GhostEDGE【Z-0 Division】

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六章

拠点

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 [Z0-BASE] GhostEDGE臨時拠点

 帰還用ヘリが格納庫に着地した瞬間、鉄板がきしむ重低音が鳴り響いた。
 ハッチが開くと、鉄と火薬と薬品が混ざった匂いが一斉に押し寄せる。
 暗く広い格納庫。壁は弾痕と補修痕だらけで、金属の骨組みには古い焼け跡が残っている。
 戦場の延長線上にある、GhostEDGEの“巣”だった。


 隊員たちは無言で降り立つ。
 誰も勝利の声を上げない。労いの言葉すら口にしない。
 生きて戻るのは任務の一部でしかなく、喜ぶことではなかった。

 俺は装甲服を脱ぐ余裕もなく、膝に銃を抱えたまま床に崩れ落ちる。
 肺の奥が焼けるように痛い。まだ都市の炎と警告灯が目の裏に残像として焼き付いていた。

 ふと視界の隅に、煤と血に汚れた背中が映った。

 ——〈FOX〉。

 炎に消えたと思った背中は、今ここにある。
 無言で立ち、周囲を見渡すその姿は、ただ生きて帰っただけで伝説と化していた。
 俺の目には遠すぎた。背中に刻まれた白い紋章は、あまりに強烈で、自分とは別の世界に属するもののように思えた。





 「止血は雑だな」


 低い声に顔を上げる。額に古傷を持ち、義手を備えた壮年の兵士が立っていた。

 コード〈IRON〉。GhostEDGEの古参であり、補助的に後方支援を担う男だ。
 IRONは俺の腕に巻かれた止血帯を器用に外し、義手の指で新しい包帯を締め直す。
 その仕草に迷いはなく、言葉は冷ややかだった。

 「戦場で甘さは死を呼ぶ。銃も身体も同じだ。覚えろ」

 叱責というより、ただ事実を突きつける声音だった。

 格納庫の奥では、油にまみれた短髪の女が工具を振るっていた。
 コード〈SPARK〉。整備士であり、兵装の点検を一手に引き受ける存在だ。
 レンチを叩く乾いた音が、格納庫にリズムを刻む。

 「残弾、バラけすぎ。無駄撃ちしたでしょ?」

 俺を一瞥し、肩をすくめて笑う。

 「弾丸はタダじゃないんだから。もっと大事に使いなよ」

 その軽口は場の張り詰めた空気を少しだけ和らげた。

 さらに奥、作業灯の強い光が断続的に瞬いていた。
 火花の中で立つのは〈鍛(カジ)〉。
 分厚い防爆エプロンを着込み、黒く煤けた手で焼け焦げたライフルを分解している。

 「……甘い撃ち方だ。銃身が泣いてる」

 冷たい声が響く。誰に向けた言葉かは分からないが、俺の胸に刃のように突き刺さる。


 SPARKが顔をしかめて横から口を挟む。

 「また説教? 新人ビビるって」

 だが鍛は視線を上げず、手元の銃に新しい命を吹き込むように溶接を続けた。

 「銃は正直だ。甘さも怠慢も全部刻み込む。……人間よりよほど信用できる」

 彼の声には不思議と、、重さがあった。


 医療区画からは呻き声が続き、担架が運ばれていく。
 さっきまで隣を走っていた仲間が、もう動かない肉の塊として処理される。
 吐き気が込み上げる。現実感が遠のく。


 〈P90〉がヘルメット内部で告げた。

 《任務は成功。データは確保された》

 冷たい合成音声が胸を締め付ける。

 《だが——代償は小さくない》

 その時、通路から別の影が現れた。
 無地のジャケットに情報端末を携えた人物。片目にはHUDのような義眼が光る。

 コード〈ARCH〉。GhostEDGEのAIシステムを設計し、〈P90〉を生み出した開発者だ。

「演算の三割が削られていたな」

 ARCHは淡々と端末を操作しながら言う。
 俺を見ているのではなく、俺の中にあるデータを見透かすような目だった。

 〈P90〉が応答する。

 《ARCH。処理能力に負荷が残っている》

「修正パッチは送った。次の任務までは保つだろう」

 短い会話。だがその温度のない口調に、俺は寒気を覚えた。
 この人物は、人を見ているのか、AIを見ているのか。境界が曖昧だった。

 ARCHは去り際に、ほんの一瞬だけこちらへ視線を向けた。

 「——生き残ったデータは、貴重だ」

 言葉の意味を咀嚼する前に、その背中は格納庫の奥へ消えていった。



 FOXの背中、IRONの手、SPARKの笑み、鍛の火花、ARCHの眼。
 拠点の空気は、生き残った者に次の死地を準備するだけの冷たさを持っていた。

 俺は何も言えなかった。
 彼らの間にいることすら、自分には場違いに思えたんだ。
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