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丹波酒店の人々
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「状況は分かりました。ともかくまず居なくなった場所まで案内してくれますか?」
駆け付けた修也の両親と店の従業員だという人物に対面した恭太郎は母親のその言葉に頷いた。
「はい。目印に修也さんのリュックを置いてきてあるのですぐ分かります」
そして恭太郎を先頭に四人は山道へと入った。
「君は修也の大学の後輩ではないんだね?」
真後ろを歩く父親が恭太郎に尋ねた。
ガタイの良い修也とは対照的に痩せぎすで覇気のない感じの印象だ。
「はい、大学は違います。うちのサークルの先輩に修也さんの友人がいて、その関係でたまに顔を出すようになったみたいです」
「そうなのか・・・・こんな所に来なけりゃな──」
「今そんなことを言っても仕方ないでしょう? あの子は子供の頃から山が好きだったし最近はひとりであちこち登りに行ってたんだから。そんな先で行方不明になってたらどうしようもないんだし、せめて今日は二人だったからこうして知らせてもらえたんだから探しようがあると思わなきゃ」
「まあ・・・・そうだな」
母親の方は声も大きく父親よりも背が高く若い頃は水泳でもしていたような肩幅のある体格で修也が母似なのが見てとれた。
「で、どのくらい先なんだい?」
木原というアラサー風な従業員男性が最後尾から恭太郎にそう問い掛けた。
「休まず少し早足ペースで行けば一時間半はかからないと思います。先輩とは話しながらゆっくり歩いて二時間くらいだったので」
「は~、そんなかぁ」
いかにもダルそうなその口調からは修也を心配している感じはしなかった。
「何で山とか来るんだろ。俺には考えられないなぁ」
愚痴ともとれるその言葉はさらに修也を突き放して見ているような風だった。
たぶん定休日にこんな所に連れて来られた不満からなのだろう──恭太郎はそう思った。
それからしばらく黙々と歩き続け、途中一度だけ水分補給の休憩をしたのち、やがて一行は例の分岐の場にある岩の辺りへと近づいた。
「もうすぐです」
恭太郎は気が急く思いで足早になる。
あと少し、目印に修也のリュックを置いてきた岩が──
「え!?」
たどり着いた先にリュックが──無かった。
その代わり、岩に文字が・・・・。
【ありがとうございました】
赤い塗料で岩に書かれたそれは恭太郎を恐怖に陥れた。
消えた修也のリュック。
現れた文字。
「何、これは。修也の荷物は? ここに置いたんじゃなかったの?」
丹波の母親の苛立ちの混じる声が恭太郎の耳に刺さる。
「いや、あの・・・・確かにここに置いて──」
「でも無いじゃない? それに何なのこの文字。赤で書かれてて気味が悪い。ねえ、本当にここなの? 間違えてない?」
「いえ、ここです、この分岐で間違いないんです」
「じゃ、これは? この岩に最初から書いてあったの?」
「無いです。こんなの・・・・無かったです」
そう言いながら恭太郎は混乱を隠しきれないでいた。
(何で・・・・どういうことだよ)
思考がぐるぐる回る。
「なあ、観月君、だっけ? 君、本当は何か知ってるんじゃないの? ていうか君が修也君をどうにかしたとか? なんてね、はは」
「おい、ふざけてる場合じゃないぞ」
「あーはい、すいませんっ」
木原のとんでも発言を修也の父親がたしなめる。
が、恭太郎の中には言い様のない怒りが沸き上がった。
「あるわけないじゃないですか、そんなこと! だったら知らせたりなんかしませんよ」
「あー悪い悪い。だよな、わざわざ連絡しないよな、はは」
どこまでも人を食った物言いしか出来ないような木原を恭太郎は睨み付けた。
それを横目に母親が口を開く。
「ともかく、こんなことになってるなら私たちでこの辺りを捜索するのは無理よ。だって修也のリュックを持ち去った何者かがいるってことでしょう? わざわざ岩にこんな気味の悪い文字を書いて。今だってどこかに潜んでるかもしれないし・・・・警察、やっぱり通報しましょう」
「そうだな、そうしよう」
修也の両親の意見が一致し、早々に引き返すことになった。
が、木原が言う。
「えー、でももしかしたら修也君がここまで戻れてリュック拾って別ルートで山から出るとかないですかね?」
「だったらこの"ありがとうございました"は何? こんなことわざわざ岩に書く? こんな意味の分からない悪戯みたいなことをする子じゃないわよ。だいたいこんな赤い塗料なんか山に持ち歩いてないでしょう? ねえ、観月君」
母親が恭太郎に言葉を向けた。
「あ、はい」
「それに過去形って言うのがまた気持ち悪い。ありがとうございました・・・・何だかすごく嫌だわ」
確かに・・・・と、恭太郎もそう感じた。
ありがとうございました──感謝の言葉がこれほど不気味に思えたことはなかった。
同時に恭太郎の脳裏にあの古びた軽トラから現れた男が吐いた言葉が蘇った。
いなくなった?
