】元悪役令嬢は、最推しの旦那様と離縁したい

うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
「アルフレッド様、離縁してください!!」  この言葉を婚約者の時から、優に100回は超えて伝えてきた。  けれど、今日も受け入れてもらえることはない。  私の夫であるアルフレッド様は、前世から大好きな私の最推しだ。 推しの幸せが私の幸せ。  本当なら私が幸せにしたかった。  けれど、残念ながら悪役令嬢だった私では、アルフレッド様を幸せにできない。  既に乙女ゲームのエンディングを迎えてしまったけれど、現実はその先も続いていて、ヒロインちゃんがまだ結婚をしていない今なら、十二分に割り込むチャンスがあるはずだ。  アルフレッド様がその気にさえなれば、逆転以外あり得ない。  その時のためにも、私と離縁する必要がある。  アルフレッド様の幸せのために、絶対に離縁してみせるんだから!!  推しである夫が大好きすぎる元悪役令嬢のカタリナと、妻を愛しているのにまったく伝わっていないアルフレッドのラブコメです。 全4話+番外編が1話となっております。 ※苦手な方は、ブラウザバックを推奨しております。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

転生賢妻は最高のスパダリ辺境伯の愛を独占し、やがて王国を救う〜現代知識で悪女と王都の陰謀を打ち砕く溺愛新婚記〜

紅葉山参
恋愛
ブラック企業から辺境伯夫人アナスタシアとして転生した私は、愛する完璧な夫マクナル様と溺愛の新婚生活を送っていた。私は前世の「合理的常識」と「科学知識」を駆使し、元公爵令嬢ローナのあらゆる悪意を打ち破り、彼女を辺境の落ちぶれた貴族の元へ追放した。 第一の試練を乗り越えた辺境伯領は、私の導入した投資戦略とシンプルな経営手法により、瞬く間に王国一の経済力を確立する。この成功は、王都の中央貴族、特に王弟公爵とその腹心である奸猾な財務大臣の強烈な嫉妬と警戒を引き寄せる。彼らは、辺境伯領の富を「危険な独立勢力」と見なし、マクナル様を王都へ召喚し、アナスタシアを孤立させる第二の試練を仕掛けてきた。 夫が不在となる中、アナスタシアは辺境領の全ての重責を一人で背負うことになる。王都からの横暴な監査団の干渉、領地の資源を狙う裏切り者、そして辺境ならではの飢饉と疫病の発生。アナスタシアは「現代のインフラ技術」と「危機管理広報」を駆使し、夫の留守を完璧に守り抜くだけでなく、王都の監査団を論破し、辺境領の半独立的な経済圏を確立する。 第三の試練として、隣国との緊張が高まり、王国全体が未曽有の財政危機に瀕する。マクナル様は王国の窮地を救うため王都へ戻るが、保守派の貴族に阻まれ無力化される。この時、アナスタシアは辺境伯夫人として王都へ乗り込むことを決意する。彼女は前世の「国家予算の再建理論」や「国際金融の知識」を武器に、王国の経済再建計画を提案する。 最終的に、アナスタシアとマクナル様は、王国の腐敗した権力構造と対峙し、愛と知恵、そして辺境の強大な経済力を背景に、全ての敵対勢力を打ち砕く。王国の危機を救った二人は、辺境伯としての地位を王国の基盤として確立し、二人の愛の結晶と共に、永遠に続く溺愛と繁栄の歴史を築き上げる。 予定です……

じゃない方の私が何故かヤンデレ騎士団長に囚われたのですが

カレイ
恋愛
 天使な妹。それに纏わりつく金魚のフンがこの私。  両親も妹にしか関心がなく兄からも無視される毎日だけれど、私は別に自分を慕ってくれる妹がいればそれで良かった。  でもある時、私に嫉妬する兄や婚約者に嵌められて、婚約破棄された上、実家を追い出されてしまう。しかしそのことを聞きつけた騎士団長が何故か私の前に現れた。 「ずっと好きでした、もう我慢しません!あぁ、貴方の匂いだけで私は……」  そうして、何故か最強騎士団長に囚われました。

処理中です...