元皇子の寄り道だらけの逃避行 ~幽閉されたので国を捨てて辺境でゆっくりします~

下昴しん

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第一章

食事に変化を

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 アウセルポートではデウロンに追い出される前に食料品を先に積んでいたので、食べ物に困ることはなくなった。だが、やはり質という点できつい。

「アウセルポートの海鮮料理は、美味だった」

 客間のテーブルで思わず呟く。

「すみません。腐りにくい材料しかないので、なかなか美味しくできなくて」
「お兄様、ここで贅沢を言っていたらバチが当たりますわ」
「いや、スピカを責めているわけじゃない。こればかりは、慣れというか、俺の方があわせるべきなんだが……はあー」

 とはいえ、アウセルポートを離れて二日間。乾燥パンに干し肉、干し葡萄に酢漬けのピクルス。ずっと同じだとさすがに飽きる。

「もっとバリエーションを増やして、食料品を買うべきだったな……」
「最近、耳の下の顎の付け根が痛いですね」

 固いものが多いので、何度も咀嚼すると筋肉痛になるのだ。

「たしかに痛いな……」

 顎をマッサージすると、スピカとマトビアも同じように顎に手をやる。

「魚を釣るか」
「あ、なるほど」

 新鮮な食べ物が欲しければ、現地調達に限る。調理はスピカができるので問題ない。

「しかし、どうやって釣るのでしょうか?」
「雑貨を使えばどうにかなるだろう」
「でも、私、魚の種類には詳しくないですよ? 捌くのはいいですが、毒とかないですかね?」
「まあ、そこはなんとなく見た目で分かるだろう」
「少し食べてみたらいいんじゃないかしら?」

 昼になって、俺は釣竿を作り始めた。
 余っている室内物干し用の角材を細くして、先端に麻の紐からとった糸を結んだ。そこに裁縫用の針に刺した乾燥パンをぶら下げる。そして重しをつければ完成だ。

「こんなので釣れるのか?」

 魚釣りをしたことがないので、なんとなくで作ったが。

「釣れそうな予感がします」
「まあ、ものは試しじゃないですか?」

 横で見ていたスピカとマトビアが、興味津々に釣竿を触って、結構適当なことを言った。

「早速、やってみよう」

 海に糸を垂らして待ってみたが何の反応もない。

 二人は飽きて、室内に戻っていった。
 
「うーん。こんなことしてる場合じゃないしな」

 視界がひらけているうちは進んだ方がいい。釣りは夜にやろう。
 撤退しようと釣竿をあげたとき、手応えがあった。

「ん? おお!? なんか釣れてる!」

 ゆっくり上に引き揚げる。
 重い。たぶん大物だ。

 声を聞きつけてマトビアとスピカが駆け上がってきた。

「何か釣れたんですか?」
「うあ、竿が折れそう!」

 ぐっと力を込めて竿をあげた。
 海面から出てきたのは、赤い塊。
 ぐねぐねして、魚とは似ても似つかない姿。

「た……タコ!?」

 とりあえず、船の上に……。
 竿先を立てると、振り子のようにタコが移動する。釣りなどしたことのない俺は、タコをつかみそこねて、後ろにいるマトビアの顔にタコが張り付いた。

「イヤー!」
「マ、マトビアー!!」
「姫様!」
 
 うねうね動くタコに触れないマトビアは、その場に倒れた。すぐに触手を剥がすスピカ。

「痛い! 吸盤が痛いです!」
「姫様、我慢して! じゃないと一生タコですよ!」

 マトビアのほっぺたに吸い付くタコの足を、ゆっくりと外す。

「すまなかったマトビア……まさかタコが釣れるなんて思わなかったのだ」

 大陸一の美貌がタコまみれに……。俺は妹の顔が傷つかないよう、祈りながらタコを剥がした。

「とれた!!」

 腕に絡まったタコをスピカは客間の台所に連れていく。短剣を取り出して、タコに突き刺した。

「地獄に落ちろ! タコ野郎!!」

 とんでもない言葉を口にしながら、スピカはタコを滅多刺しにした。

「大丈夫か……マトビア」

 両手で顔を隠したマトビアは泣いているようだ。

「すまなかった。ちょっと、顔を見せてくれ。ケガしてないか?」
「いやですぅ……」

 泣きながら抵抗していたが、そっと手を取って顔を見る。
 ところどころ、赤い斑点がついているが数日すれば消えそうだ。

「これぐらいならすぐに元に戻るだろう」
「そういう問題じゃないと思いますけど」

 マトビアはすねて、そっぽを向いた。

 火力《ファイア》で沸騰させた海水にタコを入れて茹でると、夜の晩餐のテーブルに出てきた。

「塩味で意外と美味しいんですよ」

 スピカが勧めると、マトビアは身震いした。

「私は結構です」

 食べてみればたしかに、甘味があって歯応えもあり、美味い。

「たしかに美味いな」

 それに釣られて、マトビアもフォークでタコを刺した。
 じっくりとそれを見た後、口に入れる。

「あ」

 と、頷いて目を丸くした。

「美味しい、かもしれません。でも……」
「でも?」
「アゴが痛いです……」
「「たしかに……」」

***

 早朝、まだ陽が昇る前。タービンを回して船を前進させた。

 陸にはもやがかかり、空気が冷たい。周囲を確認すると、ぼんやりと入江に明かりが見えた。

「ん? あれは……港か?」

 こんなところに漁港はなかったはずだが、しかし篝火が並んでいる。
 かなり小規模な港で、漁村といった感じだ。

「地図に載らないぐらいの村か。修繕する設備はあるだろう」

 進路を変えて港に近づく。
 山に挟まれたような村はひっそりとしていて、フジツボだらけの古い桟橋が目に入る。まだ寝ているのか、村人が見当たらない。

 係留してタラップを架けると、スピカが操舵室から顔を出した。

「ここはどこですか?」
「分からん」

 篝火があるということは、人はいるはずだが、その気配さえない。
 船を持ち上げる上架施設があるので、使わせてもらいたいところだが。

「なんか、不気味ですね。モンスターとかでないですか」
「ベギラス領にモンスターなど出ないだろ」

 ベギラスが中立国を侵略する際に、口実とするのがモンスターだ。モンスターのない平和な領地を実現することが、侵攻の大義名分。
 まあモンスターがその地からいなくなったあとは、モンスターより厄介な帝国の使者が残るのだが。

 桟橋の横にある古い家屋が管理小屋なのか。その扉を叩こうとした時、村の奥で男たちの怒鳴り声が聞こえた。
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