離愁のベゼ~転生して悪役になる~

ビタードール

文字の大きさ
61 / 92
六章『大魔王ウルティマ編』

第六十話『最後のチャンス』前編

しおりを挟む
 *(ホアイダ視点)*

 この日、私は病院に来ていた。
 母が死んでから、父が追いかけるように病気にかかり、病院生活が強いられていた。
 病気になって数ヶ月、父の状態は一向に良くならない。

「お父様、調子はどうですか?」
「……」

 逞しく、倫理観があり、いつも優しく笑顔の父も、病気にかかってからは無表情で無気力だった。

「今日は、どうだった?」

 そんな父は、毎日のようにこの質問だけをする。
 他は一切聞かず、反応もしないが、私がお見舞いに来る都度、絶対にこの質問をする。

「今日、初めて告白されました。彼は友達だったのてすが、明日からどう接していいか分かりません」
「……」

 私がそう言ったら、前の父なら笑顔で何か助言をくれる。
 だが、病気になった父は無反応だ。

「彼のことは好きですが、それが恋心なのかは分かりません」
「……」
「私の心は……どうしたいのか分かりません」
「……」
「けど、悪い気はしないので……本当に本当に複雑です」
「……」

 行ける日は毎日、父に寄り添いにお見舞いに来てるが、父が元気になる未来が見えない。

 とうとう家には私一人だけになってしまった。
 あぁ、それとポム吉も居ました。

「ポムちゃんだけだよ」

 ポム吉の頭を撫で、パソコンの前に座る。
 ネットサイト『シノミリア』には、セイヴァーから連絡が来ていた。
 そのメールは、ベゼに関するとても重要なことだった。

「お父様、お母様、私には……まだ使命があるようです」

 私はゆっくりとキーボードに触れ、落ち込んでる心を落ち着かせる。

 *(ヴェンディ視点)*

 ホアイダに告白した次の日、俺はマレフィクスと図書室でタバコを吹かしていた。
 タバコ臭くならないように、窓を全部明け、窓際で横になりながら吸う。

「もう一本……」
「今日は良く吸うねぇ」
「なかなか立ち上がれなくてな」
「それは良かった」

 マレフィクスからタバコをもう一本貰い、ライターの火をタバコに移そうとしたその瞬間、何者かが俺のタバコを背後から取り上げた。

「おい!」
「二人共、本当に悪い子ですね」
「げっ!ホアイダ!」

 俺からタバコを取り上げたのはホアイダだった。
 ホアイダにタバコ吸ってることがバレて、正直やばいし、昨日のこともあり、凄く目を合わせずらい。

「おはようホアイダ」
「おはようじゃありません」

 ホアイダはマレフィクスからもタバコを取り上げた。
 そして、ポッケトから取り出したタバコに良く似たシュガレットお菓子を取り出し、俺とマレフィクスの口に咥えさせる。

「んっ」
「うっ」
「タバコの代わりです。もうタバコは止めてください」
「嫌だね」
「……」

 マレフィクスはニコッと笑い、俺は口を開かず黙ってシュガレットを咥える。

「分かりましたか!ヴェンディ!」
「えっ!あ、分かったよ」

 ホアイダは昨日のことがなかったかのように、俺に話しかけた。
 俺は少し戸惑い、同様してシュガレットを一度落としてしまう。

「ヴェンディは昨日振られて落ち込んでるんだよ。誰に振られたか知らないけどね~」
「おいマレフィクス!」

 ――マレフィクスめ、余計なことを言いやがって。

 そう思い、シュガレットを口から手放す。

「別に嫌いな訳じゃないですから……」

 ホアイダは視線を逸らし、少し困ったような穏やかな表情で言った。

「酷いよなホアイダ。僕とはあんなことやこんなことをしたのに……ヴェンディには気を許さないか……」
「はぁ!?てめぇマレフィクス!いつそんな!」
「ヴェンディ、いつものデタラメですから……」
「こっ、こいつ……」
「あはははは!まぁ、ヴェンディは男も女もいけるからね」
「そうでしたね」
「だから違うって!!!」

 この日、俺はホアイダとよりを戻した。

 * * *

 マレフィクスから七日間のチャンスを貰って、七日目になった。
 今日が最終日、勿論何もしない俺ではない。

「この平原は誰も居ない穏やかな場所だ……崖に囲まれているけど、いい場所だろ」
「全て無駄だと分かって、正々堂々戦うことにしたのね」
「そうだ。さっさと始めよう」

 この日、俺は正々堂々セイヴァーとしてマレフィクスを倒すことにした。
 周りには魔物も人も居ない。
 平原で、岩や崖はあるものの、戦いやすい場所だ。
 必ずマレフィクスを拘束してやる。

「始めるぞ」
「来な」

 俺はセイヴァーとしてのハーフマスクを身に付け、マレフィクスはベゼの顔に変わる。
 マレフィクス――ベゼはニコッと笑い、俺の距離を無蔵座に詰めてくる。

 先手必勝。
 短い草が生えてる地面を触れ、ここら一体を紙に変える。
 俺自身も紙になり、地面を切って地面へ逃げるように潜る。

 ベゼの位置は、地図を見れば世界の危機的状況が分かる魔法ノウ.アトラスにより、丸わかりになっている。
 左手にこの草原の地図を持っているから、ベゼの位置は手に取るように分かる。
 何せ、ベゼはドス黒い赤色で記されてる。
 奴の邪悪さが、裏目に出ているのだ。

 ――今だ!

