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第三幕
【3-F】リサ・グリーン(外国人観光客)編 第三幕
しおりを挟む喉の奥から声を出そうとしたが、空気がつかえて出てこなかった。
「…No, no… I can’t.」
リサは小さく首を振り、足を後ろへ引いた。
瓦礫の隙間から聞こえる声は、まだ消えてはいない。
けれど、その声を聞き続けるほど、胸の奥の恐怖がふくらんでいった。
「外国人の自分が、間違った日本語で叫んでも、誰も手伝ってくれないかもしれない」
「余震が来たら、自分まで…」
考えれば考えるほど、足は重くなり、やがて踵を返した。
暗闇の路地を歩きながら、リサはスマホを見下ろした。
バッテリーは赤い残量表示を点滅させ、すぐに画面は暗転した。
SNSの≪#助けて≫も、光のない手のひらではただの記憶にしかならない。
避難所を探す人の流れを見失い、気づけば、静まり返った交差点にひとり取り残されていた。
冷たい夜気が肌を刺す。
震える両腕を抱きしめながら、リサは小さな声でつぶやいた。
「I’m sorry……」
その言葉を聞いた者は誰もいない。
そして彼女の足跡も、雪のように淡く夜に溶けていった。
――物語の地図に、静かな欠落が刻まれる。
[END No.6 Silent Tourist]
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