離愁のベゼ~転生して悪役になる~

ビタードール

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二章『大都市メディウム編』

第十三話『能力組手』

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 宙に浮かぶ僕から、見えてる物は少ない。
 ヴェンディが使った大きな紙、地面の切れ目、剣、犬、審判のホアイダ。
 今ヴェンディには、勝利条件になる剣が無い。
 地面に刺さった剣、あれがヴェンディの剣。
 僕の剣は右手にしっかり持っている。

「次顔を見せたら、即剣を刺してやる」

 ホアイダが、僕の方を驚いた表情で見ている。
 だが、不思議と目が合わない。
 まるで、僕のもっと上を見ているようだ。

「まさか!?」

 気付いた時には、ヴェンディが僕より高い位置に居た。
 僕より一回り大きい鷹が、ヴェンディの左手をがっちし掴んで、空を飛んでいたのだ。
 避けるのが間に合わず、ヴェンディのかかと落としを食らう。

「ちっ」
「ちゃんと剣を持たないから~」
「な!?」

 気付くと、僕の剣はヴェンディの右手にあった。
 どうやら今の一瞬で、剣を奪われてしまったらしい。

「どう避ける?マレフィクス」

 落下する僕を、追いかけるように剣が飛んでくる。
 でも、この体勢から避けるのは不可能。

「蛇!」

 しかし、ネクタイを蛇に変えて、飛んできた剣を蛇に噛ませた。

「ナイスキャッチ!ヘビーな状況乗り越えたぜ!蛇だけに!」

 蛇に剣を離させ、右手に持ち変える。
 そのまま蛇の体を伸ばし、ヴェンディの足に絡ませる。

「掴んだ」
「いいや」

 しかし、ヴェンディの体がクシャクシャになり、紙のような質感になって、地面に落ちた。
 空には、鷹だけになる。

「紙になった、のか?」
「そう、俺の能力はあらゆる物を紙にする能力……そしてこの地面も」

 ヴェンディが落ちた場所から、地面が紙になり、再びヴェンディが消える。
 今確かに、ヴェンディが地面の中に潜り込んだように見えた。

「なるほど、地面を紙にして切れ目を付ける。そして紙の姿で切れ目から地面に潜って逃れる。そういうトリックだったのか」

 よく見ると、地面のあちらこちらに、小さな切れ目がある。
 ヴェンディはさっき、このどれかの切れ目から出てきて、鷹を使って空中を飛んだ。
 と考えると、鷹も紙にして隠していたと思われる。

「取り敢えず、奴の剣を確保しなくては」

 ヴェンディの剣を取りに行く為、一番初めの切れ目がある場所に向かって、素早く低空飛行をする。
 剣は先程同然、大きな紙を挟んで地面に刺さっている。

「これを取れば奴に攻撃手段が無くなる!」
「来ると思ったよ」

 しかし、切れ目からペラペラでクシャクシャのヴェンディが出てきて、僕より先に剣を手に取った。
 そして、流れるように剣を僕の胸元目掛けて振るう。

「ヘヘッ!ペラペラでクシャクシャなその姿、似合ってるぞヴェンディ!」

 しかし大きな紙を拾い、ヴェンディに被せて視界を奪う。
 そして、ヴェンディの頭を紙越しに抑え、剣を振るう。

「解除」
「なにぃ!」

 瞬間的に、紙が石レンガになり、剣を弾いてしまう。
 そして、再び石レンガから紙になり、ヴェンディの剣が紙を貫通して、僕の腕に当たった。

「そこまでです、勝者ヴェンディ」

 審判であるホアイダが、手を上げて勝敗を口にする。
 結果は見ての通り……僕の負けで、ヴェンディの勝ちだ。

「マレフィクス、お前結構強いんだな。最後の方は結構焦ったよ」
「フンッ、本気出せば勝ってたさ」
「負けた奴は皆そう言うぜ?」
「今からデスマッチに変えて、戦いを続行しても良いんだよ?」
「良いよォ、勝敗は変わらないし」
「ダメです。デスマッチはしないで下さい」