 地面から出て、ベゼの足を掴もうとするが、分かっていたかのように避けられた。
 ベゼが羽根で逃げる前に、距離を縮めて剣を振る。
 ベゼも尖らせた爪で剣を受け流すが、俺の剣に押される。

「取った!」

 しかし、ベゼの影から出てきた鎌を持った死神が、俺の剣を受け止めた。
 ベゼは動きが止まった俺に、すかさず指を向けてビームを放つ。

「くっ……」
「本当に勝つつもりでやってるの?」

 ビームが肩に掠った為、死神を蹴り飛ばして一歩後ろに下がる。
 流れるように折り紙の手裏剣を投げる。

「解除」

 ベゼの手前で、手裏剣はカプセルに変わる。

「そのカプセルは強力な魔法が込められた魔道具だ……そのゼロ距離、お前は避けれない」

 ベゼの手前でカプセルはパカッと音を立てて開いた。
 その瞬間、ベゼは絶対的な力に押さえ付けられたかのように倒れた。
 そう、あのカプセルは重力魔法が込められたカプセルだ。

「うぅ……」

 骨や内臓が潰れる音がした。
 それほど、この重力魔法は強力なのだ。
 しかし、ベゼが潰れきる前に、重力が反転したかのようにベゼの体が宙に浮く。

「なっ!」

 ベゼが、俺に手から出した釣り糸を引っ掛けた。
 そして、釣り糸を縮めて、俺に素早く近付く。

「バカめ」

 俺は体を紙にし、釣り糸を外す。
 バランスを崩したベゼに、すかさず剣を振るう。
 ベゼは硬化した手で、剣を受け止めた。

「やるな」
「君もね」
「だが、お前の体はダメージを負いすぎだ」

 丸めた折り紙を一枚、ベゼの上空に投げる。

「解除」

 解除された折り紙は、火のついた巨大な岩に変わる。
 すかさずベゼの足を蹴り、体勢を崩させる。

「無意味に頑張りな、ベゼ」

 俺はベゼを地上に置いて、紙になって地面に逃げる。
 火のついた岩がすぐ目の前にあったベゼは、為す術なく押し潰される。
 ベゼの体から血が吹き出し、火が体に移る。

「絶対止めてやるぜ」

 ベゼの体から吹き出した血が、固定されかのように固まる。
 一瞬だが、その血が岩と地面の柱となる。
 ベゼはその一瞬の隙をついて、近くの岩に釣り糸を引っ掛けて身を交わす。

「チェックメイト……」
「ぐはぁ!?」

 岩を避けたベゼの腹を、地面から出てきた剣が貫いた。

「今このまま殺すことも出来るんだぜ」

 俺はベゼを剣で突き刺したまま上に持ち上げた。
 ベゼの体はボロボロで、血反吐を吐くくらいダメージを負っている。
 この状況、逃げる以外奴には道はない。

「殺れば……いいだろ……」
「転移の能力で、しっぽ巻いて逃げても良いんだぜ?」

 だが、ベゼは戦いから逃げるようなタイプじゃないし、煽られた場合は尚更だ。
 今この状況で逃げるのは、奴にとって死よりも苦痛だろう。
 例え逃げても、地図を見てこいつを追える。

「なるほど……これが追い詰められた者の気持ちか……闘志が湧くな」
「何を言って――」

 ベゼの服が白い羽根に変わった。
 その羽根の一枚が独りでに動き、ナイフのように硬くなって俺の胸を貫いた。
 一瞬の出来事だった。

「がはぁ!?」
「ウルティマとの戦いの練習になったよ」

 ベゼはその隙を逃さなかった。
 羽根を広げ、剣をへし折って宙を舞い、俺の首を掴んだ。

「くっ!」
「勝利が見えた光景は……一体どんな快感だった?そしてその光を失った今、君は何を目にする?」

 ベゼは俺以上のダメージを負っているのにも関わらず、力強かった。
 さっきの魔法と岩の攻撃で、右足と左手が折れていくつもの内臓が傷付いてるはず。

 ――痛みがないのか?なぜ立ってられる?

 このダメージで、一切震えていなかった。
 俺の首を力強く閉める一方で、俺は一切抵抗出来ない。
 体に力が入らず、意識が遠くなっていく。

「君が見ているものは絶望だ……これからも見続ける。いや、僕が君に見させ続けるから……それに抗ってみせてよ」

 意識が薄れる中、最後に目にしたのはベゼの真っ赤な瞳と、邪悪で冷淡な笑みだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...