離愁のベゼ~転生して悪役になる~

ビタードール

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四章『ベゼの誕生編』

第三十八話『魔王軍幹部』前編

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 怪我人を救助していた冒険者達は、手を止めてドラゴンの死体の血を舐めてる魔物を警戒していた。
 魔王軍幹部を名乗った魔物――オルニス.ルスキニアは、数十人の冒険者を前にして一歩も引かない。

「魔王軍?魔王の手下ってことか?」
「どっちにしろ言語を話せるだけの知識はある魔物だ。気を付けろ」
「殺していいのか?」
「躊躇するな」

 数人の冒険者達が、距離を取りながらオルニスを囲むように回り込む。

「魔法領域」

 しかし、オルニスが頭に生えている羽根を天に突き上げるように広げる。
 同時に、このミラク村全体を囲む赤い光が現れる。
 その赤い光は禍々しい結界のようだ。

「何だこれ?」
「構うなやれ!」
「光魔法!ライト.ファロン!」

 冒険者の一人が光の魔法を唱えた。
 しかし、不思議なことに魔法は放たれず、何も起こらない。

「魔法が出ない?」
「人間って、バカで弱いのに……何でいっぱい居るのだろう?分からないが、私がいっぱい殺せば問題ないか」

 オルニスはそう言って、背伸びをし、体に身に付けている鳥のような毛を硬化させた。
 色が銀色に変わり、柔らかそうには見えない。
 そして、その硬化させた羽根を弾丸のように冒険者達目掛けて飛ばす。

「ぐはぁ!?」
「伏せろ!皆伏せろ!」
「がはぁ!?」

 冒険者の何人もが羽根を受けて怪我をする。
 近くに居た冒険者はほとんど死んで行った。

「やはり魔法が出ない。どうやらこの結界内は魔法が出せなくなっているらしい」

 オルニスから少し離れていたエリオットが、手の平を見ながら言った。

「火魔法、フォティア.ラナ……本当だ。魔法が出ない」

 さっきオルニスは『魔法領域』と言っていた。
 恐らく人間が扱えなような強力な範囲魔法だ。

「下級ランクの者は怪我人を連れて逃げろ!Bランク以上の者でこの魔物の相手をするぞ!」
「この結界で魔法は使えなくなっている!能力と武器を駆使して戦え!命の危険を感じたら遠慮なく引け!」

 冒険者達は、ドラゴン討伐の時以上の団結力を見せる。
 エリオットのような上級ランクの者がオルニスの相手をし、僕くらいの下級ランクの者が怪我人を連れて逃げる。

「弓や銃を持ってる者は下がれ!近距離武器は遠距離武器の邪魔にならないように立ち回れ!」

 体制が整ったようだ。
 ハンナのような弓を持った遠距離武器の者が下がり、エリオットのような剣を持った近距離武器の者が前に出る。

「今だ攻めろ!」
「可哀想に、ここまで脳みそが使い物にならないなんて」

 しかし、オルニスは羽根と風の魔法を使って近くの冒険者を吹き飛ばした。
 強風によって冒険者は後方に吹き飛び、矢や弾丸もオルニスに届かなかった。

「人間であること自体が可哀想だ……しかし大丈夫、今生まれ変わるチャンスを与えますから」

 オルニスが羽根と羽根の間に、火の玉を作り出した。
 見たことある魔法――火魔法『フォティア.ラナ』を練り上げている。
 だが、僕の『フォティア.ラナ』とは比較にならない大きさと熱気だ。

「やばい!皆避けろ!」
「大丈夫、避けれないから」

 火の玉は、近くの冒険者に命中した。
 周りを軽く吹き飛ばし、土を深く抉る程の破壊力。
 これが、魔王軍幹部クラスの魔物が扱う魔法の威力なのだと、思い知らされた。
 それに、こんなに破壊力があるのに、オルニスは疲れを見せていない。
 魔法を使うのには体力が必要……そして魔法の威力や難易度が高い程体力をより使う。
 なのに疲れを見せていないのだ。
 つまりオルニスにとっては、大して強力な魔法ではないのだ。

「あああぁぁ!!」
「ぐあぁぁ!」
「水魔法!」
「バカ!魔法は使えねえんだよ!!」

 あまりの事態に、魔法が使えないのを忘れていた者も居るほどだ。
 さっきまで仕切っていた冒険者も何人か燃えて死んだ。
 遠距離武器の冒険者も、ビビってしまうような状況だ。

「くそぉ!」

 連携が乱れた。
 何人かが、オルニスに向かって突っ込んで行く。
 しかし、羽根の弾丸により意図も簡単に殺されてた。

「皆引け!引くんだ!こいつは俺らの手に負えない!警察や軍に任せよう!」
「今更引けると思ってるなんて……可哀想な思考回路」

 冒険者達が一斉に逃げようとするも、再び放たれた火の玉によって蹴散らせれた。
 火の玉は三つ目が放たれとうとされている。

「結界の外に出ろ!転送機が使える!」

 転送機は魔法を利用して作った魔道具……この結界内では使えないようだ。
 その為村の外に出なければ、転送機で転送することは出来ない。
 しかし、村の外まで逃げるには時間が掛かる。

