23 / 67
2章 囀り
04.分かる男
大学を居心地よいと感じて集まる人が増えていた。
それが億劫だった。
混ざれないことが孤立と孤独を高めていく。一人でいる事は好きな方だけど、集団化する人々に異物として扱われる状態が重苦しい。
「いっそはっきりと排斥されるなら、嘆きようもあるのかも」
声に出してみるが、それはそれで耐えられない。集団として成立する時、彼女達は揃って正しさをルールにするから……何も無かったように過ごせている。私と同じようにやり過ごしている人もいる。それが救いになっていた。
バイト先の制服に着替えながら、そっと溜息をついた。
喫茶店「木漏れ日」は、夜の闇が深まるほどに灯りが柔らかに溶けて、BGMが優しく流れて染み入り、心が緩む。
木の色と、湯気と、コーヒーの香り、店長の声が、外の世界を薄くするのだ。
この時間、店はいつもより混む。
店長のファンだという女の子たちが、決まった席に集まっていた。彼女たちは甘いものより、店長の笑い方が、指先が、静かな声が――好きなのだと思う。
注文のたびに顔がほころんでいる。
穏やかに、コーヒーと甘い菓子を口にする瞬間、彼女達は雰囲気を、それを作り出している店長ごと楽しんでいるように思える。
だけど、今日はいつもと少しだけ違っていた。
大学限定の“アレ”が、ここにも忍び寄ってきている。
店長のファンの女性達の席の近く、男の客もいた。
女の子目当てなのが分かる距離感。けれど、揉める感じはない。最近は、どこも妙に“うまくいく”。
「真樹ちゃん、ごめんね。閉店作業、手伝ってもらって」
田村店長が、いつも通りの温度で言った。
その声に、胸の奥がほんの少しだけ緩む。
私はうなずいて、テーブルを拭きながら、あの女の子たちの席を横目で見た。
笑い声が軽く揃っている。
――揃いすぎている。
うつむいた表情には嫌悪が滲む。
「俺さ、人の気持ちが分かるんだよね」
男の声が、店内の空気を割った。
大きい声じゃない。むしろ、聞かせるためにちょうどいい声。
席を隔てた女性達を引き寄せる。
女の子たちの視線が男に向かった。
笑い方が揃う。呼吸は同じ。
気持ち悪いのに、目を逸らせなかった。
「え、すごーい」
「どうやって?」
「わかるって、なにが?」
質問が重なる。
重なるのに、うるさくない。滑らかに回り始めた。
男は嬉しそうに、満足げに頷いた。
それが“正しい頷き”みたいに提示され、私は胸の奥が冷えた。
「たとえばさ、今――君、ほんとは帰りたいでしょ」
指差された女の子が、ぱっと目を丸くして、次に笑った。
笑いながら女の子の目が泳いでいた。
わかる感覚が崩れ、不安から気持ち悪さに傾きそうになる。
「……え、なにそれ。やばい、当たってる。今日、早く帰ってこいって言われたんだよね。でも、皆と一緒にいたいから、ついね。わかるでしょ?」
「わかる~」
繰り返される声。
「すごい、違いがわかるなんて」
感心する声が、少し変な気がした。
でも、
当たってる。その言葉が店の中に落ちた瞬間、空気が一段、甘くなった気がした。
あぁ、気持ちいい。
乱れの横でなにかがスッと通っていった。
それが、伝わってくる。
声じゃなく、心の表面のぬるい部分が、指で撫でられているみたいに。
私は、手を止めた。
止めたのに、何も言えなかった。言えば、私が“ズレた”側になる。
視線の端に、別の男がいた。
清正さん、と真樹は思った。最近、常連になった先輩。
清正は、笑っていた。
声を出さず、口元だけで。
あぁ、楽しい。
その笑いが、いちばん嫌だった。
「じゃあさ」
男が、さらに気持ちよくなる方へ踏み込む。
「君、さっきからさ――あの子のこと苦手だと思ってるよね」
指差されたのは、私だった。
その瞬間、周囲の目が一斉に私に向く。まるで答え合わせみたいに。
喉がきゅっと縮んで、息が浅くなる。
「え……」
誰かが笑った。笑って誤魔化した。でも、笑いが薄い。
“良い子の顔”が、いっせいに私の方を向く。
「ち、違うよ」
私は言った。声が思ったより硬い。
「でも、今“当たってる”って思ったよね」
男は“優しい”顔で追い打ちをかける。
守ってあげるみたいな顔で、正しさで、空気を撫でる。
