【R18】私との婚約は破棄ですか? では、この書面に一筆お願いします。

迷い人

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22.完結 本人たちが幸せなのだからソレでいい

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「朝食の準備ができましたよ。 起きて下さい、ティア」

「んっ、やだぁあ」

「ダメです。 今日は色々と予定が詰まっているんですから」

「眠いよぉ」

「はい、起きて下さい。 今、お風呂に行けばファース様がいらっしゃいますから、お手伝いしてもらえますよ」

 そう言ってき立てられた。 身体には熱っぽい名残りがあり、お腹の奥が奇妙な感じをするが、思ったよりは平気で、私はスタスタと階段を下りていく。

「お体の方は大丈夫ですか?」

「思ったよりは平気」

「ソレは良かったです。 薬を塗ったり、栄養剤を飲ませたり、手を尽くしたかいがありました」

「ぇ……」

 階段から足を滑らせそうになった私の身体をケインが慌てて支え、抱きあげ抱きしめる。

「うわぁ……」

 私は思い出した。

 ケインがお腹の奥まで薬をぬるために差し入れた指が冷たくて、それが逆に感じてしまって甘く身もだえたり、身体を拭われているのに反応し抱き着いて邪魔をしたり、薬を口移しされればもっとキスして欲しいと、駄々をこねた自分を……。

「ななんあんあな」

「はいはい、とても可愛らしくて、理性が大変でしたよ。 まぁ、それはともかく……なるべく体力の消耗を抑えるために、お風呂はファース様のお世話になってください」

「その言い方はどうかと思うのですが……逆に疲れたりしそうだから嫌……」

「朝っぱらから襲い掛かるような節操無しではないはずですよ」

「あいま……」

 ダイニングキッチンから顔を出す一人の幼さの残る青年。

「ぁの~、足りない皿はどうし……うわぁあああああ」

「きゃぁあああああああ」

 小さな家の中だからと、ケインの注意がなかったから、私は全裸でいた訳で、まさかまさか、知らない人がいるとは思っていなくて。 私は混乱し、ケインは混乱する私を抱っこしたまま運び浴室に放り込んでいった。

「へっ?」





 扉の外、狭い廊下で睨みあう、いや一方的にケインが睨んでいて、若い騎士は冷や汗を垂らす。

「見ましたね?」

「いえ……直ぐに顔をそむけたので……」

「未経験ではなくなったとはいえ、若い娘の裸を見てタダで済むとおもっているんですか? 沈められるのと、刻まれるのと、視力を失うのと、舌を抜かれるのと、騎士団辞めてうちに仕えるのと、どれがいいですか?」

「い、痛いのは嫌ですぅうう」

 半泣きになりながら若い騎士は訴える。

「では、今すぐ退職届を書いてください」

 そう言ってペンと紙を差し出せば、見習い騎士はテーブルへと移動し泣く泣くペンを走らせた。

「俺の妻の裸体を見たらしいが、それは感動の涙か?」

 かけられるファースの声は、カラカイが含まれているが、涙で赤く染まった視線をファースに向けた部下は静かに退職届を差し出した。

「団長、退職届を……うけとって……せっかく、せっかく騎士になれたのにぃいいいい」

 騎士家に生まれたが、余り騎士の才能がなく事務向きだった彼は入団試験に合格するまで長い年月を必要としたのだ。 ファースは、受け取った紙を広げて読んで、たたんで懐にしまう。 そしてケインへと視線を向けた。

「オマエは、逐一騒ぎにするな! 普通に引き抜けばいいだろう」

 ファースが呆れながらケインにいう。

「幾ら、騎士をなりわいとする伯爵家の息子とは言え、三男だ。 普通に説得して勧誘すればよかろう」

「コチラは色々と忙しくて、アナタ付きの使用人の選任には少し時間がかかりますし。 そう言う点では、元々アナタ付きの者なら、アナタの身の回りを任せても問題ないでしょう」

