離愁のベゼ~転生して悪役になる~

ビタードール

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四章『ベゼの誕生編』

第三十五話『復活の正義』前編

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 世界番号1のバグー、その首都である『アヴァロン』の人々が皆殺しにされた事件は、新聞一面に載り、すぐにニュースになった。

 犯人はエアスト村を襲撃した『ベゼ』。
 人の顔をしながらも、魔物のような角の生やした悪魔だと世間は言った。

 ベゼの声や顔が映された映像と、街の人々が殺し合う映像は、誰が載っけたか分からぬままネットに投稿された。

 勿論、映像をネットに投稿したのはベゼ本人である僕だ。
 カメラマンが撮ってたカメラ自体は壊れたが、データは残っていた。
 人々が殺し合う映像は、僕が自分で撮影した。

 ベゼの自己紹介である映像の方は、ニュースでも取り合えげられた。

「昨夜20時頃、エアスト村の首謀者ベゼを名乗る者がバグーの首都『アヴァロン』に魔物を引き連れ現れました。ベゼの目的は世界征服であり、今後も被害を出すような発言を残しました。ベゼの見た目は魔物である為、魔王かその幹部ではないかと言われています」

 朝起きた初っ端でこのニュースだ。
 見てて気分が良い。

「我はベゼ!エアスト村を襲撃した者だ!そして今回この街も破壊し尽くす。そして宣言する!我は世界を征服する!それでは皆の衆、今夜も……goodグッド lackラック!」

 しっかりベゼの自己紹介映像も流してくれている。
 世間は思い通りに動いてる。

 ネットには、セイヴァー目撃の発言やベゼの正体など、目撃情報や考察で溢れかえってる。

「世も末じゃの。魔物がこんなに大きく人の世界に足を踏み入れるなんて……近年で初じゃ」

 セスターの爺さんは、ニュースを見て険しい表情を浮かべる。
 家にベゼが居るのに、知らずにニュースを見てるなんて、面白い光景だ。

「おはようセスターさん」

 僕が挨拶をしながら一階に降りてくると、セスターはすぐにテレビの電源を切った。
 セスターから見た僕は、故郷であるエアスト村を襲撃したベゼを恨んでいる純粋無垢な子供だ。
 気を使ったのだろう。

「おはよう。時間がないぞ、早くご飯を食べなさい」
「はーい!」

 バグーの首都アヴァロンを襲撃した翌日である今日、学校にはいつも通り通った。
 これは昼食の時知ったが、ヴェンディは休んでいた。
 流石に精神的に参ったのだろう。
 だが僕は、ヴェンディがセイヴァーとして復活し、立ち上がることの出来る人間だと信じている。

「マレフィクス、首どうしたのですか?」

 ホアイダが、包帯が巻かれた僕の首を見て聞いてきた。
 昨日、セイヴァーに切られた傷だ。

「昨日クエストで怪我したの」

 ホアイダは、僕の首の包帯に優しく触り、包帯をゆっくりと取り、直接首を触った。

「なに?」
「治します。痛いのは辛いですから」
「……どうも」

 今日のホアイダは何だか寂しそうで、少し落ち着いている様子だった。
 僕の首の傷も、治癒魔法でいとも容易く治した。

「今日、ヴェンディ見ましたか?」
「見てない」
「私も見てません」

 何か妙なくらい、ホアイダの表情は変わらない。
 結局今日はずっと、曇った空のような雰囲気だった。

 *(ヴェンディ視点)*

「ヴェンディ!どうしたの!学校行かないの?」
「具合い悪い……今日は休む」
「そう……分かったわ」

 母は、学校に行かずにベッドに潜り混んでいる俺を気にかけに来た。
 具合い悪い……半分嘘だが、半分本当だ。

 体的には具合い悪いはないが、心と精神は吐き気がするほど具合い悪い。

「怖い……マレフィクスが怖い……俺より圧倒的強い訳じゃないのに……圧倒的な何かがある」

 体の震えを止められなかった。
 夏が近付いてきてる時期なのに、寒気まで感じる。

 昨日は散々だった。
 ベゼを殺したと思えば生きていて、偽物が数人現れたと思えば本物が来て、ホアイダを人質にし、街の人々を一人残らず殺した。
 それも俺の前で……。
 何もかもどうでもいいと思いたくなる。

