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04.獣は聖人(偽)の言葉に耳を傾ける
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民衆は、流れたラフィの結晶に飛びついた。
それがあれば!!
金が!
病が!
ケガが!
結晶を巡りシバラクの間、都市内部に混乱が訪れるだろうが、矛先が自分から逸れるのだから、ザレアの目論見通りと言えるだろう。
ラフィが弱々しく翼をはためかせ逃げようとすれば、ザレアはラフィの細い腕をつかみ引き寄せれば。 それは何処までも軽く明らかに人とは違った存在。
キモチワルイ
「どこへ逃げる? 誰も助けてくれないのに」
そう囁くように言えば、儚げな姿とは別人のような怒りを露わにした瞳で睨みつけてくる。
所詮獣か……。
説明しなければ、分からないらしい。
「逃げだした先で君を待つのは、血肉を求める者達ですよ。 聖女だと盛り立てたものの、君を目の前にした人達は、君を獣としか見ないでしょう。 獣である君を守ろうなどという酔狂な人間は、私ぐらいでしょうね」
言葉は腕力以上に強い鎖となってくれる。
彼は、聖人のごとく慈悲深く微笑んだ。
「君を守るために護衛をつけます」
今までは閉じ込めるため。
これからは守るため。
恩着せがましく、強かに、ザレアは自分の意義をラフィに押し付ける。
薄汚い獣が……
心の中で呟きやんがら。
何しろ、塔につけた護衛も、屋敷の周囲を守る警備兵も廃棄者であれば、下手な発言は自分の立場を危うくする。 ラフィ以外の廃棄者とは、信頼と情で繋がっているのだから……下手を打つ訳にはいかない。
「どうか、彼女を守ってください」
護衛である廃棄者に深く頭をさげザレアは願って見せた。
頭を下げたからと言って死ぬことはない。 コイン1枚失うことはない。 むしろ、コインを節約できるのだから、積極的に頭を下げるべきだろう。
プライドなんてどうでもいい。
それでも、廃棄者に触れる自分は許せなかった。 ザレアは、他の家では決して所有できないだろう豪華な風呂へと急ぎ、禊のためだと言って昼間から大量の湯を沸かすように使用人に告げた。
「あぁああああああああああああ、薄汚い獣が……」
小さな声だが、それは力強い拒絶である。
風呂に入ったザレアは、皮膚が赤くなり、血が滲みそうになるまで肌をこすり洗う。
ラフィを聖女だと持ち上げても、彼女の体液から生まれる結晶を妙薬だと盛り上げたとしても、獣の印を得た時の恐怖を思い出せば、獣であるラフィに触れる事で獣の印が再発するのでは? と怖かった。
追う側であった自分が、追われる側になった恐怖。
うんざりだ!!
二度とアンナ思いをしたくはない。
私には知恵がある。
神に与えられた運がある。
力を持つだけの廃棄者よりも、力を利用できる私の方が優れている。 彼等は自らを有効利用してくださいと、私に頭を下げて忠誠を誓うべきなのだ。
なのに、なのに……!!
一時は獣の印を得たザレアだ。 余り知恵が回らないが力を持ち、情に厚い廃棄者達の若者達を上手く手玉にとっていた。 相応しい仕事を与え、岩壁に作られた要塞にこもっていては味わえない生活を与えた。
人として扱われない奴等を人として扱うだけでも、自分は聖人と言えるだろう。
なのに、なのに、なんだ……あのラフィの目は、気に入らない気に入らない気に入らない。 どれだけの愛情を注いだかアイツは理解していない。
「私はラフィを愛おしいと甘やかし過ぎたのかもしれない。 あんな冷ややかな目で私を見るなんて……」
獣の印を多く持つラフィだが、最初に2年前よりも格段に美しくなっている様子を見れば、廃棄者でありながらも大切にされていたのだと他の廃棄者達はザレアを信じた。
何しろ廃棄者達は自己否定をし、他者を信用する傾向が強い。
湯の流れる音で、感情の発散を隠していたザレアは、俯いたままニヤリと笑った。
「逃げ出さないように、もう少し手を尽くしておきますか……」
そうして、ザレアは護衛を務める廃棄者に涙ながらに語って聞かせた。
「確かに、今のタイミングで彼女を聖女だとばらすのは、彼女にとって大きな負担でした。 ですが、私が聖人として彼女の代わりに表に立ったならどうなると思います?」
廃棄者はただ首を左右に傾げるのみ。
廃棄者はそれでいい。
それがいい。
「この都市の人々に責め立てられ、私が殺されたなら、次には君たち廃棄者が責められることになります。 何しろこの都市でアナタ方に友情を感じているのは、私ぐらいでしょうからね」
「感謝、いたします」
「恩を着せるために言った訳ではありません。 私はただ注意をしたかったのですよ。 何しろ、君たち廃棄者は、獣の因子を持った人ならば、魔物は人の因子を持った獣だと言いますからね」
ギリッと歯を食いしばる音が聞こえた。 流石に不快だったかと冷っとしたが、特に反応はなかったためザレアは言葉を続けた。
「彼女を聖女として発表をすることは、私のためだけではなく、君たちのためでもあるんです。 だから、彼女をシッカリと守ってくださいね」
そう言って廃棄者達を丸め込んだ。
それがあれば!!
