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04.
25.羨ましい
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懲罰房から戻ったバウマンは、遠巻きに観察される日々を送っていた。 講義以外の時間をなるべくブラームやマティルと共にいて様々な気遣いを向ける様子を見せつけるバウマンに嫌味の声が届く事は無かった。
「まさか、学園内で騎士団の人達が訓練しているなんて知りませんでした。 それに、王族の方々まで」
「普通の学生は、寝ている時間ですからね」
そう答えたのは、ブラームではなく王太子だった。 他の王子や王女、それに公爵家の子息までもが訓練に参加している。 騎士の力は適度な発散が無ければ、眠られなくなり、そして精神不安をもたらす。 まだ力の発現から日も浅いバウマンは大きな影響はなかったが、もし今まで通り放置をしていたなら苛立ちから狂暴化し、他の貴族達の付け入りどころとなっただろう。
「で、どうだった彼の秘密基地は?」
先に見ていた王太子は、ニヤニヤした様子でブラームに問うた。
「どうですかね。 俺は芸術方面に疎いですからねぇ……」
どこか期待した目で見てくるバウマンにブラームは肩を竦めた。
「怒るなよ?」
「怒る訳ありません」
「子供のオモチャ箱のようだと思った」
言いながらブラームは苦笑しバウマンの表情を見れば、悪い感想ではなかったらしく嬉しそうに照れていた。
「まぁ、楽しそうな秘密基地だったよ」
そうブラームは付け加え、水をかぶり濡れたバウマンの頭をタオルでごしごしと拭った。
「あら、なんだか楽しそうね。 私も見てみたいわその秘密基地」
次に声をかけてきたのは、13歳を迎える王女である。
「なら、応接室を飾らせよう。 バウマン、出来上がったら招待してやるといい」
「ぇ、ですが……王族の方々がそんなに気安くお誘いするなんて」
「馬鹿ねぇ~。 なんで王族でありながら損をしなければいけないのよ」
続けて年若い王女は笑っていた。
「損ですか? ですが、素人の……」
「グダグダウルサイわね!! もう1セットつき合わせるわよ」
「それは……勘弁してください。 準備が出来たら改めて招待状を出させて頂きます」
バウマンは慌てて言えば、ふんすっと王女はドヤりながら言う。
「わかればいいのよ」
そんな様子を、遠巻きにマティルは眺めていた。
「私も、仲間に入りたい……いいなぁ……」
「それは、私も思います」
突然に声をかけられビクッとした。
「ヘーレン伯爵令嬢」
訓練に参加しているヘールス公爵令息の婚約者だった。 予想外な声賭けに戸惑えば、彼女もまた戸惑いがちに微笑みを向けて来た。
「大変でございましたわね」
彼女もまた可哀そうだとマティルに言っていた1人であるが、今はそれほど嫌な気分になっておらず、マティルは堂々と応じる事が出来た。
「滅多に出来ない経験は、価値あるものでしたわ」
マティルは優雅に微笑む。 自分より上位にある貴族だと言っても年下の少女を気にし過ぎる必要等無いと、自分に言い聞かせていた。
「そうですか……。 案じておりました……」
ソレは何か奇妙な言い方で、胸がざわりとしたがマティルは気づかないふりをした。
「お騒がせして申し訳ございませんでした」
「いえ、決してそのような事……ただ……その……少し……」
「少し?」
「いえ、何でも……」
「そうですか……」
二人は、井戸の周りで汗を流す騎士訓練に出た者達を無言で眺める。
居心地の悪い時間だった。
「スタール男爵令嬢……」
「なんでしょうか?」
「ベール侯爵令息が、懲罰房に入れられている間、ずっと側に付き添われていたと伺っております。 とても、仲がよろしいのですね。 どうして、懲罰房に入れられる方を愛する事が出来るのですか?」
「あ、愛ですか?!」
声がひっくり返っていた。
「ぇ?」
「その、ヘーレン伯爵令嬢は、その公爵様を愛しておられるのですか?」
伯爵令嬢の顔が真っ赤になっていた。
