離愁のベゼ~転生して悪役になる~

ビタードール

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六章『大魔王ウルティマ編』

第六十五話『絶対悪の誕生』

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 ベゼが転移した場所は海の真ん中だった。
 転移と同時に海に潜ったベゼは、爆発と共に吹き飛ぶ。
 災害とも呼べる水しぶきは、ベゼを上空に押し上げた。

 ベゼの右腕はなくなり、体中の皮膚が削れ、骨が砕ける。
 大都市メディウムから破壊魔法シン.エンドを防いだが、ベゼは意識を失う。

 *(マレフィクス視点)*

 気絶して居た為、僕の顔はベゼの顔からマレフィクスの顔に戻っていた。

「がはぁ!」

 孤島のような場所で意識を取り戻したと同時に、口から海水を吐き出した。
 口とお腹の中が気持ち悪いが、それ以上に体が痛む。

「ぺっ!僕の右手、右手が僕の元を去ったか」

 ――能力番号37『自身の体内にある物を浄化する能力』。

 この能力で体内に入った海水を浄化した。
 体が少しスッキリした感じがする。

「僕を助けるなんて、哀れなヒーローだね」

 目の前には、焚き火をするヴェンディが居た。
 僕の負傷の手当てもされているし、汚れも拭き取られているから、ヴェンディの仕業だろう。

「お前が転移してから五分以上経った。瀕死だったウルティマはあの後、警官隊を貪るように摘んで食べた。奴は人間を食べて体力を取り戻しつつある。お前の力が必要だ」
「どっちにせよ僕が倒す。引っ込んでろ」
「何でなんだマレフィクス?あんだけ協力しないって言ってウルティマの犬になっていたのに、なぜウルティマを倒そうとしてる?それに、メディウムが吹き飛ぶ威力の魔法をわざわざ受けて、メディウムを守った」

 ヴェンディが立ち上がろうとする僕の裾を引っ張り、複雑な表情を見せる。

「何勘違いしてるの?僕がウルティマを倒す理由は僕がより完成された絶対悪になる為。そもそも、ウルティマを復活させたのは僕でしょ?」
「じゃあ都市から魔法を防いだのは何でだ!ウルティマを殺る前にお前自身が死んでいたんだぞ!?」
「君は本当に、僕を理解してないんだね」

 ヴェンディは殺気に近い何かを感じ、微かに身を後ろに引いた。
 僕の一言で、ほんの少しだけ何かを理解したような嫌悪の目をしている。

「理解したくなかったよ」
「積み木積んだことある?積み木を出来るだけ高く積むことで、達成感と優越感が生まれる。そして積み切った積み木を崩す時は、少し惜しい気がありつつ……爽快感がある」
「何が言いたい?」

 食い気味なヴェンディが、目付きを悪くしたまま聞く。
 僕は人差し指を鼻の前に静かに持っていき、ヴェンディを黙らせる。

「静かにして、まだ話してるの。もしさ、積み切った積み木を誰かに壊されたらどう思う?誰だって嫌だよね?自分が壊す為に積んでいた物を壊されたら」
「大都市メディウムが積み木だと言いたいのか?ウルティマに崩されるのが嫌だから守ったというのか?」
「そう……特に崩されたくなかったのは、君という名の積み木だよ」

 ヴェンディは片目を細め、嫌そうに僕を見る。
 そこには怒りと嫌悪があり、僕への情や躊躇はない。

「ウルティマを倒して来い……その後俺がお前を殺してやる」
「君はなぜ、僕を殺すの?」
「何言ってんだお前……自分が何をして来たか分からないのか?」
「そうじゃない……何で自分を犠牲にしてまで、僕に付き合ってくれるの?」
「てめぇみたいな命を弄ぶ奴が気に食わないからだ。それ以外にあるか?俺はこの世界を、人々を、平和を、どんな手段を使ってでも守る。これは既に手を汚してる俺にしか出来ない」
「そう、やっぱ君は……優しい子だ」

 ニコッと笑い、ヴェンディを蹴り飛ばす。
 ヴェンディは近くの海へと落ち、溺れそうになる。

「がはぁ!?」
「君と僕は永遠に戦うのだろうね。少なくとも僕はそうやって生きたい。正義あるとこに悪あり……永遠に悪役である為には、永遠の正義が必要。君を崩すのは、勿体なすぎる」