「そんなんで、ティアの裸を使うな……」

「大丈夫ですよ。 ちゃんと俺の身体で隠しましたから。 抜かりはありません」

「うわあぁああああああああ」

 走り去っていく見習い騎士の背に、ケインが言う。

「足りなさい皿の分は、ご近所で借りてきてください」

「はぁああああい」

 泣きながら青年は去っていき、そして戻ってきた。 ソレを少しだけ気の毒に思ったティアは、色々突っ込むことを辞めた。





 その日のティア達はケインが言っていた通り忙しかった。
 騎士団と役所の尋問を受け、大口出資者に説明を行う。 いずれも、騎士として家柄関係なく名を示したファースが次期当主として確定していることを告げた事で、色々と楽になっていたのは言うまでもない。

 そして、夜には酒の中に睡眠薬を仕込んだカスペルは容易に捕獲された。





 亡き公爵の弟2人と、カスペルは刑を待つ。

 処刑場。

 広い刑場は、小さなコロッセオ風の閉鎖空間なのだが、アチコチに小窓がつけられていた。 余り趣味の良いものではないが、処刑人に勝てば刑を軽くするなどと貴族達が気まぐれで遊ぶこともあるのだ。

 とは言え、今回の処刑には鬼の血を最も濃く表し、国内随一の武勇を誇るファースだ。 自らを熱心に鍛えていれば、カスペルもファースに準じる武勇を得る事はできたかもしれないが、カスペルは自身の力に溺れなんの訓練も積んでこなかった。

「わしが処刑されるほどの罪を犯したと言うのか!!」

 エーリクが叫ぶ。

「私は人に誤解されることが多いが、私の慈悲によって助けられた者も多いはずだ! 感謝こそされ処罰を受けることなどない!!」

 ブラームが叫ぶ、そしてカスペルもまた自らの減刑を求めた。

「俺は、世界と時代に後押しされてきた。 なぜ、孤児があのように優遇される中、俺がこのような目に合わなければならない!!」

 口々に叫ぶ3人をファースは一括する。

「黙れ!!」

「「「……」」」

「俺の親父の死に疑惑があったことは横に置こう」

「俺は関係ない!!」

 カスペルが叫べば、ファースは静かににらんだ。

「横に置こうと言っている!」

「……」

「横においてもまた3人は同じ罪を、この国では許されない罪を犯している」

 淡々としたファースの声、ソレが一層小さくなった。

「国王陛下の娘を、姫君を殺そうとした罪だ」

「嘘だ!! でっちあげだ! 罠にかけられたんだ」
「そんなことはありえん! していない!! するわけない!」
「俺は姫君に、あったこともないぞ!」

「考えてみれば分かるだろう。 何の理由もなく、亡き公爵が幼い娘を引き取り、公爵家の命運を託すか……少し考えれば裏に何かあることぐらい予測がついただろう」

 カスペルも誰が姫君か想像ぐらいできた。

 ボソボソとした声での説明ののち、ファースは声を張った。
 観客に処刑を宣言するために。

「以上の理由から、ベンニング家の者3名を処刑する!!」

 そして3人は殺された……。



 刑場から出たファースを待っていたのは国王陛下。

「見事に収めたようだな」

「褒美として姫君を頂きますよ」

 珍しく愛想の良いファースの言葉に、国王は苦々しい顔をするものの溜息と共に小さく呟いた。

「娘を頼む」

「身命を賭して愛しお守りさせていただきます」

 国王陛下はファースの言葉に、誰もいない刑場の狭い廊下で頭を下げる。





 それから半年。

 ベンニング家の改革は混乱を極めたものの、企業の分割やノウハウの提供によって利益を得る貴族も多く、そして物価の上昇に対応すべく、王都内全域の賃金上昇に働きかけたことにより民からも絶大な支持を受けることとなった。

 それにより第二の王家とベンニング家をたたえる者達が増加し、王族たちに不満が走ることとなったが、国王の一喝によって不満は抑えられた。



 賛美と歓声の元、ファースの爵位継承と、ファースとティアの婚姻の儀式が行われた。

 3人の関係はと言えば……、

 日々と共にそれぞれに向かう情は増し、厄介な感情に揺らめくことはあるが、1人1人の関係が良好であることから、ソレなりに折り合いをつけ、歪んだ関係なりに幸せな日々を送ることとなる。
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