「その、私達は仲が……良く見えますか?」
「はい……とても……」
ソレはとても不思議だった。 マティルはずっと自分が興味を持たれず、婚約者としての役割を添え物のようにこなしているだけと思っていたから。
「でも、側にいるだけで、特別な事はありませんのよ?」
バウマンには、ブラームがかけてくるような愛の言葉はない。 いや、感謝の言葉は、良くかけられるようにはなっていて、ソレが嬉しくて、はしゃいでしまう事もあったし、お礼になるかな? と、初めて作ったクマのヌイグルミを渡された時は、とても嬉しかった。
まぁ、途中からはヌイグルミは、成長記録のようになったがソレはソレで楽しく、そしてやっぱり嬉しかった。 カップに花の絵や動物の絵を描き喜ばせようとしてくれるのも楽しかった。
「いえ……そうね。 バウマン様は私をとても、気遣ってくださいますの」
マティルは金持ちだ。
そしてバウマンは貧乏。
他の貴族の恋人達が送るようなプレゼントをバウマンは出来ないし、マティルも自身金持ちの割に質素倹約で育てられている分、金を出せば手に入る物を単純に嬉しいと思う事は無いだろう。
贈り物が出来ない。
喜ばせる事ができない。
そう言う細かな事がバウマンの罪悪感となりよそよそしさを作っていたのも事実だ。 ヌイグルミの中には、花柄模様のものもある。
『私は、貴方に花束すらプレゼントできなかったから。 子供みたいなプレゼントで申し訳ないのですが……』
そう告げるバウマンの表情は恥ずかしそうだった。 何時も不愛想にしていると思い込み視線を背けていたと思い込んでいただけで、ずっと彼は私に申し訳ないと思っていたのだろうか? そう思えば、申し訳なさとバウマンがとても可愛らしく思えた。
『いいえ、とても素敵。 私のドレスに描いて欲しいほどですわ』
実際にそれほど素晴らしい絵だった。
『それは、とても楽しそうですね。 あぁ、やりたい事が沢山でてくる』
『全部、やればいいじゃないですか。 私も、バウマン様が作り出すものを見ているのが楽しいです』
そんな日々の出来事が、2人の距離を近づけた。
思い出してほっこりしているマティルを見たヘーレン伯爵令嬢は、苦笑交じりにうつむきながら言う。
「やっぱり、羨ましいです」
「まさか、学園内で騎士団の人達が訓練しているなんて知りませんでした。 それに、王族の方々まで」
「普通の学生は、寝ている時間ですからね」
そう答えたのは、ブラームではなく王太子だった。 他の王子や王女、それに公爵家の子息までもが訓練に参加している。 騎士の力は適度な発散が無ければ、眠られなくなり、そして精神不安をもたらす。 まだ力の発現から日も浅いバウマンは大きな影響はなかったが、もし今まで通り放置をしていたなら苛立ちから狂暴化し、他の貴族達の付け入りどころとなっただろう。
「で、どうだった彼の秘密基地は?」
先に見ていた王太子は、ニヤニヤした様子でブラームに問うた。
「どうですかね。 俺は芸術方面に疎いですからねぇ……」
どこか期待した目で見てくるバウマンにブラームは肩を竦めた。
「怒るなよ?」
「怒る訳ありません」
「子供のオモチャ箱のようだと思った」
言いながらブラームは苦笑しバウマンの表情を見れば、悪い感想ではなかったらしく嬉しそうに照れていた。
「まぁ、楽しそうな秘密基地だったよ」
そうブラームは付け加え、水をかぶり濡れたバウマンの頭をタオルでごしごしと拭った。
「あら、なんだか楽しそうね。 私も見てみたいわその秘密基地」
次に声をかけてきたのは、13歳を迎える王女である。
「なら、応接室を飾らせよう。 バウマン、出来上がったら招待してやるといい」
「ぇ、ですが……王族の方々がそんなに気安くお誘いするなんて」
「馬鹿ねぇ~。 なんで王族でありながら損をしなければいけないのよ」
続けて年若い王女は笑っていた。
「損ですか? ですが、素人の……」
「グダグダウルサイわね!! もう1セットつき合わせるわよ」
「それは……勘弁してください。 準備が出来たら改めて招待状を出させて頂きます」
バウマンは慌てて言えば、ふんすっと王女はドヤりながら言う。
