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2章 精霊の愛し子

07.化け物 02

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 5年間。 無理の無いようにと労わられていた身体の成長が一気に行われ、抑えられていた成長の痛みが襲ってくる。 溢れる血と魔力。

 私は苦痛に助けを求めるように、ロノスを見上げた。 そこにあったのは、侮蔑とも、嫌悪とも言える視線。

 小精霊が私の側にいて世話をやいた事で、私の魔力を吸収し進化を遂げようとした。 それを知ったロノスは小精霊の進化を歪ませ、醜い歪んだ姿へと変質させた。 なぜそんな酷い事をしたのかと問えば、過度な欲望を持ったと存在しない感情を押し付け罪とし自らの正しさを説いた。

 ロノスの視線は、その時と同じで私は何も望めない事を知った。

 元から期待していなかった。 期待しないようにしていたのに……ショックを受けると言う事は、私はまだ期待していたのだろう。

 私は、身動き一つとれぬ状態で、秒単位で分厚く固い魔力と血の混ざった塊が、身体を覆っていく中、空間を固定して作った檻、人1人が入れる巨大な水晶のようなキューブの中に入れられ……そして、聖女ではないアリアメアの処遇を話し合っている場に、時空の精霊ロノスは私を連れ訪れた。

 本来であれば、迷宮図書館と言う場に繋がれた精霊ロノス本人が人間の世界に降臨することは無い。 迷宮図書館の守り管理すると言う契約を無視するもの。 膨大な力を持つからこそ、精霊の契約違反は人よりも大きな罰を受ける。

 だが、ロノスは全く気にしていなかった。
 気にすることなく、外へと向かった。

 何故?

 理由など考える余裕は、今の私にはない……。 状況を理解するのも出来ているのか分からない。 あぁ、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い……。 痛み、ぐらぐらする頭の中、身体の全てが痛く吐き気がする。





「何者だぁ!!」

 叫ぶのは、謁見の間を守る王の護衛騎士。

「初めまして、人間共。 そして人の王よ。 私は時空を司る精霊ロノスと申します。 貴方達が本物の聖女を探し欲していると知りお持ちしました」

 誰もが、唖然としていた。

 ロノスの人並外れた美貌。 突然の出現。 全てを理解しているかのような発言。 それは力ある精霊であることの証明となっただろう。

「なぜ……、貴方のような尊き方が……」

 言われ美しい顔立ちでニッコリと微笑むロノスは、アリアメアを直接見た事で今までにないご機嫌だ。

 アリアメアもまた美しい姿のロノスに見惚れ、見つめられ、頬を染めている。

 それがまたカワイイのだとロノスは浮かれる。 そして、歌うようにロノスは語りだす。

「この地に眠る破滅の魔人の封印が弱まり、魔人はじわじわとその力を伸ばし、大地を大気を侵食し、自然を潤す小精霊達を食し力としています。 貴方方も気づいている事でしょう。 この地の恵みが減っている事を。 大気が汚れ、人の心がユックリとうっすらと悪意に染められようとしている事を。 人の世と、精霊達を救う。 それが、私が預かりし少女聖女レティシアなのです。 人間も同じ見解なのですよね?」

 ロノスは王ではなく、ロノスの声は最も力のある魔導士に問う。 老いた魔導士は、膝をつき、大きな力を持つロノスに尊敬と憧憬をもって熱く見つめ答える。

「その通りでございます」

「で、あれば、私は聖女を貴方達に進ぜよう」

 レティシアを閉じ込めたキューブは、狭く、急激に放出される魔力と血がキューブ内にたまり子宮のようになっていた。 人々は怪訝そうな顔でキューブを見る。

「それが?」

「えぇ、魔導士であればこれがどれほどの魔力か分かるでしょう。 迷宮図書館と言う人間の建物に縛られた私が、王宮まで来られるほどの魔力を得た理由もわかるでしょう」

「それは……それは、それは、素晴らしい!!」

 一瞬考え込むがすぐに魔導師は歓喜した。

「では、代わりに、対処に困っているらしいその娘が欲しい。 構いませんよね!?」

 最後の要求。

 歌うような麗しい声色は消え失せ、脅すような低音へと変化していた。

「あぁ、ありがたい」

 是非はせずとも、その場にいた魔導士たちは片膝をつき頭を下げる。

 国王も王妃も……、聖女の婚約者となる事を約束された王子は当然のことながら返事は出来ず、王子はアリアメアを抱きしめる腕に力を込めた。

 だが、全ては当人によって決定された。

 アリアメアが王子の腕を跳ね除け、美しく力ある精霊の元へと走り出したのだ。 王子は止めようとしたが、受け入れられた時空の精霊ロトスが許す訳などない。

 聖女を育てるためだと、育てるべきレティシア本人よりも眺め続けていたアリアメア。 それは何時の間にか愛情へと変わっていた。

 アリアメアを腕に抱くと同時に、ロノスはレティシアを捕らえるキューブを解放すれば、血と魔力があふれ出し、中から赤黒い岩が出ていた。 それはわずかに人の形だと認識できる岩人形でしかなく、濃厚な甘い魔力の匂い魔導士以外は口を押える。

 げぇえええええ。

 王子が甘い甘い腐敗臭にも近い濃厚過ぎる甘さに吐いた。 そして、中身を見て2度吐き、それが聖女だと知って3度吐き、アリアメアへと視線を向ける。

「僕はアリアメア、君の事が、君だけが」

「汚い……、ロノス様行きましょう」

 そう微笑んで見せた。


 もし痛みが無ければ、レティシアはアリアメアを止めただろう。
そして、アリアメアは嘲笑うように、化け物の姿をした少女にこう言うだろう。

『化け物の分際で、私に嫉妬しているの?』

 そんな会話は実際には交わされなかったが、アリアメアが未だ魔力交じりの血をにじませ硬化させ、血をにじませ続ける。 わずかに人の形を残す赤黒い岩の表面にじくじくと液体を流すレティシアを人とは認識していない。

 それはアリアメアだけではなく、その場にいる全員、魔導士すらそうだった。 魔導師たちは人に見えぬレティシアの姿に、聖女とは、その能力であり、人格は関係等しないと、勝手に納得した。

「では、聖女は渡しましたよ」
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