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三章『世界旅行編』
第三十話『旅行の締まり』
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世界番号1、バグー。
ここはかつて、カタラ人が住んでいた国だ。
そのせいか、バグーの人々はカタラ人を無念に思っている。
比較的豊かで、穏やかな国だ。
「気持ち悪いです」
「ヴェンディが?」
「違います。体がです」
「じゃあ、あのカタラの石の近くのベンチで休もう」
カタラの石があるこの街『アヴァロン』は、バグーの首都だ。
街も人も綺麗で、海も近く、素晴らしい街だ。
ここら辺の白い砂地やなごり雪は、かつてのカタラ人を連想させる。
石の周りは、祭りを賑わうかのように人々や屋台がカタラの石を囲んでいる。
僕らは、その人混みを避けて空いてるベンチに座った。
「ありがとうございます」
「お腹空いたから色々買ってくる。何か要るかい?」
「私は大丈夫です」
「飲み物」
「分かった」
僕は二人に荷物を預け、財布を持って屋台の方に向かった。
* * *
抹茶色のワッフル、見た目がりんごのパンケーキ、宇宙を連想させる飴、点滴の容器に入ってる赤ワイン。
どれも見たことのないような、おもしろおかしい物を買ってみた。
ちなみに、ヴェンディにはバナナとミルクといくつか調味料を混ぜた飲み物、ホアイダにはポカリスエットを買った。
「邪魔な奴らだ」
人混みが邪魔で、持っている物を落としそうだったので、空を飛んで上から二人が居るベンチに向かった。
「辛いなら肩貸すぜ」
「ありがとうございます……ヴェンディ」
僕が二人の元に着くと、ヴェンディの肩にホアイダの頭が軽く乗ってた。
肩ズンされてヴェンディがデレデレしている。
「何ニヤニヤしながら肩に手を回そうとしてんだよ」
「ギクッ!」
「このエロ吉の擬人化が」
僕が嫌悪の目を向けると、ヴェンディはゆっくりと手を下げた。
「良いだろ別に」
「開き直るな。ほら、飲み物でもしゃぶってろ」
「どうも」
ほんの少し妙なことに、ホアイダが目を瞑ったまま苦しそうにしている。
船酔いしたには度が過ぎるような表情だ。
「こいつまさか……」
ホアイダ額を触ると、明らかに常温ではない熱さだった。
「はぁ……はぁ……」
「熱あるな……」
「まじかよ」
「取り敢えずどこか――」
ホアイダだけでなく、周りの人々も妙な感じだった。
周りの人々全員が、明らかに僕らの方を見ているのだ。
最初はホアイダを見ているのかと思った。
ホアイダが苦しそうだから……あるいはホアイダがカタラ人に見えるから。
そのどちらかの理由で見ているのかと思った。
しかし違った。
人々の目線はヴェンディへ送られていた。
それも嫌悪の目だ。
「何か俺、見られてる」
「何見てんだよ」
凡人でも分かるように、殺気を出して周りを脅す。
人々は一歩二歩と後退りをしながら、見てないふりをするが、目線は止まない。
「ヴェンディ、僕とホアイダの荷物を持て。この場を立ち去るよ」
「あぁ」
立ち去ろうとした瞬間、銃声音がした。
引き金を一回引き、弾丸が一発放たれた大きな音だ。
「あ……ふっ、は……」
その弾丸は、ヴェンディの頭の手前でシュ~と擦れた音を立てて止まった。
――能力番号9『皮膚の一部を硬くする能力』。
僕がこの能力で指を硬くして、ヴェンディ目掛けて放たれた銃弾を摘んだのだ。
僕の人間離れした動体視力と咄嗟の判断力が無ければ、ヴェンディは死んでいた。
まったく、僕って凄いや。
それはともかく、今銃弾を放ったのは人混みの中に居る一人だ。
ヴェンディに嫌悪の目線を送る人々、そして今の暗殺未遂……謎が解けた。
「あっ、ありがと……俺お前居なかったら、死んでた」
「分かった。こいつらは君が王の血を引く王族だということを知っているんだ」
「それが何なんだよ?」
