短編

椎名菖蒲

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猫の命日 夢を見る

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 私には大切な家族がいた。
 名前は「ひなた」三毛猫だ。
 十八年前に兄が拾って来た。
 私はその奇妙な生き物を初めはモルモットではないかと思った。
 ひなたは3ヶ月かちょっとで粉うことなき猫になった。
 動物に対するキュートアグレッションを持つ私には刺激の強い見た目で忌避するべきものだった。
 小さなひなたは鋭い爪で布団に入る私の足を引きずり出そうとする。その痛さと言ったら微睡みから現実に戻るほどだった。
 1年もすれば相当に大きくなり、鼠や蝉を持ち帰っては手見上げと言わんばかりに誇らしげであった。決して絶命はさせない鬼畜の所業に他の生き物とは違う親近感を湧かせた。その時から私はひなたに破壊衝動を一切感じなくなった。
 始めに断っておくが、私は生き物が嫌いだ。昔NHKで放送されていたクレイアニメや人形劇などの可愛らしいものを見た日には弟を一発ぶん殴っていた。
 ひなたにはその感情が一切沸かない。

 穏やかであった。散歩もいらない。特別構う必要もない。執筆をしてる時は故意に手元を荒らすが、膝に置けばブランケットにもなる。
 寒い日には湯タンポにもなって、年中側にいた。
 少し買い物に近所のコンビニを行こうものなら、店先まで来てずっと待っている。親友や兄弟でも二十四時間一緒にいれば殺意が湧く私が一心同体と言える生き物「ひなた」は生涯で唯一、時間の生き方が違う家族だった。
 ひなたはいつかの未来を知っていて、私が死なないように見張っていると母は言った。

 十八年立派に生きたひなたは、家を離れて行った兄弟達全員の顔を見て、それから一週間後に亡くなった。
 虚無主義の私が言うのも可笑しいが、ひなたには安らかな眠りが永久に続くものだと祈っている。そして直ぐにそちらに行くと誓った。

 それが、一年前の話だ。
 ひなたは死んでからも私を守ってくれた。
 その一週間後に後を追った私を現実に繋ぎ留めてくれた。後遺症で苦しむ私の背中に二匹程の猫を引き連れて、絶えず踏み続けてくれた。死んでも魂は残り続けると教えてくれた。
 ひなたは人間にして八十歳まで生きた。
「お前はまだ若すぎる」と言わんばかりに拒絶されてしまったと笑いながら私は話した。

 そして命日の今日の朝には夢にまで出てきてくれた。
 沢山の猫に群がれている私の膝元に乗って、ただ私が撫でている夢だった。
「まだ生きているか」と言いに来たのだろうか。

 夢から覚めると冷たい布団の中にはその湯タンポはいない。
 それでもいつかの影は未だに消えることなく私の側にある。
 今日も生きるか。そう感じられた今日この頃。


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