離愁のベゼ~転生して悪役になる~

ビタードール

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八章『救世主編』

第八十話『苛立ち』

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 *(マレフィクス)*

 大都市メディウムは、跡形もなく消えてしまった。
 僕は更地になった地面に降り、死体になったアリアを寝かせる。
 幸せそうに死んでるが、僕はその逆だった。

「くそぉ、ヴェンディめ、僕をこんな惨めな目に合わせやがって」

 あの時は死にそうで余裕がなくなっていたけど、今冷静に考えれば、能力番号26『血を固める能力』で心臓の瀉血が出来た。

 僕史上一番醜かった。
 こんな悔しいの初めてだ。

「くそぉ。せっかく今まで育てて来たのに、死にやがって」

 アリアは既に死んでいた。
 その証拠に、僕の心臓の瀉血をしていた鉄が血に変わった。
 今は血を固めて瀉血を続けている。

「何がありがとうだッ!くだらないことで死にやがって。まぁ、また新しく邪悪な部下を育てるとして……ムカつく!ヴェンディもアリアもムカつく!!」

 楽しくなるはずの今日が、最低な気分になった。
 アリアを殺したヴェンディに腹が立つ。
 アリアはそこら辺の部下と違って、かなりお気に入りだった。
 カッとなってヴェンディも殺しちゃったし、何かもう色々最低な気分だ。

「はぁぁ、取り敢えず今日は疲れた。帰ろう」

 神聖ベゼ帝国に帰り、僕はくたくたになりながらアリアと共に城に入った。

「ヴァルター、アリア死んだからよろしく」

 城の前にちょうど良く居たヴァルターに、アリアの死体を渡す。
 ヴァルターは申し訳なさそうにしてアリアを受け取る。

「すみません。私が未熟なばかりに、アリアが攫われたことに気付けませんでした」
「攫われたの分かるわけないでしょ。誰だってどこか出掛けたと思うさ。こんな広い国なんだ……セイヴァーが転移で来ても分からない」
「そう、ですね……アリア、消しときますね」

 ヴァルターはそう言って、手袋を脱いでアリアに触れようとした。

「墓作っとけ」
「えっ?けど前は墓なんて――」
「二度言わせんなよ……僕は墓を作れって言ったんだ」
「……すみません。ただちに部下に立派な墓を作らせます」
「城の近くね」

 ヴァルターは機嫌の悪い僕を見て、全て悟ったようにその場をアリアと共に去っていった。

 その日、僕はステーキをバカ食いして一眠りした。
 起きた時には夕方になっており、窓から見る景色が滑稽で寂しく見えた。

 なので、能力番号36『遠くの生き物も会話する能力』で、部下にただちに祭りを行うように命令した。
 ベゼ城から見える景色は、数分もせず賑やかになった。
 僕本人は祭りに参加しなかったが、その賑やかな世界に浸ることが出来て心が落ち着いた。

 ヴェンディはともかく、アリアが死んだのはかなりショックだ。
 やり込んでいたゲームのデータを、友達に消された気分だ。

「あーあー、僕にとって退屈こそが絶対悪だな」

 ヴェンディの死もアリアの死も、全く悲しくなかったが、これからを考えると少し憂鬱な気もする。
 けど、僕はポジティブだから多分すぐ立ち直れるだろう。

 *(ヴェンディ視点)*

 ――ここは?

 目が覚めると、見知らぬ家に居た。
 お世辞にも立派とは言えないボロい家で、俺は寝ていたらしい。

「あの後、すぐに地面に潜って海に逃げたんだっけ?そして自分を紙にして……紙舟になって海をさまよったんだっけ?確かそうだ……けど一体誰が……」
「儂じゃ」

 俺の横には、年老いた老人が居た。
 老人には気配がなくて、まったく気付かなかった。

「あ……助けてくれてありがとうございます」
「足は儂の孫が治したした……後で会ったら礼を言っとけ」
「孫?」

 ふと、ドアの方をみると、こちらを嫌そうに覗いてる子供が居た。
 俺の切れた足は、その子が治してくれたらしい。

「足!ありがとう!」

 礼を言うが、その子は俺を睨んでどこかへ行ってしまう。

「気にするな」
「あの、ここはどこですか?」
「ここはバグーの都市アヴァロン」

 世界番号1、都市アヴァロン、それは俺の良く知っている場所だった。
 五年前、マレフィクスとホアイダの二人と旅行で訪れ、ベゼとの最初の戦いをした場所。
 ベゼによって、アヴァロンの住人は皆殺しになった。

