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序章
存在
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[Z0-0000] 未明・GhostEDGE格納庫――――
俺の名前は、この瞬間に消された。
軍籍データベースの画面に「削除完了」と赤い文字が点滅し、次の瞬間には“戦死扱い”のリストに移されていた。
端末に映る自分の名は、冷たい数字の羅列の中へ溶け込み、やがて上書きされて消えていった。
まるで最初から存在しなかったかのように。
その瞬間、俺は“新入り”としてGhostEDGEに放り込まれた。
戸籍も、記録も、過去も消された。
生きているのに、存在しない兵士。
格納庫の扉が閉じると、外界からの音が断ち切られた。
代わりに、低い機械音と油の匂いが鼻を刺す。
鉄と消毒液の混じった空気は、すでにここが人間の場所ではないことを告げていた。
床に整列する隊員たちは全員、黒いフードと無機質な仮面で顔を隠している。
十人が揃って立っているのに、そこに“個”は存在しない。
呼吸も、姿勢も、視線の高さすら完全に同期している。
まるで同じプログラムを走らせた機械人形の群れだ。
「装備だ」
誰かが俺に声をかけ、作業台に積まれたものを指差した。
そこには銃器と、背骨に似た金属フレームが並んでいる。
神経接続インターフェース。
外骨格型の人工脊椎。
兵士の背に装着し、脊髄の神経と接触して情報を脳に直結させる装置だ。
隊員たちは迷いなくそれを背に押し当て、ハーネスで固定する。
金属端子が皮膚に食い込み、短い痙攣のような動作が全員の身体を走った。
だが誰ひとり声を上げない。
それが当たり前であるかのように。
俺の番が来る。
背に冷たいフレームが押し当てられる。
次の瞬間、脊髄に焼けるような痛みが走り、全身が硬直した。
骨の奥を何かが這い上がり、頭蓋の内側を叩く。
視界の端に赤いノイズが走り、心臓の鼓動と同期して点滅を始めた。
吐き気を堪えた瞬間、誰かが低く呟いた。
「……これでお前もゼロだ」
腰に装着された黒い筐体が振動する。
認識阻害モジュール。
敵のセンサーや人間の視覚からさえ“存在しない”と認識させる装置。
そして背中に埋め込まれた小型のチップは、ブラックボックス。
任務終了後、行動ログも記憶も抹消される仕組み。
――記録に残らない兵士。
それがGhostEDGE。
装備が完了した瞬間、周囲の隊員と自分の呼吸が自然に合っていく。
意図せず、同じリズムで吸い、同じタイミングで吐く。
まるで装置が俺を“同期”へと引きずり込んでいるようだった。
「……人間じゃ、ない」
思わず漏らした声は、誰にも届かない。
輸送機のハッチが開く。
夜明け前の空気が流れ込み、冷気と油の匂いが混じり合う。
街の遠景には、煙突群が吐き出す黒煙と、赤い警告灯が明滅していた。
煌京重工の研究都市。
表向きは「未来の都市を支える重機メーカー」。
ホログラム広告には笑顔の作業員が掘削機の横で手を振り、
《KOKEI──未来の都市を創る力学》
というスローガンが浮かんでいた。
だが俺たちにとって、この街は兵器の実験場にすぎない。
クレーンは砲塔に転用され、資材輸送車は兵器データを偽装輸送する装甲搬送車両。
都市そのものが、巨大な戦闘機構だった。
背中を押され、俺は輸送機から蹴り出された。
重力が喉を潰し、膝が砕けそうになりながらも着地する。
着地の衝撃と同時に、P90の銃身が熱を帯びた。
古びた旧世代の銃。だが内部には、別のものが宿っていた。
――脳内に声が走る。
《射線確保。敵兵三、右斜め前方。命中率97%。》
「……誰だ!?」
仲間は無言のまま。
視界の隅に赤いオーバーレイが走り、敵兵の輪郭を囲む。
《撃て》
反射的に引き金を絞る。
銃声が、夜明けの街に短く響いた。
三人の敵兵が同時に倒れ込む。
俺が撃ったのか、それとも銃が勝手に殺したのか――。
《初めてにしては上出来だな。いや、俺が補正したから当然か》
声は冗談めいていた。
戦術AI。名のない相棒。
恐怖よりも、胸の奥に熱が広がる。
背骨に噛みつく機械、存在を抹消するブラックボックス。
すべてが人間性を削り取っていくはずなのに――この声だけが不思議に温かい。
《ワクワクするだろ? お前の引き金で、世界がどう変わるのか》
息が震えた。