「入るわよ!」

 昼過ぎ、母がお粥を持って部屋に入ってきた。

「ありがとう……えっ?」

 母と一緒に、見たことある白髪の子供が、当然のように部屋に入った。

「友達がお見舞いに来てくれたわよ。さっきお粥作るのも手伝ってもらったの。ゆっくりしてってね、ホアイダちゃん」
「ありがとうございます」

 白髪の子供――ホアイダは、お粥を母から受け取り、俺の近くの机に置いた。
 母は少しニヤニヤしながら、部屋を出て行く。

「体調の方はどうですか?」
「正直あまり良くない。完璧に、風邪引いた」
「そうですか」

 まだ1時くらいなのに、ホアイダがお見舞いに来た。
 つまり、学校を早退してまでいち早くお見舞いに来てくれたのだ。
 その事実に、俺は少し感動した。

「お粥食べますか?」
「食べる」

 震えながら状態を起こし、ベッドの上で食べる準備をする。

「熱いですから、気を付けて下さい」

 しかし、お粥はホアイダが持ったまま、木のスプーンで一口分掬った。

「え?食べさせてくれの?」
「自分で食べるのは辛いかと思いまして……。それとも自分で食べますか?」
「いや、食べさせてくれのならお言葉に甘える。出来ればふうふうしてくれ」
「ふぅ、ふぅ……どうぞ」
「あ~ん!んまぁ……」

 ホアイダが熱々のお粥を優しい息で冷まし、それを俺の口に運んでくれる。
 心が温まるようだった。
 やっぱ今現在、はっきりと友達と言える存在で、心の支えであるのはホアイダだ。

「慌てないで、ゆっくり食べて下さい」
「むしゃむしゃ」
「……ポム吉みたい」

 ホアイダは頬を赤らめながら、ポム吉を俺の枕の隣に置いた。
 そして、俺とポム吉を観察するように見比べる。
 ポム吉は、少し笑ってるように見える。

「ありがとう」
「いえ」

 お粥を食べ終えた。
 震えや寒気はまだあるが、かなり和らいだ。

「今週はもう休みですけど、来週からは来て下さいね」
「……あぁ」

 俺の返事は自信のない返事だった。
 おかげで、ホアイダの心配の表情がまだ止まない。

「えっ?」

 突然だった。
 ホアイダが俺を優しく抱き締めた。
 状況が分かってたら大喜びだったが、状況が分からなかったから戸惑った。

「どうですか?」

 しばらくすると、抱き締めるのをゆっくり止めて、悲しそうな表情を浮かべた。

「最高……です」
「本で読んだんです。ハグをするとストレスが無くなると……実際、どうでした?」
「無くなった……気がする」
「それは良かったです」

 ホアイダがちょっと笑った。
 今日初めて見る人の笑顔だ。

「それでは、私は帰りますから。お大事にしてください」

 気付くと、俺の震えは止まっていた。
 どう考えても、お粥とハグのおかげだろう。

「守りたいあの笑顔……。あぁ、そうか……そうだった……俺に出来ることなんて限られているんだ。出来ないことに絶望し、出来ることを放棄してしまうところだった」

 俺の心は立ち上がりつつあった。

「怖がるな。勇気を持つんだ……心配するな集中しろ。今日という日に集中し、明日以降のことは考えるな……ベゼという悪に負けてたまるか」

 ホアイダというきっかけを得たことで、絶望していた気持ちを正常に戻せそうだ。
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