GhostEDGE【Z-0 Division】

1000NINN

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三章

幻影

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 [Z0-0415] 研究都市・搬送車両接近ルート


 街の中心部へ近づくと、音が消えた。
 無人車両は途絶え、監視ドローンはホバリングしたまま空に静止している。
 煙突群は黒煙を吐き続けているはずなのに、その轟音すら遠のき、世界が一瞬で凍りついたかのようだった。

 GhostEDGEの隊列は乱れない。
 黒い影の列が、完全に同期したまま進んでいく。
 俺だけが、その静寂に息を詰まらせていた。

 視界に赤いノイズが走る。
 街路の輪郭が二重に揺らぎ、直線だったはずの道が閉じた迷路に見えた。
 数秒後には元通りになったが、心臓が跳ねる。

「……今のは?」

 《幻じゃない。データ層そのものに介入されてる》

 相棒AI〈無名〉の声が低く響く。
 普段の軽口は消え、演算リソースを食われている気配が漂っていた。

 次の瞬間、視界にコードが流れ込んだ。

 [ERROR] PATH::GRID-0431 NOT FOUND  
 [INTRUSION DETECTED] SOURCE=UNKNOWN.AI/PORT:4555


 《侵入だ。……敵AIが監視網を掌握してる》

 足元に影が滲み、そこから兵士の姿が立ち上がった。
 仮面、装備、武器――俺たちと同じGhostEDGEの姿。
 ただし、目の奥は空洞で、動作がわずかに遅れている。

「……仲間じゃ、ない」

 銃を構えた瞬間、影の兵士が一斉に発砲した。
 弾丸が壁を抉り、破片が頬をかすめる。
 幻影のはずなのに、撃たれる感覚は現実そのものだった。

 《コードを注入してる! 奴らは幻を実体化させてる!》

 背骨を焼くような痛み。
 ブラックボックスが震え、神経を通じて幻影が「実弾」として脳に認識されているのだと理解した。

「ふざけるな……!」

 俺は引き金を引いた。
 P90が唸り、弾丸が影の兵士を貫く。
 黒いノイズを撒き散らして幻影が弾ける。
 だが次の瞬間、視界に新たなコードが展開された。

 [SPAWN] DUMMY-PROCESS x8  
 [ATTACK] >> FIREARM_MODULE /override


 幻影兵士がさらに倍に増える。
 狭い路地が一瞬で敵影で埋まり、赤い警告灯の光に銃口が無数に並んだ。

「これじゃ……!」

 《撃て! 数で押される前に崩せ!》

 叫びに背を押され、俺は無我夢中で引き金を引いた。
 薬莢が雨のように飛び散り、火花と破片が散る。
 撃ち倒した兵士は黒い粒子となって崩れるが、すぐに別の影が補充される。
 幻と現実の区別がつかない。
 だが一つだけ確かなのは――撃たなければ死ぬ、という事実だった。

「っ……!」

 反動で肩が痺れる。
 銃声に紛れて、自分の叫び声が漏れていた。



 その時、〈P90〉が鋭く告げた。

 《今だ、切り崩す!》

 新たなコードが走る。

 [KILL] PROCESS::DUMMY-PROCESS --force  
 [PATCH] FIREARM_MODULE /reset  


 一斉に幻影兵士が崩れ、ノイズとなって消えていった。
 残ったのは散らばる薬莢と焦げた匂いだけ。

 呼吸が荒い。
 汗が首筋を伝い、背骨のインターフェースが灼けるように熱い。

 《覚えろ、新入り。俺の演算だけじゃ勝てない。》
 《兵士の腕とAIの処理、両方が噛み合わなきゃ生き残れないんだ》

 幻影が消えた路地を抜け、隊列は何事もなかったかのように進む。
 古参の隊員たちは振り向きもしない。
 彼らにとっては、これすら日常なのかもしれない。

 だが俺の胸には「視られていた」という感覚が焼き付いて離れなかった。
 敵にもまたAIがいて、こちらを監視し、試し、測っている。
 ただの兵士同士の戦いではない。
 AIとAIが、兵士を【駒】として戦場に立たせているかのように。

 赤い警告灯が幻と現実を区別することなく、都市を血のように染め続けていた。
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