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七章『悪の国編』
第六十七話『アリアの逃亡』
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ただ今の時間14時。
大都市メディウムは多大な被害を負った為、明日の学校が必然的に休みになる。
だがら、明日以降の心配は要らないだろう。
「見えてきましたよ、セイヴァー」
ホアイダは馬にポム吉を乗っけてる。
こんな時でも、相棒のポム吉は必要なのだろう。
「あぁ、俺も見えてきた。俺が先に出る」
「待って下さい!!」
俺はホアイダを後にして、全力で馬を走らせた。
アリアはベゼを落とさないように走っているから、そこまで早いスピードではない。
数十秒で、アリアとの距離を100mまで縮めた。
「よし、この距離なら行ける」
馬を止め、馬から降りる。
地面に手を当てて、能力を発動させると、前方一体の地面が紙のような質感になる。
「俺の前に出るな!」
「なぜ?」
俺に追い付いたホアイダは、不思議そうに馬を止めた。
「良いから」
折り紙を元の姿――弓矢に変える。
ただし、この弓矢は少し改造されている。
弓矢の矢には、油が大量に入っている袋がぶら下がっている。
弓矢を放つと、袋が開き、徐々に油を垂らして前方に飛んで行った。
前方は油塗れになっている。
その油に火を付けると、紙から紙へ、油から油へ、火が素早く燃え広がる。
前方に向かって行く火は、アリアが乗っている馬に向かって行く。
「何っ!?」
とうとう、アリアが走っていた地面は焼け削れ、馬が穴に落ちた。
そのまま馬が燃え、アリアはやも得なくベゼを連れて脱出する。
「あの変態仮面野郎……」
アリアは遠くに居る俺の睨みながら、近くの森へベゼを連れて逃げようとする。
だが、馬がない今、ベゼを背負って逃げるのは難しい。
「行くぞホアイダ」
「は、はい」
ホアイダに俺の能力を見せたから、セイヴァー=ヴェンディというのがバレてしまうかもしれない。
しかし、今はベゼを殺す方を優先しなくてはならない。
自分の正体を隠そうと、気にしてる暇はない。
馬でアリアに追い付いた俺とホアイダは、馬から降りてアリアに近付く。
アリアはベゼを背負って逃げようとしているが、アリア自身が小柄な少女の為、手間取っている。
「無駄だ。諦めろ」
「良く考えるのよセイヴァー。あんたは背中から血が出る程の負傷をしている。私を倒せると思う?」
「その為の私です」
ホアイダがアリアに一歩近付いた。
二丁拳銃を取り出し、アリアに構えている。
「私の能力、血を鉄に変える能力は負傷者に負けない」
「がはぁ!?」
俺の背中の傷から出た血が、ナイフになって傷の中に入り込んだ。
俺の危険を悟ったホアイダは、二丁拳銃で弾丸を放つ。
しかし、ベゼの腕の傷から出た血が鉄の盾になって弾丸を防ぐ。
「主の血を使うなんて……手強いですね」
「セイヴァーに構わなくて良いの?死んじゃうよ?」
「先に貴方を捕まえます」
ホアイダがそう言うと、アリアはニヤッと笑った。
「魔物が来たよ……さっき私がナイフを投げておびき寄せたから」
森の中から、複数の魔物がアリアとホアイダの元に走って来る。
それを見たアリアは、ベゼを連れて森の中へ逃げて行く。
「……どうしたらいい」
「落ち着くんだホアイダ!ここはセイヴァーを連れて魔物から逃げよう!」
「そうだね、ありがとポムちゃん」
ホアイダはポム吉の助言で、俺を連れて魔物から逃げるように森へ走った。
まるで二重人格のような会話だったが、ホアイダは自覚を持って話している。
* * *
「助かった」
魔物から逃げた場所で、草木に隠れながらホアイダが俺の手当てをした。
治癒魔法で背中の傷を塞ぎ、動けるまでに治療をしてくれた。
「逃げられてしまいましたね」
「大丈夫だ。俺の魔法でベゼの位置が分かっている。奴らとそこまで離れて居ないし、今奴らは止まっている。恐らく、森の中でやり過ごす気だろ」