「大丈夫。そういうのって、あるから。悪いことじゃないよ。正直なだけ」
その一言で、空気が整う。
嫌な纏まり方で。
女の子たちが一斉に頷く。
頷くことで、さっきの針が丸くなる。丸くなるから、余計に怖い。
私は気づいた。
この男は当てているんじゃない。
当たっていることにして、空気を作っている。
そして――空気が“気持ちいい”から、誰も止めない。
田村店長は、カウンターの奥でコーヒーを淹れていた。
私は無駄と思いながらも、店長に助けを求めるように視線を向けた。
田村店長の手つきは、いつ見ても静かだった。
急いでいるはずなのに、カップを置く音が立たない。
ミルを回す指先が一定で、スプーンが一度も鳴らない。
それだけで、私は整った。
いつも通りの顔。いつも通りの手。彼の不可侵がそこにあった。
(田村店長は怪異に無反応で、面白みのない男なんだよね)
そう言ったのは誰だったか覚えていないけれど、だからこそ、彼の側は穏やかな空気が侵害されない。
「君は、自分がなぜ苦手だと思われるか、気にならない?そのままだと寂しいでしょう?俺なら君に合わせ方を教えてあげられるよ」
見えない手を差し出される気になった。
喉が渇いた。
足が、少しだけ震えた。
「いえ、すみません」
声を出した瞬間、店の中の視線が揺れる。
同じ速さで、同じ温度で。
胃の奥が、ぎゅっと縮む。
「……お代わり如何ですか?」
私の誤魔化しに、男が、にこっと笑った。
笑いが、正しい。
私は言葉を探す。
探している間に、空気がまた回りだし、私を捕らえようとしてくる。
――そのとき。
コツ、コツ、とガラスを打つ音がした。
店の窓。
私は反射的に、カラスだと思った。あの黒い影。あの声。あの切断音。
視線を向ける。
光を柔らかく反射して、空の色を映す鳥がそこにいた。
夜のはずなのに、空の色が残っているみたいな青。
鳥は、窓に小さなくちばしを当てて、もう一度だけ、コツ、と鳴らした。
音が、店の中に落ちた瞬間。
さっきまで滑らかだった“気持ちよさ”が、一瞬だけ、引っかかった。
誰かが眉を寄せる。
誰かが、息を止める。
でも、気持ちよさは割れないし、崩れない。
割れないからこそ、余計に嫌な予感がしたのだろう、不安が周囲にはびこった。
森清正が、窓の方を見て、ほんの少しだけ目を細めた。
まるで、知っているみたいに。
私は、窓の外の鳥から目を離せなかった。
その空色が、私の中の“何か”を呼んでいる気がしたから。
――籠。
言葉にならない単語が、喉の奥に引っかかる。
それが億劫だった。
混ざれないことが孤立と孤独を高めていく。一人でいる事は好きな方だけど、集団化する人々に異物として扱われる状態が重苦しい。
「いっそはっきりと排斥されるなら、嘆きようもあるのかも」
声に出してみるが、それはそれで耐えられない。集団として成立する時、彼女達は揃って正しさをルールにするから……何も無かったように過ごせている。私と同じようにやり過ごしている人もいる。それが救いになっていた。
バイト先の制服に着替えながら、そっと溜息をついた。
喫茶店「木漏れ日」は、夜の闇が深まるほどに灯りが柔らかに溶けて、BGMが優しく流れて染み入り、心が緩む。
木の色と、湯気と、コーヒーの香り、店長の声が、外の世界を薄くするのだ。
この時間、店はいつもより混む。
店長のファンだという女の子たちが、決まった席に集まっていた。彼女たちは甘いものより、店長の笑い方が、指先が、静かな声が――好きなのだと思う。
注文のたびに顔がほころんでいる。
穏やかに、コーヒーと甘い菓子を口にする瞬間、彼女達は雰囲気を、それを作り出している店長ごと楽しんでいるように思える。
だけど、今日はいつもと少しだけ違っていた。
大学限定の“アレ”が、ここにも忍び寄ってきている。
店長のファンの女性達の席の近く、男の客もいた。
女の子目当てなのが分かる距離感。けれど、揉める感じはない。最近は、どこも妙に“うまくいく”。
「真樹ちゃん、ごめんね。閉店作業、手伝ってもらって」
田村店長が、いつも通りの温度で言った。
その声に、胸の奥がほんの少しだけ緩む。
私はうなずいて、テーブルを拭きながら、あの女の子たちの席を横目で見た。
