フードコートの常連さん

ロカク

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僕の仕事はなくなりました。対して心は満たされた。

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 白河さんに出会った翌日、今日の勤務は終礼を残すのみとなった。

「え~今日もお疲れさん」

 店長を中心に夕方から夜にかけて勤務していた従業員が集まる。この場でその日の振り返り、直近で行われるセールの情報、勤怠の確認などが行われる。いつもならこの店長の一言から流れで振り返りに入るはずだけど、今日は違った。

「ここでみんなに伝えておかなければならんことがある」

「何の話でしょうね?」

「ん~何だろうね?」

 緊張感漂う中、後輩アルバイト店員の島原優華しまばらゆうかちゃんが話しかけてきた。素晴らしく可愛い島原ちゃんはこんなタイミングで話しかけてきても許される。たとえ誰かに異議を唱えられようとも僕が許す。僕の持論が展開されたところで店長の話は続く。

「もしかしたらもう耳にした者もいるかもしれないが、このデパートは今月末で閉店することとなった」

「「えっ!?」」

 この事実をどこかのツテで知っていた者と知らなかった者で反応が分かれた。僕はもちろん後者、島原ちゃんも同じだった。

「先日の消費増税でフードコートを中心にレジ対応が必要となった。このデパートも何とかしようとしたそうだが、赤字も抱えてたし、下の上くらいしか集客がなかったもんだから対応しきれなくなって今回の決断に至ったらしい」

 難しい話は分からないけど、今回導入された軽減税率というものはわかりやすいところで言うと「店内でお召し上がりですか?」という質問に対しYESなら税率十%でNOなら税率八%になるらしい。なんやかんやでそうしないといけないらしく、昔ながらの古き良き店でも対応できなければ店を畳むことになるんだとか。このデパートもその潮流ちょうりゅうに飲み込まれたわけだ。

「そういうわけで残り半年になるが、よろしく頼む。そんじゃあ今日の振り返りから……」

 そこからはいつも通りの終礼が行われた。終礼後にはこれからどうしようかと苦悩する人もいたけど僕は全くだ。今は十月、次の四月には社会に出ている予定で貯金もそこそこに貯めてある。金銭的にはあと半年遊んでてもいけそうだ。まだ就職先は決まってないけど。

「金井さぁん、私どうしましょう……」

「島原ちゃんまだ一年だもんね、入って半年でバイト先が潰れることになるとはねぇ」

 かなり落ち込んでいる様子の島原ちゃんに確信的なアドバイスを送ることはできなかった。まぁ、アパレルショップはこの近辺にもたくさんあるし早く次のアルバイト先が見つかる事を願っておこう。
 半べその島原ちゃんを見送って、今日もフードコートを見に行く。と言っても出入口までの道中にフードコートがあるから目に入る感じだ。まだ時間的にもそんなに遅くないし、さすがに白河さんが二日連続でいるなんてことはないだろうと思いつつ……

「!?」

 居た! 確かにあれは白河さんだ! 今日も一人でざる蕎麦を食べている。二日連続でざる蕎麦を食べなくてもいいのにと思いつつ、好きならそんなこともあるかなと納得した。にしてもこの時間に晩御飯を食べているということは定時で上がっているはず。なのに家に帰っていないということはお家が嫌いな人なのだろうか?
 それじゃあ白河さんが居るとわかった今どうする。昨日とはまたシチュエーションが違うし迷惑じゃないか? いやでもまたって言われてるし……よし! 行こう! っと、あれ? 居なくなってる!?

「よっ、ケイ」

「どわっ!?」

 なんで見つかった!? ちょっと目を離した隙にざる蕎麦もろとも消え去っていた白河さんがいつの間にか僕の背後に立っていた。

「し、白河さん、名前教えましたっけ?」

「おばちゃんが言ってた」

「知らないからニックネームなんでしょうけど正式名称は金井敬太です」

「そうか、どちらにせよあたしはケイと呼ぶけどな」

「そうですか」

 フルネームを教えても結局ケイと呼ばれることになった。

「今から帰るところだが、あんたは食って帰るの?」

「いえ、今日はこのまま帰ろうかと」

「じゃあそこらへんまで送んな」

「はぁ」

 なんで命令口調なんだ! 一緒に帰ろうとかでいいんじゃないのか!? と言える訳もなく白河さんと帰り道を歩く。

「いや~困りましたね、バイト先がなくなるなんて思いも寄りませんでした」

「そうなのか」

「知らないんですか!?」

 デパートに入っている店舗の従業員には同日に知らされているとばかり……白河さんの店はまだなのかな?

「客に公表されてないことは知らん」

「へ? デパート内どこかの店舗の従業員じゃないんですか?」

「おもいっきり客だ」

 まさかの白河さんはデパート側の人じゃなかった。となると次の疑問が沸いてくる。

「となると何故昨日あの時間にフードコートに居たんですか? もうデパート自体が閉まっていてお客さんはもう館内に居られなかったはずですよ」

「えっ、あ……うーん、それはだなぁ……」

 おっ、口籠った。何か言えない事情があると見た。

「あたし実は物書きでな」

「小説家さんでしたか」

「そうそう、それで毎日のようにあのフードコートでネタ考えたり考えなかったりしてるんだわ」

「考えなかったりしてるんですか」

 白河さんはここのところ、僕が意識してフードコートに目をやるようになってから毎日居るから幽霊かそこらの類かと微かに思っていたけどさすがにそれは違ったらしい。重度の常連さんだった。

「いったいどんな作品を……」

「あっ、あたしこっちだから!」

 今完全に僕と同じ方向に歩を進めようとしていたように見えたんですが? そうか、男性同士の恋愛ものでも書いているから知られたくないんですね!? 大丈夫ですよ白河さん、僕はそれくらいのことで引いたりしませんから。

「そうですか……またっ……」

「あぁ」

 十字路の内の一本、街灯に照らされながら白河さんは振り返った。

「またな!」

        ◆◆◆

 ……はっ! どのくらいの間無心でその場に立ち尽くしていたのか、我に返った時にはもう白河さんの姿はなかった。にしても最後のあの笑顔、反則だったなぁ。帰路を歩きながらもあの笑顔が頭から離れず、僕は白河さんに惚れた。
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