 ホアイダが、僕とヴェンディの間に割って入る。
 そして、ヴェンディの剣を取り上げた。

 にしても、勝ち誇るヴェンディを見ると殺意が湧いてくる。
 本来の能力なら勝ってたし、魔法ありなら尚更勝ってた。
 それでも、ルール上で負けたのは僕……授業と言えど、凄い悔しい。

「けど、二人共凄いです。能力を上手に使った面白い試合でした。私に能力が無いってのもありますけど、少し憧れます」
「いやいやどうも!」
「フンッ!僕本当は勝ってたし!今度は勝つし……。戻れ、犬と蛇」

 犬と蛇をワイシャツとネクタイに、背中の羽根をカーディガンに戻す。
 少し拗ねながら、元に戻った衣類を着る。

「お前のその能力は、服を動物に変える能力か?」
「衣類を生物に変える能力……見たことない生物と、人間には変えれない」

 本当は『見たこと』ではなく『殺したこと』だけどな。
 流石に本当のことを言うと、僕が犬や烏を殺したことがあるのを知られる。
 別にいいけど、ヴェンディに言うと厄介なことになるから、ごまかしとく。

「君のあらゆる物を紙にする能力、詳しく教えてよ」
「良いぜ。戦いの中で使った能力の応用を、説明しながら教えてやろう。まず最初に投げた紙の手裏剣、あれは剣を紙にして作った物。物に触ると瞬間的に紙になり、三秒以上触れば折り紙サイズにすることができる」

 つまり、最初の手裏剣は、折り紙サイズにした剣を投げた物ってことか。

「そして紙にした物は好きな時に解除できる。『解除』と思えばそれだけで元に戻る」

 すなわち、投げた手裏剣を僕の上で『解除』することで、剣が降ってきたように思わせた。

「地面のような無限に広がる物は、触れてる長さで紙にする範囲が決まる。試合の話に戻すよ?手裏剣の次は、大きな紙を死角にし、地面を紙にして、紙になった場所を軽く切った」
「自分自身が紙になっていたよね?人間や魔物も紙にできるの?」
「できる。ただし、生物の場合は三秒間触らないと紙に出来ない。自分自身は例外だけどな」

 自分自身を瞬間的に紙にし、地面に切れ目を入れることで、そこから地面を自由自在に潜れることも可能か。

「あの鷹は?」
「あぁ、俺のペット。名前はボブ、いつも紙にして連れている」
「お腹空いたり、死んじゃわないの?」
「生物が紙になってる間は、その生物の時間は止まる。つまりお前を紙にして100年後に解除しれば、お前は12歳のままってこと。勿論、自分自身は例外」

 もしかしたら、鷹のボブ以外にも便利な生物を連れているかもしれないな。
 馬とか象とか、あるいは魔物とか。

「複雑だけど、かなり強い能力だね」

 ――僕の方が強い能力だけどね。用が無くなったらその能力も奪ってやる。

「お前の能力もかなり強いだろ。魔物とか習得したら俺勝てない自信ある」
「魔物……」

 そういえば、魔物を殺してこの能力を強くしときたい。
 この都市にはギルドがあったはず……確か13歳から登録可能。
 もしギルドに登録し、依頼を受けることが出来れば、魔物が多く居る場所に行き、多くの魔物を狩れる。
 そしたら、能力がより強くなる。

「今日何日?」
「え?確か五月二十九だったはず」

 僕の誕生日は六月十三日、あともう少しだ。

「……皆誕生日は?」
「急にだな」
「プレゼント、準備したくてね」
「やっぱお前、悪い奴じゃないな」
「良いから言えよ」
「二月十二日」
「ホアイダは?」
「十二月六日です」

 二人共僕より遅生まれ。
 これならギルドに登録した後、二人にばったり会うことは無いだろう。

「僕は六月十三日、プレゼントちょうだいね?」
「お前、自分がもう少しで誕生日で、プレゼントが欲しいから聞いたんだな?」
「悪い?」
「いいや、むしろそういうの好きだぜ」

 情報をより得る為、より強くなる為、ギルドに登録しよう。
 来月が楽しみだ。
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