離愁のベゼ~転生して悪役になる~

ビタードール

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四章『ベゼの誕生編』

第四十一話『オルニス.ルスキニア』後編

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 * * * * *

 家や畑は、災害の後のように崩れて燃えていた。
 冒険者の死体は、オルニスの魔法によって全て黒焦げになり、体の一部がちぎれている。
 マレフィクスの能力で創られた、丈夫な体を持つドラゴンも黒焦げになってる。

「はぁぁぁぁ、スッキリした」

 上空から羽根を広げたオルニスが、ゆっくりと地に着く。
 腕がなくなり、体が潰れかけているので、とても苦しそうだ。
 魔法を使った後と言うこともあり、激しく息切れをしている。

「死体はどこかな?ぶっ飛んでしまったか?ウケケケケ!」

 ニヤついた笑みを浮かべ、足をぐらつかせる。
 周りを見ても、冒険者の死体とマレフィクスの死体の見分けがつかない。
 死体を探しているその途中、オルニスの背後に何かが落ちた。
 ドラゴンの死体がある方とは別の方向だ。

「岩?」

 オルニスの背後には、大きな岩が落ちていた。
 どこから現れた岩なのかは分からないが、岩は近くも遠くもない。
 しかし、岩の奥から来る黒い影を見て、オルニスは表情を変えた。

「お前は、白髪のガキ?」

 岩のある方向からは、白髪の中性的な少女――ホアイダが走って来ていた。
 剣を持ち、オルニスに向かって真っ直ぐ足を走らせている。

「銃では無駄だと分かって、剣を持ってきたな。可哀想そうに、私にそこまで近付けると思っているのかな?」

 オルニスは、鋼の羽根を数発飛ばした。
 羽根は約2m先のホアイダに、一斉に飛んで行く。
 しかし、ホアイダは避けようとせず、羽根を頭や胸にもろに受ける。
 羽根は、ホアイダの頭と胸を深く貫いた。

「ウケケ――」

 しかし、羽根が当たったホアイダの頭から、パリンッ!とガラスが割れるような音を鳴る。
 そしてその割れ目から、ホアイダが背景と共にガラスのように崩れ落ちる。

「何!?何だこれ?これはガラス?いや……鏡か!?まさか――」

 オルニスは違和感に気付き、再び背後を振り返る。
 だが既に遅かった。

 オルニスの胸には剣が深く刺さっていた。
 目の前には、魔法で蹴散らしたはずのマレフィクスが居る。
 さっきまで周りに居なかった存在が、目の前に居て、剣で自分の胸を貫いているのだ。

「どうゆう……ことだ……」
「さぁね?」

 マレフィクスの顔は、半分ホアイダの顔になっていた。
 オルニスは、その顔を見て全てを悟る。

 *(マレフィクス視点)*

 時間は少し巻き戻る。
 オルニスが村全体に及ぶ魔法を放った時まで。

 僕が身を守る為に取った行動は、ドラゴンの口の中に逃げることだった。
 最初にホアイダがやったように。

 その後すぐ、能力番号18『鏡を作る能力』で巨大な鏡を作り、オルニスの背後に配置する。

 すかさず能力番号15『岩を降らす能力』で一つだけ岩を降らす。
 この岩は、オルニスを振り返らせる為と、オルニスに鏡の死角を作る為。
 オルニスから鏡を見れば、大きな岩で自分の姿が見えない。

 その後ドラゴンの口から出て、能力番号20『姿形を変える能力』で自身をホアイダの姿に変える。
 これにより、オルニスを油断させることが出来る。

 オルニスの背中目掛けて走れば、オルニスから見て、ホアイダが自分自身に向かって来ているようにしか見えない。
 しかし実際は鏡を見ているだけ。
 オルニスはまんまと僕の策略にハマったということになる。