気づけば笑っていた。
存在を失ったはずの俺に芽生えたもの。
GhostEDGEとしての――存在。
俺の名前は、この瞬間に消された。
軍籍データベースの画面に「削除完了」と赤い文字が点滅し、次の瞬間には“戦死扱い”のリストに移されていた。
端末に映る自分の名は、冷たい数字の羅列の中へ溶け込み、やがて上書きされて消えていった。
まるで最初から存在しなかったかのように。
その瞬間、俺は“新入り”としてGhostEDGEに放り込まれた。
戸籍も、記録も、過去も消された。
生きているのに、存在しない兵士。
格納庫の扉が閉じると、外界からの音が断ち切られた。
代わりに、低い機械音と油の匂いが鼻を刺す。
鉄と消毒液の混じった空気は、すでにここが人間の場所ではないことを告げていた。
床に整列する隊員たちは全員、黒いフードと無機質な仮面で顔を隠している。
十人が揃って立っているのに、そこに“個”は存在しない。
呼吸も、姿勢も、視線の高さすら完全に同期している。
まるで同じプログラムを走らせた機械人形の群れだ。
「装備だ」
誰かが俺に声をかけ、作業台に積まれたものを指差した。
そこには銃器と、背骨に似た金属フレームが並んでいる。
神経接続インターフェース。
外骨格型の人工脊椎。
兵士の背に装着し、脊髄の神経と接触して情報を脳に直結させる装置だ。
隊員たちは迷いなくそれを背に押し当て、ハーネスで固定する。
金属端子が皮膚に食い込み、短い痙攣のような動作が全員の身体を走った。
だが誰ひとり声を上げない。
それが当たり前であるかのように。
俺の番が来る。
背に冷たいフレームが押し当てられる。
次の瞬間、脊髄に焼けるような痛みが走り、全身が硬直した。
骨の奥を何かが這い上がり、頭蓋の内側を叩く。
視界の端に赤いノイズが走り、心臓の鼓動と同期して点滅を始めた。
吐き気を堪えた瞬間、誰かが低く呟いた。
「……これでお前もゼロだ」
腰に装着された黒い筐体が振動する。
認識阻害モジュール。
敵のセンサーや人間の視覚からさえ“存在しない”と認識させる装置。
そして背中に埋め込まれた小型のチップは、ブラックボックス。
任務終了後、行動ログも記憶も抹消される仕組み。
――記録に残らない兵士。
それがGhostEDGE。
装備が完了した瞬間、周囲の隊員と自分の呼吸が自然に合っていく。
意図せず、同じリズムで吸い、同じタイミングで吐く。
まるで装置が俺を“同期”へと引きずり込んでいるようだった。
「……人間じゃ、ない」
思わず漏らした声は、誰にも届かない。
輸送機のハッチが開く。
夜明け前の空気が流れ込み、冷気と油の匂いが混じり合う。
街の遠景には、煙突群が吐き出す黒煙と、赤い警告灯が明滅していた。
煌京重工の研究都市。
表向きは「未来の都市を支える重機メーカー」。
ホログラム広告には笑顔の作業員が掘削機の横で手を振り、
《KOKEI──未来の都市を創る力学》
というスローガンが浮かんでいた。
だが俺たちにとって、この街は兵器の実験場にすぎない。
クレーンは砲塔に転用され、資材輸送車は兵器データを偽装輸送する装甲搬送車両。
都市そのものが、巨大な戦闘機構だった。
背中を押され、俺は輸送機から蹴り出された。
重力が喉を潰し、膝が砕けそうになりながらも着地する。
着地の衝撃と同時に、P90の銃身が熱を帯びた。
古びた旧世代の銃。だが内部には、別のものが宿っていた。
――脳内に声が走る。
《射線確保。敵兵三、右斜め前方。命中率97%。》
「……誰だ!?」
仲間は無言のまま。
視界の隅に赤いオーバーレイが走り、敵兵の輪郭を囲む。
《撃て》
反射的に引き金を絞る。
銃声が、夜明けの街に短く響いた。
三人の敵兵が同時に倒れ込む。
俺が撃ったのか、それとも銃が勝手に殺したのか――。
《初めてにしては上出来だな。いや、俺が補正したから当然か》
声は冗談めいていた。
戦術AI。名のない相棒。
恐怖よりも、胸の奥に熱が広がる。
背骨に噛みつく機械、存在を抹消するブラックボックス。
すべてが人間性を削り取っていくはずなのに――この声だけが不思議に温かい。
《ワクワクするだろ? お前の引き金で、世界がどう変わるのか》
息が震えた。
気づけば笑っていた。
存在を失ったはずの俺に芽生えたもの。
GhostEDGEとしての――存在。
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