笑い声が軽く揃っている。
――揃いすぎている。
うつむいた表情には嫌悪が滲む。
「俺さ、人の気持ちが分かるんだよね」
男の声が、店内の空気を割った。
大きい声じゃない。むしろ、聞かせるためにちょうどいい声。
席を隔てた女性達を引き寄せる。
女の子たちの視線が男に向かった。
笑い方が揃う。呼吸は同じ。
気持ち悪いのに、目を逸らせなかった。
「え、すごーい」
「どうやって?」
「わかるって、なにが?」
質問が重なる。
重なるのに、うるさくない。滑らかに回り始めた。
男は嬉しそうに、満足げに頷いた。
それが“正しい頷き”みたいに提示され、私は胸の奥が冷えた。
「たとえばさ、今――君、ほんとは帰りたいでしょ」
指差された女の子が、ぱっと目を丸くして、次に笑った。
笑いながら女の子の目が泳いでいた。
わかる感覚が崩れ、不安から気持ち悪さに傾きそうになる。
「……え、なにそれ。やばい、当たってる。今日、早く帰ってこいって言われたんだよね。でも、皆と一緒にいたいから、ついね。わかるでしょ?」
「わかる~」
繰り返される声。
「すごい、違いがわかるなんて」
感心する声が、少し変な気がした。
でも、
当たってる。その言葉が店の中に落ちた瞬間、空気が一段、甘くなった気がした。
あぁ、気持ちいい。
乱れの横でなにかがスッと通っていった。
それが、伝わってくる。
声じゃなく、心の表面のぬるい部分が、指で撫でられているみたいに。
私は、手を止めた。
止めたのに、何も言えなかった。言えば、私が“ズレた”側になる。
視線の端に、別の男がいた。
清正さん、と真樹は思った。最近、常連になった先輩。
清正は、笑っていた。
声を出さず、口元だけで。
あぁ、楽しい。
その笑いが、いちばん嫌だった。
「じゃあさ」
男が、さらに気持ちよくなる方へ踏み込む。
「君、さっきからさ――あの子のこと苦手だと思ってるよね」
指差されたのは、私だった。
その瞬間、周囲の目が一斉に私に向く。まるで答え合わせみたいに。
喉がきゅっと縮んで、息が浅くなる。
「え……」
誰かが笑った。笑って誤魔化した。でも、笑いが薄い。
“良い子の顔”が、いっせいに私の方を向く。
「ち、違うよ」
私は言った。声が思ったより硬い。
「でも、今“当たってる”って思ったよね」
男は“優しい”顔で追い打ちをかける。
守ってあげるみたいな顔で、正しさで、空気を撫でる。
「大丈夫。そういうのって、あるから。悪いことじゃないよ。正直なだけ」
その一言で、空気が整う。
嫌な纏まり方で。
女の子たちが一斉に頷く。
頷くことで、さっきの針が丸くなる。丸くなるから、余計に怖い。
私は気づいた。
この男は当てているんじゃない。
当たっていることにして、空気を作っている。
そして――空気が“気持ちいい”から、誰も止めない。
田村店長は、カウンターの奥でコーヒーを淹れていた。
私は無駄と思いながらも、店長に助けを求めるように視線を向けた。
田村店長の手つきは、いつ見ても静かだった。
急いでいるはずなのに、カップを置く音が立たない。
ミルを回す指先が一定で、スプーンが一度も鳴らない。
それだけで、私は整った。
いつも通りの顔。いつも通りの手。彼の不可侵がそこにあった。
(田村店長は怪異に無反応で、面白みのない男なんだよね)
そう言ったのは誰だったか覚えていないけれど、だからこそ、彼の側は穏やかな空気が侵害されない。
「君は、自分がなぜ苦手だと思われるか、気にならない?そのままだと寂しいでしょう?俺なら君に合わせ方を教えてあげられるよ」
見えない手を差し出される気になった。
喉が渇いた。
足が、少しだけ震えた。
「いえ、すみません」
声を出した瞬間、店の中の視線が揺れる。
同じ速さで、同じ温度で。
胃の奥が、ぎゅっと縮む。
「……お代わり如何ですか?」
私の誤魔化しに、男が、にこっと笑った。
笑いが、正しい。
私は言葉を探す。
探している間に、空気がまた回りだし、私を捕らえようとしてくる。
――そのとき。
コツ、コツ、とガラスを打つ音がした。
店の窓。
私は反射的に、カラスだと思った。あの黒い影。あの声。あの切断音。
視線を向ける。