「この国の人々は過去のことから王族を嫌っていると習っただろ?その嫌われ度は僕らの想像以上だったってこと」
「けど今は王族なんて何の権力も無いし、血が通ってるってだけだ」
「関係ない……きっとこの国は王族の顔や名前を知っている。悲劇を忘れない為に」
かつてヴェンディの先祖、『アーサー.ヒカイト.ディレン』がカタラ人100万人を魔法の犠牲にした。
その過去をここまで恨んでいるとは思っていなかった。
「過去に縛られたアホ共め。行くよヴェンディ、こんな国一刻も早く立ち去ろう」
「うん」
人間の負の感情は、大きな悪になりかねる。
しかしそれは、僕が目指す悪とは違い、酷く醜い悪だ。
* * *
結局僕ら三人は、バグーの外れにある街の外で一夜を過ごした。
ホアイダが熱を出した為、外で寝泊まりするのは大変だだった。
ずっと魘されてたホアイダを、僕とヴェンディが交代で看病する羽目になった。
「マレフィクス、お前弾丸摘めるの凄いな。皮膚どうなってだ?」
「ハンカチを皮膚の硬い魔物にして掴んだんだよ。君も早く寝な」
「けど、街の外は壁が無いから魔物が居る……一人じゃ危険だ」
「大丈夫さ。布で創った魔物に見張らせている」
「そうか……お前には助けられてばかりだな」
翌日、ホアイダの体調は良くなっていた。
しかし、病み上がりということもあり、少しだるそうだ。
「もう不要な観光は出来なそうだね。真っ直ぐ帰ろうか……僕らの国へ」
* * *
世界番号6のエレバンに着くまで、馬で丸二日掛かった。
故郷の大都市メディウムには、あと一時間で着く。
「なぁマレフィクス、この近くに海辺がある」
「知ってる」
「寄らねぇか?最後に海を見てこの旅行を締めくくりたいんだ」
「良いけど、なぜ海を見たいの?」
「同じ時間と同じ光景を共有したいから……三人の誰かが明日死んでしまうかもしれない……だから今日見よう。なぁ、良いだろ?」
「フンッ、変な奴……まぁいいよ」
ヴェンディの提案で海辺に向かった。
正直、夕日が落ちる瞬間の海辺は美しかった。
世界が海という鏡に綺麗に映され、空で雲が穏やかにお昼寝をしている。
「綺麗ですね」
「ホアイダも負けてないぜ」
「黙ってろよ」
数分後、あっという間に夕日が落ちてしまった。
暗くなった海は、眠ったように何も映さなかった。
「冷たい」
「何してんの?」
暗くなったのを見て、ホアイダが海にゆっくりと足を入れた。
そして、バッグからランタンを取り出し、海に浮かべた。
「海を見たの初めて何です。勿論、海に足を入れたのも」
「あっそう」
「二人も海に浸りましょうよ」
ホアイダは僕とヴェンディの手を取り、少し強引に海に僕らを連れ出した。
さっきまで元気無かったのに、今は無邪気で控えめな笑顔だ。
「おぉ!」
「フンッ」
「ほら、心地良いでしょう?」
壊したいこの笑顔。
だが、流石に今は壊さない。
「「わッ!」」
代わりに、ヴェンディとホアイダの背中を引っ張り海に落とした。
「てめえ!」
「倍返しです」
ホアイダに水魔法を放たれたことで、僕は吹き飛ばされ海に落ちた。
「ハハッ!フォティア.ラナ」
「バカ!笑顔で魔法を唱えるな!」
火の玉を二人の近くの海に放ち、激しい水しぶきを起こす。
水しぶきは、二人を軽く高い高いした。
「うあぁ!」
「あはは!」
10分間、疲れ果てるまで水を掛け合った。
海浮かぶ僕らは、誰よりも青春を満喫していた。
「フフッ、思い出がまた一つ……出来たね」
思い出はスパイスだ。
両親を殺した時もそうだった……思い出があるからそこにドラマがあり、殺す時には不思議な美しさがある。
そこには、バグーの人々が憎しみでヴェンディを殺そうとした時のような汚さはない。
あるのは、限りなく愛情に近い海のような美しさだ。
僕はそういうひと手間加えた悪事が好きだ。
何故ならそれが、いつも僕を悪役として成長させてくれるからだ。
過程や方法というのは、結果以上に大事になることがある。
つまり何を言いたいか?
