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五章
撤退
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[Z0-0520] 研究都市・中央搬送ルート離脱区画
データ奪取の瞬間、街の空気が変わった。
赤い警告灯が都市全域で点滅し、広告ホログラムが一斉に「警戒区域」の文字に書き換わる。
監視ドローンが蜂の巣を突いたように飛び立ち、街路を埋め尽くす羽音が響いた。
《……っ、奴らが来る。》
〈P90〉の声がノイズに歪む。
頭蓋を叩くような痛み。
演算リソースが削り取られていく感覚に、歯を食いしばる。
路地の先に、兵士の影が現れた。
人間の護衛兵。その背後に、幻影の兵士が重なる。
本物と偽物、実弾と幻影。
見分ける暇などない。
《撃て! 一点を抜け!》
AIの指示に従い、俺は銃口を路地の中央へ固定した。
弾丸が火花を散らし、影の群れを薙ぎ払う。
人間の兵士が倒れ、幻影の兵士は黒いノイズとなって弾け飛ぶ。
突破口が一瞬だけ開いた。
GhostEDGEの隊列は迷いなくその隙を突く。
無言の影が一斉に駆け抜ける。
俺も喉を焼く息を吐き出しながら、必死でその後を追った。
その時だった。
——視界の奥に、漆黒の“影”が一瞬だけ立ち現れる。
輪郭も定かでない強敵の存在。
幻影兵士たちを操る源、あるいは都市中枢のAIか。
〈P90〉が警告音を鳴らす。
《……干渉を受けている。演算の三割を奪われた。》
背後で爆音が響いた。
振り返ると、路地全体が幻影に覆われ、出口が塞がれていく。
だがもう遅い。俺たちは抜けていた。
外縁区画に飛び出した瞬間、〈P90〉が低く呟いた。
《……奴らの本気は、これからだ》
赤い警告灯がまだ遠くで瞬き続けていた。
都市全体が生き物のように、俺たちを飲み込もうとしている。
崩れた高架の向こうに、迎えのヘリの影が見えた。
だが、その前に奴が立ちはだかる。
漆黒の装甲に覆われた巨体。
都市制圧重機兵《KT-45 "URBAN MAULER"》。
煌京重工が街戦のためだけに設計した歩く要塞。
ミサイルポッドが唸り、重機関砲がこちらを狙う。
刹那、ひとりの隊員が音もなく前へ躍り出た。
背中には、白い〈FOX〉の紋章。
伝説のコードを背負う者だけに許された印。
その背中が火線を引き受けた瞬間、俺たちは同時に走り出した。
爆炎と轟音がKT-45を包み込み、視界を灼く光が広がる。
突破口は開かれた。
新人の俺は喉を焼く息を吐き、全力で駆け抜ける。
振り返った視界に、炎の中へ消える〈FOX〉の影が映った。
だが——。
ヘリに飛び乗った瞬間、振動する床に別の影が着地した。
炎を背に、無傷ではないものの、まだ立っていた。
〈FOX〉は生きていた。
〈P90〉が低く告げる。
《……あれがGhostEDGE最強の一人。》
俺は銃を握り締め、焼き付けた。
いつか、あの背中を継ぐ日が来ると。
FOXの名は、伝説を証明するコード。
その未来が、確かに俺の胸に刻まれた。
データ奪取の瞬間、街の空気が変わった。
赤い警告灯が都市全域で点滅し、広告ホログラムが一斉に「警戒区域」の文字に書き換わる。
監視ドローンが蜂の巣を突いたように飛び立ち、街路を埋め尽くす羽音が響いた。
《……っ、奴らが来る。》
〈P90〉の声がノイズに歪む。
頭蓋を叩くような痛み。
演算リソースが削り取られていく感覚に、歯を食いしばる。
路地の先に、兵士の影が現れた。
人間の護衛兵。その背後に、幻影の兵士が重なる。
本物と偽物、実弾と幻影。
見分ける暇などない。
《撃て! 一点を抜け!》
AIの指示に従い、俺は銃口を路地の中央へ固定した。
弾丸が火花を散らし、影の群れを薙ぎ払う。
人間の兵士が倒れ、幻影の兵士は黒いノイズとなって弾け飛ぶ。
突破口が一瞬だけ開いた。
GhostEDGEの隊列は迷いなくその隙を突く。
無言の影が一斉に駆け抜ける。
俺も喉を焼く息を吐き出しながら、必死でその後を追った。
その時だった。
——視界の奥に、漆黒の“影”が一瞬だけ立ち現れる。
輪郭も定かでない強敵の存在。
幻影兵士たちを操る源、あるいは都市中枢のAIか。
〈P90〉が警告音を鳴らす。
《……干渉を受けている。演算の三割を奪われた。》
背後で爆音が響いた。
振り返ると、路地全体が幻影に覆われ、出口が塞がれていく。
だがもう遅い。俺たちは抜けていた。
外縁区画に飛び出した瞬間、〈P90〉が低く呟いた。
《……奴らの本気は、これからだ》
赤い警告灯がまだ遠くで瞬き続けていた。
都市全体が生き物のように、俺たちを飲み込もうとしている。
崩れた高架の向こうに、迎えのヘリの影が見えた。
だが、その前に奴が立ちはだかる。
漆黒の装甲に覆われた巨体。
都市制圧重機兵《KT-45 "URBAN MAULER"》。
煌京重工が街戦のためだけに設計した歩く要塞。
ミサイルポッドが唸り、重機関砲がこちらを狙う。
刹那、ひとりの隊員が音もなく前へ躍り出た。
背中には、白い〈FOX〉の紋章。
伝説のコードを背負う者だけに許された印。
その背中が火線を引き受けた瞬間、俺たちは同時に走り出した。
爆炎と轟音がKT-45を包み込み、視界を灼く光が広がる。
突破口は開かれた。
新人の俺は喉を焼く息を吐き、全力で駆け抜ける。
振り返った視界に、炎の中へ消える〈FOX〉の影が映った。
だが——。
ヘリに飛び乗った瞬間、振動する床に別の影が着地した。
炎を背に、無傷ではないものの、まだ立っていた。
〈FOX〉は生きていた。
〈P90〉が低く告げる。
《……あれがGhostEDGE最強の一人。》
俺は銃を握り締め、焼き付けた。
いつか、あの背中を継ぐ日が来ると。
FOXの名は、伝説を証明するコード。
その未来が、確かに俺の胸に刻まれた。
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