「アヴァロン……」
「今は復興しつつあるから、他の都市や街から来た住民が住んでいるんじゃ。儂らはそんな住人の一人じゃ」
「そうですか……」
「お主はエレバンで行方不明のニュースになっていたヴェンディじゃな?この国の住人は王族が嫌いじゃから気を付けるんじゃな……儂の孫もお主を良く思っていない」
「分かってますよ。お爺さん、貴方の名前は?」
「爺ちゃんと呼べ、孫もそう呼ぶ。孫はリオじゃ」
「……変な人だな。けど、そう呼んで欲しいならそう呼ばせてもらいますよ、爺ちゃん」

 老人――爺ちゃんは、目を細めたまま懐から何かを取り出した。

「ほれ、落し物じゃ……セイヴァー」

 爺ちゃんが俺に渡して来たのは、セイヴァーのハーフマスクだった。
 どうやら、正体がバレていたらしい。

「どうも――」

 ハーフマスクを受け取った瞬間、爺ちゃんはもう一つの手で俺の腕を掴み上げた。

「儂の孫は九つじゃ。セイヴァーが現れたは八年前、お主は儂の孫と同じ歳には人殺しじゃったな?」
「それが何ですか?」
「まだ若い……引き返すんじゃ。ここで人殺しのお主を見逃す程儂は優しくない。ベゼを倒すことは正しくても、人殺しはどんな理由があろうとも正しくはない」
「あんた、俺に力で勝つつもりか?」

 俺は爺ちゃんを睨み、素早く胸ぐらに手を伸ばした。
 しかし、爺ちゃんはそれより早く俺の体を持ち上げ、俺を毛布に叩き付けた。

「うげぇ!?」
「お主こそ儂に勝つつもりじゃったのか?」

 明らかに素人の動きじゃなかった。
 絶対、軍人かSランクの冒険者だった強者だ。

「何様か知らんがな、俺だって半端な気持ちでやってないんだよ!」
「お主こそ何様のつもりじゃ?ただの大量殺人鬼の癖に全て悟ったような顔をしよって」
「あんだと爺!ちょっと強いからって!」
「爺ちゃんと呼べっと言ったろう。やはり、儂の想像してた通り、セイヴァーは未熟で哀れなガキじゃったな」
「あのな!さっきあんたはまだ若いから引き返せと言ったけど!俺には時間がないんだ!あと半年、いや一ヶ月もないかもしれないんだ!病気何だよ!死ぬんだよ!引き返せれねぇんだよ!」
「なら尚更だ。残りの人生くらい清く生きてみぃ」

 やけに偉そうな爺さんだ。
 俺がセイヴァーだと分かった途端、説教始めやがった。
 気持ちは分からないでもないが、こっちだって半端な覚悟で人を殺していない。

「あのな爺ちゃん、俺が殺してるのは殺人犯だけだ。殺るってことは、殺られる覚悟ある者……俺だってそうしてる」
「それが殺しの理由か?殺しの理由になっても、殺していい理由にはならぬぞ」
「法によって殺すのは良いのか?死刑制度ってやつ」
「お主、本当に大人か?ガキでも分かること聞きおって」
「分かるんじゃなくて分かったふりしてんだよ!世の中の人は矛盾や理不尽に目を瞑って生きてんの!俺は違うけどね」
「……死ぬまで泊めてやる。どうせ宛はないんじゃろ?その生活の中で良く考えるんじゃな」

 爺ちゃんはその言葉を最後に部屋を出て行った。
 初対面で、こんなに馬が合わない人は初めてだ。
 悪い人じゃないのは分かるが、それでも俺の気持ちに立とうとしない爺ちゃんがムカつく。

「あの爺……」

 俺は悔しい気持ちになりながらも、布団を綺麗に畳んだ。
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