「追いますか?」
「勿論」
治療を終えた俺達は、草木が広がる森の中を進んだ。
魔物に見つからないように道を進みながら、地図を見てベゼの位置を確認した。
数十分後、俺達はベゼが居る場所に辿り着いた。
ベゼは氷に囲われており、草木で隠されるように気絶していた。
近くにアリアは居ない。
「アリアは何処だ?隠すようにベゼを置いてるってことは、何処かに隠れ家か抜け道を探しに行ったのか?」
「罠ではないでしょうか?」
「だとしたらベゼを隠し過ぎる。罠にしては見つかりずらい」
「あの氷、私の銃では破壊出来ません」
「俺の能力ならいける」
「気を付けて下さい」
俺は木から木に移り、バレないように氷に包まれるベゼに近付く。
そして、恐る恐る氷に触る。
氷ごと紙にしようとしたその瞬間、俺はワイヤーで首を繋がれ、上に引っ張られた。
「うぅ!」
「動くな!!確かホアイダだっけ?動いたらセイヴァーを殺す」
アリアは木の上で、ワイヤーを引っ張っていた。
木の枝にワイヤー私引っ掛け、俺を釣り上げている。
俺の顔の前には、今にも刺さりそうなナイフが宙に浮いている。
そのせいで、ホアイダは迂闊に動けない。
「それでいいのよ」
アリアが俺の体中を、ナイフで何ヶ所か切り裂いた。
「やめて!!」
「私を追ったらその傷にまたナイフを入れる。傷口がある内は、私に近寄れない」
アリアは血だらけになった俺をホアイダの方へ投げた。
ホアイダは傷だらけになった俺をキャッチする。
「さよなら」
アリアは再びベゼを抱えて森から出た。
ホアイダは俺の治療で手間を足止めを食らうことになる。
――まんまと罠にハマった……しくじった。
恐らく、アリアは俺がベゼの位置を探れることをベゼから聞いていたのだろう。
それを知っていたから、こんな罠を張れたのだ。
そしてホアイダは、俺の治療をした後、アリアを追うように森を出る。
森を出ると、森の外に置いて来た馬が、二頭とも居なくなっていた。
「アリアの仕業だ。俺達の馬で逃げたんだ」
「馬の足跡的に海岸に向かいましたね」
「海岸まで後一時間は掛かる。魔法で先回りしよう」
俺はホアイダを連れ、地図を広げて触った場所に転移する魔法で海岸に転移した。
* * *
海岸にはいくつかの船がある。
港の船がほとんどだろう。
「はぁ……はぁ……」
「大丈夫ですか?」
「あぁ……大丈夫だ」
今日一日で何度も魔法を使っていた俺は、体力の限界が来ていた。
傷を塞いで治療したとは言え、痛みもある。
「来たぞ」
遠くからアリアが来た。
アリアの背後には、黒い布を羽織られたベゼが居る。
ベゼはまだ目覚めていないようだが、アリアをこのまま船に乗らせる訳には行かない。
「頼むホアイダ」
「分かりました」
アリアが攻撃の間合いに入った瞬間、身を隠していたホアイダが、水魔法で馬ごとアリアを囲った。
「何だこれ?」
水の中は空気があるが、水は熱湯になっていて、触れれる温度ではない。
「ナイス!」
俺とホアイダは、水に囲まれるアリアに近付く。
こちらに気付いたアリアは、俺達二人を睨み付ける。
「勘弁するのだな」
「このカス共が!邪魔ばかりしやがってぇ!!」
アリアは強引に水に触り、ベゼを抱えたまま水の外へ出た。
当然、アリアの体は熱湯で火傷する。
「誰か!!誰か助けててぇ!!」
「逃がすな!」
「勿論です」
がむしゃらに海岸に走るアリアに、ホアイダが水の玉を放つ。
アリアは近付くにあった崖下に落ちる。
「がはぁ!?」
しかし俺は、背後から弾丸や魔法を放たれて崖下に落ちる。
「セイヴァー!」
「アリア様を救え!!」
俺に魔法を放った連中は、一隻船から降りて来て、アリアと黒い布に羽織られたベゼを保護した。
そして、ホアイダを蹴り飛ばして、再び船に乗って海へと逃げた。
「まさか……仲間の船だったなんて」
ホアイダは口の血を拭って、崖下の俺を引き上げた。
「はぁはぁ……」
