GhostEDGE【Z-0 Division】

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八章

玩具

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 [Z0-BASE] 格納区画

 鉄と油の匂いが充満する広大な格納庫に、低く重い振動が響いていた。
 シャトルのエンジンが回転を始め、床の金属板が不安定に震える。
 出撃を前にした空気は、静寂よりも重苦しい。誰も鼓舞の言葉を口にせず、ただ無言で装備を点検していた。

 〈CROW〉が端末を操作しながら、片目だけこちらに向ける。

 「おい、ROOKIE。弾倉は余分に持っとけ。お前が外すたびに、俺の処理が増えるんだ」

 肩をすくめた〈BOLT〉が笑う。

 「気にすんな。撃ってりゃそのうち当たる。死ぬ前にな」

 豪快な笑い声が格納庫の金属壁に反響するが、それも数秒で消える。

 〈SHADE〉は何も言わず、ナイフの刃を光にかざし、静かに腰へ差し込んだ。
 彼女の沈黙は声よりも雄弁だった。

 俺——〈ROOKIE〉はストラップを締め直しながら、冷や汗を指で拭った。
 何か言い返したかったが、喉は音を出すことを拒んでいた。

 《気にするな。初めては誰だってぎこちない》
 ヘルメット内部で、〈P90〉の声が優しく囁く。
 だがその直後、冷徹な女声が上書きした。

 《発言冗長。残り出撃まで八分》

 〈ORACLE〉,,部隊全体を管理するサポートAI。人間の感情を切り捨て、時間だけを数える。

 そのとき、奥の作業台から火花が散った。
 視線を向けると、分厚い防爆エプロンを纏った男が立っていた。
 〈鍛(カジ)〉——GhostEDGEのガンスミス。
 彼は新品の黒いブレードを片手に持ち、俺の方へと歩み寄った。

「ROOKIE」
 短く名を呼ぶ。
 俺が立ち上がると、カジは振動ブレードを突き出した。
 漆黒の刃が淡く振動し、低い唸りを放っている。

「振動ブレードだ。対KT-45用に改造した。鋼板を裂ける。……ただし、使いこなせればの話だ」

 無骨な手が刃を俺に渡す。
 重さは銃より軽いはずなのに、全身が沈むような重圧を感じた。

 横で〈SPARK〉が笑いながら近づく。

 「師匠は説明下手だから、あたしが教えるよ。いい? 振動は常時じゃなくてトリガー式。
  オンにすれば切断力は上がるけど、バッテリー消費もヤバいから、ここぞって時に使うこと」

 SPARKは手際よく刃を握り直し、トリガーを押し込む。
 刃全体が低周波で震え、空気がビリビリと軋む音を立てた。
 「これで外装を切り裂ける。ただし力任せに振るうな。振動が制御できなくなる」

 彼女が刃を返すと、俺は恐る恐るそれを受け取った。
 手の中で機械が生きているように震え、汗で手袋が湿る。

「……」
 カジは無言で背を向け、再び作業台へ戻っていった。
 その背中は「生き残れ」とも「死ぬな」とも言わず、ただ鋼鉄のように重かった。

 格納庫の奥の端末が起動音を鳴らす。
 冷たい声が全員の耳を貫いた。
 《追加報告。試験型サブAI〈P90〉に新機能を搭載》

 思わず息を飲む。
 端末の前に立っていたのは、片目にHUDを光らせた人物。
 〈ARCH〉。GhostEDGEのAI開発者。P90を設計した張本人だった。

「演算補助を強化した。短時間だが処理能力を一時的に底上げできる」
 ARCHの声は感情を欠いたまま続く。
 「ただし負荷が大きい。使用は慎重に」

 P90が応答する。
 《了解。負荷領域は監視する》

 ARCHは頷くことなく、ただ端末を閉じた。

 「試験体にしては上出来だ。次で有用性を証明してみせろ」

 その言葉は俺に向けられたのか、P90に向けられたのか。分からなかった。

 〈CROW〉がニヤリと笑い、俺の肩を軽く叩く。
 「よかったな、新機能つきのオモチャだ。壊すなよ」
 〈BOLT〉は笑いながら銃を背負い直す。
 「壊す前に敵に突っ込め。そしたら俺がフォローしてやる」
 〈SHADE〉はただ視線を向けず、影のように佇んでいた。

 シャトルのハッチが開き、冷たい金属の風が吹き込んだ。
 心臓が無意識に跳ねる。

 誰も「行こう」とは言わない。ただ、全員が無言のまま機体へ歩き出した。

 俺も足を踏み出す。
 振動ブレードの重みと、頭の中で響くP90の声を抱えながら。

 《——任務開始》
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