僕は結果を楽しむだけの悪役にはなりたくないってこと。
結果もそうだが、過程を楽しむ純粋で絶対的な悪で居たいってことさ。
ここはかつて、カタラ人が住んでいた国だ。
そのせいか、バグーの人々はカタラ人を無念に思っている。
比較的豊かで、穏やかな国だ。
「気持ち悪いです」
「ヴェンディが?」
「違います。体がです」
「じゃあ、あのカタラの石の近くのベンチで休もう」
カタラの石があるこの街『アヴァロン』は、バグーの首都だ。
街も人も綺麗で、海も近く、素晴らしい街だ。
ここら辺の白い砂地やなごり雪は、かつてのカタラ人を連想させる。
石の周りは、祭りを賑わうかのように人々や屋台がカタラの石を囲んでいる。
僕らは、その人混みを避けて空いてるベンチに座った。
「ありがとうございます」
「お腹空いたから色々買ってくる。何か要るかい?」
「私は大丈夫です」
「飲み物」
「分かった」
僕は二人に荷物を預け、財布を持って屋台の方に向かった。
* * *
抹茶色のワッフル、見た目がりんごのパンケーキ、宇宙を連想させる飴、点滴の容器に入ってる赤ワイン。
どれも見たことのないような、おもしろおかしい物を買ってみた。
ちなみに、ヴェンディにはバナナとミルクといくつか調味料を混ぜた飲み物、ホアイダにはポカリスエットを買った。
「邪魔な奴らだ」
人混みが邪魔で、持っている物を落としそうだったので、空を飛んで上から二人が居るベンチに向かった。
「辛いなら肩貸すぜ」
「ありがとうございます……ヴェンディ」
僕が二人の元に着くと、ヴェンディの肩にホアイダの頭が軽く乗ってた。
肩ズンされてヴェンディがデレデレしている。
「何ニヤニヤしながら肩に手を回そうとしてんだよ」
「ギクッ!」
「このエロ吉の擬人化が」
僕が嫌悪の目を向けると、ヴェンディはゆっくりと手を下げた。
「良いだろ別に」
「開き直るな。ほら、飲み物でもしゃぶってろ」
「どうも」
ほんの少し妙なことに、ホアイダが目を瞑ったまま苦しそうにしている。
船酔いしたには度が過ぎるような表情だ。
「こいつまさか……」
ホアイダ額を触ると、明らかに常温ではない熱さだった。
「はぁ……はぁ……」
「熱あるな……」
「まじかよ」
「取り敢えずどこか――」
ホアイダだけでなく、周りの人々も妙な感じだった。
周りの人々全員が、明らかに僕らの方を見ているのだ。
最初はホアイダを見ているのかと思った。
ホアイダが苦しそうだから……あるいはホアイダがカタラ人に見えるから。
そのどちらかの理由で見ているのかと思った。
しかし違った。
人々の目線はヴェンディへ送られていた。
それも嫌悪の目だ。
「何か俺、見られてる」
「何見てんだよ」
凡人でも分かるように、殺気を出して周りを脅す。
人々は一歩二歩と後退りをしながら、見てないふりをするが、目線は止まない。
「ヴェンディ、僕とホアイダの荷物を持て。この場を立ち去るよ」
「あぁ」
立ち去ろうとした瞬間、銃声音がした。
引き金を一回引き、弾丸が一発放たれた大きな音だ。
「あ……ふっ、は……」
その弾丸は、ヴェンディの頭の手前でシュ~と擦れた音を立てて止まった。
――能力番号9『皮膚の一部を硬くする能力』。
僕がこの能力で指を硬くして、ヴェンディ目掛けて放たれた銃弾を摘んだのだ。
僕の人間離れした動体視力と咄嗟の判断力が無ければ、ヴェンディは死んでいた。
まったく、僕って凄いや。
それはともかく、今銃弾を放ったのは人混みの中に居る一人だ。
ヴェンディに嫌悪の目線を送る人々、そして今の暗殺未遂……謎が解けた。
「あっ、ありがと……俺お前居なかったら、死んでた」
「分かった。こいつらは君が王の血を引く王族だということを知っているんだ」
「それが何なんだよ?」
「この国の人々は過去のことから王族を嫌っていると習っただろ?その嫌われ度は僕らの想像以上だったってこと」
「けど今は王族なんて何の権力も無いし、血が通ってるってだけだ」
「関係ない……きっとこの国は王族の顔や名前を知っている。悲劇を忘れない為に」