光を柔らかく反射して、空の色を映す鳥がそこにいた。
夜のはずなのに、空の色が残っているみたいな青。
鳥は、窓に小さなくちばしを当てて、もう一度だけ、コツ、と鳴らした。
音が、店の中に落ちた瞬間。
さっきまで滑らかだった“気持ちよさ”が、一瞬だけ、引っかかった。
誰かが眉を寄せる。
誰かが、息を止める。
でも、気持ちよさは割れないし、崩れない。
割れないからこそ、余計に嫌な予感がしたのだろう、不安が周囲にはびこった。
森清正が、窓の方を見て、ほんの少しだけ目を細めた。
まるで、知っているみたいに。
私は、窓の外の鳥から目を離せなかった。
その空色が、私の中の“何か”を呼んでいる気がしたから。
――籠。
言葉にならない単語が、喉の奥に引っかかる。
あなたにおすすめの小説
心霊タクシーでおかえりなさい
黄鱗きいろ
ホラー
十八歳の少女、凪は、
心霊タクシーの噂を頼りに片田舎のロータリーを訪れる。
そこで出会った心霊タクシーの運転手に
凪は札束を突きつけて頼み込んだ。
「お願いします。このお金で、行けるところまで私を連れて行ってください! 両親を探してるんです!」
おっさん運転手と訳あり少女の
優しくて少し哀しい心霊譚。
※他サイトにも掲載しています。
「お前のカメラ、ずっと映ってるよ」〜ホラースポット配信者が気づいた時には、もう遅かった〜
まさき
ホラー
ホラースポット専門のYouTuber・桐島悠は、霊も怪異も一切信じない合理主義者だ。
ある廃病院での配信中、今まで感じたことのない「違和感」を覚えた。しかし撮影は無事終了。その後も普通に配信を続け、あの夜のことなど忘れかけていた頃——深夜、金縛りにあう。
疲れてるだけだ。
しかし、それは始まりに過ぎなかった。
記憶の空白。知らない足跡。動画に毎回映り込む、同じ女の姿。そして——「やっと、見つけた」という声。
カメラが映し続けていたのは、心霊スポットではなかった。もっとずっと、近いところにいるものだった。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
私がみた夢の話を誰かきいてくれませんか?※これはあくまでフィクションです。
芝 稍重
ホラー
私は子供の頃から夢日記を書いています。
この話には続きがありますが、ここでは書きません。この話でピンときた人は、コメント欄で知らせてほしいです。
(※このあらすじは、本文にでてくる「夢日記」投稿当時のものを復刻した内容です)
表紙はぱくたそのフリー写真です
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
【奨励賞】初恋のその先で、私は母になる
妄夢【ピッコマノベルズ連載中】
恋愛
第19回恋愛小説大賞にて、奨励賞を受賞いたしました。読者の皆様のおかげです!本当ありがとうございます。
王宮で12年働き、気づけば28歳。
恋も結婚も遠いものだと思っていたオリビアの人生は、憧れの年下公爵と一夜を共にしたことで大きく動き出す。
優しく守ろうとする彼。
けれどオリビアは、誰かに選ばれるだけの人生を終わらせたいと思っていた。
揺れる想いの中で、彼女が選んだのは――
自分の足で立ち、自分の未来を選ぶこと。
これは、一人の女性が恋を通して自分を取り戻し、母として、そして一人の人間として強くなっていく物語。
※表紙画像はAI生成イラストをつかっています。
出来レースだった王太子妃選に落選した公爵令嬢 役立たずと言われ家を飛び出しました でもあれ? 意外に外の世界は快適です
流空サキ
恋愛
王太子妃に選ばれるのは公爵令嬢であるエステルのはずだった。結果のわかっている出来レースの王太子妃選。けれど結果はまさかの敗北。
父からは勘当され、エステルは家を飛び出した。頼ったのは屋敷を出入りする商人のクレト・ロエラだった。
無一文のエステルはクレトの勧めるままに彼の邸で暮らし始める。それまでほとんど外に出たことのなかったエステルが初めて目にする外の世界。クレトのもとで仕事をしながら過ごすうち、恩人だった彼のことが次第に気になりはじめて……。
純真な公爵令嬢と、ある秘密を持つ商人との恋愛譚。