フードコートの常連さん

ロカク

文字の大きさ
1 / 4

人気のないフードコートで

しおりを挟む
 西暦二○十九年十月一日、人々はフードコートから姿を消した。理由は簡単、同じものを食べるにしても持ち帰って食べる(テイクアウトする)方が安いからだ。その差は本体価格の二%、僅かと言えば僅かだが塵も積もれば人生を左右する。飲食店にとっては厳しい状況となった。
 そんな増税の波が僕、金井敬太かないけいたがアルバイト店員として働くアパレル系チェーン店がテナントとして入っているデパートにも影響を与えることになろうとは……

「お疲れさまでした!」

 仕事を終えて帰路に就く。のではなく、晩御飯を食べに行く。今日のようにいつもより帰りが遅くなったときは決まってフードコートで食べてから帰る。デパートの社長による粋な計らいにより、アルバイトにも配布される食事券を使えば週一はタダ同然で一食食べることができる。

「おばちゃん、カレーよろしく」

「ケイちゃんいらっしゃい! サービスしとくよ!」

 僕のように残業してから食べに来る従業員もいるので、デパート全体が営業を終了しても食堂はある程度の時間まで開けてくれている。

「お待ちどおさん!」

「ありがとう」

 注文したつもりのシンプルカレーからだいぶボリュームアップしたカレーが乗ったトレイを受け取ってフードコートの中央に陣取る。おっと、水を忘れてはいけない。僕は「カレーは飲み物理論」に関して飲みたければ飲めばいいと思うけど、カレーは水と一緒に味わうべきだと考えるからだ。

「いただきます」

 手を合わせてまず一口、うまい。続いて二口目、と行きたいところだが最高の二口目には彼らが必要だ。そう、福神漬けとらっきょうを投入するため視線を上げる。

「……ん?」

「うわぁぁぁぁああああ!!」

 いつの間にか向かいの席で女性が座ってざる蕎麦そばを食べている!? 僕が気付かずにこの席に座ってしまった? いや、この席に座った時フードコート自体にお客さんは居なかったはずでは!? ということはこの人僕が居ること分かってて向かいに座ったってこと!? 怖い!!

「すすすすいません! 僕あっちに行きますんで!」

 どちらにせよこの席から離れなければ自分の身が危ない!

「まぁ待ちなよ、座りな」

 何故!? この広く誰もいないフードコートで何故見知らぬ人と一緒にご飯を食べなければならないのか!? でもなんか逆らえなくて、立ち上がろうと中腰になっていた腰を再び下ろす。

「あんた、カレーよく食べるの?」

「そう……ですね、あなたのは……」

 しまった! この流れだと会話しなければならない。とはいえ、沈黙するとそれはそれで辛い。それに、この人ジャンクフードが主食ですが何か? と言わんばかりにガラが悪いのに実際はざる蕎麦を食べている。その対比が何か気になった。

「蕎麦だよ、子供の時から好きでね。うまくない? 蕎麦」

 うまいのは分かる。にしても、そこは人の好みじゃないのだろうか? 一応頷いておく。

「あんた歳は?」

「二十二です」

「大学は?」

「行ってます。来年三月で卒業ですけど」

「へー、すごいじゃん」

 ん? 一体何がすごいんだ? 大学名は言ってないし、三流大学だ。その三流大学にも特に高い志を持って入ったわけでもなく、すぐ社会に出たくなかったから引き伸ばすために入っただけだ。大卒って言えた方が世間体もいい、それだけだ。

「あたしの周りはほとんど大学行ってなかったからさぁ、あたしも行ってなかったんだけど。だからと言って大したことは……あっ、もう今日終わっちゃうじゃん! んじゃ!」

 いつの間にか食べ終わっていたすのこ? が敷かれたそばの器が乗ったトレイを持って女性は立ち上がった。

「あっ!」

 トレイ返却口へ向かって一歩進んだところで何かを思い出したらしい女性は再び戻ってきた。

「あたし白河雅子しらかわまさこ、またな!」

 白河さん……か、ぶっきらぼうだけど頼れる姉さん感があって心地よかった。また会えるといいけど彼女もこのデパートに入っている店舗の従業員だとすればもらっている食事券は月に四枚、一月ひとつき三十日として四で割ると七・五分の一以上で食べに来ている計算になる。
 そこは僕も同じなわけだけど、フードコートここを見に来るだけならタダだ。もし食事券がなくても買えばいいわけだから一緒に食べればいい。時間に関しては積極的に残業を引き受けて、帰る時間を遅くしよう。これでまた会えるはずだ!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

お茶をしましょう、若菜さん。〜強面自衛官、スイーツと君の笑顔を守ります〜

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
陸上自衛隊衛生科所属の安達四季陸曹長は、見た目がどうもヤのつく人ににていて怖い。 「だって顔に大きな傷があるんだもん!」 体力徽章もレンジャー徽章も持った看護官は、鬼神のように荒野を走る。 実は怖いのは顔だけで、本当はとても優しくて怒鳴ったりイライラしたりしない自衛官。 寺の住職になった方が良いのでは?そう思うくらいに懐が大きく、上官からも部下からも慕われ頼りにされている。 スイーツ大好き、奥さん大好きな安達陸曹長の若かりし日々を振り返るお話です。 ※フィクションです。 ※カクヨム、小説家になろうにも公開しています。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

雪の日に

藤谷 郁
恋愛
私には許嫁がいる。 親同士の約束で、生まれる前から決まっていた結婚相手。 大学卒業を控えた冬。 私は彼に会うため、雪の金沢へと旅立つ―― ※作品の初出は2014年(平成26年)。鉄道・駅などの描写は当時のものです。

ちゃんと忠告をしましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。  アゼット様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ? ※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。

処理中です...