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陽の当たる地獄
しおりを挟む生ある者の目指す場所
死を前に穏やか
寂滅こそ我が救いである
死ぬには丁度良い、月がよく見える夜のことだった。
家に帰ってからの私は収集している球体間接人形を眺めながら、ブランデーを呑み出した。
この儀式を飾る鹿の頭蓋骨。死臭をかき消すお香。
陽に弱い私の為の蕁麻疹の薬と、嘘を吐いて処方してもらった睡眠薬、合わせて120錠を一つずつ取り出していた。普段一つしか飲まない薬を既に50錠も取り出す辺りで、その非常識な現実と指先の痛さが相まって笑いが込み上げた。「こんなの死んじゃうよ」と一人でかなり笑っていた。
全て取り出すと、これまた異様なもので木製の器の中で白い錠剤がじゃらじゃらとある。中々面白いものでそれをチャーハンのように振っていた。非現実が目の前にあったが、強いお酒のおかげで恐怖はなかった。
だが、それから小一時間。じゃらじゃらと振るだけでその先には中々いけなかった。ラムネならまだしも、目の前にあるのは異物だ。薬と言うよりプラスチックに見えた。人形を眺めながら想いに耽っていた。お香が目に染みる。
時間を置けば気が変わってしまう。それだけは怖かった。意を決して目の前の異物を三回に分けて酒で流し込んだ。
これで美しい死を手に入れられる。そう思うとじわりと汗が滲んだ。その時の感覚を例えていうと、現金が無いのに高額の買い物をした時と似ていた。私は死を買って、その支払いをこれから踏み倒そうとしているのだ。
覚悟を持ってしても嫌な汗の一つや二つは出てしまう生理現象を超越できないあたり、私はまだ死を愛しきれていない。
それから、睡眠薬の効き目はかなり早かった。程よい睡魔を感じ、私は一粒二粒と涙を流すと横になる。後悔はないがこの体は正直な反応を示す。
これから虚無に還り、全ての業から解放され、寂滅為楽を迎えるのだ。部屋の明かりを消すと、静謐と寂滅が私をソファーに沈めていく。ここ1年程、質の良い睡眠は取れていなかったものだから、最高の幕引きだと思った。
「生ある者の目指す場所 死を前に穏やか 寂滅こそ我が救いである。」
辞世の句を読み眠りについた。
この世界に生きるに至らなかった私を許して欲しい。最後にそう思いまた一粒涙を流した。
しかし、地獄は私を叩き起こした。目の前に広がる暗闇。頭痛と目眩、そしておびただしい汗。暗闇のせいか出血しているのではないかと勘違いする程であった。それと何人もの男が部屋のあちらこちらにいて私を睨んでいた。
携帯で時間を確認して私は絶望した。
「しくじった」
2時間しか経っていなかった。
足の感覚はなく、部屋が傾いているようであった。私は思った。苦痛と凄惨を避けた死を選んだつもりでいたが、楽な道を選んだ罰かまたは呪いだろうか。これから長く苦しんで死んでいくのだ。
ああ残念だ、と自嘲気味に笑った。後頭部から流れる汗はまるで誰かに水をゆっくり掛けられているようだった。
君は死を怖れたことはあるだろうか。
幼少の君は、死を抽象的に暗闇と分類し、夜や押し入れに恐怖を抱いたのではないか。
私も3つのときには、漠然と死の世界を想像していた。その頃から私は考えていた。死とは何ぞやと。叶うのなら、理想の生き物に生まれ変われる世界であればと願った。蝶や花、または木に私は成りたかった。
だが、死とは生きていない状態であるってだけで、それ以外の概念や価値観やら教義なんてものは、生きている者が勝手に決めた世界なのだ。
それは3才の無知な私が勝手に決めた設定と何一つ変わらないのである。
12歳の頃には生きるのが億劫であると感じていた。特に独りの時はそんな下らないことで悩んでいた。
呼吸が面倒だとは思ったことないだろうか。心臓の鼓動や、目を瞑っているのに見える抽象画や、耳を押さえても聞こえるさざ波が、煩わしいと思ったことはないだろうか。問答無用に突き付けられた生。私たちは生きることを強要されている。生まれ落ちた罪と生きる罰。私にはこの世界こそ地獄に見える。
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