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アストリア
#06
少ない手がかりからレイと凛太朗の居所を突き止め、現地に向かった時には既に全て片付いたいう連絡が妹から届いていた。目的地がはっきりした後の真の運転の荒さはそれまでの比ではなかった。法定速度を大幅にオーバーし、P9の外でなければ一発で取り締まられそうなやり方で辿り着いたのは郊外の廃ビルの一つだった。エンジンを切るのもそこそこに運転席を飛び出した真は脇目もふらずビルの階段を登っていった。彼が乗り捨てた車の扉を閉め、ロックをかけてジーノが二階の潰れた店の扉を開けると先ほど一目散にここに向かったはずの真が立ち尽くしていた。部屋の中には死屍累々。これだけ派手にやってはこの場に長居はできないなとジーノが思っていると真がようやく口を開いた。
「リンは……」
死体を避けて部屋の中へと進む真は奥の部屋のベランダに弟の姿を見つけて走った。
「リン!」
開け放たれた窓の外、椅子に座って外を眺めていた弟は随分と血にまみれていたが真はそんなこと意に介した様子もなく彼を抱きしめた。
「結局ハッピーエンドかよ」
ジーノの独り言を咎めるようなタイミングで別の部屋から妹のレイが出てきた。
「よお、元気そうだな」
「おかげ様で生きてるわよ。残念だったわね」
「まさか。よかったよ。お前が無事で」
それは本心だった。本当は無事とは言えない見た目だったがひとまず命に別状はなさそうだ。最悪の事態は免れた。それだけでジーノは心底から安堵した。
帰りの車は予想外に険悪な雰囲気に包まれていた。再会や無事を喜ぶ兄弟の和やかな会話が弾む楽しい時間になると思っていたのに、ジーノは一刻も早くこの場から逃れたくて仕方ない。
「えーっと……リン、傷の具合はどうだ? かなり痛むか?」
重たい沈黙に耐えかねて、ジーノは助手席の凛太朗に話しかけた。怪我人に運転をさせるわけにはいかないし、怪我人を乱暴な運転の車に乗せるわけにもいかないので帰りの車はジーノがハンドルを握ることにしたのだが、運転席に乗り込んだジーノの隣に座ったのは凛太朗だった。後部座席で必然的に隣り合うことになった真とレイはかなり険悪な雰囲気だ。その原因は赤く腫れた凛太朗の頰からいくらか想像できた。
「あんたの妹に殴られた顔のほうが痛いよ」
窓枠に頬杖ついて車窓を眺めていた凛太朗は火に油を注ぐような物言いをした。後部座席の空気が更に悪くなったのを感じてジーノは己の発言を後悔した。
「殴られるようなことをするから悪いのよ」
追い打ちをかけるようにレイが言った。もうやめてくれ、とジーノが思った時には既に遅く、真の舌打ちが聞こえてきた。
「どういう意味だ? 元はといえばお前が油断してあいつらに捕まったりするからリンがこんな危険なめにあったんだろうが。しかもただでさえ怪我してるのに殴って追い討ちかけやがって!」
「私が捕まったからってなんでその子が危険に晒されたことになるのよ。拉致されたのはあなたの弟だからでしょ! それに殴ったんじゃなくて引っ叩いたのよ!」
「手を上げた時点でどっちも同じなんだよ! そもそもこうならないようにお前に迎えを頼んだんだろうが!」
「だったらあんたが行けばよかったでしょ!」
「責任転嫁すんじゃねえ!」
「あんたこそもう少し自覚を持ちなさいよ! 大事な家族を巻き込みたくないならこんなとこに呼んでんじゃないわよこのブラコン!」
胸倉を掴み合い、今にも暴れだしそうな二人にジーノが内心頭を抱えていると隣の席の凛太朗が同じくらい険しい顔で「うるせえ……」とつぶやくのが聞こえた。ジーノとが目が合うと凛太郎は「煙草ある?」ときいてきた。
「ああ」
ジーノは胸ポケットから取り出したパッケージをライターごと渡してやった。返ってきたそれを自分も一本くわえて火をつける。
「お前も大変だな」
相変わらずギャーギャーやっている後ろの人間に聞こえないように話しかけると、凛太朗は初めて少し笑ったように見えた。
「生きてるって幸せなんだね」
「リンは……」
死体を避けて部屋の中へと進む真は奥の部屋のベランダに弟の姿を見つけて走った。
「リン!」
開け放たれた窓の外、椅子に座って外を眺めていた弟は随分と血にまみれていたが真はそんなこと意に介した様子もなく彼を抱きしめた。
「結局ハッピーエンドかよ」
ジーノの独り言を咎めるようなタイミングで別の部屋から妹のレイが出てきた。
「よお、元気そうだな」
「おかげ様で生きてるわよ。残念だったわね」
「まさか。よかったよ。お前が無事で」
それは本心だった。本当は無事とは言えない見た目だったがひとまず命に別状はなさそうだ。最悪の事態は免れた。それだけでジーノは心底から安堵した。
帰りの車は予想外に険悪な雰囲気に包まれていた。再会や無事を喜ぶ兄弟の和やかな会話が弾む楽しい時間になると思っていたのに、ジーノは一刻も早くこの場から逃れたくて仕方ない。
「えーっと……リン、傷の具合はどうだ? かなり痛むか?」
重たい沈黙に耐えかねて、ジーノは助手席の凛太朗に話しかけた。怪我人に運転をさせるわけにはいかないし、怪我人を乱暴な運転の車に乗せるわけにもいかないので帰りの車はジーノがハンドルを握ることにしたのだが、運転席に乗り込んだジーノの隣に座ったのは凛太朗だった。後部座席で必然的に隣り合うことになった真とレイはかなり険悪な雰囲気だ。その原因は赤く腫れた凛太朗の頰からいくらか想像できた。
「あんたの妹に殴られた顔のほうが痛いよ」
窓枠に頬杖ついて車窓を眺めていた凛太朗は火に油を注ぐような物言いをした。後部座席の空気が更に悪くなったのを感じてジーノは己の発言を後悔した。
「殴られるようなことをするから悪いのよ」
追い打ちをかけるようにレイが言った。もうやめてくれ、とジーノが思った時には既に遅く、真の舌打ちが聞こえてきた。
「どういう意味だ? 元はといえばお前が油断してあいつらに捕まったりするからリンがこんな危険なめにあったんだろうが。しかもただでさえ怪我してるのに殴って追い討ちかけやがって!」
「私が捕まったからってなんでその子が危険に晒されたことになるのよ。拉致されたのはあなたの弟だからでしょ! それに殴ったんじゃなくて引っ叩いたのよ!」
「手を上げた時点でどっちも同じなんだよ! そもそもこうならないようにお前に迎えを頼んだんだろうが!」
「だったらあんたが行けばよかったでしょ!」
「責任転嫁すんじゃねえ!」
「あんたこそもう少し自覚を持ちなさいよ! 大事な家族を巻き込みたくないならこんなとこに呼んでんじゃないわよこのブラコン!」
胸倉を掴み合い、今にも暴れだしそうな二人にジーノが内心頭を抱えていると隣の席の凛太朗が同じくらい険しい顔で「うるせえ……」とつぶやくのが聞こえた。ジーノとが目が合うと凛太郎は「煙草ある?」ときいてきた。
「ああ」
ジーノは胸ポケットから取り出したパッケージをライターごと渡してやった。返ってきたそれを自分も一本くわえて火をつける。
「お前も大変だな」
相変わらずギャーギャーやっている後ろの人間に聞こえないように話しかけると、凛太朗は初めて少し笑ったように見えた。
「生きてるって幸せなんだね」
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