 顔をベゼの顔にし、再び大都市メディウムへ転移する。

 * * *

「皆逃げろーー!!」
「近付き過ぎるな!!距離を取って陣営を整えろ!」

 メディウムでは、建物や人々が燃えていた。
 地獄から現れた鬼が人を食らうように、ウルティマは近くの死体や生きてる人間を大きな口に放り込む。
 体内から受けた魔法の傷はまだあるが、動ける程の体力は戻っていた。
 羽根を団扇のように扇ぎ、警官隊を蹴散らすウルティマの前に、誰も彼もが赤子のように散っていく。
 人々は魔法や能力を駆使したところで、瀕死に近いウルティマさえも倒せない。
 それ程、目の前の大魔王が圧倒的な力を持っている。

「戻って来たぞ!」

 僕は元気良くウルティマの背後に現れる。
 ウルティマはゆっくりと僕の方を見た。
 血に染った顔は、生き残る為に必死な表情だ。

「貴様ベゼ……生きていたのか……」
「その割れている皮膚、それなら外部からの攻撃も十分効くね」
「貴様も瀕死だろ?右手はもげ、左目は開けないようだな」
「殴り合おうではないか」

 お互い羽根を広げ、真正面からぶつかった。
 僕の方が圧倒的に体が小さく、力も弱いが、ウルティマの傷に手を突っ込み、離れまいとする。

 ウルティマが僕の左手を意図も簡単に捻り潰す。
 それでも僕は体から離れず、能力番号9『皮膚を一部を硬くする能力』で、頭を硬化してウルティマの腹に頭突きする。

「うっ!おえぇぇ!!」

 さっきまで大量の人間を食らっていたウルティマの口から、胃液と共に溶けかけの人々が出てくる。
 ウルティマは全て吐き終えて、栄養をなくしたかのように顔色を悪くした。

「貴様ベゼ!!」
「最後の晩餐を、食らえ!」

 身を真上に捻り、左手を犠牲にした。
 左手はウルティマに掴まれたままもげ、足の指で挟んでいた布がウルティマの口に入る。
 ウルティマは布があると知らずに、僕の足を噛みちぎった。

「行け、ルルーディー」

 ――能力番号20『衣類を生物に変える能力』。

 ウルティマの口の中で、布が植物人間――ルルーディーに変わる。
 サイズは小さいが、決して問題はない。

「Goodbyeグッバイウルティマ」
「ぐっ!ぶがはぁ!??」

 ウルティマの口の中で、ルルーディーが大量の樹木を伸ばした。
 目や口や耳からも樹木が突き出て、ウルティマの心臓をも突き刺している。

「言い残すのとは?最後くらいカッコつけたらどうだい?」

 両腕と右足を失った僕は、羽根で宙に浮きながらニヤリと笑う。

「ハハッ!お見事!今日から貴様が大魔お――」

 ウルティマが言葉を言い終える前に、ウルティマの首を硬化した羽根で切り飛ばした。
 ウルティマの巨大な首がもげ落ち、巨大な王冠が僕を囲う形で落ちる。

「僕が大魔王?バーカ、そんなチープな存在にするな。僕は……悪の王様だ!」

 僕は王冠に囲まれ、白い大きな羽根を広げて自慢げに笑みを浮かべた。

 ――能力番号13『周りの死を感じる能力』。

 ウルティマの死は確定した。
 勝ったのは僕だ……よってこの世界の絶対悪はこの僕だ。

「ウルティマが死んだ……」
「ベゼがウルティマを殺ったぞ!!」
「やったあああぁ!!!」

 負傷しながらも周りで様子を見ていた人々が、声を揃えて喜んだ。
 人生一生分喜んだのではないかと言うくらい、露骨に喜んでいた。
 お互いに抱き着き、戦争が終わったかのような歓声だ。

 だが、次の瞬間人々は知ることになる。
 この世界の絶対悪が入れ替わっただけだという真実を――ウルティマ以上の恐怖が目の前に居ることを。
 僕は喜ぶ人々を、足の指から放ったビームで撃ち殺した。

「えっ?」
「はははははははは!!!愚かで無知で貧弱な人間共!!我が絶対悪!我が悪の王様!我が大魔王ウルティマを倒した張本人ベゼだ!!ウルティマに代わってこの世界を支配する!!」

 人々は思い出した。
 ベゼという存在がこの世界の絶対的な悪だと言うことを。
 ボロボロで瀕死な僕を前にして、警官隊は勇気を持とうとするが、迂闊に近付かない。

 今この状況、正直ダメージを食らいすぎて死んでしまいそうだが、逃げてしまうのは僕自信が許さない。
 逃げるべきは人間共だ……僕は常に追い回す方である。
 だがら、どこかに転移するこはしない……例え僕が死んでしまおうと。
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