魔法を放たれた俺は、体力の限界だった。
傷が痛いし、体中疲れて動けない。
「ここには海兵隊が居ます。私が海兵隊とベゼを追いますから、セイヴァーはもう休んで下さい」
「くそぉ……すまねぇ」
「良いんですよ」
ホアイダは優しく微笑み、俺を岩によし掛からせた。
海岸に去って行くホアイダを目にしていた俺は、何だが切なく無力な気分に苛まれ、酷く落ち込んだ。
「ふぅぅ」
「え?」
ふと左隣りを見ると、マレフィクスが居た。
左腕と右足がなく、左目も潰れている。
失っていたはずの右腕は、治療魔法で再生されたのか分からないが、元に戻っていた。
その右手でタバコを吹かしている。
ベゼの顔ではない、マレフィクスの顔だ。
「お前、さっき連れてかれて……」
「連れてかれたのは黒い布、僕は持ち上げられた時にするりと落ちちゃったの」
「腕があるってことは、アリアは治癒魔法も使えるんだな」
「名前覚えたんだ……もしかして惚れたの?」
「な訳あるかよ」
マレフィクスは強引に俺のハーフマスクを取り上げ、タバコを渡して来た。
「今の君はヴェンディ、だから攻撃しないでね」
「都合のいい奴だな」
俺はマレフィクスからタバコを一本受け取る。
そして、タバコを咥えたままマレフィクスに火を欲しい合図をする。
「んっ、火だよ。火をくれ」
「寝たけど体力が僅かだ……魔法を使いたくないね」
「てめぇな――」
何が起きたか分からなかった。
マレフィクスが俺の肩に手を置いて、咥えてる火のついたタバコを俺の火のついていないタバコにくっ付けてきた。
「動くな」
悪魔のような瞳と、天使のような顔が近い。
タバコにしっかり火がつくよう、深く長くタバコを押し当てる。
「ついた」
「うげっ、何か気持ち悪いな」
「君程じゃないっしょ」
タバコの火を付け終えると、マレフィクスは黄昏たように空を見上げた。
暗くなり始めていた空は、雲や夕日が美しい。
悔しいが、それ以上にマレフィクスは美しかった。
俺が横目で見とれる程、こいつの表情を見たいと思った。
悪人だと思えないこの顔と表情は、いつも俺を困らせる。
大都市メディウムは多大な被害を負った為、明日の学校が必然的に休みになる。
だがら、明日以降の心配は要らないだろう。
「見えてきましたよ、セイヴァー」
ホアイダは馬にポム吉を乗っけてる。
こんな時でも、相棒のポム吉は必要なのだろう。
「あぁ、俺も見えてきた。俺が先に出る」
「待って下さい!!」
俺はホアイダを後にして、全力で馬を走らせた。
アリアはベゼを落とさないように走っているから、そこまで早いスピードではない。
数十秒で、アリアとの距離を100mまで縮めた。
「よし、この距離なら行ける」
馬を止め、馬から降りる。
地面に手を当てて、能力を発動させると、前方一体の地面が紙のような質感になる。
「俺の前に出るな!」
「なぜ?」
俺に追い付いたホアイダは、不思議そうに馬を止めた。
「良いから」
折り紙を元の姿――弓矢に変える。
ただし、この弓矢は少し改造されている。
弓矢の矢には、油が大量に入っている袋がぶら下がっている。
弓矢を放つと、袋が開き、徐々に油を垂らして前方に飛んで行った。
前方は油塗れになっている。
その油に火を付けると、紙から紙へ、油から油へ、火が素早く燃え広がる。
前方に向かって行く火は、アリアが乗っている馬に向かって行く。
「何っ!?」
とうとう、アリアが走っていた地面は焼け削れ、馬が穴に落ちた。
そのまま馬が燃え、アリアはやも得なくベゼを連れて脱出する。
「あの変態仮面野郎……」
アリアは遠くに居る俺の睨みながら、近くの森へベゼを連れて逃げようとする。
だが、馬がない今、ベゼを背負って逃げるのは難しい。
「行くぞホアイダ」
「は、はい」
ホアイダに俺の能力を見せたから、セイヴァー=ヴェンディというのがバレてしまうかもしれない。
しかし、今はベゼを殺す方を優先しなくてはならない。
自分の正体を隠そうと、気にしてる暇はない。