「もう一発行こう」

 オルニスがもう一発魔法を放とうとしたその瞬間、何者かがオルニスの胸に弾丸を放った。

「痛てぇな……誰だ打ったの!」

 だが、弾丸は胸を貫通せず、致命傷にはならなかった。
 オルニスの魔法を止めて、彼を怒らせただけだ。
 ダメージは小さい。

「くっ!?」

 また弾丸が放たれた。
 その弾丸が放たれた方向は、ドラゴンの死体がある方向だった。

「どこだ!?姿を見せろ人間!」

 ドラゴンの口がゆっくりと空いた。

「子供……ぶっ殺す」
「可哀想なのは貴方の頭です」

 ドラゴンの口から現れたのはホアイダだった。
 知らず知らずのうちに、ドラゴンの口の中に隠れていたのだ。

「この二丁拳銃では、もっと近付かないと致命傷にはならないようですね。貴方の皮膚は思った以上に硬い」
「名乗れ人間」
「貴方のような悪い魔物に、私の誇り高き名は教えれません」
「じゃあ、黙って朽ちるように死にな」

 オルニスが再び硬化した羽根を飛ばした。
 ホアイダは飛んでくる羽根よりも早く、近くの岩に身を隠す。
 しかし、オルニスは岩に目掛けて火の玉を放ち、ゴリ押す。

「今です!」

 爆風から飛び出したホアイダは、布で火の粉を防ぎながら、オルニスの背後目掛けて叫んだ。

「何!?」

 オルニスは反射的に背後を振り向いた。
 しかし、そこには誰も何も居なかった。

「居ない?まさか?騙さ――」

 オルニスがホアイダの罠に気付いた時、既にホアイダはオルニスの間合いに入っていた。
 頭目掛けて銃を構え、既に引き金を引いた後だった。

「騙すなんて酷い子」

 しかし、弾丸はオルニスの頭には命中していなかった。
 頭から生えている羽根から毛の一つが独りでに動き、硬化した毛が弾丸を弾いたのだ。

 どうやら、オルニスの体全体に生えている鳥のような毛は、オルニスの意思で細かく動かせるようだ。

「羽根から離れた毛が、独りでに動くなんて……」
「さよなら、可愛い子」

 オルニスの羽根が、ホアイダを逃がさないように背中まで伸びた。
 ホアイダは後ろに下がれなく、捕まった状況になる。

「私の銃の方が早いですよ」
「いいや、それは勘違いだ」
「試してみますか?」

 こういう時のホアイダは、弱いくせに度胸だけはある。
 しかし、ホアイダの銃よりオルニスの羽根の方が早い。
 例えホアイダが弾丸を放ったところで、またオルニスに弾かれるのがオチだ。

 僕はそう思い、落ちていた弓矢を使ってオルニスに打った。

「いっ!」

 隙が出来たので、オルニスの羽根を双剣で切り裂き、ホアイダを抱えて一歩引いた。

「また子供」
「マレフィクス!?逃げてなかったのですか?」

 ホアイダを抱えたのは良い。
 しかしオルニスとの距離が近い……今の状況で羽根を放たれたら避けれない。

「僕は逃げない」

 オルニスが羽根を放ってきた。
 しかし僕は、近くにあった冒険者の死体を盾にして羽根を防ぐ。
 だが、その隙にオルニスが僕とホアイダの近くまで飛んで来た。

「早いね」
「何で笑ってる?死ねるのが嬉しい?」

 オルニスが、刃物のように尖らせた羽根を振りあげようとしたその瞬間、エリオットがオルニスの背中を剣で切り裂いた。

「がはぁ!!」
「習った通りだな。魔物ってのは、人を殺す時隙を見せる」

 オルニスは羽根を広げ、後方に下がる。

「ここは俺が相手する。二人は村の外に逃げろ」
「ありがとうエリオット」

 勿論、エリオットの言う通りに逃げる気はないが、ホアイダが邪魔だ。
 一旦ホアイダを村の外に逃がしてから、戦いに参加しよう。

 もしオルニスが本当に魔王軍幹部なら、僕の手で殺しておきたい。
 それに、能力番号19『衣類を生物に変える能力』でオルニスが創れるようになる可能性はある。

『ボーン.アダラ』や『タラサ.ウェルテックス』とは違って、言語を話せて知性がある魔物だ。
 それでいて、今まで会ったどの魔物のよりも強い。
 こんな面白い奴に会えた僕は、とっても幸運だ。
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