「わかればいいのよ」
そんな様子を、遠巻きにマティルは眺めていた。
「私も、仲間に入りたい……いいなぁ……」
「それは、私も思います」
突然に声をかけられビクッとした。
「ヘーレン伯爵令嬢」
訓練に参加しているヘールス公爵令息の婚約者だった。 予想外な声賭けに戸惑えば、彼女もまた戸惑いがちに微笑みを向けて来た。
「大変でございましたわね」
彼女もまた可哀そうだとマティルに言っていた1人であるが、今はそれほど嫌な気分になっておらず、マティルは堂々と応じる事が出来た。
「滅多に出来ない経験は、価値あるものでしたわ」
マティルは優雅に微笑む。 自分より上位にある貴族だと言っても年下の少女を気にし過ぎる必要等無いと、自分に言い聞かせていた。
「そうですか……。 案じておりました……」
ソレは何か奇妙な言い方で、胸がざわりとしたがマティルは気づかないふりをした。
「お騒がせして申し訳ございませんでした」
「いえ、決してそのような事……ただ……その……少し……」
「少し?」
「いえ、何でも……」
「そうですか……」
二人は、井戸の周りで汗を流す騎士訓練に出た者達を無言で眺める。
居心地の悪い時間だった。
「スタール男爵令嬢……」
「なんでしょうか?」
「ベール侯爵令息が、懲罰房に入れられている間、ずっと側に付き添われていたと伺っております。 とても、仲がよろしいのですね。 どうして、懲罰房に入れられる方を愛する事が出来るのですか?」
「あ、愛ですか?!」
声がひっくり返っていた。
「ぇ?」
「その、ヘーレン伯爵令嬢は、その公爵様を愛しておられるのですか?」
伯爵令嬢の顔が真っ赤になっていた。
「その、私達は仲が……良く見えますか?」
「はい……とても……」
ソレはとても不思議だった。 マティルはずっと自分が興味を持たれず、婚約者としての役割を添え物のようにこなしているだけと思っていたから。
「でも、側にいるだけで、特別な事はありませんのよ?」
バウマンには、ブラームがかけてくるような愛の言葉はない。 いや、感謝の言葉は、良くかけられるようにはなっていて、ソレが嬉しくて、はしゃいでしまう事もあったし、お礼になるかな? と、初めて作ったクマのヌイグルミを渡された時は、とても嬉しかった。
まぁ、途中からはヌイグルミは、成長記録のようになったがソレはソレで楽しく、そしてやっぱり嬉しかった。 カップに花の絵や動物の絵を描き喜ばせようとしてくれるのも楽しかった。
「いえ……そうね。 バウマン様は私をとても、気遣ってくださいますの」
マティルは金持ちだ。
そしてバウマンは貧乏。
他の貴族の恋人達が送るようなプレゼントをバウマンは出来ないし、マティルも自身金持ちの割に質素倹約で育てられている分、金を出せば手に入る物を単純に嬉しいと思う事は無いだろう。
贈り物が出来ない。
喜ばせる事ができない。
そう言う細かな事がバウマンの罪悪感となりよそよそしさを作っていたのも事実だ。 ヌイグルミの中には、花柄模様のものもある。
『私は、貴方に花束すらプレゼントできなかったから。 子供みたいなプレゼントで申し訳ないのですが……』
そう告げるバウマンの表情は恥ずかしそうだった。 何時も不愛想にしていると思い込み視線を背けていたと思い込んでいただけで、ずっと彼は私に申し訳ないと思っていたのだろうか? そう思えば、申し訳なさとバウマンがとても可愛らしく思えた。
『いいえ、とても素敵。 私のドレスに描いて欲しいほどですわ』
実際にそれほど素晴らしい絵だった。
『それは、とても楽しそうですね。 あぁ、やりたい事が沢山でてくる』
『全部、やればいいじゃないですか。 私も、バウマン様が作り出すものを見ているのが楽しいです』
そんな日々の出来事が、2人の距離を近づけた。
思い出してほっこりしているマティルを見たヘーレン伯爵令嬢は、苦笑交じりにうつむきながら言う。
「やっぱり、羨ましいです」
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