馬でアリアに追い付いた俺とホアイダは、馬から降りてアリアに近付く。
アリアはベゼを背負って逃げようとしているが、アリア自身が小柄な少女の為、手間取っている。
「無駄だ。諦めろ」
「良く考えるのよセイヴァー。あんたは背中から血が出る程の負傷をしている。私を倒せると思う?」
「その為の私です」
ホアイダがアリアに一歩近付いた。
二丁拳銃を取り出し、アリアに構えている。
「私の能力、血を鉄に変える能力は負傷者に負けない」
「がはぁ!?」
俺の背中の傷から出た血が、ナイフになって傷の中に入り込んだ。
俺の危険を悟ったホアイダは、二丁拳銃で弾丸を放つ。
しかし、ベゼの腕の傷から出た血が鉄の盾になって弾丸を防ぐ。
「主の血を使うなんて……手強いですね」
「セイヴァーに構わなくて良いの?死んじゃうよ?」
「先に貴方を捕まえます」
ホアイダがそう言うと、アリアはニヤッと笑った。
「魔物が来たよ……さっき私がナイフを投げておびき寄せたから」
森の中から、複数の魔物がアリアとホアイダの元に走って来る。
それを見たアリアは、ベゼを連れて森の中へ逃げて行く。
「……どうしたらいい」
「落ち着くんだホアイダ!ここはセイヴァーを連れて魔物から逃げよう!」
「そうだね、ありがとポムちゃん」
ホアイダはポム吉の助言で、俺を連れて魔物から逃げるように森へ走った。
まるで二重人格のような会話だったが、ホアイダは自覚を持って話している。
* * *
「助かった」
魔物から逃げた場所で、草木に隠れながらホアイダが俺の手当てをした。
治癒魔法で背中の傷を塞ぎ、動けるまでに治療をしてくれた。
「逃げられてしまいましたね」
「大丈夫だ。俺の魔法でベゼの位置が分かっている。奴らとそこまで離れて居ないし、今奴らは止まっている。恐らく、森の中でやり過ごす気だろ」
「追いますか?」
「勿論」
治療を終えた俺達は、草木が広がる森の中を進んだ。
魔物に見つからないように道を進みながら、地図を見てベゼの位置を確認した。
数十分後、俺達はベゼが居る場所に辿り着いた。
ベゼは氷に囲われており、草木で隠されるように気絶していた。
近くにアリアは居ない。
「アリアは何処だ?隠すようにベゼを置いてるってことは、何処かに隠れ家か抜け道を探しに行ったのか?」
「罠ではないでしょうか?」
「だとしたらベゼを隠し過ぎる。罠にしては見つかりずらい」
「あの氷、私の銃では破壊出来ません」
「俺の能力ならいける」
「気を付けて下さい」
俺は木から木に移り、バレないように氷に包まれるベゼに近付く。
そして、恐る恐る氷に触る。
氷ごと紙にしようとしたその瞬間、俺はワイヤーで首を繋がれ、上に引っ張られた。
「うぅ!」
「動くな!!確かホアイダだっけ?動いたらセイヴァーを殺す」
アリアは木の上で、ワイヤーを引っ張っていた。
木の枝にワイヤー私引っ掛け、俺を釣り上げている。
俺の顔の前には、今にも刺さりそうなナイフが宙に浮いている。
そのせいで、ホアイダは迂闊に動けない。
「それでいいのよ」
アリアが俺の体中を、ナイフで何ヶ所か切り裂いた。
「やめて!!」
「私を追ったらその傷にまたナイフを入れる。傷口がある内は、私に近寄れない」
アリアは血だらけになった俺をホアイダの方へ投げた。
ホアイダは傷だらけになった俺をキャッチする。
「さよなら」
アリアは再びベゼを抱えて森から出た。
ホアイダは俺の治療で手間を足止めを食らうことになる。
――まんまと罠にハマった……しくじった。
恐らく、アリアは俺がベゼの位置を探れることをベゼから聞いていたのだろう。
それを知っていたから、こんな罠を張れたのだ。
そしてホアイダは、俺の治療をした後、アリアを追うように森を出る。
森を出ると、森の外に置いて来た馬が、二頭とも居なくなっていた。
「アリアの仕業だ。俺達の馬で逃げたんだ」
「馬の足跡的に海岸に向かいましたね」
「海岸まで後一時間は掛かる。魔法で先回りしよう」
