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前編
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容赦のない平手をホリーはラスティの頬に打ち込んだ。
ボソリと囁くようにホリーは言う。
「卑怯者」
ラスティは直ぐに謝罪し……言い訳をし、解放すると私は考えていた。 怒っていても、突放しても、私はどこかで彼が善人であると信用したかったから。
私はラスティと睨み合う。
負けるつもりも、恐れるつもりも無い。
直ぐに誰かが私を探しに来る。
「愛している」
言いながら私の手は抑え込まれた。
「嘘よ」
顔が近づけられた。
「あなたは私の運命なんだ」
「私はあなたの運命ではないわ」
唇が触れそうな距離。
呼吸を感じた。
酒の匂いがする。
「酔っているのね」
「……」
私達の距離は近寄れば近寄るほど、険悪な雰囲気が私達の周りに生まれる。 ラスティは私の耳にささやくように脅してくる。
「あなたは妥協を知った方がいい……あなたが協力をしてくれなくとも、私は試練に望むことが出来る。 それだけの結果を私は騎士として残した」
「本当? ラスティ・レイダー。 本当にあなただけの力だと思う?」
「あぁ!! 私は頑張った!! どんな騎士よりも努力した!! 結果も残した!! 何時だってあなたばかりを褒める母親を見返すために!! 王都に出向けば誰だって私を認めている!! 私は……他の公爵家……3家の方々とも上手くやっている。 あなたが試練に非協力的であっても私は試練を受ける事ができるだろう。 そうなればあなたは当主の座を奪われ、そして……あなたの大切な獣人達も居場所を失う」
ラスティの言葉にホリーは本気で呆れていた。
そして……失望していた。
カミラが言う分には許せた……いいえ、気にすることなく聞き流す事が出来た。 カミラには欠片の情も愛着も無いから、私は傷つく事は無かった。
だけど……。
彼の努力は、私を傷つけるのに確かに役立っているのだから皮肉だわ……。
「あなたは私に謝罪し好意を欲しながら、脅すのね。 あなたは馬鹿だわ……本当に。 故郷を避けなければ、そんな失態も無かったでしょうに……ブレンダが秘密にして欲しいと願ったから秘密にするつもりだった。 だけど、秘密にし続ければ……あなたが恥をかくだから教えてあげる」
私の言葉に、ラスティの瞳に不安が宿った。
「何が、言いたい……。 どうして私を受け入れられない。 あなたは私の運命だと言うのに……。 私が……君を好きだから、愛しているから……何もしないと安心しきっているのか? 好きだ……本当に好きなんだ……」
不安におびえた子供のように繰り返すが、私はもう許す気はない……。
「コロコロと言い分を変えて……本当、呆れる……。 私は当主よ。 子供を孕んだ愛人を連れて来たアナタに離縁を求めるわ」
「どうして!!」
「私があなたの運命ではないからよ」
「私達の婚姻は運命だ!! 運命なんだ!!」
「いいえ、結婚を強制したのはブレンダ。 ラスティ、あなたは……レイダー公爵家の末に属する家柄に生まれたブレンダを母親に、獣人を父親に持って生まれた子。 あなたの父が差別主義者に殺された時、ブレンダは私の両親に助けを求めに来た」
「嘘だ、嘘だ!! 嘘だ!!」
私は……ラスティの首の後ろに触れた。
ブレンダは万が一を考えていた。
ラスティがブレンダを憎み、恨むがゆえに、ホリーにまで危害を加える可能性を……ブレンダは私に伝えるつもりはなかった。 だけど、ブレンダが当主代行として王都に出向いた際にラスティから向けられた憎悪の強さを知り……私に伝えたのだ。
ラスティと私の間には従属契約が交わされている事を。
「その勇ましき姿を、主に示せ」
その瞬間、ラスティはライオンになった。
綺麗な黄金色の鬣。
『うわぁあああああああああああああ!!』
自分が獣人だと知らずに育ったラスティは、その声を人の物に表す事は出来ず、獣の遠吠えにしかならなかった。
「落ち着きなさい」
言えば、叫びは止まった。
「あなたが感じた運命は……運命だからではないの。 ブレンダによって行われた従属契約が……主である私に反応しただけなのよ……」
『嘘だ、嘘だ、嘘だ!! こんな事が事実であっていい訳がない!!』
「すべてが、あなたに公爵家と言う後ろ盾を与えるため、人として生かすため、全てはブレンダが仕組んだものよ。 だから、ブレンダは私とあなたの婚姻を強行したの。 あなたの正体を知っている親族と縁を切り、あなたがレイダー公爵家の者として受け入れる事を拒絶した使用人達をクビにしたのよ。 あなたはブレンダを嫌っていても……彼女はあなたを愛していた」
『嘘だ、こんな事あり得ない!!』
「あなたの母の実家を教えるわ。 信用できないなら自分で確認を取りなさい」
外で私を見張っていたフクロウは、木の上で今も私を見つめている。
木の下には夜行性の獣達が様子を見守っていた。
そして……ラスティは泣いていた。
巨大なライオンの姿で泣いていた。
魂が抜け落ちたかのような、そんな表情で……涙を流し続ける。