そりゃいいや。
わざわざねぇ。
あれは一体──どういう意味だったのだろう・・・・。
駆け付けた修也の両親と店の従業員だという人物に対面した恭太郎は母親のその言葉に頷いた。
「はい。目印に修也さんのリュックを置いてきてあるのですぐ分かります」
そして恭太郎を先頭に四人は山道へと入った。
「君は修也の大学の後輩ではないんだね?」
真後ろを歩く父親が恭太郎に尋ねた。
ガタイの良い修也とは対照的に痩せぎすで覇気のない感じの印象だ。
「はい、大学は違います。うちのサークルの先輩に修也さんの友人がいて、その関係でたまに顔を出すようになったみたいです」
「そうなのか・・・・こんな所に来なけりゃな──」
「今そんなことを言っても仕方ないでしょう? あの子は子供の頃から山が好きだったし最近はひとりであちこち登りに行ってたんだから。そんな先で行方不明になってたらどうしようもないんだし、せめて今日は二人だったからこうして知らせてもらえたんだから探しようがあると思わなきゃ」
「まあ・・・・そうだな」
母親の方は声も大きく父親よりも背が高く若い頃は水泳でもしていたような肩幅のある体格で修也が母似なのが見てとれた。
「で、どのくらい先なんだい?」
木原というアラサー風な従業員男性が最後尾から恭太郎にそう問い掛けた。
「休まず少し早足ペースで行けば一時間半はかからないと思います。先輩とは話しながらゆっくり歩いて二時間くらいだったので」
「は~、そんなかぁ」
いかにもダルそうなその口調からは修也を心配している感じはしなかった。
「何で山とか来るんだろ。俺には考えられないなぁ」
愚痴ともとれるその言葉はさらに修也を突き放して見ているような風だった。
たぶん定休日にこんな所に連れて来られた不満からなのだろう──恭太郎はそう思った。
それからしばらく黙々と歩き続け、途中一度だけ水分補給の休憩をしたのち、やがて一行は例の分岐の場にある岩の辺りへと近づいた。
「もうすぐです」
恭太郎は気が急く思いで足早になる。
あと少し、目印に修也のリュックを置いてきた岩が──
「え!?」
たどり着いた先にリュックが──無かった。
その代わり、岩に文字が・・・・。
【ありがとうございました】
赤い塗料で岩に書かれたそれは恭太郎を恐怖に陥れた。
消えた修也のリュック。
現れた文字。
「何、これは。修也の荷物は? ここに置いたんじゃなかったの?」
丹波の母親の苛立ちの混じる声が恭太郎の耳に刺さる。
「いや、あの・・・・確かにここに置いて──」
「でも無いじゃない? それに何なのこの文字。赤で書かれてて気味が悪い。ねえ、本当にここなの? 間違えてない?」
「いえ、ここです、この分岐で間違いないんです」
「じゃ、これは? この岩に最初から書いてあったの?」
「無いです。こんなの・・・・無かったです」
そう言いながら恭太郎は混乱を隠しきれないでいた。
(何で・・・・どういうことだよ)
思考がぐるぐる回る。
「なあ、観月君、だっけ? 君、本当は何か知ってるんじゃないの? ていうか君が修也君をどうにかしたとか? なんてね、はは」
「おい、ふざけてる場合じゃないぞ」
「あーはい、すいませんっ」
木原のとんでも発言を修也の父親がたしなめる。
が、恭太郎の中には言い様のない怒りが沸き上がった。
「あるわけないじゃないですか、そんなこと! だったら知らせたりなんかしませんよ」
「あー悪い悪い。だよな、わざわざ連絡しないよな、はは」
どこまでも人を食った物言いしか出来ないような木原を恭太郎は睨み付けた。
それを横目に母親が口を開く。
「ともかく、こんなことになってるなら私たちでこの辺りを捜索するのは無理よ。だって修也のリュックを持ち去った何者かがいるってことでしょう? わざわざ岩にこんな気味の悪い文字を書いて。今だってどこかに潜んでるかもしれないし・・・・警察、やっぱり通報しましょう」
「そうだな、そうしよう」
修也の両親の意見が一致し、早々に引き返すことになった。
が、木原が言う。
「えー、でももしかしたら修也君がここまで戻れてリュック拾って別ルートで山から出るとかないですかね?」
「だったらこの"ありがとうございました"は何? こんなことわざわざ岩に書く? こんな意味の分からない悪戯みたいなことをする子じゃないわよ。だいたいこんな赤い塗料なんか山に持ち歩いてないでしょう? ねえ、観月君」
母親が恭太郎に言葉を向けた。
「あ、はい」
「それに過去形って言うのがまた気持ち悪い。ありがとうございました・・・・何だかすごく嫌だわ」
確かに・・・・と、恭太郎もそう感じた。
ありがとうございました──感謝の言葉がこれほど不気味に思えたことはなかった。
同時に恭太郎の脳裏にあの古びた軽トラから現れた男が吐いた言葉が蘇った。
いなくなった?
そりゃいいや。
わざわざねぇ。
あれは一体──どういう意味だったのだろう・・・・。
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