俺はホアイダを連れ、地図を広げて触った場所に転移する魔法で海岸に転移した。
* * *
海岸にはいくつかの船がある。
港の船がほとんどだろう。
「はぁ……はぁ……」
「大丈夫ですか?」
「あぁ……大丈夫だ」
今日一日で何度も魔法を使っていた俺は、体力の限界が来ていた。
傷を塞いで治療したとは言え、痛みもある。
「来たぞ」
遠くからアリアが来た。
アリアの背後には、黒い布を羽織られたベゼが居る。
ベゼはまだ目覚めていないようだが、アリアをこのまま船に乗らせる訳には行かない。
「頼むホアイダ」
「分かりました」
アリアが攻撃の間合いに入った瞬間、身を隠していたホアイダが、水魔法で馬ごとアリアを囲った。
「何だこれ?」
水の中は空気があるが、水は熱湯になっていて、触れれる温度ではない。
「ナイス!」
俺とホアイダは、水に囲まれるアリアに近付く。
こちらに気付いたアリアは、俺達二人を睨み付ける。
「勘弁するのだな」
「このカス共が!邪魔ばかりしやがってぇ!!」
アリアは強引に水に触り、ベゼを抱えたまま水の外へ出た。
当然、アリアの体は熱湯で火傷する。
「誰か!!誰か助けててぇ!!」
「逃がすな!」
「勿論です」
がむしゃらに海岸に走るアリアに、ホアイダが水の玉を放つ。
アリアは近付くにあった崖下に落ちる。
「がはぁ!?」
しかし俺は、背後から弾丸や魔法を放たれて崖下に落ちる。
「セイヴァー!」
「アリア様を救え!!」
俺に魔法を放った連中は、一隻船から降りて来て、アリアと黒い布に羽織られたベゼを保護した。
そして、ホアイダを蹴り飛ばして、再び船に乗って海へと逃げた。
「まさか……仲間の船だったなんて」
ホアイダは口の血を拭って、崖下の俺を引き上げた。
「はぁはぁ……」
魔法を放たれた俺は、体力の限界だった。
傷が痛いし、体中疲れて動けない。
「ここには海兵隊が居ます。私が海兵隊とベゼを追いますから、セイヴァーはもう休んで下さい」
「くそぉ……すまねぇ」
「良いんですよ」
ホアイダは優しく微笑み、俺を岩によし掛からせた。
海岸に去って行くホアイダを目にしていた俺は、何だが切なく無力な気分に苛まれ、酷く落ち込んだ。
「ふぅぅ」
「え?」
ふと左隣りを見ると、マレフィクスが居た。
左腕と右足がなく、左目も潰れている。
失っていたはずの右腕は、治療魔法で再生されたのか分からないが、元に戻っていた。
その右手でタバコを吹かしている。
ベゼの顔ではない、マレフィクスの顔だ。
「お前、さっき連れてかれて……」
「連れてかれたのは黒い布、僕は持ち上げられた時にするりと落ちちゃったの」
「腕があるってことは、アリアは治癒魔法も使えるんだな」
「名前覚えたんだ……もしかして惚れたの?」
「な訳あるかよ」
マレフィクスは強引に俺のハーフマスクを取り上げ、タバコを渡して来た。
「今の君はヴェンディ、だから攻撃しないでね」
「都合のいい奴だな」
俺はマレフィクスからタバコを一本受け取る。
そして、タバコを咥えたままマレフィクスに火を欲しい合図をする。
「んっ、火だよ。火をくれ」
「寝たけど体力が僅かだ……魔法を使いたくないね」
「てめぇな――」
何が起きたか分からなかった。
マレフィクスが俺の肩に手を置いて、咥えてる火のついたタバコを俺の火のついていないタバコにくっ付けてきた。
「動くな」
悪魔のような瞳と、天使のような顔が近い。
タバコにしっかり火がつくよう、深く長くタバコを押し当てる。
「ついた」
「うげっ、何か気持ち悪いな」
「君程じゃないっしょ」
タバコの火を付け終えると、マレフィクスは黄昏たように空を見上げた。
暗くなり始めていた空は、雲や夕日が美しい。
悔しいが、それ以上にマレフィクスは美しかった。
俺が横目で見とれる程、こいつの表情を見たいと思った。
悪人だと思えないこの顔と表情は、いつも俺を困らせる。
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