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前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい

SS ヴィズとアズの日常 02

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 アズに叱られた後からのヴィズは良く働いた。

「流石、王子さんだ。 アンタが居なければこれほど早く作業が進む事は無かっただろう」

「あぁ、本当にオヤジ殿の言う通りだ。 アンタが進めてくれた道具や、こう身体の使い方は力が入りやすいし、疲労が溜まりにくい」

「いや、大した事では……」

「今日は、とっておきの酒を出そう。 とは言っても、俺達がココで酒造りに成功した初めての酒ってだけだがなぁ~」

「おぃ坊主、母ちゃん達に張り切って飯を作ってくれって言ってきてくれ。 俺達は風呂に入り汗を流してくるから」

「は~い」

 ヴィズ、背を押されるように、温泉へと向かった。

 ヴィズは褒められ、必要とされる事に奇妙な気恥ずかしさを感じていた。



 温泉を前にヴィズが服を脱げば、周囲からの視線を集めだす。

「おぉ、兄ちゃん良い身体しているなぁ~」
「その模様って?!」
「かっこいい!!」

「ぇ、あ、その……こ、この模様はオマジナイになっているんだ。 例えば、ココの部分だと、筋力が上がる模様で……書いてみるか?」

「ぇ、いいの!!」

「ぁ、いや……このままだとダメだな。 次に来るときまで子供の身体に丁度いい模様を調べてこよう」

「やったぁ!! お兄ちゃん次いつ来るの?!」
「ねぇ、模様があると僕でも兄ちゃんのように強くなれる?」
「凄く違うのかなぁ?」

 子供達が身体に力を入れて筋肉比べをし始め、期待のこもった目をヴィズに向けてくる。

「気持ち、違うと言う感じだろうか?」

「後は特訓? 何か特別な特訓しているんですか?」

「いや……日々の生活を真摯にこなし得ていれば、きっと立派な身体を作れるはずだ。 人獣とはそういうものだ」

「でも、父ちゃんは……」

「あっははは、俺達は6年前までは余り力仕事をしてこなかったからなぁ~。 だから、お前達は王子様を目指して頑張ってみろ」

「兄ちゃんみたいになれたら、戦士になれる?」

 それは少しだけ痛い言葉だったが、ヴィズは冷静に考える事が出来た。 子供達が余りにも真剣で、その真剣さが可愛らしいと、愛おしい物だと思えたから。

「この農園はコレから多くの国から狙われるだろう。 それを守るために多くの戦士が必要となる。 期待しているよ」

「おぉおおおおお、やったぁ!!」
「頑張ろう……」

「こらこら、ヴィズ様は王子だぞ、余り騒々しくするな」

「いえ、これくらい。 弟達に比べればカワイイもんです」

 絡まれ、掴まれ、乗っかられ……全く気にする様子なく話をする。 そのまま風呂からあがり、食事の場へと向かえば、アズと視線があう。

 うふふっと嬉しそうに微笑むアズが綺麗で、嬉しくなり、小さく手を振って見せれば、手を振り返され……幸せだとヴィズは心の中がほっこりとした気になった。

「兄ちゃん。 アズ様とお似合いだね」

「ぇ、あ……ありがとう」

 宴会は夜遅くまで続き2人は王城に戻る事無く、特別製の部屋へと案内された。



 アズは片付けを手伝ってくるからと、ヴィズだけが先に部屋に通される。 

 決して豪華な部屋ではないが、6年前までは重なる木々の枝で雨をしのいでいたのだから気にする事ではない。

「今日は……良い経験だった……」

 ベッドに転がりヴィズはボソリと呟いた。 彼等と一緒に作業をしている時は、気分が良かった。 力の差による優越感ではなく……純粋に自分が必要とされていると言う悦びと賛辞は、気恥ずかしく心地よかった。

 こんな仕事、私がするべき仕事ではないと思っていたのに……。

 元々、他の兄弟……いや、力ある人獣達の中ではヴィズは珍しく神経質なタイプだった。 だからこそ国と言う人と人の繋がりを重視する王位を継承するのにふさわしいとされていた。

 人獣の力が減少を始めるまで。

 それまでのヴィズは、戦士としてよりも他国との外交を中心に学んできていた。 庶民と共に畑を耕している事がその延長だ等と思わないから、不満ばかりが募っていたはずだった……のに、今は何かが違ってきている。



 ノックが響いた。

「好きに、入って来ればいいだろう」

 そう答えたのは訪れたのがアズだったから。

「あら、全裸だったら困るでしょう」

「別に困らないが?」

「私以外の女性が来る可能性もあるでしょう?」

「別に見られて困るもんでもないが?」

「あら、私は嫌よ。 ヴィズが私以外の女性と裸で1つ部屋にいるなんて、想像もしたくないわ。 ヴィズはどうなの?」

「どうって……アズが裸で男と2人でいると? それは、嫌だなぁ」

「でしょう? だから人が不快にならないためのルールを当たり前にするために繰り返し繰り返し行って当たり前にしないといけないのよ」

「なるほどなぁ」

 それだけ言ってヴィズは黙り込んだ。

「どうしたの?」

 ベッドに横になるヴィズの横に腰を下ろしたアズは、柔らかく、少しばかり甘えたような、ヴィズにだけの特別な声でたずねれば、ヴィズはアズの細い腰に手を伸ばし引き寄せる。

「良い匂いがする」

「温泉にはいってきましたの。 ヴィズは?」

「俺も入ってきた」

「そう?」

 アズはヴィズの首元に顔を寄せ、その匂いを嗅ぐ。

「うん、温泉の匂いだ」

 顔と顔が近くて、ヴィズはチュッと唇に口付け……そしてソレは徐々に深さをましていく。

「もう、流さないで。 何を考えていたの?」

 ヴィズは、アズを抱きしめたまま……ボソリと呟くのだ……。

「不安だったんだ……」

 アズはただ抱きしめられたままでなく、そっとヴィズの背に手を回し抱きしめ返し優しい声でうなずいて見せる。

「そう? でも、もう今は違うって顔をしている」

「アズは、何でもしっているな」

「貴方の事だけよ。 あぁ、後、姫様のことも知っているわね。 それと、ヨチヨチ歩きの双子(外交関係の業務に忙しくしている)が、今とっても大変な思いをしているって事も知ってるかしら?」

「……もう少し、甘やかしてくれて良かったんだが?」

 そう言って苦笑交じりにヴィズは笑った。

「いいわよ。 さぁ、来なさい!!」

 アズが両手を広げれば、ヴィズは苦笑しながらアズを抱きしめる。

「あのなぁ……もう少し双子にも気遣ってやる事にするよ……」

「ふふふふ」

「なんだよ……」

「やっぱりアナタは優しい人だわ」

「アズが、いてくれるからだ……」

「そうね。 でも大丈夫。 アナタは暴走さえしなければ賢い人だもの」

 アズが苦笑交じりのヴィズに優しく囁けば、そのままベッドの上に押し倒されるのだった。
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