彼は最初から彼は私を害すること等出来ない……。
「可哀そうな人。 でもね……あなたは幸せなのよ……。 ブレンダに愛されていたのだから」
ボソリと囁くようにホリーは言う。
「卑怯者」
ラスティは直ぐに謝罪し……言い訳をし、解放すると私は考えていた。 怒っていても、突放しても、私はどこかで彼が善人であると信用したかったから。
私はラスティと睨み合う。
負けるつもりも、恐れるつもりも無い。
直ぐに誰かが私を探しに来る。
「愛している」
言いながら私の手は抑え込まれた。
「嘘よ」
顔が近づけられた。
「あなたは私の運命なんだ」
「私はあなたの運命ではないわ」
唇が触れそうな距離。
呼吸を感じた。
酒の匂いがする。
「酔っているのね」
「……」
私達の距離は近寄れば近寄るほど、険悪な雰囲気が私達の周りに生まれる。 ラスティは私の耳にささやくように脅してくる。
「あなたは妥協を知った方がいい……あなたが協力をしてくれなくとも、私は試練に望むことが出来る。 それだけの結果を私は騎士として残した」
「本当? ラスティ・レイダー。 本当にあなただけの力だと思う?」
「あぁ!! 私は頑張った!! どんな騎士よりも努力した!! 結果も残した!! 何時だってあなたばかりを褒める母親を見返すために!! 王都に出向けば誰だって私を認めている!! 私は……他の公爵家……3家の方々とも上手くやっている。 あなたが試練に非協力的であっても私は試練を受ける事ができるだろう。 そうなればあなたは当主の座を奪われ、そして……あなたの大切な獣人達も居場所を失う」
ラスティの言葉にホリーは本気で呆れていた。
そして……失望していた。
カミラが言う分には許せた……いいえ、気にすることなく聞き流す事が出来た。 カミラには欠片の情も愛着も無いから、私は傷つく事は無かった。
だけど……。
彼の努力は、私を傷つけるのに確かに役立っているのだから皮肉だわ……。
「あなたは私に謝罪し好意を欲しながら、脅すのね。 あなたは馬鹿だわ……本当に。 故郷を避けなければ、そんな失態も無かったでしょうに……ブレンダが秘密にして欲しいと願ったから秘密にするつもりだった。 だけど、秘密にし続ければ……あなたが恥をかくだから教えてあげる」
私の言葉に、ラスティの瞳に不安が宿った。
「何が、言いたい……。 どうして私を受け入れられない。 あなたは私の運命だと言うのに……。 私が……君を好きだから、愛しているから……何もしないと安心しきっているのか? 好きだ……本当に好きなんだ……」
不安におびえた子供のように繰り返すが、私はもう許す気はない……。
「コロコロと言い分を変えて……本当、呆れる……。 私は当主よ。 子供を孕んだ愛人を連れて来たアナタに離縁を求めるわ」
「どうして!!」
「私があなたの運命ではないからよ」
「私達の婚姻は運命だ!! 運命なんだ!!」
「いいえ、結婚を強制したのはブレンダ。 ラスティ、あなたは……レイダー公爵家の末に属する家柄に生まれたブレンダを母親に、獣人を父親に持って生まれた子。 あなたの父が差別主義者に殺された時、ブレンダは私の両親に助けを求めに来た」
「嘘だ、嘘だ!! 嘘だ!!」
私は……ラスティの首の後ろに触れた。
ブレンダは万が一を考えていた。
ラスティがブレンダを憎み、恨むがゆえに、ホリーにまで危害を加える可能性を……ブレンダは私に伝えるつもりはなかった。 だけど、ブレンダが当主代行として王都に出向いた際にラスティから向けられた憎悪の強さを知り……私に伝えたのだ。
ラスティと私の間には従属契約が交わされている事を。
「その勇ましき姿を、主に示せ」
その瞬間、ラスティはライオンになった。
綺麗な黄金色の鬣。
『うわぁあああああああああああああ!!』
自分が獣人だと知らずに育ったラスティは、その声を人の物に表す事は出来ず、獣の遠吠えにしかならなかった。
「落ち着きなさい」
言えば、叫びは止まった。
「あなたが感じた運命は……運命だからではないの。 ブレンダによって行われた従属契約が……主である私に反応しただけなのよ……」
『嘘だ、嘘だ、嘘だ!! こんな事が事実であっていい訳がない!!』
「すべてが、あなたに公爵家と言う後ろ盾を与えるため、人として生かすため、全てはブレンダが仕組んだものよ。 だから、ブレンダは私とあなたの婚姻を強行したの。 あなたの正体を知っている親族と縁を切り、あなたがレイダー公爵家の者として受け入れる事を拒絶した使用人達をクビにしたのよ。 あなたはブレンダを嫌っていても……彼女はあなたを愛していた」
『嘘だ、こんな事あり得ない!!』
「あなたの母の実家を教えるわ。 信用できないなら自分で確認を取りなさい」
外で私を見張っていたフクロウは、木の上で今も私を見つめている。
木の下には夜行性の獣達が様子を見守っていた。
そして……ラスティは泣いていた。
巨大なライオンの姿で泣いていた。
魂が抜け落ちたかのような、そんな表情で……涙を流し続ける。
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