金が!
病が!
ケガが!
結晶を巡りシバラクの間、都市内部に混乱が訪れるだろうが、矛先が自分から逸れるのだから、ザレアの目論見通りと言えるだろう。
ラフィが弱々しく翼をはためかせ逃げようとすれば、ザレアはラフィの細い腕をつかみ引き寄せれば。 それは何処までも軽く明らかに人とは違った存在。
キモチワルイ
「どこへ逃げる? 誰も助けてくれないのに」
そう囁くように言えば、儚げな姿とは別人のような怒りを露わにした瞳で睨みつけてくる。
所詮獣か……。
説明しなければ、分からないらしい。
「逃げだした先で君を待つのは、血肉を求める者達ですよ。 聖女だと盛り立てたものの、君を目の前にした人達は、君を獣としか見ないでしょう。 獣である君を守ろうなどという酔狂な人間は、私ぐらいでしょうね」
言葉は腕力以上に強い鎖となってくれる。
彼は、聖人のごとく慈悲深く微笑んだ。
「君を守るために護衛をつけます」
今までは閉じ込めるため。
これからは守るため。
恩着せがましく、強かに、ザレアは自分の意義をラフィに押し付ける。
薄汚い獣が……
心の中で呟きやんがら。
何しろ、塔につけた護衛も、屋敷の周囲を守る警備兵も廃棄者であれば、下手な発言は自分の立場を危うくする。 ラフィ以外の廃棄者とは、信頼と情で繋がっているのだから……下手を打つ訳にはいかない。
「どうか、彼女を守ってください」
護衛である廃棄者に深く頭をさげザレアは願って見せた。
頭を下げたからと言って死ぬことはない。 コイン1枚失うことはない。 むしろ、コインを節約できるのだから、積極的に頭を下げるべきだろう。
プライドなんてどうでもいい。
それでも、廃棄者に触れる自分は許せなかった。 ザレアは、他の家では決して所有できないだろう豪華な風呂へと急ぎ、禊のためだと言って昼間から大量の湯を沸かすように使用人に告げた。
「あぁああああああああああああ、薄汚い獣が……」
小さな声だが、それは力強い拒絶である。
風呂に入ったザレアは、皮膚が赤くなり、血が滲みそうになるまで肌をこすり洗う。
ラフィを聖女だと持ち上げても、彼女の体液から生まれる結晶を妙薬だと盛り上げたとしても、獣の印を得た時の恐怖を思い出せば、獣であるラフィに触れる事で獣の印が再発するのでは? と怖かった。
追う側であった自分が、追われる側になった恐怖。
うんざりだ!!
二度とアンナ思いをしたくはない。
私には知恵がある。
神に与えられた運がある。
力を持つだけの廃棄者よりも、力を利用できる私の方が優れている。 彼等は自らを有効利用してくださいと、私に頭を下げて忠誠を誓うべきなのだ。
なのに、なのに……!!
一時は獣の印を得たザレアだ。 余り知恵が回らないが力を持ち、情に厚い廃棄者達の若者達を上手く手玉にとっていた。 相応しい仕事を与え、岩壁に作られた要塞にこもっていては味わえない生活を与えた。
人として扱われない奴等を人として扱うだけでも、自分は聖人と言えるだろう。
なのに、なのに、なんだ……あのラフィの目は、気に入らない気に入らない気に入らない。 どれだけの愛情を注いだかアイツは理解していない。
「私はラフィを愛おしいと甘やかし過ぎたのかもしれない。 あんな冷ややかな目で私を見るなんて……」
獣の印を多く持つラフィだが、最初に2年前よりも格段に美しくなっている様子を見れば、廃棄者でありながらも大切にされていたのだと他の廃棄者達はザレアを信じた。
何しろ廃棄者達は自己否定をし、他者を信用する傾向が強い。
湯の流れる音で、感情の発散を隠していたザレアは、俯いたままニヤリと笑った。
「逃げ出さないように、もう少し手を尽くしておきますか……」
そうして、ザレアは護衛を務める廃棄者に涙ながらに語って聞かせた。
「確かに、今のタイミングで彼女を聖女だとばらすのは、彼女にとって大きな負担でした。 ですが、私が聖人として彼女の代わりに表に立ったならどうなると思います?」
廃棄者はただ首を左右に傾げるのみ。
廃棄者はそれでいい。
それがいい。
「この都市の人々に責め立てられ、私が殺されたなら、次には君たち廃棄者が責められることになります。 何しろこの都市でアナタ方に友情を感じているのは、私ぐらいでしょうからね」
「感謝、いたします」
「恩を着せるために言った訳ではありません。 私はただ注意をしたかったのですよ。 何しろ、君たち廃棄者は、獣の因子を持った人ならば、魔物は人の因子を持った獣だと言いますからね」
ギリッと歯を食いしばる音が聞こえた。 流石に不快だったかと冷っとしたが、特に反応はなかったためザレアは言葉を続けた。
「彼女を聖女として発表をすることは、私のためだけではなく、君たちのためでもあるんです。 だから、彼女をシッカリと守ってくださいね」
そう言って廃棄者達を丸め込んだ。
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