かつてヴェンディの先祖、『アーサー.ヒカイト.ディレン』がカタラ人100万人を魔法の犠牲にした。
その過去をここまで恨んでいるとは思っていなかった。
「過去に縛られたアホ共め。行くよヴェンディ、こんな国一刻も早く立ち去ろう」
「うん」
人間の負の感情は、大きな悪になりかねる。
しかしそれは、僕が目指す悪とは違い、酷く醜い悪だ。
* * *
結局僕ら三人は、バグーの外れにある街の外で一夜を過ごした。
ホアイダが熱を出した為、外で寝泊まりするのは大変だだった。
ずっと魘されてたホアイダを、僕とヴェンディが交代で看病する羽目になった。
「マレフィクス、お前弾丸摘めるの凄いな。皮膚どうなってだ?」
「ハンカチを皮膚の硬い魔物にして掴んだんだよ。君も早く寝な」
「けど、街の外は壁が無いから魔物が居る……一人じゃ危険だ」
「大丈夫さ。布で創った魔物に見張らせている」
「そうか……お前には助けられてばかりだな」
翌日、ホアイダの体調は良くなっていた。
しかし、病み上がりということもあり、少しだるそうだ。
「もう不要な観光は出来なそうだね。真っ直ぐ帰ろうか……僕らの国へ」
* * *
世界番号6のエレバンに着くまで、馬で丸二日掛かった。
故郷の大都市メディウムには、あと一時間で着く。
「なぁマレフィクス、この近くに海辺がある」
「知ってる」
「寄らねぇか?最後に海を見てこの旅行を締めくくりたいんだ」
「良いけど、なぜ海を見たいの?」
「同じ時間と同じ光景を共有したいから……三人の誰かが明日死んでしまうかもしれない……だから今日見よう。なぁ、良いだろ?」
「フンッ、変な奴……まぁいいよ」
ヴェンディの提案で海辺に向かった。
正直、夕日が落ちる瞬間の海辺は美しかった。
世界が海という鏡に綺麗に映され、空で雲が穏やかにお昼寝をしている。
「綺麗ですね」
「ホアイダも負けてないぜ」
「黙ってろよ」
数分後、あっという間に夕日が落ちてしまった。
暗くなった海は、眠ったように何も映さなかった。
「冷たい」
「何してんの?」
暗くなったのを見て、ホアイダが海にゆっくりと足を入れた。
そして、バッグからランタンを取り出し、海に浮かべた。
「海を見たの初めて何です。勿論、海に足を入れたのも」
「あっそう」
「二人も海に浸りましょうよ」
ホアイダは僕とヴェンディの手を取り、少し強引に海に僕らを連れ出した。
さっきまで元気無かったのに、今は無邪気で控えめな笑顔だ。
「おぉ!」
「フンッ」
「ほら、心地良いでしょう?」
壊したいこの笑顔。
だが、流石に今は壊さない。
「「わッ!」」
代わりに、ヴェンディとホアイダの背中を引っ張り海に落とした。
「てめえ!」
「倍返しです」
ホアイダに水魔法を放たれたことで、僕は吹き飛ばされ海に落ちた。
「ハハッ!フォティア.ラナ」
「バカ!笑顔で魔法を唱えるな!」
火の玉を二人の近くの海に放ち、激しい水しぶきを起こす。
水しぶきは、二人を軽く高い高いした。
「うあぁ!」
「あはは!」
10分間、疲れ果てるまで水を掛け合った。
海浮かぶ僕らは、誰よりも青春を満喫していた。
「フフッ、思い出がまた一つ……出来たね」
思い出はスパイスだ。
両親を殺した時もそうだった……思い出があるからそこにドラマがあり、殺す時には不思議な美しさがある。
そこには、バグーの人々が憎しみでヴェンディを殺そうとした時のような汚さはない。
あるのは、限りなく愛情に近い海のような美しさだ。
僕はそういうひと手間加えた悪事が好きだ。
何故ならそれが、いつも僕を悪役として成長させてくれるからだ。
過程や方法というのは、結果以上に大事になることがある。
つまり何を言いたいか?
僕は結果を楽しむだけの悪役にはなりたくないってこと。
結果もそうだが、過程を楽しむ純粋で絶対的な悪で居たいってことさ。
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