「お前の能力!?ベゼの顔にしたように顔を変え、鏡や岩で私を罠に!?だがなぜ生きて……はっ!?」

 剣で貫かれたまま、オルニスが表情を変えた。
 奥に見えるドラゴンの口が空いていたからだ。

「ドラゴンの中に!?白髪のガキがやったように!」
「君は学ばないね……ほらっ、苦しいかい?」
「ぐばぁ!!」

 ――能力番号22『鉄製の物を大きくする能力』。

 オルニスの胸に刺さっている剣が、体内で大きくなり、体を深く傷付ける。

「この剣は、お前が楽しそうに殺したエリオットの剣だ。どうだい?君のハートを貫いてしまったね」
「たっ……助けて……許して……私が悪かった……ベゼ、様」

 自分の危機を感じたオルニスは、無様にも命乞いをしてきた。

「助けて?それって僕に何かメリットあるの?」
「貴方様の部下になります!ベゼ様が望むなら魔王だって殺す!!だから命だけは……」

 必死こいた姿でそう言う。
 血を流し、涙も流しそうな表情だ。

「僕には複数能力がある。その一つ、衣類を生物に変える能力は強力な魔物すら創ってしまう――」

 僕が話を始めると、オルニスはやつれて困った表情を浮かべる。
 言葉には出さないが、何を言ってんだ?と言いたげだ。

「しかし殺したことのない生物と人間は創れない。逆に言うなら、人間以外で殺したことのある生物なら創れる。オルニス、君は言語を喋れて知性や理性のある魔物だが……創れる可能性はある」
「あぁ……あ……」

 オルニスは、話を理解して恐怖する。
 目が泳ぎ、体に武者震いが走った様だった。

「部下にして欲しいんだっけ?勿論、良いよ」

 狂気じみた表情でニヤリと笑い、オルニスの首を掴む。

「ああぁ!?やだ!やぁぁぁ……やめて!!ベゼ様!ベゼ様!どうかお許しを!?」
「僕は許してる……だから君は死ぬ」
「うげぇ!」

 剣を抜き、オルニスを蹴り上げる。

 ――能力番号28『物を浮かす能力』。

 オルニスは一瞬宙に浮くが、すぐに僕の元に落ちていた。

「私を殺せば魔王様が黙ってないぞ!ベゼベゼベゼ!!ヤメロオァォァ!!」
「可哀想に……」

 潰れかけていたオルニスの体には、良く刃が通った。
 僕の双剣で、オルニスの体をバラバラに細切れにする。
 オルニスは断末魔を上げて、バラバラの細かな死体に変わった。

「可哀想……ちょっとも思っていないけどね」

 村に掛かっていた赤い結界――魔法領域も空が晴れるように消えた。
 そして僕の胸もスカッとした。

「エリオットが死んだのは残念だけど、君との戦いは楽しかったよ」

 オルニスの死体を踏み潰し、近くに落ちていたエリオットの剣を拾う。

 * * *

 数分後、ミラク村には警察や軍隊が来た。
 我が国エレバンの精鋭達が、張り切って村の近くに転送されたらしいが、既に僕が事を終わらせていた。
 結局僕は、警察に事情聴取されてから、ギルドに転送した。

「信じられねぇ……」
「やったァァァァ!あの化け物をやったか!?」
「良くやったマレフィクス!!」

 警察の一人とギルドに戻り、起きたことを話すと、生き残りの冒険者達は一斉に歓声を上げた。
 仲間を失った者が何人も、僕に泣いてお礼をしてきた。
 その中にはハンナも居た。

「マレフィクス!」

 ハンナは一番最初に僕に抱き着いた。
 我が子を深く抱き締めるような、温かいハグだ。

「ありがとう……これで少し、ほんの少しだけど……私の心とエリオットの魂が救われた。本当にありがとう」

 泣きながら、悲しみと苦しみを必死に抑えて僕にお礼を言う。
 悪役として貶された気分だが、疲れていた僕にはどうでも良かった。

「これ、エリオットの剣」

 ハンナにエリオットの剣を渡す。
 しかしハンナは、剣を受け取らず、僕に剣を押し付けた。

「貴方が持ってて。使わなくてもいい……貴方が持ってて」
「ありがとう……大切にする」

 本当は目の前でへし折りたいが、流石に我慢だ。
 ハンナの気持ちを受け取ったふりをして、虚しい笑顔を浮かべる。

「今日をもって私は冒険者を辞めるけど……何かあったらいつでも力になるわ」
「そう……元気でね」

 ハンナは最後の最後まで涙を流していて、苦しそうな笑顔だった。
 それでも、僕の前では決して笑顔を止めなかった。
 僕との別れで、涙だけを見せたくはなかったからだろう。
 殺した母を思い出すような笑顔……別れが寂しいが、本当に寂しくなったらハンナを殺しに行けばいい。
 何も問題はない。

「またね、マレフィクス」

 ハンナはそう言ったけど、もう会わない気がした。
 なぜかは分からない……片割れのエリオットが死んだからか、ハンナを殺す気が失せたのかも。
 彼女を思い出し、寂しくなる時まで、僕はきっと殺しには行かないだろう。
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